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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第2章 運命を知る者

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第12話 天城レオニス

正しい人間は、いつも正しい顔をしているとは限らない。


そして――

間違っているように見える人間が、必ずしも悪とも限らない。


力を持つ者が現れたとき、世界は二つの反応を示す。


恐れるか。

利用するか。


だが、もう一つの可能性がある。


救うために、力を使う者。


その結果として、

何万という命を守った者。


その男は、悪人ではない。


むしろ英雄に近い。


だからこそ厄介なのだ。


もしその正しさが揺るがないとしたら――

それに抗うことは、間違いになるのか。


第12話は、敵との対峙ではない。


圧倒的に“正しい”男との対話だ。


蒼真は初めて知る。


力を持つ者の行き着く先が、

必ずしも破滅ではなく――

世界を救う形にもなり得ることを。


だが同時に。


救いは、選ばれた者の上にしか立たないという事実も。

統律院中央庁舎・第七応接室。


高層階の静寂は、地上とは質が違う。


蒼真は、再びその部屋に呼ばれていた。


窓の外には都市が広がる。

整然と並ぶ建物。

規則正しく流れる車列の光。


この街は、守られている。


その中心に立つ男がいる。


「直接、話そう」


そう告げたのは、天城レオニス本人だった。


部屋に入ると、天城は窓辺に立っていた。


背筋は伸びている。

威圧はない。

だが、場の空気が彼を軸に整っている。


静かな支配力。


「来てくれてありがとう」


柔らかな声。


拒否できない立場だと分かっていながら、

あくまで“選んだのは君だ”と言っているような声音。


凛は壁際に立ち、腕を組む。

セレスは天城の半歩後ろに控えている。


守る位置ではない。

思想を支える位置だ。


「水月蒼真くん」


天城が振り向く。


その目は冷酷ではない。

むしろ、人を見る目だ。


「君の力は、珍しい」


「……危険、なんですよね」


蒼真は率直に問う。


天城は首を横に振る。


「危険かどうかは、使い方で決まる」


即答だった。


「私は、力そのものを危険とは思わない」


一歩、蒼真へ近づく。


「放置されることを危険だと思う」


卓上の端末が起動する。


空中に展開された映像。


三年前。

研究都市共鳴崩壊事件。


人口十万。

暴走圏内、四万八千。


炎が街区を呑み込み、

雷が高層建築を貫き、

共鳴波が制御不能のまま増幅していく。


「当時、私は現場にいた」


映像に若い天城が映る。


単独で中心部へ進む。


周囲の能力者はすでに暴走。

命令は通らない。

共鳴は破綻していた。


天城が立つ。


ただ、立つ。


その瞬間。


暴走波が押し潰されるように収束した。


強制停止。


四万八千人のうち、四万三千が生還。


都市は、崩壊を免れた。


天城は静かに言う。


「止めた」


説明はそれだけだ。


だが、誰の目にも明らかだった。


あれは調律ではない。


上位からの、絶対的な制圧。


それでも。


街は救われた。


凛が低く言う。


「……支配」


天城は否定しない。


「そうだ」


あまりにもあっさりと。


「私は、あの時、全員の力を奪った」


部屋が静まり返る。


「だが、救われた命の方が多い」


天城は蒼真をまっすぐ見る。


「正しい支配は、正義になり得る」


その言葉は、誇示ではない。


事実の提示だ。


蒼真の胸がざわつく。


救うために、奪った。


それは――


自分の力と、どれほど違う?


「君は、私に近い」


天城が言う。


凛の肩が強く揺れる。


「違う!」


即座に否定する。


天城は穏やかだ。


「違うと願う気持ちは理解できる」


「蒼真はあなたみたいに“奪う側”じゃない」


凛の声は鋭い。


だが天城は視線を逸らさない。


「彼は選別できる」


一拍。


「止めるか、通すか」


蒼真の背筋が冷える。


あの瞬間。


炎と乱流の交点。


自分は、選んだのか。


「君はまだ無意識だ」


天城は続ける。


「だが、いずれ意識する」


静かな確信。


「その時、君は決めなければならない」


救うか。


奪うか。


両方か。


「私は君を囲うつもりはない」


天城は言う。


「だが、世界は放置しない」


それは脅しではない。


事実だ。


「私の後継になる気はあるか」


凛が一歩前に出る。


「ふざけないで」


天城は微笑む。


「冗談ではない」


蒼真は、言葉を失う。


後継。


圧倒的救済者の。


「私は独裁者ではない」


天城は言う。


「ただ、決断する者だ」


そして最後に。


「君にも、その役目が来る」


沈黙。


窓の外で、夕陽が都市を赤く染めている。


守られた街。


救われた命。


奪われた自由。


蒼真は、自分の手を見る。


救いと支配は、遠くない。


天城は悪ではない。

むしろ、多くを救った。


だが――

その正しさは、軽くない。


正義を貫くには、

時に誰かの自由を押さえ込む力がいる。


守るという名で、

上に立たなければならない瞬間がある。


物語はここで、

単純な敵味方を失った。


蒼真は初めて知る。


正しいだけでは、世界は救えない。


正しさを通すための力が、必要になることを。

天城レオニスは、悪ではありません。


むしろ、多くの人間から見れば英雄です。


十万の命を救った男。

都市を守った責任者。

混乱を止めた存在。


その事実は揺らぎません。


だからこそ、蒼真は揺れます。


もし「支配」が救済として機能するなら。

もし「管理」が秩序を守るなら。

それを否定する理由は、どこにあるのか。


天城は暴君ではありません。

合理的で、冷静で、そして結果を出している。


物語にとって厄介なのは、

“間違っていない相手”です。


ここで世界は単純な構図を失います。


悪を倒せば終わる話ではなくなった。


蒼真の前に立つのは、

圧倒的に正しいという実績を持つ大人です。


そしてその大人は、蒼真を否定しません。


むしろ認めます。


後継として。


それが、この章の怖さです。


力を否定されるよりも、

正しい方向に導かれる方が、ずっと抗いにくい。


蒼真はまだ答えを持っていません。


ですが、ひとつだけ確かなことがあります。


彼はもう、

「ただのDランク」ではいられない。


次章から、物語は“選択”の段階へ入ります。


支配を受け入れるのか。

支配に抗うのか。

あるいは、第三の道を探すのか。


ここからが本当の分岐点です。

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