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獣乱のゲノム  作者: 大野 響


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8/10

爆発の余波

 ドドーン!!

 大きな爆発による煙が、村の周りをつつんでいる。

 村から離れたトラックからは、もはや村の様子もわからなかった。


「ど、どうしていきなり爆発したんですか!?」

「火薬庫だ···。うちの村には、獣衛隊で使う火薬を一時保管してる倉庫があった」 

 驚いたアランに、村の老人が青ざめた顔で答えた。


「菅原···見た?」 

 志穂が顔を引きつらせながら尋ねた。

「ラジコンだろ。ネズミの仕業じゃないことは確かだな」


「ネズミとグルになってる人間がいるってこと?まさか、テロ?」

「まだ情報が少な過ぎる。とりあえず、上に報告だ」


 トラックは、村からどんどん離れていく。

「ちょっと待ってください、班長は?森田班長はどうなったんですか!?」

 慌てたアランが二人に尋ねた。


 志穂はアランとは目を合わせずに俯いた。

「まずは、村の人の退避を完了させないと。班長の捜索は、その後になると思う」


「あの人は並の隊員とは違う。生きてる、はずだ」

 菅原がそこで言葉を止めた。

 アランもそれ以上尋ねることはできず、ただトラックに揺られた。



 村人の退避を完了させたトラックが訓練場に戻ると、爆発の知らせを受けた隊員達が慌ただしく行き交っていた。


「訓練生は、宿舎に戻って待機してるように!」

 それだけ言って、菅原と志穂は行ってしまった。


 アランの到着を待っていた訓練生達が、アランの元へと駆け寄って取り囲んだ。


「アラン、無事で良かった!村が爆発したって聞いて心配したよ」

 瞬がほっとした様子でアランに言った。


「ちょっと、班長は!?爆発に巻き込まれたなんて嘘でしょ!?」

 ユリカが焦った表情でアランに詰め寄った。


「すごく大きなネズミに襲われて、班長がみんなを助けるためにトラックから降りたんだ。そうしたら爆発が起きて···」

 下を向くアラン。


「信じらんない···私の班長が···」

 その場にヘタリこむユリカ。


 ミラン達は班長の消息不明に戸惑い、その場に沈鬱な雰囲気が漂った。


「おい、ハリネズミ野郎はどこだ!」

 別の中学出身の獣衛隊訓練生、宇野晴己(ウノハルキ)がアランを探して声を荒げた。

 

 風人がアランを指差すと、晴己はズカズカと歩いてアランの前に立ちはだかった。

 アランの胸ぐらをいきなり掴む晴己。


「お前のせいで森田班長が爆発に巻き込まれたんだぞ!まだ訓練生のくせに、調子に乗るんじゃねーよ!」


 派手な髪型と髪色の晴己の気迫に押されて、アランは後ずさった。

「森田班長はな、俺達訓練生みんなの憧れなんだよ!あの人に何かあったら、お前を絶対許さねーからな!」


「何やってるんだ!訓練生は今すぐ宿舎に戻りなさい!」

 騒ぎに気付いた男性隊員の一人が、アラン達を叱り飛ばした。



 宿舎の二人部屋に戻った瞬とアラン。

 疲れてベッドに座ったアランに、瞬が話しかけた。

「ねぇアラン、ネズミが村を爆発させたって話は本当?」


 瞬が真剣な面持ちで話しかけた。

 頷くアラン。


「ああ···ネズミの側からラジコンカーみたいなものが出てきたと思ったら、火薬庫に突っ込んだんだ。班長が気付かなかったら、みんな巻き込まれてたと思う」


「最近のネズミは知恵がついたとよく聞くけど、さすがにラジコンを操作できるはずがないよね。となると、やっぱりネズミに味方してる人間がいるってことか···」


 考えこむ瞬。

 そんな瞬の姿を見て、アランは尋ねた。


「瞬はさ、どうしてそんなに獣衛隊に入りたかったの?ネズミを倒すのって、簡単なことじゃないのに」


「あれ、言ったことなかったっけ?僕のおばあちゃんは、ネズミに足を齧られて歩けなくなったせいで亡くなったんだ。パンデミックの時だってピンピンしてたような、元気なおばあちゃんだったのに」


「そっか···」


「それに、ネズミの生態にも興味があるんだよね。僕が調べた限りでは、パンデミック後に大型化したネズミは、日本に昔からいた種とは全く異なる種類らしいんだ。しかも、ここ数年でどんどん大型化してる。5年前はイノシシくらいのサイズだったはずなのに、最近はヒグマサイズのものまでいるなんて、常識じゃ考えられないことだよ!」


 瞬が興奮した様子で話し続けた。


「確かに、俺が前に見たネズミはもっと小さかったな」

 アランは昔見たネズミの姿を思い出した。


「もしネズミがこれ以上大きくなったら、銃や剣でも倒すのが難しくなってくる。僕はその前に、大型化したネズミを完全に駆除したいんだ。父さんと一緒に」


 輝く瞬の目を眩しく感じたアランは、力なく俯いた。


「···瞬はいいな、夢があって」

「そうかな」

 照れる瞬。


「でもアランだってすごいじゃん!体から針が出せるなんて、僕もそんな特技が欲しかったよ」


「これは別に、特技なんかじゃないし」

 アランは自分の腕を撫でながら答えた。


「今日だって、班長はアランだからネズミの所に連れて行ったんだと思うよ。班長、無事だといいんだけど」

 瞬がそこまで言ったところで、宿舎のドアがバーン、と勢いよく開いた。


 ドアを開けたのは、森田だった。





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