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獣乱のゲノム  作者: 大野 響


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針と翼

アランとミランの性格について、追記しています。

 2037年、東京。

 今日も、昨日と変わらない毎日のはずだった。


「アラン、起きなさーい!」

「ふぁーい」


 母親の篠原文香(シノハラフミカ)に叩き起こされ、アランは仕方なく目を覚まして伸びをした。小学校の卒業が近いとはいえ、学校は今日もある。


 眠い目をこすり、歯磨きしながら廊下を歩く。すると、足元にあったランドセルにぶつかって転びそうになった。


「ふー!あっぶね〜!」

 アランはすんでのところで止まり、態勢を立て直した。そして歯磨きを再開したところ、あごに触れた指先に痛みが走った。


「痛っ!ん···?」

 指先には、切り傷ができて血が滲んでいる。

 

(あごに当たっただけで、なんで切り傷なんか―)

 疑問に思ったアランがあごの辺りに触れると、皮膚の隙間に異物の感触があった。

 

 洗面台に戻り、マジマジと鏡を見る。すると、口の周りからヒゲのような短い針が生えていた。

(え、これヒゲ?ヒゲってこんなに鋭いんだっけ!?)


「ちょっとアラン、いつまで歯磨きしてるつもり!早くどいてよ!」

 鏡をじっと見ていたアランに、妹のミランが声をかけた。二人は、同じ12歳の男女の双子だった。


「あ、ああ···」

 怒り顔のミランに気圧されて、アランは洗面台から離れた。

 ミランが鏡を占領し、忙しく髪を整える。


「二人とも、もう学校行く時間よー!」

「はーい」

 文香の声に、アランとミランは同時に応えた。


―ま、いっか。

 朝は忙しい。アランはあごの針について考えることは辞めて、大急ぎで準備を整え家を出た。


 生まれた時からずっと一緒のアランとミランは、性格は異なるが意外なほど仲がいい。

 

 穏やかでどこか頼りないアランと、努力家で完璧主義なミランは、二卵性の双子のため顔はそれほど似ていない。だが、ほっそりとした体つきと肌の色の白さは同じだった。


「アラン、ミラン、おはよう!」

 チャイムギリギリで教室に入ったアランとミランに、親友の青木瞬(アオキシュン)が声をかけた。


「おはよう!瞬」


 アランと瞬がハイタッチする。

 ミランは瞬を見て少し顔を赤らめ、小さく手を振った。


 茶色い髪に整った顔立ちの瞬は、クラス一のイケメン優等生だ。だが本人にはその自覚がないらしく、謙虚でシャイなところも人気の理由だった。


 クラスには、アランとミラン、瞬の他に男子が3人、女子が3人いる。

 9人だけの教室に、優しい笑顔を浮かべた女性教師、高橋優子(タカハシユウコ)が入ってきた。



教室では、社会の授業が始まっていた。

「みんなも知っている通り、2026年に2つの新型ウイルスが世界中で流行りました。その影響は大きく、たった5年で日本の人口の4割以上の人々が亡くなったと言われています」


「今、日本人は全国に約5000万人程度しかいません。しかも、最近は大ネズミの害が更に増えています。皆さんも、23区の外に出る時は本当に気を付けてね」

 

 優子が、真面目な顔つきで生徒達に注意した。


 2026年は、史上最悪のパンデミック年と言われていた。致死率50%以上の新型鳥インフルエンザと新型ハンタウイルスがほぼ同時期に世界中で蔓延し、たった5年で世界人口の4割以上が失われたのだ。


その影響は凄まじく、病院で収容しきれない患者が道端で何人も倒れた。人々は何ヶ月も外出できない日々が続き、多くの国の経済がストップ。困窮した国民による強盗などの犯罪が各国で相次ぎ、世界の政府の半数が崩壊したとすら言われていた。


「先生、どうしてネズミは大きくなったんですかー?」

 小学生にしてはガタイのいい山城玄真(ヤマシロゲンシン)が質問した。


「それが、未だにあんまりわかってないのよね。ネズミが大きくなりはじめたのがパンデミックの少し後だったから、世界中が混乱してどこの国も調査ができなくて」


 優子が困り顔で答えたその時、一番前の席のミランが消しゴムを落とした。 

 

「はい、どうぞ。あら···」 

 消しゴムを拾って渡した優子は、ミランの背中が少し盛り上がって微かに動くことに気付いた。


「はい、じゃあ今日の授業はここまで」

「篠原さん、ちょっと一緒に来て」

 授業を終えた優子が、ミランに声をかけた。


「え、はい」

 ミランは応え、優子と一緒に教室を出た。


 二人で教室から保健室に入ると、優子はカーテンを閉めてベッドに二人きりになった。


「篠原さん、ちょっと背中を見せてもらえる?何か、背中の辺りにあるみたいなの。自分でも気付いてる?」


「背中?ああ、そう言えば、最近むずがゆいことがたまにあったかも」


「腫瘍とかじゃないといいんだけど。じゃあ、ちょっと背中ごめんね」

 

 優子がミランの背中をめくる。すると、背中に小さな羽根が生えていた。


「え、何これ···」

 驚きのあまり、優子は声を失った。


「先生、何があったんですか!?私にも見せて下さい!」

 気になったミランは鏡の前に行くと、鏡を使って背中を見た。そして、悲鳴のような叫び声を上げた。


「な、何これ!?え、羽根?なんで?やだ、取れない」 

 ミランは背中の羽根を引っ張ってみるが、背中から生えている羽根は取れなかった。


「羽根のこと、誰か他に知ってる人はいるの?」

 優子がミランに尋ねた。

 ミランは首を横に振った。


「そう···とりあえず、保護者には伝えたほうが良さそうね。アラン君には話す?」

 優子が心配そうにミランの顔色を伺うと、ミランが大きくかぶりを振った。


「ま、待って。アランにも、クラスのみんなにも言わないで下さい。もしかしたら、そのうち取れるかもしれないし」


「わかった。じゃあ、背中が目立たないように下に体操服を着ようか。学校では、篠原さんと先生だけの秘密にしよう」

 優子とミランが目を合わせ、頷きあった。



 給食の時間が始まり、生徒達は給食を前に席に着いた。

「今日は卒業前の最後の給食だから、みんなしっかり食べて」


 バリーン!


 優子が話し終わる前に、ガラスが割れる大きな音が階下から聞こえてきた。


「なんだ、今の音」

 音に気付いた生徒達が窓の下を見ると、校舎一階昇降口のガラスが割れているようだった。


 ダダダ、ドドーッ!!


 大きな音とともに、ヒグマより更に大きなサイズの大ネズミがクラスの扉をぶち破って教室の中に入ってきた。


 キャーッ!!

 教室中に、女子の悲鳴が響き渡る。


 大ネズミは優子にいきなりかぶりつき、優子の腕をもぎとった。


 優子の息が絶えたところで、今度は生徒達を大ネズミがジロリと睨む(にらむ)


「こ、こっちにくるな!」

 思わず声を上げたアランに、大ネズミが襲いかかってきた。 


「う、うわーっ!!」 

 襲われる、と思ったアランはその場に尻もちをつき、咄嗟に右手を前に突き出した。すると指から多数の針が発射され、その針が大ネズミの目に突き刺さった。


(な、なんだ今の!?俺の指から何が出た?)


 キィーッ!

 針に驚いた大ネズミがのけぞった。だが、すぐに態勢を立て直して再度アランに襲いかかかる。


 (ヤバイ、喰われる!)

 アランが身構えたその時、大ネズミの頭に何かが刺さって動きが止まった。


 大ネズミの上にあったのは、大きな剣をその脳天に突き刺す男の姿だった。


「お前、今ネズミに何をした?」

 倒れたネズミから、背の高い男が颯爽と降り立つ。男はネズミに刺さった針を確認してから、アランを見極めるように睨んだ(にらんだ)

読んでいただきありがとうございます。

ここから、少年マンガ風ダークファンタジーがどんどん展開していく予定です。


興味があると思っていただけたら、下にある【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】を押していただけると、とても嬉しいです。


よろしくお願いいたします。

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