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第7話 盗賊 其の二

 ラジネ村から街道に通じる道。立木が多く、左右の見通しは利かない。そのような場所に、惨状が広がっていた。三台の荷馬車は壊れ、旅行者の持ち物と思われる日常品が散乱している。


「お頭の言う通り、渾身の演技をするんだな。子供の命は、お前らの演技次第だ。失敗すれば……分かってるな?」


 行商人から奪った服を着た三人の盗賊の一人が、連れてきた夫婦を脅した。次の瞬間、賊のもう一人が父親の背中を切りつける。


「キャー、どうして、どうしてこんなことを……!」


 母親は血を噴き出して倒れる夫にすがる。


「こうした方が、真実味が増すだろう? 精々頑張るんだな」


 それもギュエルの悪知恵であった。治癒師は負傷者を診るためここに残る。弓師だけを引き剥がす確率を上げるためである。


 悲鳴を聞きつけた小次郎一行が駆けつける。ウェリスは周囲を一瞥したあと、血を噴き出して倒れている男に向かう。

 小次郎は、『襲撃を受け、無辜の命が奪われた』という状況に胸の奥で怒りが静かに燃え上がった。


「プエラは、ここで辺りを警戒してくれ」

「了解!」


 小次郎はウェリスの後を追い、言われたプエラは弓を構えて不測の事態に備えた。


「どうか、主人を……それから、娘が、子供が捕まっています。どうか助けてください」


 女性は地に頭を着け、必死に懇願する。ウェリスは半狂乱の女性を優しく諭し、傷ついた男の具合を診始める。小次郎は周囲を警戒しつつ、少し離れて血の染みた地面を観察した。


「ふむ……」


 小次郎は街道の脇でしゃがみこみ、血の染みた土をつまんだ。血は固くこびりつき、鉄の匂いよりも、()えたような生臭さが鼻を突いた。


”この辺りの血は、おそらく一日前のものだ。偽装しているが、抜けたところが多い”


 しゃがんで土をつまむ小次郎の背後に、男が近づく。


「手前どもは行商を生業としております。先ほど、盗賊に襲われ、仲間は殺されました。生き残った俺、いや私ども五人は、隠れて難を逃れました。しかしこの男は子供を助けようとし、切られたのです」


 小次郎は興味深いことに気づく。助けを懇願する女性と切られた男は緑色の光を纏い、話しかけてきた男ともう二人は赤黒い光を纏っている。


「なるほど。()()()ねぇ」


 小次郎は手を叩き、土を落としながら答える。


”どうも、魔犬だけが赤黒い光を纏う訳ではない。違いは何だろう。魔犬の光は飢えや魔の純粋なものであったが、こいつらの光は、欲望と悪意にまみれた、薄汚く濁ったものに感じる”


 思ったような回答を得られない盗賊の男は小次郎を訝しげに見る。


”なんだ、この異国人は。言葉分からないのか? それにぼーっとしてつかみ所がない。弓師さえいなければ俺一人で片付けられそうだ”


 心の中の言葉は隠して、頭から吹き込まれた通りに言ってみる。


「どうか、仲間をお助けください。襲ってきたのは山の中腹を根城にしている賊です。警戒していたのですが、この通り襲われました」


 それも無視して小次郎はウェリスのそばへ移動する。しかたなく男も低く腰をかがめてついていく。


「どうか、お願いします……えっ」


 男は、治療が終わり、傷が塞がった父親の姿を見て驚く。血管まで縫い合わせたかのように、傷が完全に閉じているのだ。こんなに早く治療するのは想定外だった。男の驚きを他所にウェリスは女性の方に声をかけた。


「ご主人は大丈夫ですよ。でも出血は多かったので、少し安静にしてくださいね」


 焦った賊の男は母親を睨み、台詞を言うよう促す。母親は泣きそうな顔で必死に懇願する。


「どうか、子供をお助けください。高い木に登れば、中の様子を伺えると思います。お願いします」


 間髪入れず、賊も頭を下げる。


「何とか、子供を助けていただけませんか? 噂では賊は人身売買のため、多くの子供や女性を閉じ込めているらしいです。奴隷商に売られるか、賊の慰み者になるか、早くしないと大変なことになります」


 しかしウェリスはつれない返事をする。


「少し待ってください。他の生存者がいないか確認します」


 ウェリスは他の遺体を見て回り、小次郎も跡を追う。行商人に化けた賊たちは、なかなか腰を上げない小次郎たちにやきもきし始めた。そんな賊共の事などほっといて、小次郎とウェリスは話し始めた。二人はとっくの昔に、三人の男は賊だと見抜いていた。


「小次郎さん、気づいてます?」


 ウェリスは賊にも聞かれても良いように遠回しに尋ねる。


「そうだな……運ぶ物は鮮度が重要だ。鮮度に違いがある」


 治療した男以外の死体は、もっと前に殺されていることを小次郎が分かっているのか確認したのだ。そして小次郎の答えを聞き、ウェリスは微笑む。


「では、これからどうしますか?」

「高いところに昇ったら、梯子を外されないように気をつける。それに、遺体をあさる野犬にも警戒が必要だな」


 ウェリスは小次郎の懸念を理解した。


”このまま賊の策に乗ったふりをして、プエラの遠目と聴力を最大限に活かすべきだわ”


 彼女は手を振り、大声でプエラを呼ぶ。プエラは馬車脇で村人たちと共に待機しており、遠距離からの護衛位置から小次郎たちの動きを常に監視していた。


「プエラ、山の中腹に盗賊がいるらしいの。人質が捕まっているかもしれないので、高い木に登って確認してきて」


 プエラは手を振って応えた。それを見て安堵した賊の一人が声をかける。


「よく見える木を教えますのでご案内します」


 小次郎は懸念を口にする。


「ウェリス、プエラは大丈夫か?」

「目も良いけど、耳はもっと良いのよ。その気になれば蟻の足音も聞こえるわ」


 小次郎は出発前、村長の集合にプエラだけが気づいたことを思い出した。


 “なるほど”と小次郎は思った。







毎週金曜日 22時頃公開しています。ブックマーク、ご感想をいただけるとありがたいです。

第8話は、いよいよ賊の頭との対決。しかし、あることが小次郎の辛い過去を思い起こさせる切っ掛けとなります。

第8話もどうぞよろしくお願いします。

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