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第20話 魔導書と従者

 パスコがいつも背負っていた本の装丁は何かの皮を下地に、網目模様の金属で包まれ、中心に宝石が埋め込まれていた。


 プエラは魔導書から五歩ほど離れ、戦々恐々とした様子で言う。


「その青みがかった石、ホーリークリスタルだよなぁ。こんなにでっかくて濁りのない宝石なんて、博物館モノどころか、国の予算レベルだぜ。で、その編み目状の赤い金属はオリハルコンか? しかも細工が超絶精巧で、ドワーフの名工の仕事に見えるな。拾うときに触っちまったけどさ……」


 プエラは指先を震わせ、絶望的な顔をする。


「これ、速攻で魔法使いに渡した方がいいぜ。鍵付き魔導書なんて、呪いの壺だよ! 一般人が持つもんじゃねぇって!」


 小次郎は魔導書を手に取り、まじまじと眺める。プエラの警戒心は理解できるが、やや過剰にも思えた。


「そんなに不味い代物なのか?」

「そりゃそうだろ! もし近くで呪文の単語なんか口走ったら、この村どころか、半径数百里がドカーンだ! くしゃみで変な言葉漏らしただけで、周辺が永遠の氷河期になるとか普通にあるぜ」

「……くしゃみで永遠の氷河期か? それは少々大袈裟ではないか」

「あるんだって! 魔法舐めんなよ! 他にも持ち主以外が触ると呪われる、なんて話もザラだ。鍵付きってだけで、強力な魔力がブンブン、いや、ゴオゴオ漂ってるぞ!」


 小次郎は改めて、パスコの魔導書を見る。淡い光を放つ様子は、他の愛着ある道具が放つ黄色っぽい色とは違い、生き物に近い緑がかかった色合いだ。赤黒くはないので、直接的な殺気は感じられない。


「とにかく、それなりの魔法使いに渡すか、大陸大魔法大学の図書館にぶち込むのが正解だな。爺さんが『サリーなんとか』って人に託せって言ったんなら、さっさと持ってった方がいいぜ!」


 小次郎は魔導書を裏表を眺めた。鍵は固く閉ざされ、開く気配はない。プエラは手を前に突き出し、さらに一歩後ずさる。


「おいおい、気を付けろよ。いきなり爆発するかもしれないぞ。国ひとつ吹っ飛んだなんて噂もあるくらいだからな!」


 段々と、被害の範囲が広がっていく。


「国ひとつは大袈裟だろ。それにそんな危ない物を、先生が俺に託すか?」

「いや、小次郎だから安全なんだよ。ほら、おまえ、魔力ゼロだって言ってただろ?」

「うーん……まあ、そうだが」

「魔力が無けりゃ、爆発もしないかもしれないじゃん! ほら、これ以上、安心安全な運び屋はいないぜ! おまえ、運命力高いぞ!」


 小次郎は褒められているのか馬鹿にされているのか判断を諦めた。


「誰か一人がこの魔導書を運び、もう一人がウェリスを守る。これが最善だ。僕がウェリスの介護をするからさ。だいたい、男子禁制だから小次郎が残っててもお邪魔虫になるだけだろ?」。


 小次郎は先ほど、プエラを褒めたことを撤回したくなった。しかし、そこはぐっと呑み込んで、提案を受け入れる。


「仕方ないな。俺一人で届けてくるか。ウェリスを頼む」。

「もちろん。任せとけって! さあ、早く!」


 小次郎は魔導書を丁寧に風呂敷で包んだが、これが微妙に嵩張る。持ち続けるには大きすぎるし、背負子で運ぶと戦闘の邪魔になる。


“さて、どうしたものか。護衛対象は魔導書一つだが、これを安全に運ぶには馬車か荷物持ちが必要だ”


◇ ◇ ◇


(トントン・・・)


 エスタの診療所の扉を叩く者がいた。


「誰か、佐々木様はいらっしゃいますだべか」


(トントン・・・ドンドン・・・ドンドン)


 返答がないので、その者は次第に強く扉を叩きはじめた。


 小次郎は薪割りを中断して応対に出る。しばらく留守にするため、いつもより多く薪を割っておいたのだ。プエラはお泊りセットを取りに自分の家へ戻っていて、応対できるのは小次郎だけだった。表がうるさく、少し頭に来ている。


 表に出てみると、大柄な男が立っていた。熊の耳を生やしているが顔は人族だった。


「何だ。お前は誰だ。ここは診療所だぞ」


 小次郎は不満を隠さず、その男を誰何した。


「そっ、そのお姿は、佐々木様だべか……! どうかおらを弟子にしてけろ!」


 男は片膝をついて懇願する。


「私は弟子は取らない。帰れ」


 即答であった。相手を名乗らないのが悪いが、それ以前に弟子がらみの面倒事はもう懲り懲りだった。武蔵との勝負も弟子たちがどちらが剣聖に相応しいかと意地の張り合いから始まった。


 男はすがりつき、さらに申し出る。


「おっ、お待ちけろ……! いきなり弟子に、なんて厚かましかっただべな。じゃ、せめて荷物持ちでも……薪割りでも皿洗いでも……」


『荷物持ちでも』という言葉に小次郎は歩みを止めた。


“弟子は懲り懲りだ。だが、あの書を運ぶ任務は急を要する。荷物持ちならば、その代わりに州都まで剣筋を見てやるくらいは、出来なくもない”


「名前は?」

「ベルグラン・オルヴァリスっす。皆からはベルって呼ばれてますだ」


 男は嬉しそうに答えた。小次郎はそれを聞き、その男をよく見た。連れてきた冒険者の一人だと気づき、少し態度を軟化させる。


「なぜ、俺に弟子入りしたいのだ?」

「おら、冒険者やって十年なるけど、近接初段どまりで、強ぐなれねぇんです。だから佐々木様に弟子入りすれば、きっと強ぐなれるんだべなと思って」


 小次郎は目を閉じた。


”弟子入りしただけで強くなれると思う弟子も厄介なんだよな”


 小次郎の弟子で似たような事を言った奴がいた。賀露 正隆。大言壮語が過ぎて、しょっちゅう叱っていた。外では巌流一門を名を出して弱い者いじめをするし、初学者を馬鹿にする。鍛錬は怠けるのに、強くなれないことに文句を言っていた。


”見た目、賀露とは違う性格に見えるが”


「そうだ、冒険者はパーティという組みで行動するだろ? 他の仲間は如何した?」

「おら、臨時雇いだったから、リーダー死んだら追い出されちまって……」


 小次郎は、ベルグランに対してすまない気持ちになり、頭を下げた。


「そうか。それは済まなかった」

「いやいや、佐々木様は何も悪ぐねぇっす。リーダーが名を上げようと、あんなのに突っ込んでいったのが悪いだべ」


”功を焦ったってことか。良くある話だ。しかし弟子は取らない。俺は用心棒をすることにした”


「さっきも言った通り、俺は弟子は取らない。だが、州都まで用事があり、お前が荷物を運んでくれるなら、その間だけ、剣筋を見てやっても良い」

「荷物運びなら、おら一番得意っす!」


”荷物運びが一番か。ちょっと筋くらいは見ておくか”


「盾以外で武器は何を使う?」

「いつも剣を使ってるだ」


 ベルグランが腰から剣を抜く。体つきからすると妙に小さく見える。


「ちょっと、振ってみろ」


 ベルグランは剣を振った。


(ヒュッ、ヒュッ)


 音だけは良いが、体の動かし方はまるでダメだった。腕の力が強いから腕だけで振り回す。剣が体格に対して軽すぎるからなおさらだ。体の動きが硬く、腰の動きがまるでなってない。踏み込みが全く無い。


「これを投げるから、剣で当ててみろ」


 小次郎は木片を軽く投げた。ベルグランは顔を少し突き出し、目で木片を追う。そして右手の剣を大きく振りかぶり、頃合いを見て、思いっきり振った。


「やぁー!」


 咆哮は大きく森の中に轟いた。


(ヒュッ)


 剣先は袈裟切りに移動し、風切り音がざわめく木々の間に響いた。


(ゴツ)


 木片は剣に当たらず、まさかのベルグランの頭に直撃した。ベルグランは目を見開き、手で頭を掻きながら、ぽかんとした表情で立ち尽くす。


「え、えっと……あれ?」


 一方の小次郎は頭を抱えた。


「うーん……」


 痛くないはずだが、思わず頭を抱えたくなるほど、ベルの剣筋のひどさにため息が漏れる。ベルグランは首をかしげ、照れ笑いを浮かべながら剣を握り直す。


「……あはは、ちょっと外れただけっす。次こそ、絶対当てますから!」


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