81.【深海の遺跡】
81.【深海の遺跡】
「お~、綺麗に倒せるようになったなぁ」
『修行しましたから』
目の前で戦うのはヘレナ操る【不壊】だ、『機械種:マギア』の7メートルぐらいある人型に突っ込み綺麗に頭だけを切断して倒している。
『やはり装甲が厚くなった分倒しやすくなりましたね』
前回のダンジョン【炎獄の火山】で入手した【朱鉱石】を使い【不壊】など現在ある機体の装甲を強化した。
結果としては盾で身を守る必要がなくなり動きやすくなったのと、ヘレナがネットで戦闘映像などを見て学習したらしく動きが良くなっている。
そして今いるのはいつもの場所となってきた【アルミーシュ】ダンジョンだ、強化した【不壊】を試すというのと素材の補充にGPの確保と俺にとっては美味しいダンジョンなのだ。
『今日はこのままこのダンジョンで過ごしますか?』
「そうだなぁ、今のGPは1000万ちょっとかもうちょい稼ぎたいな」
【GunSHOP】の画面を開いて今現在のGPを確認する。
【ヘレスティーナ】を製作して使ってしまったGPをある程度は戻しておきたい、前みたいにひたすらGPに換えていけるなら楽なのだが今はダンジョン協会にも売却しないといけないので稼ぐのが多少大変になった。
まぁ昨日のダンジョンで倒した『サラマンダー』を売却したら700万ぐらいになったからお金的には美味しいんだけどね。
「後500万GPぐらいは稼いでおこうか」
『はい』
今あるのと合わせて1500万もあれば何か作る事になっても平気だろう。
「んじゃれっつごー」
『おー』
◇ ◇ ◇ ◇
「うーん、匂いが凄いな」
胸いっぱいに広がる潮の香り、波がよせてはかえす心が落ち着く音。
【アルミーシュ】ダンジョンでGP稼ぎなどを済ませた3日後、俺とヘレナがいるのはBランクの【深海の遺跡】というダンジョンだ。
名前から分かる通り来ているのは海が主になるフィールド型のダンジョンで入口に陸地がちょろっとあるだけで残りは全て海という変わった所だ。
海が主戦場となるダンジョンだからかここは他の人気のないダンジョンに比べて特に人がいない場所になる。
ここを攻略するには何かしら水に関係するスキルか特殊な乗り物が無い限り無理なのだから仕方のない部分もある。
さて、そんなダンジョンに来た理由だがもちろんこの間手に入れた【水中呼吸】のスキルをダンジョンで実際に使ってみたいというのもあるが。
「ヘレナ頼む」
『はい、【海丸】着水します』
俺がヘレナに声をかけると【格納庫】から丸い乗り物が出てきてそのままダンジョン内の海へと着水する。
今回海の中を探索するために作った新しい機体の【海丸】だ。
全長15メートル、幅4メートル、高さ2メートル50センチほどの大きさの潜水艇になる。
結構大きいが理由としては中を広くとってゆっくり出来るようにしたかったというのと材料があったから作ってみたって感じだ。
【水中呼吸】のスキル使うんじゃないのか?って話しが気になると思うが………しょうがないじゃん今のとこ5分しか効果がないしいくらなんでもまだスキルのみで探索はできない。
じゃぁなんで海のダンジョンに来たんだって話しだがきちんとわけはある。
ダンジョン内の海の中の9割は乗り物があれば平気だが一部の場所は乗り物ではたどり着くことが出来ず生身でいくしかない所がある。
その時にスキルが輝くのだ。
というわけで早速【海丸】に乗り込んでいく。上部にハッチがありそこを開くとハシゴがあり降りていく。
「うむ、相変わらずこの感じはテンションがあがる」
潜水艇の中は広く普通に立って歩くことが出来る、前の方は分厚い半円のガラスに覆われており海の中がしっかりと見えるし後ろの方には住居スペースというべきか棚とかベッドとかがある。
潜水艇の中で日をまたぐほど過ごすつもりはないが備えておいて損はない。
他にもよくわからないスイッチなどが沢山あるが基本ヘレナが操縦してくれるので俺が操作する事は無い。
潜水艇の前方にある操縦席へと座る。
「それじゃ発進」
『発進します』
【海丸】が静かに海の中へと入っていく。
「おー、めちゃくちゃ透き通ってるな」
海の中は岩がデコボコになっておりダンジョンの入り口にある陸地から奥へと進むほど深くなっていっているようだ。
透明度が凄くかなり遠くまで見えるが途中から深い青色になって見えなくなっている。
「あれは魚なのか魔物なのか」
遠くまで見えるから当然泳いでいる何かの姿も見える、大きさは1メートルぐらいありそうな魚で見たことない顔と色をしている。
【深海の遺跡】ダンジョンでは魔物のほかにも食用になる普通の魚もいるらしく外にいるよく知っている魚のほかに今見えている変な色の魚みたいな一見食えそうにもないが実は食えるみたいな魚もいる。
なのでぱっと見で魔物か普通の魚かの判断がつかない。
『マスター、敵です』
「お?どこだ?」
『あっちです』
ヘレナが敵の到来を告げるがどこにいるかわからない、すると潜水艇の分厚いガラスに敵がいる方向が表示される。
「おぉ、かっこいいこれ」
今回新しく作ったこの潜水艇、【格納庫】で軽く乗りはしたがどんな機能があるとかまでは本番じゃないと出せないと言われて知らなかったが、この操縦席の前にある部分がディスプレイになっていてそこに表示されるのってめちゃくちゃかっこいいな。
「あれは、イッカク?」
潜水艇のディスプレイに感動している間にも近づいてきた敵の姿が見えてきたのだが見た目がイッカクと呼ばれる大きな角をもった哺乳類のやつに似ている。
全長は12メートルほど、角が5メートル近くあるから全部で17メートルもあることになる、物凄くでかく見える。
『倒しますか?明らかにこちらに向かってきていますが』
イッカクの魔物はその大きな角をこちらへと向けたまま泳いできている。
「そうだな、ちょうどいい武装の確認をしよう」
『はい』
潜水艇には当然武装が積んである、地上では外から見ただけだが使うのは初めてだ。
『魚雷発射します』
ガコンと音がして次に魚雷が発射される音が聞こえてくる。
「おー、追尾するのか」
発射された魚雷を見て回避行動をとるイッカクだったが魚雷が追尾していった。
『はい、少しGPはかかりますが無駄にするよりかはいいでしょう』
今回新しく作った機体の【海丸】700万GP、武装が全部で400万GP、魚雷一発8万GP。
この間稼いだばかりのGPが吹っ飛んだが仕方ない。
「それじゃぁ回収も頼む」
『はい』
魚雷が当たり一部が吹き飛んで死んだイッカクに近寄り素材を回収していく、回収方法は荷物持ち君の水中バージョンを作りそれを外に取り付けてある。
【GunSHOP】でGPに換えるといくらになるか気になるがここではできないので後のお楽しみだ。
『マスター!敵が沢山きました!』
「ん?何でだ?」
『どうやら血に誘われたようです』
ガラスのディスプレイに敵の表示がいくつも出てくる、数えきれないがざっと20かそれぐらいはいそうだ。
『マスターシートベルトをお願いします、これから激しく動くことになりますので』
「了解」
ヘレナに言われた通り操縦席についているシートベルトをしめる、一般的な車にある奴じゃなくて戦闘機のパイロットなどが使うがっちりとしたシートベルトだ。
『いきます』
「はいよってうぉぉぉ」
ヘレナが合図した途端潜水艇が大きく動く。どうやら前方だけでなく後方からも敵が来ているようだ。
うぉぉ凄くぐわんぐわんする。
大きく右へ旋回して魚雷を発射しつつ近づいてきたイッカクの魔物へとブレードを伸ばして切りつける。そのまま流れるように走りながら時たま魚雷を撃っては近づいたのを切り捨てていく。
大きく動くので潜水艇の中が右へ左へと揺さぶられるがステータスが上がっているお陰か全然耐えれそうだ。
だが耐えれるからといってずっとこのままは流石にきついが。
「何か色んな種類のがいるな」
先ほど戦ったイッカクの他にマグロのような見た目の魔物やめちゃくちゃ細い魚とかもいる。どれも魔物だからか大きくて顔も怖い。
死んだ魔物が新しくきた魔物に食べられているのも見える、そしてその血の匂いに誘われて更に追加がきているようだ。
何度も魚雷が発射され、足りなくなれば【GunSHOP】で購入していきどんどん追加していく。清算がとれるかは怪しい所だが仕方ない。
『増援が止まりました、殲滅します』
暫く戦っていたがヘレナがそう言うと潜水艇の動きが大きく変わった、先ほどまでのつかず離れずの距離を保ってどうしても近づいてきたのだけ近接で倒していたのがこっちから突撃していってなぎ倒していく戦い方に変わっていった。
『殲滅完了です』
時間にして3分ほど、どうやら全て倒しきったみたいだ。
「水中が真っ赤だなぁ」
魔物の血って赤いんだなぁなんて考えてしまうほど海の中が魔物の血で真っ赤だった。
こんだけ血が流れていたらさっきみたいに地に誘われた魔物が来そうなもんだが、こないってことはこの辺りの魔物は狩りつくしたって事かな?
「回収していこうか」
『はい』
してこうかって言っても動かすのはヘレナ何ですけどね、まぁ気分の問題というかなんというか。
俺は操縦席で魔物が回収されるのを眺めるしかやる事がない。
魔物を回収していると次第に海の中が血の赤から青へと戻っていった、浄化機能でもあるのかダンジョンの海に溶け込んだのかわからないが視界がよくなってくれてよかった。
『回収が終わりました、総数72匹です』
「多いな」
恐らく流れていったやつとかもいるだろうし本当はもっと多かったんだろうしあくまで回収できたのが72匹って所か。
◇ ◇ ◇ ◇
「ここだっけ?」
『情報ではここのはずです』
血の匂いに誘われてきた魔物を倒し終わった後、何度もあの状況になるのはめんどくさかったので出来るだけ魔物を倒さず避けて進んできた。
深く、深く潜っていくと次第に周りが暗くなって見えなくなってきたが今はまだ数メートルぐらいなら見える感じだ。
そんな海深い所を潜水艇で進んでいく事4時間ほど、目の前に現れたのは崖に亀裂ができた場所。
【深海の遺跡】と言われている所から分かる通りここには遺跡がある、それがこの亀裂を進んだ先らしいのだが亀裂の幅は人が一人やっと通れるぐらいしかなく乗り物では無理そうだ。
「じゃぁ行ってみようか」
そう言って俺は潜水艇の真ん中あたりまで行き下にあるハッチを開ける、これは水中で外へ出るために設置された物だ。
【ヘレスティーナ】を装備して武器は水中銃だ今回の為に【GunSHOP】で買っておいた、水中銃は分かりやすく言うと魚を捕る銛突きみたいなものだがこれは武器として使用するため威力が段違いにある。多分普通の魚相手に使ったら相手が爆散する程度には威力が強い。
リロードする手間が怖いので10丁ほど用意しておいた、お値段はひとつ35万GPで全部で350万GPになる。
稼いでも稼いでも消えていってしまうGP………
『海水を注入します………圧力を同期、ハッチ解放します』
ヘレナの合図で水中のハッチが開く。
「おぉう、怖いなこれ」
足元は真っ暗で明かりは潜水艇しかない、潜水艇の中から見る水中と防具を着ているとはいえ自分だけで水中に出るのとでは別の恐怖が襲ってくる。
『平気ですか?』
「大丈夫だ」
ビビっているのがヘレナに伝わったのか気にしているようだ、ここで一人だったら心細かっただろうけどヘレナがいるだけで安心感が全然違う。
『酸素の方はどうでしょう?』
「ちょっと、待ってくれ。うん、これか?ちゃんと作動しているみたいだ」
取り合えず【海丸】を【格納庫】へと仕舞ってから色々確認する。
【ヘレスティーナ】の防具は酸素ボンベみたいな役割もついていてディスプレイには残り酸素量が表示されている。
はい、防具に酸素ボンベ付いてるなら【水中呼吸】のスキル意味なくね?っておもったそこの貴方、この先で出番がちゃんとあるから安心して欲しい。
正直俺も最初は防具内に酸素ボンベ付いてるならいよいよ死にスキルだなって思っていたけど………
「ここか問題の場所は」
水中を【ヘレスティーナ】についているスラスターの推進力で進む事数分見えてきたのはキラキラと虹色に輝く水の壁だ。
『ここですね、無効エリアは』
無効エリアと言うのはそのまんまの意味で機械などの機能を無効にしてくる変わったエリアだ、酸素ボンベや防具についている特殊な効果などありとあらゆる効果を無効にしてくるのだが唯一スキルだけなぜか使用できるというよくわからない所だ。
何でそう都合よくスキルだけ使えるんだとか思わなくもないがそういう場所がある以上そう言うもんだと納得するしかない。
この虹色の水の壁を抜けると遺跡があるはずだ。
「行くか!」
気合を一ついれて虹色の水の壁へと突撃する。
こうなるのか………
虹色の水の中へと入った瞬間防具や武器が自動で解除されてしまった、防具はネックレスへと戻り武器は手から強制的に離れて遠くを流れてついてきている。
あわよくばそのままいけないかなと思ってそのまま突入したが流石に無理な物は無理か。
【水中呼吸】のスキルを使用して虹色の水中を進んでいく、キラキラと流れる何かは綺麗で星の海を泳いでいるような気分になってくる。
ん?ここで終わりか。
3分ほど進むと手が外に出たのが感覚でわかる、思ったより無効エリアは短かったようだ。
もうすぐそこが外ならと地面に近い位置まで泳いでいく。
無効エリアの先は水の無い場所になるのでここで外に出ると落ちてしまう、なので底の方から外へ出たほうが安全だ。
「ぷはぁ………別に息を止めていたわけじゃないけど何となく息苦しかったな」
無効エリアを抜けてすぐに【格納庫】を開いて【赤雷】を呼び出しておく、ここは狭いので【不壊】は出せそうにもない。
『あれが遺跡ですか、何かの神殿のように見えますね』
目の前にはギリシャ神殿のような造りになっている遺跡が建っていた、全貌は見えない横の方は壁にめり込んでいて同化してしまっている。
表に出ているのは入口とその横がちょっとだけのようだ。
「さて、何が出るか」
【深海の遺跡】ダンジョンの情報であったのはこの無効エリアまででその先にある遺跡については何も情報がなかった、先に探索している人が秘匿しているのかなんなのか理由は知らないが調べてもそれらしいのはなかった。
「行こう」
『はい』
お宝があるのか見たこともない魔物がいるのか楽しみだ。
『その前に水中で回収した魔物をGPにするか試しませんか?』
「そう言えばそれがあった」
荷物持ち君も無限に荷物を持てるわけじゃないしGPに換える時間があるならやっておかないとな、この先なにがあるかわからんしGPはあるだけ助かる。