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獣乱のゲノム  作者: 大野 響


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生き残るための選択

 ミランは夜空の星を眺めながら、訓練場内のベンチに座っていた。

 宿舎から走ってやって来たアランが、ミランの姿を見つけてベンチの隣に座った。

「遅い」

「悪い、部屋を片付けろっていきなり班長に言われてさ」


「普段から片付けておけばいいのに」

「そうなんだけど。ところでさ、ミラン、疲れてないか?マモルは夜泣きもするんだろ?」

「もう慣れたよ。凛も真歩もよく手伝ってくれるし。訓練中は、班長や水川隊員が見ててくれるから、私の負担は意外と少ないの。食事も、食堂のおばちゃんがマモル用のメニューを用意してくれるんだ」


「そういや、班長が背中にマモルを乗せて腕立て伏せしてるの見たな」

「最初は私一人で子育てなんて不安だったけど、そんな心配いらなかったみたい。最近じゃ、真歩とマモルの仲が良すぎてちょっとつまんないくらい」

「なんだ。俺もマモルのお守り手伝おうと思ったのに、必要ないか」

「そんなことない。むしろ、他の隊員にももっとマモルと遊んで欲しい。もし私に何かあった時のためにも、そのほうが安心だし」

 星を眺めたままそう言うミランに、アランはハッとして目を見開いた。


「俺、もっと強くなるから。もう二度と、誰も死なせない」

「バーカ。ネズミのせいで、毎日何人の日本人が死んでると思ってるの?そんな守れない約束なんかいらない。それより、マモルをお願い。私は女だから、男の子の気持ちを全部わかってあげられる自信はないし」

「わかった。俺がマモルに遊び方を教えてやるよ!」

 アランは決意したように拳を突き上げた。

 それを見て微笑むミラン。


「今日呼び出した理由はそれだけ?」

「いや。班長が言ってただろ?マモルは兵器利用を想定して、遺伝子操作されてるって」

「もしかして自分もそうなんじゃないかって思った?」


「その通り!やっぱミランは鋭いな」

「遺伝子操作されてる可能性については、私も3年前から考えてた」

「3年前から!?」

「いくら双子だからって、突然変異の症状が同時期に現れたなんて説明、納得できるわけないじゃん。それで自分なりに調べた結果、遺伝子操作の可能性が一番有力かな、とは思ってたの。あくまで可能性だけど」


「でも、そんなこと母さんは何も言ってなかったじゃん。やっぱり、知ってたのに隠してたのかな···」

 アランは不安になってうつむいた。

「知らなかったんじゃない?お母さん、アランと同じでうまい嘘がつけるタイプじゃないもん。前に私が本気で問い詰めた時も、半泣きでおろおろしてたし。あれは演技じゃなかったよ」

 ミランは羽根が生えた頃のことを思い出しながら言った。


「じゃあ、俺達の父親が勝手にやったってこと?」

 ミランが頷いた。

「恐らくね。聞いたことあるでしょ?お父さんは頭が良かったってこと」

「うん。前に母さんから聞いた。俺が知ってる父親の情報なんて、それと宏一っていう名前くらいだよ」

「私も。でもね、フルネームをネットで検索してたら、もしかしてお父さんのことかもしれないっていう情報を見つけたの」


「え!?父親の名前は俺も検索したことあるけど、何も出てこなかったぞ」

「日本語ではね。でも、英語で海外のサイトを漁ってたら、お父さんと同じ名前の人が20年前に遺伝子工学の研究者としてアフリカ大陸の南にあったサヤンシ大学にいたことがわかったの。同姓同名の他人かもしれないけど、もしかしたらって思わない?」

「うーん。難しいことはわからないけど、父さんと同姓同名の人が遺伝子の研究者だっていうのは気になるな。でも、なんでアフリカなんだ?」


「それは私も気になって調べてみた。そうしたら、その頃のサヤンシ大学では破格の研究費を払って海外の研究者を集めていたことがわかったの。日本は研究者の賃金が低くなりがちで雇用も不安定だったから、海外の大学に行くって人は当時とても多かったみたい。お父さんとお母さんが結婚したのは17年前だから、恐らく二人はお父さんの帰国後に出会ったんじゃないかな」


「うーん。アフリカにいたのが父さんだったとして、なんで俺達にこんなことしたんだろう」

「それは私にもわからないけど···もしかしたら、マモルを作った政府と同じ考えだったのかもしれない」

「···人類が生き残るため、か」

「羽根が生えたのがわかった頃は、普通じゃない自分の体がすごく嫌だった。でも、マモルに生えてる羽根や尖った耳のことは、不思議と全然気にならないんだよね。真歩やみんなが羽根が生えてからも普通に接してくれる理由が、やっとわかった気がする」


 アランは頷いて笑った。

「なんか、色々納得できた。やっぱり、ミランに聞いて良かったわ。海外のサイトなんて、俺だったら一生見ることないもんな。もしその人が本当に俺の父親だったとしたら、スゲー頭良かったんだろうなー」

「倫理観はぶっ壊れてるけどね。じゃあ、私はそろそろ行くね。マモルを真歩に預けっぱなしだから、そろそろ交代しないと」


「おう」

 アランが言うと、ミランはベンチから離れて数歩歩いたところで振り向いた。

「アラン、今日は私のこと心配してくれてありがとう。嬉しかったよ」

「ミラン!」

 アランは名前を呼んでミランを引き留めた。

「ん?」

「生きよう。何があっても、俺達は生き残ろう!」

「なーにハズいこと言ってんの。じゃーね」

 ミランは笑って軽く手を振り、走って行った。


「これはまだ、見せらんねーな」

 アランは胸元に持っていた瞬の手帳を見ながら息を吐いた。



 大ネズミが出たとの通報を受けて獣衛隊が駆けつけると、ネズミは住宅街で暴れまわっているところだった。


 アランを見ると逃げ出した大ネズミを追いかけて、アランは拳から針を飛ばした。

 針は大ネズミの尻に当たったが、ネズミは止まることなく走って道路を直角に曲がった。

 追いかけるアランも道を曲がると、大ネズミの先に同世代の少年がいた。

「止まれー!!」

 アランは大ネズミに向かって叫んだ。


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