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ASTROFUSION  作者: 赤嶺 龍
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第十二話



  《Side―スイ&ハル》


 そして次の瞬間、一際大きな衝撃音が響き建物全体が悲鳴をげるような軋みを上げたその時、建物全体が大きく揺れ一気に崩落し始めた。

 「今だっハルっ!!」

 スイは大声で叫ぶと同時に、目の前の扉を蹴りつけた。


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴォオ゛オ゛オ゛…ッッッ!!!


 上から次々と大きな瓦礫が雪崩れ落ち、土煙が辺りを覆って何も見えない。

 爆風と化した土煙に押し出されるように外に出た途端、スイの傍らに1メートルぐらいの建物の一部が落下してきた。

 「う゛っ…!!」

 爆撃にでもあっているような崩落音と吹き荒ぶ土煙に覆われ、スイは薄眼を開けて転ばないように立っているのが精一杯だった。

 (それに――…今私が路地に隠れたら、ハルが標的になってしまう)

 スイはホログラムのGPS 画像を見ると、覚悟を決めて叫んだ。

 「――…クソザルっっ!!!どこにいるっ!!私はここだ、さっさと…」

 言葉を継ごうとした瞬間、左側の土煙の中から巨大な掌がスイめがけて襲い掛かってきて、スイがとっさに地面に伏せたその真上をメテオラの手が掠めていった。

 「――…ッ!!」

 直後に生じた風圧で横ざまに転がりながら、スイは体を起こし素早く対面の路地に向かって走り出した。

 スイが路地に駆け込んだと同時にメテオラの手が追い掛けてきたが、伸ばした腕が届かず途中で止まった。スイはそのメテオラの指を紫粋で思いきり斬り付けた。

 『グァオ゛ッッ!!!』

 指は紫粋によって深く抉られ、メテオラは痛みで手を引っ込めた。

 スイは紫粋を構えてじりじりと路地の奥へと後ずさりながら、メテオラがいるであろう壊れた建物が存在した路地の先を見つめた―――次の瞬間。


 『グォオ゛オ゛オ゛ッッ!!!』


 轟音と共にスイの視線の先にメテオラの巨体が出現し、体を屈めながら長い腕をこちらめがけて突っ込んできた。

 「――…ッ!!!」

 スイは素早く背を向けて全速力で路地の奥へと駆け出したが、迫り来る巨獣の手はすぐさま肉薄し、スイの背中は次の瞬間強力な力で前方へ突き飛ばされた。

 「が…っ!!」

 宙を舞ったスイの体は地面に衝突し、そのまま何度もバウンドしながら転がった。

 「ぐっ…うぅっ――…」

 『ゴァアッグォオア゛ア゛ッッ!!!』

 怒りを露わにしたメテオラが、何度も地面をかきながらスイを捕まえようとするが腕は届かない。

 「…っ…――…ッ!?紫粋、紫粋はっ…」

 全身に感じる痛みを無視して体を起こしたスイは、その手に愛刀がないことに慌てて辺りを見回した。スイの背後に紫粋は落ちていて、それを急いで拾ったスイは自分が吹き飛ばされた方向を振り返り、ギクリと動きを止めた。

 その先には、大型メテオラが銀色の瞳を見開いてこちらを凝視していた。

 『グォルルルルッ…!!』

 荒い息を吐き、牙をむきながらスイへ向けた視線には激しい憎しみが宿っていて、その瞳をまともにのぞいたスイは射竦められ全身が慄いた。

 「ッ!!―――…」

 スイはメテオラから目を逸らすことが出来ないまま、1歩2歩と後ずさり―――後ろに向き直ると同時に全力で駆け出した。

 『ォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛―――――ッッッ!!!』

 メテオラの放った怒号が辺りの建物を震わし、必死で逃げるスイの全身を背後から打った。

 いったん紫粋を鞘に戻し、スイはW・PCに投影されたマップを確かめた。直後背後からメテオラが建物を登る音が聞こえ、地響きのような足音が自分に向かって近づいてくるのをスイは耳だけで感じながら、左右に脇道がある度慎重に数を数えつつ次に曲がるべき道を目指した。

 そしてスイが十字路に踏み込んだ瞬間、それを待っていたかのようにメテオラは上から腕を伸ばしてきた。

 「はっ…!!」

 考えるより先に、スイは前方に思いきり体を投げ出した。


 ――ッズドォオ゛オ゛ンンンッッッ!!!


 間一髪でメテオラの拳の下をくぐり抜け、そのまま受け身を取って体を回転させながら着地したスイは、その先の右の脇道へ走りこんだ。

 「はぁっ―…はぁあ…っ!!」

 オロチ邸からこっち走りっぱなしの為スイは息切れを起こし、走るペースが明らかに落ちてきているのを危機感と共に自覚した。

 (ちくしょうっ、肺が痛えっ…!全身が、重く感じて―――!!)

 細い脇道に入ってもメテオラがしつこく付いて来ているのがその足音で分かり、スイはその巨体がいつ上から現れるのか脅威に感じながら、何とか体に鞭打って走り続けた。

 次の角を左折し、2つ先の角を今度は右折―――GPSを見ながら、スイは細く薄暗い路地を選んで入り組んだ道をジグザグに走り続けた。

 「…っ…これでっ、奴を撒ければ――…」

 ホログラムを見ながらそう呟いた時、突然金属がねじれるような耳障りな音が建物の屋上の方から響いた。スイが顔を上げると、わずかに見える屋上に設置された“看板”が勢いよく倒れこんでスイの視界から消えるのが見えた。

 瞬間スイの頭に嫌な予測が浮かび、背筋に寒気が走った。

 「嘘だろ―――…っ…!!」

 スイは次に曲がる角のあるT字路目指して、全力で駆けた。


 ―――ッゴゴガガガガガァアッッッ!!!


 直後、スイの目の前に巨大な看板が振り下ろされた。

 「―ーッ!?ぐあっ…!!」

 体の右側面が看板にかすり弾き飛ばされたが、左へ曲がる路地は塞がれずにスイは体を壁に付きながらそのまま左の路地へ逃げ込んだ。

 看板はガタガタ揺れながらメテオラの手元へと引き戻され、そのまま看板を持ったメテオラはスイを追い掛けてきた

 (あんなのを上から突っ込まれたら―――…クッソおっっ!!)

 とにかく路地の細い方へ細い方へとスイはGPSを頼りに走り続けた。道はさらに入り組み、メテオラも手出し出来ないのか攻撃してこない。

 「はっ…はぁっ、は――…っ!!」

 建物の影なので日なたほど暑くはないが、それでも十分蒸し暑い。全身が水を要求しているが、飲んでる暇など無いことは分かっている。スイは目の前の路地をジグザグに曲がりながらも、大きく円を描くようにしてヨシノが連れ去られたであろう方角を目指していた。

 GPSに従ってさらに左へ曲がったスイは先へと進みながら、ふと違和感を覚えスピードを緩めた。GPSを確かめると、その先は建物が密集した地域として表示されている。

 「…なのに、どうして――…」

 路地の奥からは明るい日差しが差し込んできている。スイは立ち止りその意味する所を考え至り今来た道を戻ろうと振り返った、その時。


 ガッッシャァアン゛ン゛ン゛ッッッ!!!


 「――ッ!!!」

 スイの背後の路地に先程と同じ看板が上から振り下ろされ、スイの退路を完全に塞いでしまった。

 「…ッ!!やばっ…」

 看板は退路を塞いだまま左右の壁に当たると、次の瞬間スイの方向へ向かって猛スピードで突進してきた。

 「…っ…!!」

 スイは明るくなっている路地の方へ向かって、追い立てられる小動物さながらに逃げ出した。路地は明るさを増し―――その先にあるべきはずの建物はなく憎らしいまでの青快の空が広がっているのを、スイは絶望的な気分に陥りながら走った。

 「―――…ッ!!」

 路地が終わり、完全に空き地と化したその場所へスイが駆け込むと同時に看板は路地と空き地の境界で勢い良く止まり、スイは背後を振り返った。

 『グルルルルッ…』

 建物の屋上には、四つん這いにになった巨猿(大型メテオラ)が牙をむきだしてスイを見下ろしていた。スイは前へ向き直ると辺りを見回し、どこかに他の路地に通じた通路はないか探した。

 「…っ…そ、んな――…っ」

 空き地になったその場所は、いくつかの建物が崩落して出来たものだった。中心部に向かって瓦礫が山の様にうず高く積もり、崩落した建物の残骸がいくつかある通路を塞いでしまっている。

 逃げ場と思われる場所は見た限り皆無だった。


 …ブォオオッ…!!!


 振り返るとメテオラがこちらめがけ巨体で飛び降りてくるのが目に入り、スイは慌てて前方へ体を投げ出した。


 ゴドォオオオン゛ン゛ン゛…ッッッ!!!


 「ぐっ…!!」

 土煙を巻き上げながら着地したメテオラは、2本足で立ち上がった。転がった体が瓦礫にぶつかって止まると、スイは素早く体を起こして紫粋を鞘から抜いた。

 (…どうする――ー…退路は塞がれた。でも、あの看板を壊して元の路地へ戻れば…)

 その看板の元へ行きたくても、目の前にはそびえるように仁王立ちしたメテオラがいる。

 「―――…ッ!!」

 スイは自身の能力“ハッキング”を仕掛けると同時に、メテオラに向かって走り出した。不意を突かれたメテオラは、頭を振ってスイの支配を振りほどこうとした。アミターバに潜行したスイの意識は、銀色の光を放つ大きな光球を自分の支配下に置こうとするが、強烈な光を放つ光球はスイの支配を完全化させない。

 『グォッ…グォオオオッッッ!!!』

 頭を振って支配から逃れようとするメテオラのすぐ脇を、スイは能力を仕掛け続けながら走り抜けた。体力が消耗した中でハッキングを使うのは体に、特に脳に負担がかかった。

 アミターバの中のメテオラの光は激しくうねり、ともすればスイの支配から抜け出そうとする。近づいて来る、看板で塞がれた出口に向けて攻撃するためスイは紫粋を振りかぶった。

 「紫粋っ…―ー刃月…」

 『ゴァアアッッッ!!!』


 ――ッドォオオオッッッ!!!


 「…っ…!!」

 刹那―――間近に発生した衝撃波にスイの全身は巻き込まれ、その体が宙を舞った。衝撃に強く全身を打たれたスイの意識は飛び、体が受け身も取れないまま地面に強く打ち据えられた。

 何度もバウンドしてうつ伏せに倒れこんだスイは、耳鳴りと全身のひどい痛みを感じながら数秒後意識を取り戻した。

 「…ぁぐ…っ」

 薄く開けた視界がぶれ、体を動かすことが出来ない。頭から血が流れる感触がし、こめかみを血が伝っていった。

 拳を地面に打ち付けていたメテオラがその拳を上げ、重い足音と共に近づいてスイの前で止まった。陽を背にしたメテオラの銀色の瞳がギラリと輝き、スイを冷たく見下ろしている。

 (やっぱり――…勝てなかった…)

 スイノの脳裏に、ハルやヨシノの顔が浮かんでは消えていく―――…

 (ごめんハル、一人にして…ヨシノ――ー…)

 巨猿が左腕をゆっくり振りかぶって頂点で一瞬止め、一気にスイめがけ拳を振り下ろした。

 「―――ッ!!」

 スイは強く目をつぶった。


 ーーーッズバア゛ア゛ア゛ッッッ!!!


 『ギャア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!』

 次の瞬間、スイの体を飛び越えたメテオラの左腕が地面に衝突し、バウンドしながらあらぬ方向へ転がっていった。

 「―――…ッ!?」

 『ゴァッ…グォアアアア~ッッ!!!』

 傍らで軽い足音がしてスイが顔を上げると―――黒い大剣を構えた男が苦しむメテオラに対峙していた。


 「ったく…――ーこの街は今日どうなってんだ。どっかで戦闘してるし、こんな街中で…大型メテオラだと?」


 擦り切れた黒い野球帽をかぶった男は言葉とは裏腹にそう言ってニヤリと笑うと、オレンジがかった金色の瞳でスイを見下ろした。

 「良く持ちこたえたな、もう大丈夫だー――ー後は俺に任せてくれ」

 男はそう言うと、良く日に焼けだ小麦色の肌に白い歯を見せて人懐っこい笑みを浮かべた。

 「…っ…―――…」

 戦場に不釣り合いなその笑顔を見たスイは、今まで抑えていた感情が一気に込み上げてきて思わず泣き出してしまいそうになった。

 『…グォルルオ゛オ゛オ゛オ゛―――――ッッッ!!!』

 その場面をぶった斬るように激怒したメテオラの咆哮がこだまし、スイの全身をビリビリと打った。

 巨猿は右腕を振りかぶると、男めがけて振り下ろした。

 「――ッ!!」

 その攻撃は、目をつむったスイをも巻き込んで辺り一面を陥没させるほどの威力のはず――――だった。しかし風圧による衝撃波は感じたものの、それ以上何も起こらない。スイが目を開けて顔を上げると、信じられない光景が目に飛び込んだ。

 「…え…?」

 男は大剣を盾の様に上へ掲げ、メテオラの攻撃を体一つで受け止めていた。

 『グゥッ…グォオオ…ッ!!』

 メテオラがさらに力を込め、男を押し潰さんとするがびくともしない。

 「ははっ、まぁ俺はともかく…ーー女の子まで巻き込むことは―――ー…ないだろうがっっ!!!」

 大剣の下で笑みを浮かべた男は言葉の最後にその笑みを消すと、大剣をメテオラに向かい一気に振り払い、その巨体が男の力に負けてグラリと弾き返された。

 『ガッ…!!』

 メテオラは片足を一歩引いて男の反撃に耐えた。そして男が最前までいた地点を見た時、その姿はすでになかった。

 「…もう一本もらうぞ」

 残像を残して現れた男の姿はメテオラの左足の傍らにあり、振りかぶっていた大剣をその足に向かい高速で斬り付けた。瞬間―――男の瞳が金色に輝くと大剣に金色のエネルギーが宿り、剣の長さをそのまとったエネルギーで伸長させた。男がそれをメテオラの足に叩きつけると、大剣は信じられないほどの切れ味で、大樹のようなメテオラの足首部分を一刀両断した。

 『ゴァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!』

 メテオラは体のバランスを失い、後ろへのけぞってそのまま仰向けに倒れこんでしまった。その瞬間、衝撃が発生し土煙が舞い上がってスイの視界を塞いだ。

 「くっ…――嘘だろ…たった、一撃で…?」

 相手と自分との戦闘能力のあまりの格差に、スイはただ呆然とする他なかった。

 その時土煙を突き破り、高く飛翔した男の姿が現れた。空中に弧を描くその先は巨猿の喉元を標的に、赤を散らせた金色の瞳で男はメテオラを見据えると、空中で大剣を一閃させた。


 ギィイイイインンンッッッ!!!


 大剣にまとわせた金色のエネルギーが瞬時に伸長し、巨大な一閃と化してメテオラの首を薙ぎ払った。

 『…ガファッ…!!』

 メテオラはとっさに防御することも出来ないまま―――体から切り離された頭部だけがあらぬ方向へ弾け飛んだ。

 男は普通の人間なら無傷ではいられない高さから着地し、平然と立ち上がった。

 その全ての行動があまりに平然と、何の衒いもなく淡々とすら思えるほどに行われた。スイは男の実力が、自分が思うよりずっと桁違いのものであることを、その時初めて気付いた。

 (…人間じゃ、無いみたい――…)

 そう思った一瞬、スイの背筋に寒気が走った。

 (まさかっ…ヒューマノイドって、でも―…)

 スイが迷っていたその時異音がして振り返ると、大型メテオラの体に“異変”が起こっていた。

 「…ッ!?何だこれ…っ」

 メテオラの体が金属質だったものから次々と変化し、ガラガラと音を立てて崩れ始めていた。金属部分は色褪せコンクリートや鉄筋になって形を失くし、最終的に後に残されたのは、メテオラの形を少し残した“鉄筋コンクリートの塊”だった。

 男は目の前で変化したそのメテオラの残骸を見下ろし、目を細めた。

 「――…この能力…“ロギア”か」

 男は真剣な表情でポツリと呟くと、スイを振り返った。体に残る痺れが治まったスイは、何とか動けるようになり上体を起こした。

 「ぃって…っ!!」

 全身を動かすたび体のあちこちがズキズキと痛み、どうやら全身を打撲してしまったらしい。スイはこめかみを伝った血をぬぐい、頭のどこが切れたのか確かめた。

 (ここだ…確かに切れてるけど、そんなに深くない。まだこれで済んで良かった…ARMスーツがなけりゃ…)

 多分、打撲程度では済まなかっただろう。頭の傷もヘッドギアがなければ―――スイはそう思ってゾッとした。

 「―――大丈夫か?」

 声と共に足音がし、男が傍らに立ってスイに向かい手を伸ばして来た。男の両手は空いていて、さっきまで持っていたはずの大剣がなぜかどこにも見当たらなかった。

 「立てるか?立てなかったら別に無理…」

 男が言い終わらない内にスイは男の手を掴み、苦労しながらなんとか立ち上がろうとした。掴んだ男の手はたいして大きくもない手だったがごつごつとしていて力強く、長年戦いに身を置いてきた人間の手だと感じた。

 スイが勢いをつけて立ち上がった途端足に痛みが走り、足元から力が抜けて倒れそうになった。その体を男がとっさに片腕で受け止めてスイは男に抱きとめられる形になり、2人は互いに間近で顔を見合わせた。

 「……あの、ありがとうございました」

 見上げた男は短い黒髪に、彫りの深い野性的な顔立ちの中で琥珀色の目だけが人懐こそうに垂れていて、その目を細めて笑いながら男は答えた。

 「かなり追われていたみたいだな。―――…どうして、あの猿に追われていたんだ?」

 男は言いながらスイの体を起こして、真っすぐに立たせてくれた。

 「いつつっ…――ーッ!!紫粋っ…紫粋がないっ!!」

 「何?」

 「私の刀が…っ」

 スイの慌てる様子を察し、男も一緒になって探してくれた。やがて瓦礫に半ば埋もれるように落ちていた刀を男が発見し、拾って持って来てくれた。

 「――…変わった刀だな、量産品には見えない…」

 男は言葉を途切らせ、真剣な表情で手の中の紫粋を見つめた。

 「あっあの、ありがとうございます。…そのっ…」

 スイはそれ以上余計なことを詮索されたくなくて、刀に見入る男に催促するように手を出した。その瞬間男がスッと視線をスイに向け、光を反射しない金色の瞳にまともに見つめられたスイはギクリとした。

 (…何だ?さっきまであんなに人懐っこそうに見えたのに…何か、怖…い?)

 「―――悪い、人のものを。それで改めて聞きたいんだけど、どうして君はあのメテオラに追われてたんだ」

 スイは男から返された紫粋を見て、どこか損傷していないか確かめた。

 (…大丈夫だ、どこにも目立った傷はない。蒼龍に加えて紫粋まで破壊されたら――…)

 スイは紫粋を大切に鞘へと戻した。

 「…ヒュ…ヒューマノイドです」

 「――ーッ!!…まさか“ロギア”という男か」

 スイはその名を聞いて勢いよく顔を上げた。

 「ッ!!何でっ…あいつ、有名な奴なんですか!?友達がそいつに攫われてっ…そしたらあいつが、あのメテオラを―…」

 男は大きくため息をつくと野球帽を脱ぎ、空いた手で髪をがしがしとかいた。

 「…あいつは、D・E・デウス・エクス・マキナの創始者だ」

 「――ッ!!あの、狂信者集団って噂の…!?そんな―――…ヨシノ…」

 スイの呟いた言葉に男がハッと反応して振り向いた。

 「ヨシノ…?そのヨシノって、クジラ亭で働いてた…」

 「…ッ!?はい、そうです!えっ、何であなたがそれを…――――…っ…!!」

 一つの可能性に辿り着いたスイは目を見開くと、改めて男を見つめた。

 「ジュっ…ジュンイチ、さん…?化神けしんの―ー…」

 「ヨシノさんから聞いたのか?じゃあ君がヨシノさんと一緒に暮らしてる…」

 スイはあまりの衝撃で返事をするのも忘れ、呆然と立ち尽くした。

 (…そりゃ、強いわけだ…どうしよう、頭真っ白―――…)

 スイは金魚のように口をパクパクさせて言いあぐね、やがて何とか言葉を口にした。

 「あ、の――…あ…―――…ッ!?ジュ、ジュンイチさんっっ!!!」

 「ぅわ、はい」

 急に上げ大声にびっくりした様子のジュンイチに、スイは詰め寄った。

 「ヨシノを助けてくださいっ!!あの子っ…ロギアと付き合ってて、それでっ私達追われてて、ロギアじゃなくて、それはギルガメシュとかブラスカなんですけど…とにかく、私達はヨシノを連れてこの街を出ようとしたんです。そしたらクジラ亭でヨシノとあいつが話しててっそれで―――それでっ…」

 ジュンイチは帽子を被り直して答えた。

 「分かった、少し落ち着いて。君等はロギアとは別の奴等に狙われてるってことか?」

 「そうです。ギルガメシュとブラスカ―――…今日オロチの屋敷に納品に行ったら、ギルガメシュの奴等に待ち伏せされてて――――…ジュンイチさん、この戦闘音も…もしかしたらギルガメシュが、G・O・Cの本部を…」

 ジュンイチは腕を組んで眉間に深くしわを寄せて顔を逸らすと、しばらく黙り込んだ。

 「…奴等が動くってことは、背後に大きな組織がいる可能性がある。ロギアはそれを知ってヨシノさんを…―――さっき、君は刀のことを聞かれてはぐらかそうとしてただろ…何か訳があるのか?」

 ジュンイチは真剣な目を向けた。

 「…そ、れは――…」

 「…大丈夫、俺も脛に傷の1つや2つ持つ身だから、君等の事情は誰にも漏らさない。えぇと…あれ?俺君の名前まだ聞いて…?」

 「あっ、すいません名乗ってなくて。イシガミ・スイですっ、ヨシノと一緒に住んでます!」

 「そっか、俺はジュンイチだ。…って、今更だけどな」

 そう言って笑ったジュンイチの表情は温かく、それを見たスイはこの人なら信用出来ると直感的に確信した。

 「…私達3人は…私とヨシノと、もう1人ハルっていう子と3人は―――アノミアで、それぞれにメテオラに対して特殊能力を持っているんです」

 「なるほど…ヨシノさんは、それでロギアに狙われたのか」

 「…っ…あいつ、だからあんな奴やめとけって言ったのにっ…」

 「―――分からないのは、ギルガメシュとブラスカだな。多分君達が能力者だからという理由は、ロギアと一緒だとは思う。でもこんな大事にまでする意味は一体…」

 「ジュンイチさんすいません、ハルに連絡入れてもいいですか?今、ハルにヨシノの追跡を頼んでるんです―…」

 「!、ああ、そうしてくれ。きっと君のこと心配してるだろう」

 スイはうなずいてW・PCを操作した。



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