八王子訓練場
田舎道を走っていたバスが、フェンスに囲まれた敷地内に入って止まった。
バスが入ると、扉は自動的に閉められた。
「みんな、着いたよー!はい、降りて降りて」
バスの運転席そばにいた志穂が立ち上がり、声を出して生徒達の降車を促した。
「うおー!ひっれー!ここ、小学校の10倍以上あるぞ」
一足早くバスから降り立った玄真が、広い敷地内を見渡して声をあげた。
八王子訓練場と書いてある敷地内には、生徒達が暮らす寮やグラウンドの他に校舎やトレーニング施設が併設されていた。
◆
大学の講義室のような場所で、教壇に立って話をする志穂。
その隣には、獣衛隊隊員の菅原咲也もいる。
「これから、君達にはこの八王子訓練場で、中学生兼獣衛隊訓練生として、生活してもらいます。特にここにいる菅原教官には、君達の訓練全般を、統括してもらう予定です」
まだ若いが目つきの鋭い菅原が、その場で敬礼した。
志穂の言葉を聞きながら目を輝かせる瞬と、真面目な顔つきのミラン。
どこかぼんやりした表情のアラン。
アランとミラン、瞬の座る席の後ろには、小学校で同じクラスだった女子生徒二人と、男子生徒一人もいる。
◆
講義室内で、教壇に立って授業をする教師。
訓練生達は座って授業を受けている。
だるそうに肘をつき、眠そうな目の永田ユリカ。
「獣衛隊に入れば、もう勉強しないでいいと思ったのに〜」
ユリカはアイドルのようなかわいい顔で小さく舌打ちした。
同意する吉井風人。
「だよねー。俺やっぱ私立の中学行けば良かった」
「おい、先生の前で誓ったこと忘れたのか?大ネズミの餌になりたいなら俺が訓練場の外に放り投げてやるぞ」
玄真が風人を睨みつける。
慌てて取り繕う風人。
「やだなー、冗談だって!勉強も訓練もできて給料ももらえるって、獣衛隊最高じゃん」
「はい、じゃあこの問題わかる人」
教師の呼びかけに、手を上げる瞬とミラン。
どんな問題も、瞬とミランが即答していく。
訓練生達の様子を後方で静かに観察している様子の菅原。
◆
訓練場のグラウンドにて、ジャージ姿で集められたアランと訓練生達。
「まだ中学生の君達には、基本的なトレーニングを中心にやってもらう。まずはこのグラウンドを10周、それから腕立てと腹筋、50回だ。行くぞ!」
菅原が手に警棒のようなものを持ち、厳しい目つきで言い放った。
青ざめるアランとユリカ、風人。
グラウンドを走る訓練生達を、遠くから眺める森田。
グラウンド10周にて、始めにゴールしたのは、笑顔に汗が浮かぶ湊ガクだった。
2位に玄真、3位に瞬、4位に風人、5位にアラン。6位にミラン、7位に小幡真歩、8位にユリカ、9位に波多野凛の順だった。
走り終わり、汗を拭く訓練生達。
「ガク君、また足が速くなったんじゃない!?」
真歩がガクに声をかけた。
「ハハ、そうかな。みんなも前より速くなったと思うよ」
爽やかな笑顔で汗を拭くガク。
「ガクは両親が元オリンピック選手のサラブレッドだもん、俺達より速いに決まってるじゃん」
風人が口を挟んだ。
「玄真も速いよね。僕がどんなに頑張っても、二人には敵わないもんなぁ」
瞬が玄真に話しかけた。
「俺は毎日トレーニングしてるからな。パンチ力だったらガクにも負けないぜ」
玄真がその場でボクシングの真似をした。
「おいアラン、お前ボケっと走ってんじゃねーよ!訓練だってわかってんのか!?」
玄真が後ろからアランの背中にパンチした。
「いてっ!」
アランが驚いて顔をしかめた。
「アランなんてどーせ遅いんだから、怒るだけムダだよ〜」
軽口をたたく風人。
しかめっ面の玄真。
(こいつは本当に足が遅いわけじゃねぇ。だから気に食わねぇんだよ)
―玄真の回想―
俺はあの日、寝坊して学校まで急いで走っていた。そうしたら、後ろから来た足音があっという間に俺を追い越して行きやがった。
足を怪我したミランを背負った、アランがな!!
―――
「誰が休んでいいと言った!今喋った罰として、全員10週追加!一番遅い者はプラス腕立て100回追加だぁ!」
厳しい声で訓練生達を追いかける菅原。
青ざめて逃げるアラン達。




