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守護騎士は落ちこぼれ聖女に何故か甘い(前編)

本編全十話、完結済みです。

よろしくお願いします。

 朝の光が神殿の窓から差し込み、静かな祈りの時間が始まる。

 私は静かに膝をつき、両手を胸の前で合わせて祈りを捧げた。空気は清らかで、神殿の中に響く鐘の音が心を落ち着ける。

 でも、私の心は正常な空気とは対極的に暗く沈んでいた。今日もまた、聖杯を満たすことができない自分に、何度目かわからないため息をこぼす。


 聖女として、私は神に祈りと魔力を捧げ、その対価として聖杯を聖なる力で満たすことが求められている。でも、私にはその力が足りない。魔力量は十分に足りているはずなのに、何故か聖杯は流し込んだ魔力の割にとてもささやかな分しか溜まっていない。

 祈りの時間の後、またいつものようにサボっていたとか、祈りが足りないとか、魔力を出し惜しみしているとか、心無い言葉が囁かれるのだろう。私に聞こえる陰口として。


 ああ、もうすぐ朝の祈りの時間が終わる。心の中で焦りが芽生える。


「リリエル様」


 その声に、私はふと顔を上げた。声の主は、いつものように優しい目をしたクロヴィス様だ。


 クロヴィス様――彼はかつて王国随一の騎士と呼ばれ、そして今は私の守護騎士だ。


 この国にとって、聖女は魔力の供給源として大事な存在だ。でも、唯一無二というわけではない。

 聖女というのは一つの役職で、神殿で聖杯に魔力を込める仕事をする女性全般を指す。立場上、守護騎士は付くが、大抵は騎士というよりも、神殿の新人が仕事を覚えるついでに聖女の簡単な身の回りの世話をする程度だ。

 それが何故か、私が聖女として召し上げられた時には、クロヴィス様という大物が自ら志願して守護騎士になられたと言う。これは今でも神殿の七不思議の一つと言われている。


 彼は私にとって、とても大切な存在だ。優しくて、頼りになる。何よりも、私に対しての態度が、他の人たちとは全く違う。

 それが、少しだけ――いや、かなり――私をドキドキさせるのだ。


「だいぶお辛そうな顔色になっております。今朝はこのくらいにしておきましょう」


 クロヴィス様が私の前に歩み寄り、心配そうな顔で私を見つめてくる。その視線が、何だか胸を締め付けるような気がして、私は少し息を呑む。


「いえ、大丈夫です。まだ半分も満たせてないし、時間ギリギリまでもう少し頑張ります」


 私は少し顔を背けて、動揺を隠すように言った。

 本音を言えば、体はかなり辛い。人より多いはずの魔力が、朝一番の祈りの時間にも関わらず、既に枯渇しかかっている。焦りのあまり、少し勢いよく流しすぎたのかもしれない。


 クロヴィス様は私の表情を見逃さなかったようで、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


「リリエル様」


 クロヴィス様は私の目をじっと見つめた。


「あなたは決して落ちこぼれなんかじゃない。私が知っている限り、あなたはどんな時でも最善を尽くしている」


 その言葉に、私は驚くと同時に、心が少し軽くなった。

 クロヴィス様は、いつも私を励ましてくれる。私の力不足を指摘せず、逆に私の頑張りを見ていてくれる。


 でも、時々、彼の言葉には少しだけ甘さが混じっているような気がして、私はその度にドキドキしてしまう。もしかして、私のこと……なんて、ありもしない期待を抱いてしまう。


 そんなことを考えていると、クロヴィス様が更に少し歩み寄ってきて、私に手を伸ばした。


「リリエル様」


 その瞬間、魔力が限界を迎えた私の足元がふらつき、思わずよろけた。けれど、すぐにクロヴィス様が私の腕をしっかりと掴んで、引き寄せてくれた。


「気をつけてください」


 彼の温かな声とともに、私の体はしっかりと彼の腕に包まれた。そのぬくもりに、思わず心臓が早鐘のように鳴る。


「ありがとうございます、クロヴィス様……」


 私は恥ずかしさで顔を赤くしながら、感謝の言葉を口にした。


「何もお礼を言う必要はありません。私はあなたの守護騎士ですから」


 クロヴィス様は、優しく私を支えながら微笑んだ。ああ、その微笑みが本当に心に響く。


 彼の優しさは止まることがない。私が何かに迷っていると、彼は自然に手を差し伸べてくれる。気がつくと、いつも彼がそばにいて、私を守ってくれている。

 そして最近、クロヴィス様の目線が以前にも増して熱く感じるようになったのは、私の思い上がりだろうか。彼が私を見つめる視線に、私の目も吸い込まれてしまいそうになる。


 その時、朝の祈りの時間を終える鐘が神殿内に響き渡った。

 ハッと我にかえり、クロヴィス様の腕の中から抜け出した。聖杯を持っていかなくてはならない。

 慌てて祭壇の聖杯を手に取り、胸に抱える。聖杯の中身は悲しいくらいに少ない。それでも、神から賜った貴重な聖なる力だ。


 聖杯を手に、部屋から出て神官の元に向かう。

 聖杯を管理する神官に手渡し、中身を見てわかりやすくチッと舌打ちされ、同じく聖杯を持ってきた聖女たちに陰口を叩かれ……いつもと変わらない惨めな気持ちで、私はその場を後にした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

本日もう一話投稿します。


次話『守護騎士は落ちこぼれ聖女に何故か甘い(後編)』

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