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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第2章 運命を知る者

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第16話 拒絶

力を持つことと、力を使うことは、同じではありません。


けれど世界は、その違いをあまり丁寧には扱ってくれません。

「持っている」という事実だけで、期待され、恐れられ、管理される。


第16話は、蒼真が初めて“自分の意志”を前面に出す回です。

それは反抗ではなく、逃避でもなく、宣言です。


使うかどうかを、誰が決めるのか。


国家か。

正義か。

それとも自分か。


ここで蒼真は、正しさよりも先に「選ぶ権利」を取ります。

その代わりに、責任も引き受けると口にします。


第二転換点。


この選択は、物語を安全な場所から押し出します。

善意だけでは進めない領域へ。


封印は、静かな決断です。

しかし静かな決断ほど、世界を揺らします。

――第二転換点


統律院の訓練区画は、静まり返っていた。


中央に立つ蒼真の前に、天城がいる。

その背後にセレス。

少し離れて月乃。

凛は、蒼真の右側。


「再確認する」


天城の声は穏やかだった。


「君の能力は、制御下に置けば社会に資する。

暴走を未然に止められる。犠牲を減らせる」


事実だ。


否定できない。


「だが君が拒むなら――」


天城は言葉を区切る。


「それは社会に対する責任の放棄になる」


空気が重くなる。


凛が蒼真を横目で見る。


蒼真は、ゆっくりと息を吐いた。


「……俺は」


声は静かだった。


「支配したくない」


セレスの瞳が、わずかに細まる。


「言葉の選び方が甘い」


冷たい声。


「あなたの能力は既に影響を及ぼしている。

使用の有無は問題ではない」


蒼真は首を振る。


「違う」


天城が静かに問う。


「では何が違う」


蒼真は、自分の胸に手を当てる。


「俺は、止めたいから止めた。

助けたいから触れた」


一拍。


「でも、選ばせない形で止めるなら、それは違う」


月乃が息を詰める。


天城は目を細める。


「理想だな」


「そうかもしれない」


蒼真は視線を逸らさない。


「でも――」


その声は、揺れていない。


「従うかどうかを決めたいだけだ」


訓練場の空気が、わずかに震える。


凛の胸が締めつけられる。


蒼真の言葉は、強い。


だが危うい。


天城は歩み寄る。


「決めるとは?」


「力を使うかどうかを、俺が決める」


「社会ではなく?」


「社会のために使うとしても、

俺が選ぶ」


沈黙。


セレスが口を開く。


「危険因子認定基準に該当します」


冷酷なまでに事務的。


「自己判断による能力停止は、

予測不能な被害を生む可能性が高い」


月乃が小さく反論する。


「理論上は、そうですが――」


言葉が続かない。


蒼真は、天城を見つめる。


「俺は、封じます」


凛が振り向く。


「蒼真」


蒼真は続ける。


「能力を使わない。

少なくとも、自分の意志でしか使わない」


天城が問う。


「それが正しいと思うのか」


蒼真は答える。


「分からない」


正直な声。


「でも、怖いまま使うよりはいい」


凛の指先が、わずかに震える。


天城はしばらく黙っていた。


それから、静かに言う。


「正しさは、結果で測られる」


「知ってる」


蒼真は小さく笑う。


「でも俺は、結果より先に、

選びたい」


その瞬間。


何かが決定した。


天城は背を向ける。


「封印は、許可しない」


即答。


「だが強制もしない」


凛が眉を上げる。


天城は続ける。


「君が使わないことで、

犠牲が出た場合――」


視線が戻る。


「その責任も引き受ける覚悟があるか」


蒼真の喉が鳴る。


答えは簡単ではない。


だが。


「……ある」


その言葉は、震えていない。


セレスが冷ややかに告げる。


「第二段階監視対象へ移行」


月乃の目が揺れる。


凛は一歩、蒼真の前に出る。


「責任は一人で背負わせない」


蒼真は首を振る。


「これは、俺の決断だ」


孤立の始まりだった。


天城は最後に言う。


「理想は美しい」


一拍。


「だが理想は、時に人を殺す」


その言葉が、重く落ちる。


蒼真は理解している。


封印は、逃避ではない。


だが善行でもない。


使わないことで、守れない命が出るかもしれない。


それでも。


彼は選んだ。


訓練場を出るとき、凛が低く言う。


「本気?」


「うん」


「後悔するかも」


「知ってる」


凛は、何も言わなくなる。


月乃は遠くから見ている。


止められない理性。


天城は窓辺に立ち、都市を見下ろす。


セレスが隣で囁く。


「放置は危険です」


天城は答える。


「彼は、自分の意志で立とうとしている」


一拍。


「それを見極める」


夜が落ちる。


蒼真は、自室の窓を開ける。


風が入る。


静かな夜。


胸の奥にある力は、まだ消えていない。


ただ、押さえ込んでいるだけだ。


封じるという選択は、

終わりではない。


始まりだ。


正しい選択が、誰かを傷つけるかもしれない。


それでも。


蒼真は決めた。


使うかどうかは、

自分で決める。


その宣言が、

物語を次の段階へ押し出した。

蒼真は、力を使いませんでした。


それは弱さではなく、

彼なりの“拒絶”です。


天城の言葉は正しい。

力を封じれば、救えない命が出るかもしれない。

社会は結果で評価する。


その論理は、間違っていません。


けれど蒼真は、

「正しさ」よりも先に「選ぶこと」を選びました。


――従うかどうかを決めたいだけだ。


この一文が、彼の軸です。


ただし、この選択は綺麗な善行ではありません。

封印は副作用を持ちます。

使わないという決断もまた、誰かに影響を与えます。


だからこそ、ここが第二転換点です。


凛は止めきれず、

月乃は反対しきれず、

天城は強制しなかった。


全員が少しずつ、立場をずらしました。


ここから物語は、

「能力をどう使うか」ではなく、

「力を持ったままどう生きるか」へ進みます。


蒼真は封じました。


けれど、世界は止まりません。


次話、封印の副作用が静かに始まります。

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