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獣乱のゲノム  作者: 大野 響


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23/25

スパイ

 獣衛隊員の腹に膝蹴りする森田を見て、アランは慌ててドアを開け中に入った。

「班長、何やってるんですか!?」


 やって来たアランに森田が気を取られた隙に、蹴られていた隊員の男はアランの背後にまわって羽交い締めにし、隠し持っていたナイフをアランの首筋に当てた。


「え!?」

 驚いて目を丸くするアラン。

「手を上げろ」

 男の言葉に、森田は両手を上げた。

「アラン、そいつはスパイだ」

 森田は顔色を変えずに言った。


(スパイ!そういうことか!)

森田の言葉に、アランは納得した。

「喋るな!俺の言う通りにしろ!」

吠えるようにそう言い放った男の胸に、アランは背中から出した針を突き刺した。

「ウォッ」

 思わず手を離して低くうめいた男の両手を、アランが後ろに回して身動きできない状態にした。

「クソっ、こいつ、そういや特異体質だった」


 二人に近付いた森田が、男の髪を掴んで顔を上げさせた。

「なぜこんなことをした?」

「···金だよ」

 男は薄笑いを浮かべながら答えた。

 森田は小さなため息をつく。


 大ネズミによる世界の混乱は、当然世界経済にも悪影響を与えていた。ネズミの食害で高騰する農作物、何度整えても壊されるインフラ。それらのしわ寄せは一般市民へと降りかかり、高い税金と物価のせいで、一日一食の時代とすら言われていた。


「班長、なぜこいつがスパイだってわかったんですか?」

 アランは聞いた。

「盗聴器だ。最近、訓練場内で複数の盗聴器を見つけた。そこで監視カメラの映像をAIに分析させたら、こいつが出てきた」

「盗聴器!?隊長は知ってたんですか?」

「もちろんだ。港区の事件についての上の話を聞いて、説明が足りないと思わなかったか?恐らく、スパイは他にもいる。だから隊員への説明も最低限のものになったんだ」


(盗聴器が仕掛けられていたなんて、全然気付かなかった)

 アランは唇を噛んだ。

「お前を雇ったのはどこの誰だ?」

 森田が再び男に聞くと、男は室内の時計をちらりと見て笑みを浮かべた。

 すると、隊舎内にアラームとアナウンスが響き渡った。


ビービー!

『防衛隊仙台基地内で、多数のドローン爆発情報がありました』


ビービー!

『防衛隊木更津基地内で、多数のドローン爆発情報がありました』


ビービー!

『防衛隊高松基地内で、多数のドローン爆発情報がありました』


(防衛隊の基地が!!)

 アランが驚いていると、森田が男の顎を掴んで力を込めた。

「何を企んでるんだ!?」


 男が口を開く前に、防衛隊隊長がアラン達の声に気付いてやって来た。

「何をやってる!防衛隊からの応援要請だぞ!」

「隊長!こいつ、盗聴器をつけたスパイです!」

 アランは隊長に報告した。

「スパイ?そいつはこっちで預かろう。お前達は早く防衛隊の応援にまわれ。恐らく、ネズミも暴れてるぞ」

 隊長の指示により、森田とアランは防衛隊の応援に向かった。



 同時多発のドローン襲撃により、防衛隊の基地は今までにないほどの混乱に陥った。

 今回基地で爆発したのは、スパイによって秘密裏に基地内へ持ち込まれた、完全自律走行タイプの自爆ドローンであった。

 そのため上空からの飛来に備えていた防衛隊の防空システムは役に立たず、甚大な被害を出すことになったのだった。


 特に木更津基地では、大ネズミの発生を抑えていた周辺の獣害用フェンスにもドローン攻撃があったため、ネズミが市街地に大量発生していた。


 現地に着いたアラン達は、港区獣テロ事件の時よりもはるかに多いドローンの数に驚いた。基地内のあちこちで、屈強な防衛隊隊員達が血を流している。

「うわっ!!」

 至近距離で自爆したドローンに巻き込まれた玄真が、右足を負傷してその場にうずくまった。

「大丈夫か!」

 玄真の下へ来たガクが、再び襲来したドローンをショットガンで撃ち落とした。そこへやって来た風人とともに、玄真を安全な場所まで運んだ。


 左右からやって来る大ネズミと、上空を飛ぶドローンに追い詰められる真歩とユリカ。

「基地内に、どうやって大量のドローンを持ち込んだの!?」

「んなこと、わかんないわよーっ!!」

 真歩とユリカは、そう言いながら大ネズミを撃った。だがその場でドローンが自爆し、真歩は肩を、ユリカは腕を負傷した。


「ミラン、マモルを貸して」

 マモルがいると高く飛べないミランに気付いた蒼太が、マモルを抱っこ紐ごともらうと、自分の体に装着した。

 軽くなったミランは、上空から次々にドローンを撃ち落とした。

 蒼太も大ネズミの心臓や頭を的確に撃ち抜いて応戦した。


 アランと森田は、ドローンの攻撃をかいくぐりながら、大ネズミを次々と倒して行く。

 アランは周囲を見回しながら、森田に声をかけた。

「ドローンは多いけど、ワニはいませんね!」

 「東京湾には海中監視カメラと海中ミサイルを導入させた。まだ稼働したばかりだが、少しは役に立ったかもしれん」

「さすが班長!」


 そこへ、3台のドローンがやって来て自爆した。どうにか施設の陰に隠れた二人だが、爆風で舞った小石でアランは頭を、森田は頬を負傷した。

「大丈夫か?」

「はい、どうにか」

 アランは頭を抑えながら答えた。


「アラン、港区の事件の時と今で、何か共通点は感じないか?光や匂い、音、何でもいい、気付いたことがあれば教えてくれ」

「共通点?」

 森田に聞かれ、アランは先日のテロ事件について思い返した。

(港区の時は、壊された飲食店が多くて料理の匂いが充満してたな···でも今はドローンのせいで火薬の匂いがすごい···あ)


「火薬の匂いに混ざって、なぜかチーズの匂いがします!それから、カビの匂いも!この2つは、港区の時と同じです!」

「チーズとカビか。音はどうだ?」

「音?」

 アランは耳に意識を集中させた。すると、かすかな高音が耳に届いた。

「一瞬、とても高い音がしました。あ、また。この音は、港区の時も聞こえたような···」

「アラン、匂いと音の発生源がどこかにあるはずだ!そいつを探せ!」


 その時、海岸の方からいくつものミサイル音と、その煙の間から多数の巨大ワニがやって来るのが見えた。

 ワニの姿を認めて、獣衛隊の隊員達が集まってきた。

 

「数で勝負する気か。アラン、早く行け!ここは俺達がどうにかする!」

「はい!」

 森田に急かされ、アランはかすかな匂いと音のする方へと走った。


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