1/4
白良浜にて 斉明天皇四年十月
真っ白な砂浜を裸足で駆けて行く。裳裾が翻るのをものともせずに。
「牟婁の湯への行幸を、楽しんでおられるようですな。倭姫さまも」
振り返ると見知った男が、顎髭を撫でているのが見えた。答えず、生き生きと砂浜を走る妃の姿を目で追う。子がないゆえか、倭姫の姿はいまだに少女のように見える。
「今も悔やんでおいでですか。古人大兄さまと、山田麻呂を滅ぼしたことを?」
「いや、別に。仕方のないことだ」
二人の妻、それぞれの父親を滅ぼしたことは。
「古人大兄さまを悼む心がお有りなら尚更、御位につかねばなりません葛城さま」
何を言っているのだ、この男。鎌足は。
「御位につき、そして倭姫さまを大后に」
くさぶき様主催の歴史創作アンソロ「あまさら」に寄稿した作品です。