ゴリラの国の聖女様 (ショート)
長編新連載に向けての試作品を兼ねた短編です。
よろしくおねがいします。
あとがきでなんと言ってるかだいたいわかった人は近日中にぜひバナナを食べてくださいね。
◯
「ウホッホウホーホホ!!」
「オウッバナーナ!?」
ウホッス! ウホリラ! ウッホホウホジャンゴーリラゾ。
(訳:ウホッス! あたいリラ! 大森林国の公爵令嬢DK-05 リラだゾ)
ウホーホウキホ、オーバニーラゾ、ゴリラブ。
(訳:そしてこいつは大森林国の第三王子バニラ殿下、愛しの婚約者様だゾ)
……ウヘホ。
(訳:今フラレちゃったけど)
「ウホホ! ウホッフホ!?」
「ウホホホウッホ、ヒゴリラホリラ」
「ウホァーッ!?」
……ヒゴリラ。
ウホッホッ、ウホホホウホ。
ウホー―ホホホ、リラ、ゴリラヌ……。
「ウ、ウ、ウホォォォォォ―――!!」
ウホーホリラ、パシタ。
リラ、マナナ、ヒゴリラ、フラレウホッホ……。
◇
転生したらゴリラの国の公爵令嬢でした。
……というのが許されるのは出オチのショートまで、長尺の物語向きじゃないわよね。
お見苦しいゴリラ語をしょっぱなから披露しちゃってごめんなさいね。
この物語の主人公、大森林国の公爵令嬢リラはゴリラ生まれのゴリラ育ちなのよ。
リラったら途中から訳文さえ忘れて、これじゃ語り部失格よね。
……意味わかんない?
……脳が理解を拒む? ブラバしたい?
わかる、わかるわよ。
これが“転生した現世のわたし”だなんて認めたくないのは誰より一番このわたし。
そう、この“前世のわたし”なんだから。
あまりにもバカバカしいので三行にまとめてしまうわね。
・バナナの皮で滑って転んで死にました
・転生チャンスで「ワイルドなイケメンにモテたい」てったらゴリラパラダイス
・現世のリラと前世のわたしは表裏一体の共存関係
つまり、わたしこそ転生者 森山 林檎は、ゴリラの国の公爵令嬢リラ・コングロマリットと同じ肉体を共有するシェアパートナーなのよ。
「リンゴ」の来世が「ゴリラ」ってことはその次は「ラッパ」かっての。
唯一の救いは転生先のリラは雄々しいゴリラじゃなくて人間に限りなく近い、すこし違うモノだってことね。
謎めいた古代文明の遺跡? SF的なやつから産み落とされちゃった人間そっくりの人工生命体、ゴリラが評すには『聖女』様なのよね。
こう、ところどころに金属片的なパーツあったり色々とメカいけど8割は人間かな。
うん、ゴリラ成分はケモミミしっぽすらないわね。
ゴリラに似てゴリラにあらず。
神秘的な遺跡からもたらされた超自然の神聖なる少女、聖女。
この広大なジャングルに独自の文明と大森林国という一大国家を築くフォートレスゴリラ達にとって、リラは神の与えた御子として丁重に育てられたわ。
公爵家の令嬢として、何不自由なくゴリラの愛を一心に受けて天真爛漫に育ったの。
だもんで、ゴリラ語は流暢だけど日本語はてんでダメね。
そりゃー話し相手がわたしだけ、内なる精神世界でしか使い道ない言語だもの。
時たまなにいってるかわからなくなっても大目に見てくれる?
で、でよ。
リラったら聖女様として一日中バナナ食べ放題な自由気ままな暮らしぶりに飽き足らず、大好きなゴリラのイケメンと大恋愛がしたいと願ってやまなかったのよ。
小さな頃から縁談をおねがいして、ようやく公爵ゴリラ様が親バカなことにもぎとってきた良縁がイケメンの第三王子様だったんだけど。
このたび見事に玉砕しましたってわけね。
「ウホウ……」
はいはい元気だして、もうひとりのわたし。
イケメンゴリラなんてココナツの数だけ世界中にいるわよ。
……ココナッツ木登りして取るの、リラはいつも手こずってるけどもさ。
「リリラ、ラゾ」
ごめん日本語で話して。
前世のわたしが目覚めてかれこれ三年経つけど、わたしネイティブなゴリラ語の使い手じゃないから細かいニュアンス伝わらないのよね。
「リンゴ、ゴリラきるい?」
『きらいじゃないよ、良い人達だよね。種族の壁が分厚すぎることを除けば……うん』
「リラ、ゴリラ。リリラ、ゴリラ」
『ゴリラちゃうわ! 百歩譲ってリラはゴリラでもリンゴはゴリラじゃないやいっ!』
「ラッパ!」
『しりとりしてないんだよなぁもう!? 笑顔かわいいなこいつっ!』
わたしは霊体化してちょっとだけリラの肉体から離れて活動することができる。
これ、ゴリラの妖術? 魔法? 文化を学んだおかげなのよね。
「リリラ、バナナンナ!」
『はいはい、自分で取んなさいよねバナナくらい』
とぼとぼと密林を元気なく歩いてるリラのお願いだから仕方ない。わたしはリラの肉体と繋がったままにょいーんと白いお餅みたいに伸びてバナナをとってきてあげた。
亡霊バナナパシり女……。
射程距離に限度はあるけど、わたしの霊体はけっこうすごい。物理干渉ができる。
これが聖女チートだよ!
これが聖女チートでいいの!? バナナしか稼げねぇじゃんさ!
「リリラ、あ、あ」
『あー?』
「アリガトウキー」
『キーが余計なんだよなぁーこいつ!!』
転生した自分だけど、ゴリラってるけど笑顔はとびっきりかわいいから困る。
聖女様として溺愛されて育った無垢なスマイル愛嬌たっぷりゴリラ盛りなのよねー。
美少女つって文句あっかよ、というかわいさよ。
この人間界なら黙ってりゃ宝石みたいな美少女を、王国はゴリラどもはやれ「筋肉が足りない」「ちっさい」「恐れ多い」「ゴリラじゃない」と遠ざけて。
……いや、意識共有してるリラの夫がゴリラになるのは抵抗感あるのよ、うん。
でもゴリラの国の聖女様にとって、素敵なゴリラと結婚する以上のしあわせがある?
前世でご縁のなかったわたしの報われぬ御霊が、せめてリラの幸福を願ってる。
わたしも正直もうゴリラでもいいかな、と常識が揺らいできちゃってるし。
現世のわたしのためならば、わたしもゴリラと添い遂げる覚悟はできてるってのよ。
なのにバカ王子ときたら見る目がない!!
リラはアホでゴリラじゃない以外に欠点があんまりない良い子なのに!
「絶対に、素敵な結婚をしましょうね! リラ!」
「ウホイッ! リリラ、バニャナ!」
「大好きってってるのわかっちゃったのよねー!? わたしのゴリラ語ラーニングスキルパねぇなオイ!」
これがゴリラの国の公爵令嬢リラと転生したわたしの日常。
ここからジャングルに嵐を呼ぶ波乱が起こるのよねぇ、これ、長編版で。
「ウポイッ」
『バナナのかわポイ捨てすんなこのおバカゴリラっ! 死ぬぞ(わたしが)!!」
ウホホホウホ、ウホオホーホッ。
ウッホ、ウホ、ウホーホホ、ウホウホウホウホーホホホッホウホウ。