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番外編 クロヴィスの弱点

魔王リリエルとクロヴィスの日常のイチャイチャです。

 リリエルは机に突っ伏し、頬を染めたまま、ぷるぷると肩を震わせていた。しかし、その視線には怒りよりも羞恥の色が強い。


「……もうっ……まだ昼間なのに……!」


 魔王の執務室の片隅、書類が整然と積まれた広々とした机。本来の用途とは異なる使い方をされているそこで、クロヴィスは整った顔立ちに余裕たっぷりの微笑みを浮かべながら、彼女の指先を優しく撫でる。


「ふふっ、では夜ならいいのですね。今夜が楽しみです」

「ちがっ……!」


 慌てて顔を上げた瞬間、クロヴィスはそっとリリエルの手を取り、その甲に優しく口づける。微かに感じる吐息がくすぐったくて、リリエルはびくっと肩を震わせた。


「でも、中途半端なのもいけませんね。今は今で、気持ちよくなってくださいね」

「〜〜〜っっ!」


 耳元で囁かれる甘い声に、リリエルは顔を覆った。いつもこうだ。執務中だろうが、休憩中だろうが、クロヴィスは隙あらばリリエルを甘やかし、翻弄し、からかい、そしてーー。


(……くっ、悔しいっ!)


 このままでは、クロヴィスの思うつぼだ。いつもやられっぱなしなんて、魔王としての威厳が保てない。リリエルは拳を握りしめ、ある決意を固めた。


(クロヴィスの弱点を見つけて、仕返ししてやる!)



   ◆



 その日から、リリエルはこっそりクロヴィスの弱点を探すべく、彼の部下である魔族の騎士たちに聞き込みを始めた。


「クロヴィス様の弱点? んなもん、あるんすかね?」


 リリエルの問いかけに、魔族の騎士たちは首を傾げる。


「そもそも、クロヴィス様は完璧すぎるっすよ。戦も強ぇし、頭も切れるし……」

「案外、辛いものが苦手とか?」

「いやいや、甘いものの方が苦手かも?」

「実は猫とか?」

「いやいや、あの方がそんな可愛いもん苦手なわけないでしょうが」


 まったく統一性のない意見が飛び交い、リリエルは呆れかけていた。だがそんな中、ひとりの騎士が思い出したように声を上げる。


「あ、でもこの間、侍女がリリエル様のお部屋の模様替えで荷物を廊下に出していた時、なんかちょっと避けてたっすよね」


 リリエルは食いついた。


「えっ? 何を?」

「ええと……あれ、なんだったっけ……」


 別の騎士がぽんっと手を打つ。


「あっ!リリエル様の、白いウサギのぬいぐるみですよ!」

「えっ、私のウサちゃん?」


 リリエルは思わず聞き返した。

 お気に入りの、ふわふわのぬいぐるみ。聖女時代の数少ない私物で、神殿から回収してきた唯一のものだ。神殿にいた頃から、寝室のベッドの上にいつも置いてある。クロヴィスが避けていたなんて、全く気づかなかった。


(まさか、クロヴィス……ウサギが苦手なの!?)



   ◆



 翌日。リリエルは何食わぬ顔で、執務室のソファに白いウサギのぬいぐるみを堂々と置いておいた。

 ちょうど報告をしに来たクロヴィスが、その姿を見つけて足を止める。


「リリエル様、これは……?」

「あ、これ? たまにはこっちの部屋に置いてみようと思ったんだけど……」

「ほう」


 クロヴィスはふと目を細めた。


(……なんか、ちょっと困ってる?)


 リリエルは心の中でほくそ笑んだ。やっぱり苦手なのだろうか。


「クロヴィス、もしかして……ウサギが苦手なの?」


 一瞬の沈黙。

 クロヴィスは微かにため息をつくと、低く囁いた。


「……リリエル様」

「?」

「こんなものを、私の目につくところに置いて……誘惑するおつもりですか?」

「ええっ!?」


 思いがけない言葉に、リリエルは目を見開いた。


「そ、そんなつもりじゃ……!」

「このぬいぐるみは、リリエル様の魔力を多分に溜め込んでいます。この香り……」


 クロヴィスは、まるで美酒を目の前にしたかのように、ぬいぐるみにそっと指を這わせる。


「抗えなくなりそうで、避けていたのですが……」


 舌舐めずりするように囁きながら、彼はぬいぐるみを手に取る。


「リリエル様が自ら差し出してくださったのであれば、遠慮はいらないということですね」

「ちょ、ちょっと待って……」

「ふふ、では参りましょうか」


 リリエルが後ずさる間もなく、クロヴィスの腕が絡みつく。


「ま、待ってってば……!」

「リリエル様は可愛いものがお好きですよね。ですが、本当に可愛いのは……」


 耳元で囁くクロヴィスの声に、リリエルの理性は一気にかき乱される。


「……この私の愛しい兎、でしょう?」


 そして、リリエルはあっさりと寝室に連れ込まれたのだったーー。



   ◆



 翌朝。

 カーテンの隙間から朝日が差し込む寝室。リリエルは柔らかい布団の中で、クロヴィスの腕の中にすっぽりと収まっていた。


「んん……」


 眠気まじりにクロヴィスの背に手を伸ばし、無意識のうちに撫でる。


 するとーー。


「……っ」


 クロヴィスの身体が微かに震えた。

 リリエルの指先は、彼の背中の黒い翼の付け根をなぞっていた。


「んっ……」


 クロヴィスの唇から、甘く低い声が、思わず小さく漏れる。

 リリエルはまだ夢の中にいるのか、気づかぬまま黒い羽毛を撫で続ける。


 クロヴィスは目を細め、微笑を浮かべた。


(ふふっ、私の弱点にピンポイントで触れるなんて……さすがリリエル様ですね)


 無意識にでも、誰も知らない自分の弱点を愛撫する彼女に、愛しさが込み上げる。こうやって、お互いに快感を昂め合うのも悪くない。

 しかし、まだしばらくは、彼女を可愛がることに集中したい。


(当面は、内緒にしておきましょう)


 そう決意しながら、クロヴィスは再び彼女の細い肩を抱き寄せた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


次話『番外編 魔王城の温泉で』

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