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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第2章 運命を知る者

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第14話 選ばれた存在

人は、自分で選んだものの責任は引き受けられる。


だが――

生まれそのものに意味があったと知ったとき、

その重さをどう受け止めればいいのだろう。


力は、努力の結果だと思っていた。

評価は、制度の問題だと思っていた。

だがもし、その前段階――


「生まれ」がすでに設計図だったとしたら。


第14話は、能力の話ではありません。

血や出自の優劣の話でもありません。


これは、

“選ばれてしまった”ことを知る物語です。


逃げ場がなくなるとき、

人は何を選ぶのか。


そして――

それでもなお、選べるものはあるのか。


蒼真の根に、触れていきます。

呼び出したのは、月乃ではなかった。


放課後、研究棟の奥。

普段は施錠されている資料室に、蒼真は通された。


そこにいたのは、見慣れない青年だった。


黒に近い灰色の髪。

年齢は二十代半ばほど。

だが目だけが、ひどく古い。


「初めまして、とは言えないかもしれないね」


柔らかい声。


「僕はノア。研究都市で、君の母と働いていた」


蒼真の呼吸が止まる。


「……母?」


その単語は、どこか遠い。


記憶の中の母は、優しかった。

静かな声で、よく本を読んでくれた。

研究の話は、ほとんどしなかった。


ノアは端末を起動する。


空中に浮かぶ古い映像。

研究都市の一室。


白衣を着た女性が、こちらを振り向く。


水月叶音。


蒼真の胸が、強く打つ。


「これは、暴走大戦の数日前の記録だ」


映像の中で、叶音は誰かに向かって語っている。


――共鳴は、本来“同意”で成立するもの。


――強制は、必ず歪みを生む。


――だから必要なのは、“完全同意共鳴”。


ノアが補足する。


「彼女は、共鳴の構造を根底から見直そうとしていた」


「……完全同意?」


「双方が、恐れも支配もなく、選び合う状態で成立する共鳴だ」


理想論のように聞こえる。


だが叶音の目は、本気だった。


映像が切り替わる。


研究データ。

波形。

異常値。


そして、一つの仮説。


――共鳴の器。


蒼真の喉が乾く。


「器は、ただ受け止めるだけの存在ではない」


ノアは言う。


「選別する存在だ」


通すか。

止めるか。


第10話で月乃が口にした言葉が、蘇る。


「叶音は、“完全同意共鳴”を成立させるための媒体を探していた」


「媒体……」


「拒絶しない。奪わない。だが、強制もさせない」


ノアの視線が、蒼真に向く。


「それが、君だ」


部屋の空気が重くなる。


「……偶然だろ」


反射的に、蒼真は言う。


ノアは静かに首を振る。


「偶然で、あそこまで波形が一致することはない」


映像に、乳児のデータが映る。


小さな波形。

だが周囲の暴走波を、異様な形で減衰させている。


「研究都市崩壊の日」


ノアの声が低くなる。


「最後に安定した波形が記録された地点がある」


映像が拡大される。


そこにいたのは――


幼い蒼真。


蒼真の膝が、わずかに震える。


「……俺は」


「選ばれた、というより」


ノアは言い直す。


「生まれた」


蒼真の存在は、偶然の産物ではない。


叶音の研究の延長。


目的を持った誕生。


胸の奥が、冷える。


(逃げられない)


能力ではなく。

出生そのものが、枠になっている。


ノアは、映像を止める。


「彼女は、最後まで迷っていた」


映像の叶音が、幼い蒼真を抱いている。


穏やかな顔。

だが目は、どこか痛い。


――この子は、道具じゃない。


――選ぶのは、この子自身。


その声は、震えている。


ノアは静かに言う。


「叶音は、君を“完成形”にはしなかった」


「……どういう意味だ」


「完全同意共鳴は、未完成だ」


一拍。


「君が選ばなければ、成立しない」


蒼真は、息を吐く。


生まれは決まっている。


だが、使い方は。


「俺は……」


言葉が出ない。


選ばれた存在。


その響きは、甘い。


だが同時に、重い。


凛の顔が浮かぶ。

月乃の言葉が蘇る。

天城の視線が重なる。


世界は、もう動いている。


ノアは最後に言う。


「君は器だ」


だがその目は、柔らかい。


「ただし、空のままでもいい」


沈黙。


蒼真は、自分の手を見る。


この手は、生まれで決まっているのか。


それとも。


まだ、何も決まっていないのか。


研究室の窓の外で、夕焼けが滲む。


温かい色。

だが、どこか痛い。


叶音の声が、耳の奥に残る。


――選ぶのは、あなた。


生まれは選べない。


だが。


どう在るかは、まだ選べる。


蒼真は、初めて自分の出生を知った。


そして同時に、知る。


運命は、固定ではない。


だが逃げ道も、もうない。


物語は、出生という根に触れた。


ここから先は、

「何者になるか」の物語になる。

第14話 後書き


今回は、蒼真の「出生」に触れました。


蒼真の能力は偶然ではなく、

設計の延長線上にあった可能性が濃くなります。


ここで重要なのは、

“特別だからすごい”という話ではないことです。


むしろ逆です。


逃げ場がなくなる。


努力でも、偶然でもなく、

「あなたはそう作られた」と示されることの重さ。


それは祝福にもなり、

呪いにもなります。


叶音の回想は、温かさと痛みを同時に持たせました。

母は蒼真を道具として生んだのか。

それとも守るために設計したのか。


答えはまだ出しません。


そして、叶音が遺した言葉――

「完全同意共鳴」。


これは今後の核心です。


“止める”でも“奪う”でもない、

まったく別の可能性。


蒼真は選ばれた存在かもしれない。

けれど、どう生きるかまでは決められていない。


ここから物語は、

「設計された運命」と

「それでも抗う意志」の衝突へ進みます。


次は、揺れではなく――

選択です。

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