フェーズチェンジ
バーン、と宿舎のドアが勢いよく開いた。
ドアを開けたのは、森田だった。
「アラン、武器を忘れてるぞ!」
森田はそう言って、アランが大ネズミを刺した際に手放した剣をアランに渡した。
焦るアラン。
(そうだ、あの時ネズミに刺したままだった!)
「す、すみません!」
「班長、無事だったんですね!爆発に巻き込まれたんじゃないかと心配していました」
瞬が森田に駆け寄った。
「あぁ、倒したネズミの下にもぐり込んだ。ネズミの体重は大きいもので600kg程度だ。体格の割に脂肪が多くて皮はよく伸びる。上手く使えば簡易の避難場所くらいにはなるぞ。普段村に備蓄してる火薬量くらいなら、爆発しても耐えられる」
アランは口を開けて驚いた。
(すごい、班長はあの短時間で、そんなことまで考えてネズミに挑んだのか)
「獣衛隊の主な仕事はネズミ狩りだ。生態については細かいところまで覚えておいて損はないぞ···だが」
森田はそこで考えるように言葉を切った。
「フェーズチェンジが近いかもしれない」
最後は独り言のようにそう言って、森田は部屋を出て行った。
「え?フェーチェ?」
アランは聞き取れず、言葉を間違えた。
「フェーズチェンジ、って言ったんだよ。班長は東欧出身のハーフだから、たまに英語が出るって父さんが言ってた」
瞬がアランに教えた。
―フェーズチェンジ。
覚えたばかりの言葉を、アランは頭の中で繰り返した。
◆
次の日の早朝、大きな会議室のような場所に、獣衛隊訓練生全員が集められた。
アラン達は、後方の席に座っている。
「眠い···。こんな朝から呼び出しなんて聞いてないよー」
あくびをしながら風人がボヤいた。
「もう獣衛隊辞めよっかなー。睡眠不足はお肌の大敵だし」
小さな手鏡で顔を確認するユリカ。
その時扉が開き、室内に森田が入ってきた。
「あ、班長!良かった、元気そう♡」
森田の姿を見て、ユリカが目をハートにした。
「え?ユリカ辞めるの?じゃあ俺も」
同調しかけた風人の顔を、ユリカがバチーン!と叩いた。
「は?辞めるわけないじゃん。班長のためなら、どこまでもついて行きます」
手を組んでうっとりと森田を見つめるユリカ。
頬を腫らして涙目の風人。
「なんでよ···」
森田に続いて、青木曹長も室内に入ってきた。
壇上に立った青木は、訓練生達に向かって話し始めた。
「周知の通り、昨日近隣の村にネズミの出現と爆発があった。詳細については現在調査中だが、この爆発が人為的なものであることが断定された」
爆発に人間が関わっていることがわかり、訓練生達はざわめいた。
「可能性として、今後もネズミの暴走に見せかけて何者かが民間人や獣衛隊に攻撃を仕掛けてくることが考えられる。それに備えるためには、獣衛隊に更なる対策が必要だ。そこで、最悪の事態を想定した実践訓練を訓練生にも行ってもらうこととなった。ぜひ、君達の力を貸して欲しい」
青木が訓練生達を強い眼差しで見つめた。




