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蒼月のレゾナンス ~最弱の調律士は運命を選び直す~  作者: なるかめ
第2章 運命を知る者

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第9話 解析

真実は、いつも静かに近づいてくる。


叫び声もなく、

衝撃もなく、

ただ「理解」という形をして。


知らなければ、

昨日と同じ明日が続いたかもしれない。


知らなければ、

自分はただのDランクでいられたかもしれない。


けれど、

誰かがそれを“言葉”にした瞬間、

世界は形を変える。


第9話「解析」


運命は、まだ宣告されない。

だが輪郭だけが、はっきりと浮かび上がる。


――知らなければ、自由だったのだろうか。

夜の研究棟は、昼よりも静かだ。


静かすぎて、機械の微かな駆動音が心臓の鼓動のように聞こえる。


水瀬月乃は、解析室の中央で立ち止まっていた。


壁一面に浮かぶ波形データ。

第三区画・廃工場任務の記録。


凛の炎。

乱流の渦。

そして――


その一点。


「……やっぱり」


月乃は、指先で拡大する。


炎と乱流がぶつかり、共振寸前だった交点。

そこだけ、波が“落ちている”。


減衰でもない。

相殺でもない。


停止。


「調律じゃない」


調律は整える。

出力を均し、波長を揃える。


だがこれは違う。


交点そのものが、消えている。


共鳴が成立する前の、ゼロ地点へ。


「共鳴構造への干渉……」


月乃の喉が、わずかに乾く。


もしこれが再現可能なら。


それは――


「共鳴を止められる存在」


誰かが、背後で軽く咳払いをした。


月乃は振り向かない。


声だけで分かる。


「夜更かしは、観測精度を落とす」


穏やかな低音。


ノア・エーベル。


白衣の男は、解析室の入口に立っていた。

年齢は読み取りにくい。

柔らかな微笑みを浮かべているが、目は笑っていない。


「データを見たの?」


月乃が問う。


「概要だけ」


ノアは歩み寄る。


画面を一瞥し、すぐに視線を戻す。


「これは危険だ」


断定。


月乃は、ほんのわずかに眉を寄せる。


「危険、という言い方は主観的」


「客観的にも危険だよ」


ノアは静かに言う。


「共鳴社会の前提を壊す可能性がある」


共鳴は、同意と増幅の構造だ。


だが“止められる”という事実は、

支配と紙一重になる。


止められる者は、止めるべきかを決める立場に立つ。


それは、力だ。


月乃は画面を閉じた。


「まだ本人は自覚していない」


「自覚したら?」


ノアの問い。


答えはすぐに出ない。


知らなければ、ただのDランク調律士。


知ってしまえば、世界の均衡を揺らす存在。


「……知らせるべき?」


月乃の声は淡々としている。


だが、心拍はわずかに速い。


ノアは少しだけ目を細める。


「君はどうしたい?」


質問を返す。


月乃は数秒、沈黙した。


そして言う。


「彼には、選択してほしい」


「選択?」


「知らないまま選ばされるのは、不公平」


ノアは軽く笑った。


「理想的だ」


だが、と付け足す。


「知ることは、自由を削る」


解析結果を示せば、統律院は動く。


国家は、“測れないもの”を放置しない。


「……研究都市の資料が残っている」


ノアが、ふと呟く。


月乃が視線を上げる。


「第七層。暴走前の実験ログ」


「アクセス制限は?」


「私なら通せる」


ノアの口調は、あくまで軽い。


だがその目は、遠い過去を見ている。


「その資料、誰の研究?」


問いは自然だった。


ノアは、ほんの一瞬だけ間を置く。


「共鳴同意理論の初期提唱者」


名前は言わない。


だが月乃は気づく。


水月叶音。


蒼真の母。


月乃の指先が、わずかに震える。


偶然ではない。


この波形。


この停止構造。


すべてが、過去へ繋がっている。


「運命、ね」


月乃が小さく呟く。


ノアは首を傾げる。


「科学に運命はない」


「でも、構造はある」


波には、必然がある。


条件が揃えば、同じ形になる。


「彼の存在は、事故じゃない」


月乃は確信する。


同時に、恐怖も感じる。


もしこの構造が完成すれば。


止められる。


誰の共鳴も。


炎も。


雷も。


――意志も。


「まだ、報告は上げない」


月乃が言う。


ノアは何も言わない。


ただ、静かに頷いた。


その頃。


蒼真は寮のベッドに寝転んでいた。


天井を見つめる。


今日も何も分からなかった。


凛の炎が止まった理由も。


自分の手の意味も。


ただ一つ分かるのは。


「……俺には無理だ」


口癖のように、繰り返す。


知らない方が楽だ。


知らなければ、責任もない。


知らなければ、前に出なくていい。


窓の外で、月が雲に隠れる。


その夜。


解析室の光だけが、消えずに残っていた。


真実は、静かに形を取り始める。


まだ蒼真は知らない。


知らなければ、自由だったのか。


それとも。


知らないことこそが、縛りだったのか。

今回は戦闘ではなく、「理解」の回でした。


蒼真はまだ何も知らない。

けれど月乃は、すでに気づき始めています。


共鳴を“整える”のではなく、

“止めている”という可能性。


それは調律ではありません。

それは構造への干渉です。


そして干渉できるということは、

選択の主導権を握れるということでもある。


だから危険です。


ノアの登場で、物語は少しだけ過去へ繋がりました。

研究都市。

暴走。

叶音という名前。


まだ断定はしません。

けれど読者には分かるはずです。


偶然ではない。


ここから物語は

「個人の異常」から

「世界構造の異常」へと広がっていきます。


蒼真はまだ、何も知らない。


知らないからこそ、自由。


でも――


知らないままでは、

選ぶこともできない。


次話、運命は一段、具体的になります。

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