第3話 慟哭の谷、黄金の啓示
厳島メガフロート。鋼鉄とガラスで築かれた近未来都市。空には飛行車が行き交い、ビル群はホログラム広告で彩られている。華やかで、輝かしい、未来都市。だが、悠にとっては、自由を奪われた鉄の牢獄でしかなかった。薄汚れた、じめじめとした倉庫。空調も壊れていて、生温かい空気が淀んでいる。カビ臭さと、鉄錆の臭いが混ざり合い、吐き気を催す。連れ戻された悠を待ち受けていたのは、想像を絶する残酷な仕打ちだった。監禁された悠は、ショウとタケル、二人の兄の得意とする重力操作の魔法で拘束され、身動き一つ取れなくなった。「…また…この場所か…」。冷たく湿ったコンクリートの床、鉄錆の臭い、かすかに聞こえる機械音。全てが、過去のトラウマを呼び覚まし、悠の恐怖を増幅させる。この倉庫で、何度も兄たちに嬲りものにされた。薄暗い空間、兄たちの歪んだ笑顔、嘲笑う声。「…嫌だ…思い出したくない…」。ショウとタケルは、まるで残酷なゲームを楽しむかのように、悠に精神的な拷問を加えていく。二人はいつも、ひそひそと話し、くっくっくと気持ち悪い笑い声を漏らしていた。まるで、毒蛇が獲物を狙うときのように、じっと悠を見つめ、その恐怖を楽しむかのように。
「無属性の汚点であるお前を生かしておく価値はない。新型魔法兵器の実験体として、その身を捧げろ」
ショウの冷酷な言葉が、悠の心を抉る。「…そんな…僕は…実験体じゃない…人間だ…」。両親を失った悲しみ、兄たちからの虐待、そして、健太との未来を夢見ていたささやかな希望さえも、全てが粉々に砕け散った。「…健太…ごめん…約束…守れそうに…ない…」。健太との楽しかった日々が、走馬灯のように駆け巡る。屋台のラーメン、映画館の大きなスクリーン、一緒に作ったロボット。「…もう…二度と…会えないのか…」。
「…ショウ兄さん…タケル兄さん…どうして…僕を…こんな風に…」。悠は、かすれる声で訴えた。
「くっくっく…どうしてって?決まってるだろ?お前は無属性の出来損ないだからさ」タケルがニヤニヤしながら言った。その顔は、まるで仮面のように、感情が読み取れない。
「そうだね、ショウ兄さん。無属性は生きている価値がないからね。くっくっく」ショウも同意するように頷く。その目は、冷たく光り、悠を見下ろしている。
「兄さん達は、寂しい人だね。母さんと父さんが死んだのは僕のせいじゃない。」
「うるさい!悠!お前は黙っていろ!ゴミ虫が!」ショウが怒鳴る。唾が悠の顔に飛ぶ。
「お前みたいな出来損ないに、生きる価値はないんだ!とっとと消えろ!」タケルは悠の耳元で囁くように言った。その息が、悠の首筋を撫で、鳥肌が立つ。
「嫌だ!やめてくれ!俺は…人間なんだ!生きる権利があるんだ!!」
悠は叫び、喚き、抵抗を試みるが、魔法の拘束はびくともしない。「くそっ…体が…動かない…!」。絶望と恐怖が、悠の心を黒い霧のように覆っていく。「…もう…だめだ…」。意識が朦朧としていく。
兄たちは、悠の悲痛な叫びを嘲笑いながら、高出力の魔法銃を悠の脚に向けた。「…っ…や…やめてくれ…頼む…ショウ兄さん…タケル兄さん…」。引き金が引かれる度に、灼熱の痛みが悠の身体を走り抜ける。
「…ああ…う…ぐ…!!」
焼けるような痛み、血の匂い、そして、耳鳴り。「なんで…どうして…こんな目に…」。痛みと恐怖に耐えかねて、悠の意識は深い闇へと沈んでいく。「…意識が…遠のく…」。薄れゆく意識の中で、悠は復讐を誓った。「覚えてろ…絶対に…忘れない…いつか必ず…見返してやる…!!この痛み…この屈辱…絶対に…」。
「…これで…本当に…終わりか…」。
「これでやっと、無属性の汚点も消える。せいせいするわ」ショウが吐き捨てるように言った。
「そうだね。これで厳島家の名に傷が付かずに済む。くっくっく」タケルも同意するように薄ら笑いを浮かべる。
「でも…あいつ、機械いじりの才能だけはあったよな。もし魔法が使えたら…と思うと少し惜しい気もする」ショウが独り言ちるように言った。
「何を言ってるんだ、ショウ兄さん。魔法が使えない時点で、あいつはゴミ同然だ。才能があっても無駄になるだけだ。くっくっく」
「…そうだな。俺たちには関係ないことだ。さっさと処分して、美味しいものでも食べに行こう」
飛行艇のハッチが開いた。冷たい風が悠の顔を撫でる。「…どこへ…連れて行くんだ…」。眼下には、燃えるように赤い紅葉で有名な紅葉谷が広がっていた。その美しい景観は、まるで悠の血の色で染め上げられたかのように、残酷なまでに鮮やかだった。「…綺麗だ…」。皮肉にも、それが悠の最後の記憶となった。飛行艇は高度を下げ、谷底へと悠を突き落とした。「…ああ…」。
落下する悠は、紅葉の枝に体を打ち付け、鋭い岩に身体を引き裂かれながら、奈落の底へと落ちていく。風を切る音、木々が擦れる音、そして、自らの断末魔の叫びだけが、静寂の谷に響き渡る。「いやだ…死にたくない…生きたい…健太…」。
「あああああああああ!!神様…なぜ…こんな目に…こんな仕打ちを受ける謂れはない…!!」
悠は目を覚ました。(以下、スキル獲得までは前稿と同じ)
悠は、絶望の中、この新たな力を試す。(以下、洞窟の描写までは前稿と同じ)
その時、悠の目の前に現れたのは…黄金に輝く、巨大な…ゼリーだった。それは、この世界のどんな生物にも似ていない、異様な存在だった。まるで、宇宙から飛来した未確認生命体のように、ぷるぷると震えながら、悠を見つめている。表面はキラキラと輝き、まるで宝石のように美しい。虹色の光を放ち、形を変えながら、ゆっくりと悠に近づいてくる。
「…これは…一体…?」
すると、そのゼリーから、可愛らしい少女の声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ、君、面白い力を持ってるね!ちょっと遊んでみよっか♪」
悠は、この異形の存在との遭遇に、驚きと戸惑いを隠せないでいた。「…これは…夢…なのか…?」。