第五話
《Side-スイ》
「皆っっ!!!大型が1体下からやって来る!!衝撃にっ…」
備えろ、と団員達に言い切らない内に下から凄まじい突き上げを感じた瞬間、スイの体は―――“宙”を舞っていた。
…ッドッッッゴォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛―――ーーーッッッ!!!
一瞬、時間が止まったように感じたスイは見た。
自分と同じ様に投げ出された人々と、船底に大きな穴を開けた船がそのまま船底を上にしながら海面に衝突する様と―――巨大な刃を天に突き上げる様にして海面からその巨体をのぞかせた“大型メテオラ”の姿を。
次の瞬間、スイの体は派手な水飛沫の音を立てて海面に衝突し海中に没した。
スイの意識がアミターバに潜入して感じたのは、最前仕留めたものと同じ中型メテオラが十数体以上集合し、一つの“大きな意識の光”となっている姿だった。
(こいつら…――“融合体”っ!!!)
ッドゴォオオオン゛ン゛ン゛ッッッ!!!
感じた巨大な音と衝撃にスイが振り返ると、融合体と化した大型メテオラが海中に没し素早く体を翻して次の攻撃目標―――ミソノ達が乗る船へと突進し始めていた。
「――ーッ!!!」
スイは思うより先に広げた右手を突き出し、融合体に対し“ハッキング”を行使した。スイの意識はアミターバで、大きな光と化したメテオラをその瞬間支配しようとした
『ッッ!!!グォア゛ア゛…ッッ!!!』
ミソノ達の船へと突進しようとしていた融合体の目が、一瞬碧色に変化した。がすぐに元に戻ると、融合体は海中をめちゃくちゃに暴れながら泳ぎ回った。
「ぐぅ…っ!!」
スイは突き刺すような頭痛に苛まれるのを無視し、何とか融合体の動きを止めようとした。しかしアミターバの光は巨大な力を発しながらスイに激しく抵抗し続け、その内スイは酸素が切れ始めて息苦しくなって溺れそうになった。
(駄目だっ…このままじゃ―…)
息が続かないと判断したスイは支配を止めて海上に上がろうとした、その時。
融合体が不意に体を反転させ―――スイと融合体の“目”が合った。
「――…ッ!!!」
背中を戦慄が駆け上がったスイは、すぐさま渾身の力で水を掻いて海の上を目指した。
必死で海上を目指すスイの斜め後方から、黒い巨体が急速に近づいて来る。スイがそれを見て腰に下げた自らの愛刀“紫粋”を抜こうとした、次の瞬間。
勢いそのままに、猛スピードで突進する融合体の額の“凶刃”がスイの体めがけ衝突した。
ッッギギャア゛ン゛ン゛ン゛ッッッ!!!
「ぐぼぁ゛あ゛っっ!!!」
あまりの衝撃に肺の中の空気を全て吐き出しながら、弾丸のように為す術もなくスイは海中を突き抜け、そのまま海上から上空30メートルへと一瞬で投げ飛ばされた。
「かは…っ!!!」
融合体の攻撃は、紫粋を盾にすることで間一髪防いだ。
しかし紫粋に添えた左腕が激しく痛み、鞘から抜きかけた紫粋を持つ右手も衝撃を相殺出来ず痺れてしまった。思わず力が抜けそうになるのをなんとか持ちこたえつつ、スイは震える手に力を込め刀身を鞘に戻した。
下に目をやると融合体は海下に体を潜らせていた。放物線を描いて飛ぶスイは、流れる景色の中その光景を見て戦慄が走った。
「な゛っ―…!!?」
融合体はスイの動きに合わせる様に海中を移動し、落下地点へと突き進んでいた。
(あいつ、落下地点で私をっ…!!)
落下地点で攻撃される自分を予測し、スイは右手を伸ばして腰に装着している可変型拳銃“蒼龍”を掴もうとした。
その短い間にも、海面はぐんぐんと近づいて来る。
スイは痺れた手で中々ホルダーから蒼龍が抜けない事に焦りつつ、自らの能力で融合体の位置を掴んだ。ホルダーから蒼龍を引き抜いた、その瞬間。
…ッッッゴバァアアッッッ!!!
海面から飛び出した融合体が額の刃ではなく、その巨大な口でスイを噛み砕こうと攻撃して来た。
その口の内側にはサメの様に尖ったメテオロイド製の“牙”がぎっしりと何列も生えそろい、スイ一人の体などやすやすと丸呑み出来るほどの“地獄の釜”が、すぐそこに待ち構えていた。
(くそっっ!!間に合わな…―)
銃身を構え蒼龍を可変させる時間は無く、迫りくる牙の洞穴へとスイが飲み込まれそうになった。
[よく時間を稼いでくれた、スイ]
その時―――イヤーマイクから至極落ち着いたミソノの声がスイの耳に届いた。
ッドゥオルルルルルルルルルルルルルルルッッッ!!!
次の瞬間、毎分数百発の超合金メテオロイド弾の豪雨が、融合体の“右目”めがけ発射された。
『ギギャアアアアア――――ーッッッ!!!』
装甲車の外壁さえ貫通する威力の8.22ミリ弾が融合体の鱗を貫通し、その体を次々とうがった。右目を損傷した融合体は空中で体をよじり、瞬間スイから融合体の口が逸れた。
「蒼龍―――…“フルバーストモード”っ!!!」
スイが音声で命令すると蒼龍の形態が青い光を放ちながら変形し始め、光を失った時―――回り大きくなった蒼い大口型の拳銃へと変化していた。
スイは両手に力を込めてグリップを握り、照準を定め右目をさらしている融合体めがけトリガーを引いた。
蒼龍の銃口が青白い光を宿した刹那。
コォッ…ーーッッドゴォオオオオッッッ!!!
鮮やかな青いレーザー砲が発射され、一直線の光線を描いて融合体の右目を至近距離から貫いた。
『…ギャ…ッッッ!!!』
右目もろとも、融合体の頭部のほとんどを蒼龍の光線は焼き尽くした。
そこへ追い打ちをかける様に、ミソノのガトリング砲が融合体の胴体めがけ発射された。凄まじい発射音と共に、融合体の胴体に次々と穴が穿たれ肉片が飛び散っていく。
(フルバーストはあと一発――…!!)
スイは落下しながら照準を融合体の胴体に合わせ、気にトリガーを引いた。
―――ッドゴォオオオオッッッ!!!
眩い閃光が融合体を一瞬照らし出し、巨大な胴体を灼熱で融解させながら蒼龍の青いエネルギー波が融合体を一直線に貫通した。
融合体の体は尾を残してほぼバラバラになり、海中へと水飛沫を上げて次々と落下していく。スイの身体もそれに続くと派手な音を立てて海中に没した。
スイは蒼龍を落とさないように力を込めてそれを両手で掴みつつ、融合体がどうなったかを確認した。光が降り注ぐ真っ青な海中に、様々な大きさの肉片が散乱し海中を漂っている。
(…良かった、これならもう―ー…)
そう思い、安堵しかけたスイが視線を下の方へ向けた。
「――…ッ!!!」
そこには融合体の尾がゆっくりと海中を落下しながら、なぜか僅かな“光”を放っていた。光は急激にその輝度を増し次の瞬間、3つの“塊”へと分裂した。
分裂した塊―――3体の中型メテオラはそれぞれに旋回すると、スイを標的と定め一斉に急浮上してきた。スイはとっさにハッキングを発動しようと、意識をアミターバへと潜行させた。
(…ッ!!?ぐあ゛…っ!!)
その途端、脳に衝撃が走って視界ごと意識がぶれた。そのせいでスイは息を吐き出してしまい、呼吸が苦しくなり海面を目指そうとしたが、重度のめまいで視界が回転し自分がどこにいるのか、どっちが上なのか現在位置を完全に見失ってしまった。
(まずい…っ!能力の使い過ぎで―…)
――…ゴォオオッ…!!!
その時水中に響く轟音が聞こえ、メテオラが自分に向かい弾丸の如く突進して来るのをスイは察知した。
「ッ!?――…ッ!!!」
スイは考えるより先に、照準も定めず前方に向け蒼龍を発射した。
青い光が短く発射され、スイの体がその反動で後ろへ吹き飛んだ。その最前までスイがいた空間を、一瞬後メテオラが猛スピードで切り裂くように通過していった。
(…っ…!!何とか…)
スイが言い切らないうちに、次のメテオラが突進してきたのが近づく水中音で分かった。
(ッ!!くそっ―…!!)
スイは素早く両腕をクロスにし、頭と胸部を庇い体を丸めた。
ゴッ…―ッガキャアアンンンッッッ!!!
(ーーッ!!蒼…っ)
メテオラの攻撃が蒼龍に当たり、そのままメテオラの凶刃によってスイのヘッドギアが引き裂かれ、その下の皮膚を削り取っていった。
「――…ッ!!」
痛みで思わず息を吐きそうになるのをスイはぐっと堪えた。体は衝撃でさらに流され、スイの頭から出た血が海中に尾を引いた。めまいが少しおさまって海に差し込んだ光でどちらが海面か判断すると、とにかく酸素が欲しいスイは必死で両手をかいて上を目指した。
(くそっ!!蒼龍が…っ!!)
右手で握った蒼龍は銃身に深い亀裂を開けられ、最早使い物にならなくなった。それでも海中に捨てていく事など出来ず、スイは右手に力を込めながら蒼龍ごと水をかいた。
その後ろから、聞きたくもない轟音が再び迫って来た。
水面まであと数メートル―――ースイが振り向くと、メテオラの刃が矢のように自分を狙い肉薄してきた。
(刺される…っ!!)
スイが自らの死を覚悟した、その時。
ガ…ッッッ!!!
スイへと突進していたメテオラに、側面から現れた“黒い塊”が衝突した。
『ギギャッ…!!』
攻撃しようとしたメテオラは不意打ちを食らい、横っ腹に深い裂傷を負って体勢を崩した。
その隙をぬって黒い塊―――スイが最後に仕留めるために、融合体に襲われる前にハッキングで支配していたはずの中型メテオラが、スイの傍らにやって来た。
(…ッ!?――ー…何で…)
スイは支配は解かなかったが、何かを命令した覚えは無かった。メテオラは蛍光色の碧の瞳で動揺するスイをじっと見つめた。
スイは我に返り慌てて蒼龍を見つめると、なんとか意識を集中させアミターバへと潜行した。途端に頭がズンッと重く痛んで視界がぐらつくがそれを無視して、スイは自分の手の中の“光”へ向かい呼びかけた。
(蒼龍…―――フルバーストモード、解除)
すると傷付いた蒼龍が光を発し、カタカタと歪みながら形を変えながら元の小型の銃へと戻った。それを素早くホルスターにしまい、スイは変わりに紫粋を鞘から抜いた。
敵のメテオラ3体はスイの周りを回遊しながらジリジリと包囲網を狭め、徐々に近づいてきていた。
(――…よし、私を海面まで連れて行ってくれ)
スイは命令を下すと同時にメテオラの頭頂部辺りに掴まった。メテオラは尾びれを振って、傷付いた体ながら力強く海面へと泳ぎだした。
敵のメテオラがそれを察知し、一気にスイめがけ突進してきた。
海面を目指すメテオラに掴まりながらスイは後ろを振り返った。敵の3体のうち、スイが支配したメテオラによって深い傷を負った1体が遅れ、2体がスイへ向かい近づいて来る。
スイが目を細め意識をアミターバへ潜行し掌の中で輝く紫粋に語りかけると、紫粋はそれに応える様に刀身を光らせ始めた。
(紫粋――――…刃月波っっっ!!!)
心の中で叫ぶと同時に、スイは海下に向け紫粋を振り下ろした。
フォ…――ォオオオッッッ!!!
刀身から放たれた三日月型のエネルギー波が、2体のメテオラに向かって放出された。1体は素早く攻撃を避けたが、もう1体は避け切れず下腹部を切断された。
『ギッ…!』
スイはその間に、掴まったメテオラと共に海面に飛び出す様に顔を出し深く呼吸した。
「はぁあ…っ!!」
スイのメテオラは体を反転させて海中に潜り、下から追撃してくる3体を迎撃しようとした。
「―――…っ…!!」
スイは頭が割れそうな痛みとめまいを無視しその瞬間、ハッキングを3体に向け発動させた。
メテオラ3体の瞳の色が一瞬碧色へと変化し、動きが乱れた。その隙をついてスイのメテオラが最前横腹に傷を負わせたメテオラに襲い掛かり、深々とその刃をエラから胴体へと突き刺した。
横腹を突き破って刃を抜いたスイのメテオラは次の獲物を標的にしようと、弧を描いて旋回しようとした次の瞬間。
『ガギャ…ッ!!!』
スイのメテオラは挟み撃ちにあい、2体のメテオラによって両側面から刃で串刺しにされてしまった。
海面にいたスイはひどいめまいと頭痛で思わず紫粋を取り落しそうになり、とにかく必死で右手に力を込めながら手近に漂っていた船の残骸になんとか掴まった。スイは紫水を残骸の上に引き上げそこに掴まると、それ以上何も出来ない状態になってしまった。
「ぐっ…うぅ――…っぁああ…っ!!」
スイは蒼白な顔色で、グルグルと回転し続ける視界とつんざく様な強烈な頭痛に苛まれ呻いた。その直下から、スイの支配したメテオラを葬った2体が急速にスイに近づいて来る。
(あ…っ、頭が――…!!)
スイは力の使い過ぎの為なのか、その時異様な感覚に苛まれていた。
意識がアミターバから出ることが出来ず、集合意識全体に飲み込まれて自分という存在が消えてしまったような――…
スイの意識がアミターバじゅうを、ニューロンを錯綜する電気信号の様にバーストしながら高速で駆け巡り、無数のメテオラの記憶や情報をでたらめに辿っていく。
「ぅが――…ぁあああ…っ!!!」
どこか地中を這いずり回り――――メテオラ同士で晶樹を喰らいあい――――集合離散を繰り返し―――植物を生物を…人間を取り込み―――ー強大化し―――ー進化し――――ーーーーーーーーーーーーーーーー………
都市が燃え盛る炎で赤く染まり、地鳴りのような轟音が辺りを揺るがしている。
『ーーッ!!…そんな―ー…』
…ゴォオオ――…ォオオオオオオオオオオ――ーッッッ!!!
一面炎に包まれた、地獄のような光景の最中を大小様々なメテオラの大群がビルをなぎ倒し、逃げ惑う人々を蹂躙しながら進軍している。
呆然と空中に立ち尽くしたスイは、突然振り向いた群れの中のメテオラと目が合った。
『…ッ!!?うっ…――…ぅわああああああああっっ!!!』
スイの意識は刹那、進軍する群れにいたその巨大なメテオラの“瞳の中”へと一気に吸い込まれた。
見た事も無い衛星が空に浮かんでいる―――ー…
『…なっ、ここは…?』
月が二つ、重なるように浮かぶ緑色の空の下―――ー2体の山をも優に超える大きさの“異形”が、互いにかなりの距離を取りながら睨み合っていた。
一方は全身黒い異形――――まるでこの世界の全ての邪悪なものが集合して形を成したような、見ているだけで怖気をふるう様な凶悪な姿をしている。
もう一方は全身光り輝くような真っ白な異形――――過剰な装飾で全身を覆いながら、まるで神か何かの如きの神々しさを誇っている。
2体のいる場所は、見渡す限り全てが破壊し尽くされ瓦礫だけが寒々しく存在するばかりで、生命の気配がどこにも見当たらない。
2体の異形は、お互いがタイミングを計るように距離を保ちながら沈黙していた―――ーが不意に、タイミングを計ったように突然勢いをつけて2体は駆け出した。
『『ヴォオオオオオオオオオ―――――――ッッッ!!!』』
2体はお互い天地を揺るがすほどの咆哮を上げながら走り続け、あいまみえる相手を駆逐せんとやがて地を轟かして大衝突した。
その瞬間、スイの意識が真っ白に染まった。
「うぁああああああああ―――――っっっ!!!」
スイが叫んだ瞬間、周辺にいた全てのメテオラの鼓動が大きく一つ脈打った。
ドッー…クンンン…ッッッ!!!
今まさにスイを攻撃せんとしていた2体のメテオラはその瞬間、スイが感じる激痛やめまいや感情スイの魂の全てと強制的に“同化”し、眼を真っ白にして痙攣しながら意識を失った。
時々痙攣しながら海中を漂う2体のメテオラの体が頭部から“白化”し始め、端からボロボロと体組織が崩壊して行く。
意識を失ったスイは船の残骸の上に紫粋を残したまま力を失い、その体がずるりと海中へ引きずり込まれた。
スイの体がゆっくりと海中を降下していく。
光に満ちた海面が遠のいていき、その下には深さの知れない青い闇が広がっている―――ー…
――――――ー…ドォオ…ンンッッッ!!!
白い水泡の柱から、海中に飛び込んだミソノがスイの元へと水をかいて泳いで来た。ミソノはスイの脇から腕を差し入れ、海面へ向かい力強く泳ぎ出した。その途中に視線を崩壊しつつある2体のメテオラに向けると、2体は全身をほとんど白化させもはや原形を留めていなかった。
ミソノは海面から顔を出し大きく息を吸うと、スイが仰向けで上半身を海上へ出している事を確認した。エンジン音が聞こえてくると、無事だった方の漁船が近づきミソノとスイの傍に横付された。
「スイの刀が残骸の上にあるから、見つけて回収してあげて」
[分かりました!]
二人は船上に引き上げられ、紫粋を発見した団員によって刀は無事回収された。ミソノは仰向けで意識を失ったままのスイの呼吸を確かめ、次に首筋から脈を計った。
「団長、どうですか?」
「心音はあるけど呼吸をしてない、人工呼吸する」
「は、はい!!」
ミソノはスイの顎を上向けて気道を確保すると、鼻を塞いでスイに人工呼吸を施した。それを何度か繰り返したその時。
「―――…ごふぁっ!!ぇえ゛っ、おえ゛ぇ…っ!!」
スイが意識を取り戻し、横向きになり飲み込んでしまった海水を吐きだした。しばらく咳き込んでいたスイは、ここはどこだという様に辺りを見回した。
「―――…ッ!!?メテオラはっ!?あと2体…っ」
スイは無意識の内に鞘にしまっている紫粋を手で探り、それが無いことに気付いた。
「スイ落ち着いて。もうメテオラはいない、白化して砕け散ってた」
「ミソノさん、紫粋はっ!?」
「スイ、ほらちゃんと回収したから、ひとまず落ち着けって」
ミソノの部下である第参部隊隊員のタケシが、紫粋をスイに向かって差し出しながらなだめた。
スイは紫粋を受け取った途端に全身が安堵に包まれるとともに、それまで気付かなかった頭の傷の痛みを感じて顔をしかめた。
「いってぇ…っ!」
「よくそれだけの傷で済んだね。―――サワ、スイの手当てをしてあげて」
「はい」
「ミソノさん…融合体に激突された人達は?」
「うん、全員無事。そっちの方を優先してスイのサポートが遅れた、申し訳ない」
「いえ…」
治療を受けていると、スイの脳裡に先程までの様々な出来事がよぎった。
なぜあのメテオラは、命令も無しに自分を助けてくれたのか…。能力を使い過ぎた時に見た、あのでたらめな記憶…まるで自分自身がメテオラにでもなったような―――…。
(それに…あれはどこの惑星の記憶だったんだ?っていうか…本物の記憶なのか?一体どれくらい前の―――…)
「はい、出来たよスイ」
「ありがとう、サワさん」
「今日は本当によく頑張ってくれたね、スイ。ありがとう」
「そうだよ!融合体がいるなんて聞いてねぇよ。これだから緊急の依頼はよお!!」
タケシが盛大にぼやいたその時、イヤーマイクからミソノの声が聞こえた。
[皆、急いでメテオラの遺体回収するから準備して。それ終わったら帰港するから]
「スイ、あんたは休んでな」
「…うん」
それぞれの作業へと戻る団員達を見ながら、スイは物思いに沈んだ。
(あの時―――頭が真っ白になった時…)
スイは自分の右手を見つめた。
(何か…強大な力が発揮されたような―――…だからあの2体のメテオラが白化したのか…?)
スイのこの能力―――メテオラを支配しコントロールする“ハッキング”は、もっと違うことも出来るという事なのだろうか。
スイは右手を強く握りしめた。
「どうすればあの感覚を自分のものに出来るんだろ…」
もっと強くなりたい―――そう、“化神”と呼ばれる伝説のハンター、ジュンイチのように。
船はあらかたメテオラの遺体を回収すると、港への進路を取った。