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6話『背負う鬼ども』


 夏休み明け。

 セミが鳴き、青春の汗がむんむんと溜まる学校が再開した。


 コロナ禍も落ち着いてきて、ようやく皆マスクを外せるが、つけたり外したりな状況が続いている。

 俺は時々、異界の臭いがすると鼻の頭が犬っぽく黒くなってしまうため、マスクを外せない。本来、異能者は幼少期や小学生くらいで能力が発現する者が多く、俺は能力発現が遅い方だ。

 高校生ともなると、異界の能力を使ってどう生きていくのか考える時期らしい。知らんけど。


「お前、坊主にしたのか?」

「え?」

 唐突に友達から聞かれて、自分の頭が坊主になっていることに気づかなかった。


「ああ、そうなんだ。爺様が死んで……、燃えちまったんだよな」

「え?」

 友達を戸惑わせてしまった。


「そんなことより元気だったのか?」

 俺からすると30年ぶりのクラスメイトだ。涙が出そうになるくらい再会したことが嬉しい。

「あ、ああ、ずっとFPSやってたんだよ。ケントもやらないか?」

「なにそれ?」

「ゲームだよ。オンラインゲーム」

「ああ、戦うやつか。俺は戦うのは苦手でね。工務店のアルバイトに勤しむよ」

「ええ? アルバイトなんて始めてたのかよ」

「うん、爺様の知り合いんところだ」


 俺の他にも、アルバイトを始めていた友達がいた。それぞれ、彼氏や彼女の話をしている。付き合うにはお金がかかるのだ。


 ふと、廊下を見ると、鬼頭さんが歩いていた。角は隠して、異界の臭いを香水か何かでごまかしている。


「あんまり学園の美少女コンテストを見るなよ」

「美少女コンテスト?」

「鬼頭さんって、そういうコンテストがあれば間違いなく1位だろ」

「ああ、そういうことか」


 彼女も大変だ。

 鬼頭さんはちらりとこちらを見て、ムッとしてから去っていった。悪いことはしていないはずだけどな。隣の席なのだが、こちらを避けている。


「なにかあったんじゃないだろうな! 鬼頭さんにはファンがついてるんだから、関わるなよ」

「そ、そうだな」


 忘れてしまっているが、学校にはルールがいくつかあったような気がする。スクールカーストと呼ばれるものだが、記憶にない。きっとイケメンか美少女か、みたいなことだろう。縁のないことだ。


「俺って部活はいってたっけ?」

「美術部だろ」

「ああ、そうだった」


 ガラガラ……。


「おえーっす。始めるぞー」


 そこでようやく教師が来て、始業時間だ。正直、先生がさっぱり何を言っているのかわからなかったが、教科書に書いてあることだということはわかった。


 そんなことよりも青春の匂いが凄まじい。高校生というのはこれほど異性への興味があったのだろうか、と思えるほどに、好きな人を見つめ汗をかいているのだろうか。

 勉強なんて手に付かないだろうに。甘酸っぱい気持ちのまま、授業を終えて掃除をする。


 授業終わりに掃除をするというのも、ものすごい懐かしい気がして、喜んでやってしまった。箒でチャンバラなどというゴミが散らかるような行為はしない。

 ゴミ捨て場にゴミを持って行くことはジャンケンで決める。高校生活で思い出すことは多い。


「何してたの?」


 ゴミ捨て場に行く途中で、鬼頭さんに呼び止められた。もしかして待ち伏せか。


「いや、ゴミを……」


 鬼頭さんは俺が言い終わらないうちに、俺の身体を校舎の壁に押し付けてきた。痛みはあるが耐えられるというか、体幹を固めたのでおそらく鬼頭さんの腕が痛かったのではないだろうか。鬼の異能者だから膂力が違うのか。


「あの日の夜、何をやったのか聞いてるのよ」

「あの日って? ……ああ、警察の試験の時?」

「そう! あなた、あの日、公園にいたでしょ!?」

「いたよ。いたいた」

 鬼の力ってすごい。俺の身体が浮き上がり始めている。


「何をやっていたのか言いなさい!」

「肉まん買いにコンビニに行って、公園で今のバイトの人たちに会ったんだよ」

「バイトって……、はまぐり工務店でアルバイトしているの?」

「そう」

「だって、あなた、地獄から帰ってきたって……」


 急に鬼頭さんの力が抜けて、俺は地面に落とされた。


「おい! 何やってんだ?」


 教師がこちらを見ていた。


「ちょっとした不純異性交遊ですよ」

「なんだ、そうか……。ダメじゃないか! 不純だと!?」

「いいでしょ。青春ですよ! 青春!」

「青春で納得すると思うか!? 鬼頭、本当か!?」

「冗談です。崎守くんは異常者なので、お尻から尻尾が生えていることに気づいていません」

「バカ! 言うなよ。尻尾じゃなくて、うんこだろう?」

「お前たち、何を言ってるんだ?」

「「冗談です!」」


 俺はゴミを捨てて、部活へ向かう。その間に鬼頭さんはどこかへと去った。


「いったいお前たちは……、仲良くしろよ」

「はい、いずれ結婚します!」

 ありもしなさそうなことを言っておく。

「わかった。応援はしているが、学校では面倒を起こすなよ」


 そう言って、教師もどこかへ去った。



 学校帰りに工務店へ行って、新しい猫駅の社に色を塗る作業をしておく。夏休みをかけてもまだ仕上がらなかった。社長曰く、もう少し補助金が出そうなので、ゆっくりやるようにとのことだ。

 作業の合間に今日会ったことを話して、聞いてみた。


「異能者同士って仲良くなれないんですかね?」

「いや、なれるよ。見てごらんよ。この工務店の三人は大変仲がよろしい」

「そう思っているのは社長だけですよ。たぶん、あの鬼のお嬢ちゃんは、親の期待と自分の実力が見合わないから焦っているんでしょう」

「親の期待って鬼の家系のですか?」

 鬼頭というくらいだから鬼の頭領の家系なのかもしれない。


「そう。崎守家にはないのか?」

「うちはないですよ。分家の一番下ですから」

「爺さんにかわいがってもらったんじゃ……」

「かわいがってもらったというか、介護をしていたというか。従兄たちよりは仲が良かったですけど、期待はされてなかったと思いますよ。何かになれとは言われたことがないですから。あ、でも『悩むほど賢くなるな』とは言われましたけどね」


 はまぐり社長は「ケンゾウさんらしいな!」と笑っていた。


 カラン。


 ドアベルが鳴る。


「社長、お客さんです。百目鬼さんですね。今年のヨシ焼きはよかったですねぇ」

 井戸さんがいつの間にかお茶を用意して、案内していた。

 ヨシ焼は栃木の渡良瀬遊水地でやっている野焼きのことだ。なぜか俺も爺様に連れられて何回か行ったことがある。


「ああ、手伝ってくれてありがとう」

 顔が大きく顎髭を蓄えた中年男性だった。紺色のシャツに軍パンを穿いている。ぱっと見では何の職業をしているのかわからないが、異能者なのだろう。でも、どこかで見たことがあるような気がしてならない。


「やあ、ケントくん。はまぐりさんのところで働いていたのか。どうしていたかと心配していたんだ」

「はい、よくしてもらっています」


 とりあえず頭を下げておいた。


「あ、この恰好じゃ、わからないか。あの鬼のお面をつけたおじさんだよ」

「ああ! いつぞやはお世話になりました」


 イベントごとに俺を連れて行く割りに、爺様は俺を一人にしてどこかへ消えてしまうことが多かった。一人でプラプラしているが、ヨシ焼きの時はお面の男の人に案内してもらったのだ。


「なんだよ。異能者の知り合いがいるじゃないか」

 團さんは俺を肘で押した。

「いや、異能者だなんて思ってませんでしたからね。だいたい自分が犬の頭になると気づいたのだってこの前ですから」

「ああ、やっぱりそうだったのか。なんとなくそう思ってたんだ。ケンゾウさんも孫を連れて来てるのにほったらかしにして、異能の発生でも待っているのかと思ってたんだ」

「あの爺さんにそんな思惑があったとは思えませんよ。ただ単にほったらかしにしてただけでしょう」

「いやいや、それが意外に自分が死んだ後のことを考えていたようだよ。今日はそれではまぐりさんの工務店まで伺ったんです」

 百目鬼さんは井戸さんが出したお茶をずずっと飲んだ。


「あ、そうなの?」


 社長も百目鬼さんの前のソファに座ってお茶を飲んでいる。


「ええ、この度、自分が団体を引き継ぐことになりました」

「おおっ、そうか。それはよかった」

 社長も喜んでいる。


「団体ってなんです?」

 團さんに小声で聞いた。

「え!? ああ、そうか。ケントは爺さんの仕事を知らなかったのか?」

「いや、山へ登ったり海に入ったりするっていうのは聞いてましたけど……」

「ケンゾウさんは異能者環境保全団体の会長だったんだよ」

 百目鬼さんが教えてくれた。


「え? そうなんですか? で、その団体は何をする団体なんです?」

「異能者って都会の隅っこにいると結構生きにくくてね。結局、山や人があまり来ない港町に流れ着くんだけど、そういう場所の保全活動をしていたんだ。結構、バブルの時はいろんなところに大きなホテルが建てられて、そういう場所が壊されちゃってね。大変だったからって、ケンゾウさんが作られたんだよ」

「え!? 爺さんが!?」

 仕事があることは知っていたが、まさかそんな団体を作るような人だとは思わなかった。


「元々、家業の関係で警備会社に勤めていたらしいんだけど……、ある事故があったのだそうだ」

「事故?」

 爺様が大きなケガや病気をしたとは聞いていなかった。


「ああ、そうか。それはお父さんか誰かから聞いた方がいいかもしれない」

「そうですか」

「でも、とにかくこれで晴れて代表なので、はまぐりさんたちにはご協力してもらうと思いますので、何かの折にはよろしくお願いいたします」

「いえいえ、こちらこそ、何かあれば協力しますので、おっしゃってください」


 その後、百目鬼さんは社長と談笑した後、帰っていった。


「ちゃんと引き継ぐ人がいるってすごいよね」

 井戸さんは湯呑を片付けながら、窓をぼんやり眺めていた。

 窓ガラスの向こうには、去っていく百目鬼さんのハイエースが見えた。


「井戸の家も引き継いだりするんじゃないのか?」

 團さんは、突然変異のように出てきた異能者だが、井戸さんの家系は時々異能者が出ていたらしい。


「うちは家系は弱小だからそんなものはないよ。それより崎守家でしょう? 本当に何も受け継がなかったの?」

 ペンキを塗る俺に井戸さんが聞いてきた。


「丈夫な身体とかじゃないですか。あ、はまぐり工務店の名刺は死に際、ポケットにねじ込まれてましたけど……」

「え!? それってもしかして俺たちのうちの誰かが、ケンゾウさんを殺したっていうダイイングメッセージじゃ……?」

 團さんに言われて、この時、初めて俺は爺様の死因について考え始めた。さすがに、あんな殺したって死にそうにない爺様と喧嘩するようなバカはいないと思う。疲れるだけだ。


「あぁ、そうか。崖から落ちたのかと思ってましたけど、異能者同士の戦いに巻き込まれた可能性もあるってことですよね? この工務店にそんなワイルドライフを攻めるような人いるんですか?」

 俺がそう聞くと、3人とも天井を見上げた。

 二階は倉庫になっているはずだけど、違うのか。


「実はな……。この工務店にはもう一人社員がいるんだよ」

 はまぐり社長が説明を始めた。

「そうなんですか。ひと月くらいいますけど、見たことないですよ。今は何をされてるんですか?」

「ん~っと、説明が難しいんだけど、山籠もりだな」

「それで給料をもらってると?」

「いや、たぶん給料は会社預けになってるから、給料をもらったことがないと思う」

「なんて名前の人なんです?」

「天狗さんだ」

「天狗って鼻の長い?」

「そう。ちなみに天狗さんも犬の家系だったはずだ」


 世の中には知らないことが多い。


「ああ、この流れはケントくんは、近々天狗さんに会うわよ」

 井戸さんの予想はよく当たる。

「大丈夫ですかね? こんなペンキで汚れた奴」


 自分を見ながら、なんとも情けない声が出た。


「大丈夫だよ。根はいい人だから」


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