爆発の余波
ドドーン!!
大きな爆発による煙が、村の周りをつつんでいる。
村から離れたトラックからは、もはや村の様子もわからなかった。
「ど、どうしていきなり爆発したんですか!?」
「火薬庫だ···。うちの村には、獣衛隊で使う火薬を一時保管してる倉庫があった」
驚いたアランに、村の老人が青ざめた顔で答えた。
「菅原···見た?」
志穂が顔を引きつらせながら尋ねた。
「ラジコンだろ。ネズミの仕業じゃないことは確かだな」
「ネズミとグルになってる人間がいるってこと?まさか、テロ?」
「まだ情報が少な過ぎる。とりあえず、上に報告だ」
トラックは、村からどんどん離れていく。
「ちょっと待ってください、班長は?森田班長はどうなったんですか!?」
慌てたアランが二人に尋ねた。
志穂はアランとは目を合わせずに俯いた。
「まずは、村の人の退避を完了させないと。班長の捜索は、その後になると思う」
「あの人は並の隊員とは違う。生きてる、はずだ」
菅原がそこで言葉を止めた。
アランもそれ以上尋ねることはできず、ただトラックに揺られた。
◆
村人の退避を完了させたトラックが訓練場に戻ると、爆発の知らせを受けた隊員達が慌ただしく行き交っていた。
「訓練生は、宿舎に戻って待機してるように!」
それだけ言って、菅原と志穂は行ってしまった。
アランの到着を待っていた訓練生達が、アランの元へと駆け寄って取り囲んだ。
「アラン、無事で良かった!村が爆発したって聞いて心配したよ」
瞬がほっとした様子でアランに言った。
「ちょっと、班長は!?爆発に巻き込まれたなんて嘘でしょ!?」
ユリカが焦った表情でアランに詰め寄った。
「すごく大きなネズミに襲われて、班長がみんなを助けるためにトラックから降りたんだ。そうしたら爆発が起きて···」
下を向くアラン。
「信じらんない···私の班長が···」
その場にヘタリこむユリカ。
ミラン達は班長の消息不明に戸惑い、その場に沈鬱な雰囲気が漂った。
「おい、ハリネズミ野郎はどこだ!」
別の中学出身の獣衛隊訓練生、宇野晴己がアランを探して声を荒げた。
風人がアランを指差すと、晴己はズカズカと歩いてアランの前に立ちはだかった。
アランの胸ぐらをいきなり掴む晴己。
「お前のせいで森田班長が爆発に巻き込まれたんだぞ!まだ訓練生のくせに、調子に乗るんじゃねーよ!」
派手な髪型と髪色の晴己の気迫に押されて、アランは後ずさった。
「森田班長はな、俺達訓練生みんなの憧れなんだよ!あの人に何かあったら、お前を絶対許さねーからな!」
「何やってるんだ!訓練生は今すぐ宿舎に戻りなさい!」
騒ぎに気付いた男性隊員の一人が、アラン達を叱り飛ばした。
◆
宿舎の二人部屋に戻った瞬とアラン。
疲れてベッドに座ったアランに、瞬が話しかけた。
「ねぇアラン、ネズミが村を爆発させたって話は本当?」
瞬が真剣な面持ちで話しかけた。
頷くアラン。
「ああ···ネズミの側からラジコンカーみたいなものが出てきたと思ったら、火薬庫に突っ込んだんだ。班長が気付かなかったら、みんな巻き込まれてたと思う」
「最近のネズミは知恵がついたとよく聞くけど、さすがにラジコンを操作できるはずがないよね。となると、やっぱりネズミに味方してる人間がいるってことか···」
考えこむ瞬。
そんな瞬の姿を見て、アランは尋ねた。
「瞬はさ、どうしてそんなに獣衛隊に入りたかったの?ネズミを倒すのって、簡単なことじゃないのに」
「あれ、言ったことなかったっけ?僕のおばあちゃんは、ネズミに足を齧られて歩けなくなったせいで亡くなったんだ。パンデミックの時だってピンピンしてたような、元気なおばあちゃんだったのに」
「そっか···」
「それに、ネズミの生態にも興味があるんだよね。僕が調べた限りでは、パンデミック後に大型化したネズミは、日本に昔からいた種とは全く異なる種類らしいんだ。しかも、ここ数年でどんどん大型化してる。5年前はイノシシくらいのサイズだったはずなのに、最近はヒグマサイズのものまでいるなんて、常識じゃ考えられないことだよ!」
瞬が興奮した様子で話し続けた。
「確かに、俺が前に見たネズミはもっと小さかったな」
アランは昔見たネズミの姿を思い出した。
「もしネズミがこれ以上大きくなったら、銃や剣でも倒すのが難しくなってくる。僕はその前に、大型化したネズミを完全に駆除したいんだ。父さんと一緒に」
輝く瞬の目を眩しく感じたアランは、力なく俯いた。
「···瞬はいいな、夢があって」
「そうかな」
照れる瞬。
「でもアランだってすごいじゃん!体から針が出せるなんて、僕もそんな特技が欲しかったよ」
「これは別に、特技なんかじゃないし」
アランは自分の腕を撫でながら答えた。
「今日だって、班長はアランだからネズミの所に連れて行ったんだと思うよ。班長、無事だといいんだけど」
瞬がそこまで言ったところで、宿舎のドアがバーン、と勢いよく開いた。
ドアを開けたのは、森田だった。




