守護騎士は落ちこぼれ聖女に何故か甘い(後編)
本日2話目の更新です。
先に『守護騎士は落ちこぼれ聖女に何故か甘い(前編)』をお読みください。
(せめて、少しでも気分転換して、次のお祈りの時間までに気持ちを切り替えよう……)
気持ちの落ち込みは、お祈りに強く影響してしまう。次の時間は少しでも聖杯を満たす量を増やしたい。
そう思って、クロヴィス様を伴って神殿の庭に出た。庭には季節の花々が色鮮やかに咲き誇っている。問題は何も解決していないが、それでも美しい花々を眺めていると、少しは心が慰められた。
ふと後ろを振り向くと、クロヴィス様は花ではなく、私を真剣な眼差しで見つめていた。思わず視線を逸らす。
「あの……間違っていたらごめんなさい。最近、クロヴィス様が私のことを以前よりもよく見てくださっているように思えるのですが……」
自意識過剰なようで恥ずかしかったが、でも気になっていることを口にしてみた。
クロヴィス様がすっと私の前に移動してきて言った。
「それは、あなたがますます素晴らしく成長されているからです」
彼はそう言いながら、私の髪を一房手に取り、優しく指を通す。そして、髪の先にキスをするように、そっと唇を触れさせた。
その瞬間、私は息を呑んだ。彼が私の髪にキスをするなんて……あまりにも自然にされて、止める間もなかった。私は思わず頬を赤く染めた。
「クロヴィス様……」
私は、心臓が跳ねるのを感じながら、彼の透き通るような紅い目を見つめた。何度も何度も、彼の目に吸い込まれそうになって――でも、私はその視線に応えられず、そっと視線を外してしまった。
でも、彼は私から視線を逸らさない。彼はゆっくりと私に近づき、そっと耳元で囁いた。
「リリエル様、あなたからは甘い匂いがしますね」
クロヴィス様は、私の髪の香りを嗅ぎながら、穏やかに言った。彼の息が触れ、背筋が震える。心臓が、早鐘のように打ち始めた。
「甘い匂い?」
私は少し戸惑いながら尋ねる。
「はい、まるで花のような、優しい香りがします」
彼は、再び私の耳元でそうささやいた。その言葉に、私はもうどうしていいか分からなかった。
クロヴィス様は優しく微笑みながら、私の手を取った。
「リリエル様」
彼の声は、温かく、力強い。
「あなたは、あなたが思う以上に素晴らしい存在です。あなたを守ること、それが私の誇りであり、幸せです」
その言葉を聞いた瞬間、私は胸がいっぱいになり、思わず目を伏せてしまった。どうしてこんなに、彼の言葉一つ一つが心に響くのだろう?
クロヴィス様の優しさ、甘い言葉、そして――その視線の奥に隠された何か。もしかして、彼も私のことを……?
そう思った瞬間、彼の手が私の頬に触れ、ふわりとした温もりが広がった。
「リリエル様」
呼ばれて再び彼を見上げると、ずっと私を見つめていただろうクロヴィス様と、再び視線が合った。クロヴィス様が私に向ける視線は、熱を帯びていて、どこか甘く絡みつくようなものでーーその眼差しが、深い意味を持っていることを私は感じ取った。
彼が私をどう思っているのか、まだわからない。でも、少なくとも、彼が私を特別に思ってくれていることだけは、確かだと感じていた。
「ーークロヴィスさ」
彼の名前を呼ぼうとしたその時、俄かに神殿が騒がしくなった。
庭園にも神官が駆け込んできた。彼は私たちに向かって声を張り上げた。
「王都の広場で暴動が――!」
クロヴィス様が、すぐに鋭い目つきになった。その切り替えの早さに、改めて彼の騎士としての有能さを思い知る。
「……暴動?」
神官の言葉に、私は息をのんだ。
「どうやら、異端者が関わっているようです……!」
異端者――それは、かつて世界を滅ぼしかけた魔王を崇拝する者たちのこと。
魔王は十数年前に討伐されたはず。なのに、未だにその名を掲げる者たちがいるというの?
クロヴィス様はすぐに立ち上がり、私に向き直る。
「リリエル様、私と共に来ていただけますか?」
「え?」
「暴動が起きているなら、負傷者も出るでしょう。聖女である、あなたの力が必要です」
「……わかりました」
私は迷いながらも、頷いた。
私にできることは少ないかもしれない。それでも、人々の助けになれるなら――。
クロヴィス様は私の手を取り、そっと握りしめる。その手の温もりが、不安を少しだけ和らげてくれた。
「大丈夫です。あなたのことは、私が必ずお守りします」
彼の言葉に、私は小さく頷く。
そして、私たちは神殿を後にした。
ーーこの時は、まだ知らなかった。
この暴動が、私の運命を大きく変えることになるということをーー。
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次話『聖女の甘美な血は守護騎士を狂わせる(前編)』