小さな決意
炎天下の中、グラウンドを走る訓練生達。真剣な様子で走っているアランは、ガクと互角の速さだった。
休憩時間になっても一人で走り続け、ふいに倒れるアラン。
倒れているアランの額に、湿ったタオルを置く凛。
「アラン君、大丈夫?保健室に行こう」
間近にある凛の顔に、思わず顔を赤らめるアラン。
アランは凛の肩を借りながら、保健室へと歩いた。
保健室に着いてベッドに腰掛けたアランに手を振り、室内から出て行く凛。
大人しく目立たないが優しい凛のことを、アランは前から好きだった。
アランがぼんやりと窓の外を見ていると、飛べるようになったミランが羽ばたきながら瞬と真歩に手を降っているのが見えた。
ガラリと音がして、室内に森田が入ってきた。
「体調はどうだ?真面目に走るのはいいが、無理はするなよ。自分の限界を知っておくことも重要だ」
森田はアランに話しかけた。
「もっと、強くなりたいです。もっと···」
アランが小さな声で言った。
「どうした?顔色が悪いな」
「···ミランが、また笑うようになったんです。俺は心配していただけで、何も出来なかったのに···班長の、言う通りだった。いつもそうなんです。優等生なのはミランで、母さんが頼るのはミランだけ。俺が運動会で一等をとっても、そんなことじゃ母さんは喜ばない。いつも、どうすればいいかわからなくて、父親のいる瞬が、みんなが羨ましかった。俺には父親がいないから、班長や瞬のようにはなれない」
言いながら、アランはいつの間にか泣いていた。
窓の外を見つめながら、森田が口を開いた。
「俺の父親は、俺が三歳の時に戦場で死んだ。もう、顔も思い出せない」
アランは驚いて森田を見た。
「え···」
「理想の父親がいないなら、自分が理想の父親になることを目指せばいい。俺は、そう思って生きてきた。残念ながら、まだ妻も子もいないけどな。ハハ」
最後は茶化すようにそう言って、森田は笑いながら出て行った。
はっとした表情のアランは、目を見開いたまま固まっていた。
◆
青空の下、アランと玄真が素手で格闘訓練をしている。
玄真の拳を、アランが両腕で防いだ。
「やるじゃねーか、アラン。だがなあ、基礎がなってねーんだよ!」
玄真のスピードある拳がアランの腹に思い切り入った。
うずくまるアラン。倒れるかと思われたが持ち直し、いきなりジャンプして玄真の背後に立った。それから玄真の足を蹴り、玄真を転ばせる。
おおーっ!と声を上げる訓練生達。
(俺は変わってみせる。理想の父親に!)
覚悟を決めたアランが、玄真をまっすぐに見つめた。




