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ASTROFUSION  作者: 赤嶺 龍
6/15

第六話



 《Side-ハル》

 

 狭い通りの両端に、ぎっしり並ぶ店、店、店―――――


 “石ころ市”は今日も相変わらずの盛況だった。

 これから昼近くになれば、人はもっと多くなるだろう。

 朝の太陽は今や完全に熱を帯び始め、容赦なく通りを明るく照らし影を濃くしていた。ゼフェルは猥雑に立ち並ぶ露店や店を眺めて口を開いた。

 「なるほど、確かににぎわってるな…それだけハンター組織が活発という事か。おい、ハンター達の組織は…―」

 言いながら傍らを振り返ると、さっきまでいたはずのハルの姿が消えている。


 「ひゃぁあ~!ドローンの頭部品だあ~っ!!」


 すると少し離れた場所から、弾む様な奇声が聞こえてきた。

 ゼフェルがそちらを振り返ると、上気した頬のハルが拳大のメテオラの部品を持ち、見えない尻尾を盛んに振りながら惚れ惚れとそれを眺めていた。

 店主はタバコをくゆらせながら、商品を自慢し始めた。

 「良い品だろ、昨日入荷したばかりだ。センサー類を作るにはちょうどいい素材だぜ」

 「うわたっか!50万イェン!?」


 (※イェン……ムドラ大陸の共通通貨。一イェン=一円)


 「そりゃそうだろ。このサイズのドローンはなかなか…」

 「おい」

 「ぅごおっ!?」

 悪さをした猫の首根っこを掴む様に、ハルの襟首を引っ張り上げてゼフェルはハルを睨み付けた。ハルはそのはずみで持っていたドローンを落としそうになり、両手の上でバウンドする頭部を落ちないように慌てて何度かお手玉し、最後には何とかギリギリキャッチした。

 「ちょ、おいっ!商品は大事に扱ってくれよっ!!」

 「ご、ごめんなさぁい!は、放してよぉ~!」

 「お前…自分の立場忘れてるだろ」

 ゼフェルは襟を放しつつ厳しく告げた。ハルはそっと頭部を棚に戻し、だらしない笑顔でデヘヘヘと照れ笑いした。

 「いやぁ~珍品を見てつい興奮してしまい~」

 ゼフェルは改めて軒を連ねた市場を眺めた。

 各店の棚には、大小さまざまな部品―――メテオラの体の一部や加工した武器や防具が並び、下の幾つもの木箱の中には箱一杯にメテオラの欠片が山積みされていた。

 「―――…これだけのメテオラを狩るだけのハンター組織は、今この街で幾つぐらい存在するんだ」

 まだ物欲し気に様々な部品を目で物色していたハルは、慌てて振り向いて答えた。

 「へあっ!?あ、あぁ~~と…多分100以上はあるよ。大きい組織は12、3ほどかなぁ。あと中くらいのとか、個人でやってる所とか…」

 「―――…一番大きなハンター組織はどこだ」

 「えっとね、“ギルガメシュ”だよ」

 「ギルガメシュ…構成員は何人だ」

 「あそこは多いよぉ、500人はいるんじゃないかなあ。リーダーていうか、ギルガメシュを立ち上げた人は、“ガイ”っていう40代の男の人。すっごく金にがめついって噂だよ」

 「そうか―――二番目は?」

 「謝肉団(G・O・C)!あたしも子供の頃からお世話になってて…――って、何でこんな事聞くの?……まさか」

 ゼフェルは少し警戒した目付きでハルを見て「何だ」と聞き返した。

 「―――…あなたも…ハンターになりたいんだっ!?」

 ゼフェルを指差しながらハルが言った。その答えを聞いたゼフェルは、力が抜けたように軽く息を吐くと面倒臭げに答えた。

 「まぁそんなところだ。それでそのG・O・Cとやらは、どのくらいの規模の組織なんだ?」

 「あんまり人は多くないけど、実力者ぞろいだよ。入るなら絶対おススメ!皆色々癖がある人ばっかだけど、そう悪い人はいないから」

 目を輝かせて話すハルを、ゼフェルは少し興味深そうに見返した。

 「お前もそこのメンバーという事か?」

 「あぁ~~…ううん。スイやヨシノが組織にいると、しがらみが面倒臭くなるからって独立したんだ。ヘイザさんも強く止めなかったし…」

 「ヘイザ?」

 「団長さん、厳しいけど良い人だよ。ギルガメシュなんて組抜けにすっごく厳しいけど、G・O・Cはそこのところ自由だから」

 「なるほどな…人気があるのはG・O・Cか?」

 「うん。ギルガメシュは一番稼げる所、実力があればだけど。でもあたしはあそこ嫌いだなぁ、なんかギスギスしててシビアな雰囲気だし、G・O・Cを目の敵にしてるし」

 「それはそうだろうな、稼ぎが存在理由の組織なんだろう。そんな奴等にとって、人気も実力もあるその組織はさぞ目障りだろうな」

 「うぅっ…そうなんだ…そこのマサキって奴が、いつもあたしをいじめるの…あいつ大っ嫌い…」

 「そうか―――…まぁ、いじめたくなる気持ちも分からんでもない」

 「ひどいっ!?」

 「ではアタランテとのパイプが太いのも、そのギルガメシュか?」

 「?うん…多分。一番多くアタランテに納品してるのは、ギルガメシュだし…」

 「―――そうか分かった。…では次は、搬入場という所に連れていけ」

 「うぅ~~はい…」

 

 

 《Side-スイ⑤》


 スイは他の団員達に押し切られる形で、ジープの後部座席に乗って窓の外を眺めていた。

 今は頭痛やめまいも治まり、一応港でシャワーを借りてさっと浴びれたのですっきりした気分を味わっている。

 ジープは時々激しく揺れながらアタランテへの道を辿っていた。スイは車内のお喋りを何とはなしに聞きながら、W・PCの時計表示を見た。

 (10時22分か…ハルとの待ち合わせに間に合うかな…)

 スイはそう思いながら、ホルダーの蒼龍を抜いて改めて眺めた。

 銃身の右側面に抉られたような深い亀裂が入ってしまっている。スイはその部分を撫でながら、ハルに対し申し訳ない気持ちになっていた。

 (―――…ハル、ショックを受けるだろうな…ほんと自分が情けない。…これじゃあ午後の狩りは無しだな、ハルもお腹が痛いって言ってたし、私も疲れたから…)

 そして済まない気持ちのまま蒼龍をホルダーに戻すと、スイはまた窓の外の流れる景色に目をやった。

 目の前では、陽の光に反射した光の粒子がナイアード河の川面でキラキラと踊っている。車内はクーラーが効いて涼しいが、きっと外はうだる様に暑いだろう。

 「ノリオ副隊長、また青筋立ててキレまくるだろうなぁ」

 「まあ船の修理代、何とか4分の1まで負けたから大丈夫じゃね?」

 助手席のキイチが笑いながら言って、運転中のタケシがそれに答えた。

 「いやでもさぁ…」

 確かに、ノリオの経理への異常なまでの執着ぶりから見て今回の修理代の負担は災厄そのものだろう。

 (…また私が怒られるのか…)

 スイが幾分うんざりした気分で川縁に目をやっていた―――その時。


 河岸に下半身を河に浸して、うつ伏せで倒れている人の姿がスイの視界をよぎった。


 「――ーッ!?ちょっとタケシさんっ、車止めてっ!!」

 スイはジープを運転している団員に告げた。

 「何だよ、メテオラか!?」

 「違うっ、人が河岸に倒れてた!」

 車が止まると、スイは扉を開けて河へ向かって駆け出した。

 外は案の定すでに暑く、スイは土手を下りながら長く伸びた草をかき分け、先程人がいたであろう辺りを目指した。

 (…確か―――この辺り…)

 石ころだらけの河岸をあちこち見回しながら辿っていくと、スイの視界に倒れている人間の姿が飛び込んできた。

 「…ッ!!―――おいっ!」

 スイはピクリとも動かない人物に駆け寄った。


 倒れていたのは若い男だった。


 着ているものはズタズタで、ほぼ半裸といってもいいような状態で倒れている。スイは男の状態を確かめるために傍に屈み込んだ。ぐしゃぐしゃの鳥の巣のような濃い金髪が顔の半分を覆ってしまい、顔が良く見えない。スイは男の首筋に手を当てた。

 (――――…脈はある)

 スイはどこか出血していないか男の全身を見回したが、どうやらその心配は無さそうだった。

 「おいっ!!あんた大丈夫かっ!?なぁ…おいっ!!」

 スイは男の体を乱暴に揺すりながら声を掛けた。

 「なぁっお…―」

 

 「―――…がはっ…!!…ッ!!げほっ!がふぁ…っ!!」


 男は激しく咳き込んで水を吐き出し続けると、やがて意識を取り戻した。

 「―――――…っ…?」

 男は訳が分からない様子で顔を上げると、傍らのスイを見上げた。

 「…大丈夫か?あんた、河岸に倒れてたんだ」

 「……河…?」

 するとハッとなって自分のずぶ濡れになった下半身を見ると、男は起き上がろうと上体を起こした。

 「大丈夫か?」

 「あっ―――…はい、…ぶ…です…」

 男はどこか怯えたように、ボソボソと聞き取りずらい声で答えた。

 「おーいスイ!そいつか~?」

 その時、追いついた団員達がやって来た。

 「あの人達は私の仲間だ、大丈夫だから。――うん、意識が戻ったみたい!」

 そう報告するスイの隣で男は自らの両手を凝視し、その両手がわなわなと震え出した。


 「何…で――」


 男が低く呟いたのを、スイは聞きとがめて振り返った。

 「?どうした、どこか具合が悪いとか?」

 男はビクリと体を震えせると、慌てたようにスイを見た。

 「あっ、いえっな、何でも。そ、その―――…ここ…」

 「あぁ本当だ、人だなこりゃ」

 「やだ、服がボロボロじゃない」

 タケシとサワ、他の団員達がやって来て男を取り囲む形になった。

 「こんな所でどうしたんだ?メテオラにでもやられたか、兄ちゃん」

 男は集まった周囲の人間に注目され、気圧された様子で狼狽えながらそれでも何とか答えた。

 「あ―――…はい。その…道中で、メテオラに襲われて…」

 「お兄さんどこの人?見た所…もしかして難民?」

 「…あ、はいそ、そうです。西の方から逃げてきて…」

 男は会話の間中終始うつむいたままで、その顔や表情など一切分からない。

 「家族や仲間は?―――…まさか、たった一人なの?」

 団員の問いに、男は一瞬言い淀んだ。

 「か、家族は―――…い、いません」

 「仲間も?」

 「……はい」

 団員達は顔を見合わせた。

 スイはそんな男の様子を見て、自分の幼い頃の境遇を思い出した。

 母や弟、祖母を亡くし―――町を離れ、そこから何とか生きながらえてきた思い出したくもない日々を。スイは目の前の男とその頃の自分の姿が重なるように感じた。

 その時足音が聞こえてスイが振り返ると、ミソノが草むらをかき分けやって来た。

 「どう?その人の体調は」

 「体調は特に異常はないです。でも――…」

 スイがそう言いながら男を振り返り、その時初めて真正面から男とスイの目が合った。男の目は相変わらず鳥の巣のような髪の毛に隠れて見えないが、それ以外に見える目鼻立ちは整っているように見えた。

 「あんたは…身寄りがないって事か?」

 男はそれに答えず、呆けたようにスイを見つめている。

 「……おい?」

 「ぇあっ!?ご、ごめん何て!?」

 「身寄りがないのかって聞いた」

 「あっ!―――…っとそう、です…」

 男は歯切れ悪く答えた。

 「…家族もいないし―――…仲間も、頼る所も無くて…それで、一応アタランテに行けば――って…」

 スイはミソノを振り返った。

 「――…どうしましょう、ミソノさん」

 ミソノが表情の薄い顔で男を見下ろすと、男は気まずそうに顔を逸らして俯いた。

 「ん~~…そのなりじゃあ、身の回りの物も持ってないんじゃない?」

 男はミソノの言葉にハッとなると、辺りを慌てて見回して何かを探し始め―――やがて肩を落として呟いた。

 「はい…荷物が全部――…無いです」

 スイは哀れを誘う男のその姿に同情した。

 「じゃ、しばらくうちの所の寮にいればいいよ。事情を話せばヘイザさんも許可してくれるはずだから」

 信じられないといった様子で、男はミソノを見上げた。

 「い…――いいんですか…?俺、どこの誰とも…」

 「あんたは運が良いよ、兄ちゃん。これがギルガメシュなら、臓器売買のドナーにでもされてたぜ」

 「あぁ~あいつ等なら絶対そうすっぜ、きっとな」

 タケシとキイチはそう言って笑い合った。

 「私達は皆、あんたと似たような境遇だったんだ。だから、いいんだよ」

 スイがそう言うと男は一瞬フリーズし、我に返ると勢い良く平伏して叫んだ。

 「あ、ありがとうございますっ!俺、雑用でも何でもします!よっ、よろしくお願いしますっ!!」

 団員達は笑いながら、男のその様子を温かく見守った。

 「またノリオ副隊長がキレるぜ」

 「卒倒すんな」

 タケシとキイチは、目配せし合いながらニヤニヤと話した。



 「なん゛……っでそうなるんですかぁああ~~っっ!!!」


 ノリオは絶叫した。

 「僕言いましたよねぇっ!?くれぐれも船に損害出さないようにって、言いましたよねぇええっっ!!?」

 「いや~まさか融合体が出るなんてさぁ。びっくりだね」

 ミソノは頭をボリボリ掻きながら平然と答えた。

 「それでなくたって、うちの部隊は破壊損害額が他の部隊より多いんですよおっ!?その主原因があなたっ!!ミソノ隊長、あなたなんですっっ!!!」

 「うーん…そうだっけ」

 「この前は電柱振り回して、依頼者の自宅にメテオラ吹っ飛ばして破壊っ!!その前は我々の車両をメテオラに投げつけて破壊ぃっ!!どんっっだけ破壊すれば気が済むんですかぁああ~~~~~っっ!!!」

 ノリオは髪をわしゃわしゃと掻き乱して、ぬぉわあ~~~っっっ!!!と絶叫した。

 スイはその様子を遠巻きに眺めながら、御愁傷様…と心の中で手を合わせた。

 「―――じゃあ私は、ハルと約束あるから行きます」

 「ん、報酬はいつも通り、ミソノ隊長から連絡行くと思うから」

 サワは鷹揚に笑って答えた。

 「はい、じゃあ」

 「ご苦労さん、スイ」

 他の団員達とも挨拶を交わし、スイはバンカーを出ようとした。


 「スイっ!!」


 呼ばれて振り返ると、G・O・C副団長の“ソウジ”がスイに向かって手を振っていた。その傍らにはナイアード河で助けた男が着替えた服を着て立っていた。

 「ソウジさん、お久しぶりです」

 スイは丁寧に挨拶をした。

 ソウジはいかつい風貌をした団長のヘイザとは対照的に、知的で温厚そうな人物だった。

 年齢は51歳。太いフレームの眼鏡に濃いあごひげ、彫りの深い顔立ちに知性を感じる穏やかだが厳しさも持つ灰緑色の瞳。一見すると学者とさえ思える、縞シャツにパンツに革靴姿といったソウジだがその実、団長と双璧を成して今日のC・O・Gを支えて来た、かなりの実力者であった。

 ソウジは目を細めてスイを見つめ、深いテノールの声で話した。

 「話は聞いたよ、スイ。大活躍だったらしいな」

 スイは、団長とはまた違った緊張を覚えながら答えた。

 「いえ、ミソノさんが助けてくれたから、何とかなりました」

 「若い者の成長は嬉しいな。ヘイザも喜ぶだろう」

 ソウジはそう言って穏やかに笑った。スイはまるで子供の様に褒められたことが嬉しくて、唇を小さくかんで緩む口元を押さえた。

 スイにとってソウジはーーーー“理想の父親”だった。

 いつも穏やかで温かく、でもいざとなったら厳しくて頼りがいがある。小さな頃から親のいなかった自分には、いつでも眩しすぎるくらいの存在だった。

 ソウジは傍らの男を振り返った。

 「彼の事情を聞いて、私の独断で寮に泊まる事を許可した。聞けば戦闘経験もあるらしいから、きっとここの仕事もすぐにこなせるようになるはずだ」

 スイは意外な思いで男を見た。

 「…そうなんだ。えっと…“アキト”だったよな」

 「うん。ーーー…あの、お礼をまだ言えてなかった。スイ…ありがとう、助けてくれて」

 スイはこういう場面が苦手なので、慌てて手を振りながら気まずく礼を受け取った。

 「うん、役に立てたなら良かったよ」

 「それで…スイに頼みたいんだが、アキトはまだこの辺りの事に詳しくない。だから時間があるなら、案内してやってくれないか?実は日用品なんかも買わせてあげたいんだ」

 「――…これからハルとクジラ亭で合流するんです。その間なら…」

 「そうか、なら昼食も一緒にとればいい。資金はアキトに渡したから」

 スイはソウジにうなずくと、改めてアキトを見た。

 「―――じゃあ、行こうか」


 「でかい壁だな…」

 アキトが半分呆れた様に呟いた。

 「アタランテの兵装防御壁“アイギス”だ。壁型の軍事要塞って所だな」

 二人はクジラ亭を目指し、左手にアイギスを眺めながら市場通りへ向かい歩いていた。道すがらこの街のハンターギルドの勢力図の解説や、石ころ市をのぞいては説明などもした。

 アキトは物珍しそうにあちこちキョロキョロして、その姿はまさに田舎から出て来た“ザ・おのぼりさん”そのものだった。

 「アイギスの兵器が発射された事ってあるの?」

 「あぁ…2、30年くらい前はあったらしいけど…街もこんなに発展したから、今はどうかな」

 アキトは遠くを眺める様にしてアイギスを見た。

 「…あの壁の内側の人達は、どんな暮らしをしてるんだろうな…」

 「あれが完成して40年くらい、内側にメテオラが侵入したことは無いっていうから、きっとここなんかよりずっと発展してるかもな」

 「スイは…――あの中へは?」

 スイは肩をすくめて答えた。

 「ある訳ないよ。あそこは正統なアタランテ人しか、出入り出来ないようになってるんだから」

 「でも…」

 アキトは辺りを見回しながら続けた。

 「…ここもかなりの人口だな。俺がいた所とは全く規模が違うよ」

 「やっぱ、ハンターギルドが多くあるってのが大きいんだろうな。何せ最大の取引先が壁の中にあるんだから」

 「持ちつ持たれつ…ってこと?」

 「その通り」

 アキトは初めはおどおどして、人見知りな性質なのかとスイは思っていた。しかし打ち解けてみるととても話しやすく、何より男に良くありがちな粗暴で俺様的な所がまるでない。

 話していると不思議と心が落ち着くというか―――何だか“良く出来たお兄さん”といる様な気分になる。

 「…アキトってさ」

 アキトは振り返ってスイを見た。身長がアキトの方が頭一つ半上なので見上げる形になりながら、スイは何気なくたずねた。

 「弟とか妹さんがいた?」

 スイのその言葉に、アキトは突然歩みを止めた。少し追い抜いてしまってから、スイも歩みを止めてアキトを振り返った。

 「―――ー…何で」

 アキトは俯きながら、感情の抜け落ちた声で呟いた。スイは兄弟がいたかという質問が、アキトになぜそんなにダメージを与えたのか戸惑った。

 「…いや、何かアキトって“良いお兄さん”みたいな雰囲気っていうか…」


 「俺は良い兄貴なんかじゃない」


 アキトはスイの言葉を遮り、強い口調で否定した。

 スイがふと見ると、アキトは拳を強く握りしめそれは小刻みに震えている。それを見たスイは、自分が何かまずい事を言ってしまったのだと、とっさに後悔した。

 「…ごめん。何か、嫌な事を思い出させたみたいだな…」

 アキトはハッと我に返ると、慌ててスイに弁解した。

 「い、いやっ、スイが悪いんじゃないんだ!俺の方こそその、ご、ごめん―――…」

 二人の間に気まずい沈黙が降りた。

 「―――アキトさ、服とか買わないのか?」

 スイが話題を変えると、ポケットから紙を取り出しアキトは慌てた様に答えた。

 「あ、ああ、ついでに日用品とかあればいいけど――…」

 「じゃあマーケットの位置を教えとくよ。昼飯食べた後、そこへ行けば一通りのものは手に入るから」

 「そ…それはほんと助かるよ」

 何となく二人ともホッとしながら歩き出した。

 「とりあえず今は、クジラ亭で腹ごしらえだな」

 スイは気を取り直して宣言した。



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