80.【炎獄の火山】
80.【炎獄の火山】
「ギャッギャッ!」
ガッガッと何かを殴る音が聞こえてくる。
「ギャギャッ!」
ガツッと鈍い音がして殴った本人の拳が怪我でもしたのか痛がっている。
「防具だけでここまでになるか」
現在地はCランクダンジョン【試しの洞窟】と呼ばれる場所だ、ここの名前になっている試しとは探索者をダンジョンが試す………からとかでは無くて。ここに出てくる魔物がゴブリンだけでしかも武器など持たず素手でただ殴りかかってくるという特徴があり、それを何かを試すのに癖ガンくて丁度いいからとつけられた名前だ。
主に新しい装備を手に入れたときに使われる場所でなかなか用途を考えるとえぐい事をしているとは思うがこういった場所がないと試せない物なども存在するため仕方ない。
ダンジョンには同じランクの中にも簡単なのと難しい物がある、敵が強かったりなにか特殊なフィールドであったり罠があったりと、同じランクでもその難易度は上下する。
今俺がいる【試しの洞窟】はCランクの中でぶっちぎりで一番下に位置するダンジョンだ、敵はゴブリンしか出てこず、罠も無く、特にこれといったギミックも無く、階層も平均的な全部で20階層しかない。
なのにCランクなのはここに出てくるゴブリンの強さがそれぐらいだからっていうその一点のみだ。
『どうですか?』
「うん、かなり凄いね。これだけ殴られているのに微動だにしないし」
考え事をしている間も、ヘレナと会話している間もずっとゴブリンが襲い掛かってきているが殴られている本人である俺は微動だにしてないし痛くもかゆくもない。
目の前には5体のゴブリンがいる、殴ってきているのはそのうち3匹だけだが手を痛めたであろうやつは後ろに下がっているので他のゴブリンが前に出てきたりして常に殴られ続けている感じだ。
微かにだが防具に何か当たっているような衝撃は受けている、しかしボーっと立っていても1ミリも動かされる心配がないほどの衝撃しかない。
「もう十分だし倒すか」
【ヘレスティーナ】がどれだけ頼りになるかを確認したところで殴りかかってきていたゴブリンを撃ち殺す。
「ギャッ」
「さて、次行くか」
ドロップ品を拾い次を考える、防具の確認はこれで終わらない。
◇ ◇ ◇ ◇
「ガウッ!」
狼の魔物が防具の上から腕をかんでくるが何も感じない。
「ここも余裕か」
ところ変わって現在地はBランクダンジョン【遠吠え響く森】だ。ここは【試しの洞窟】と似たようなダンジョンで出てくるのは狼のみ、さらに攻撃手段も決まっているというBランクの中では簡単とされているダンジョンだ。
とは言っても相手の強さはBランク相当なのでそれなりの攻撃力はもっている。
それなりの攻撃力は持っているはずなのだが。
「欠けもしないな」
『当然です』
ヘルメット内のディスプレイに表示されたヘレナが得意げな顔をしているけれどもそれもわかる、狼がどれだけ噛みついて来ようと【ヘレスティーナ】はびくともしない。
「ここで平気って事はかなり使えるな」
Bランクの中でも弱い方といってもここで通用するなら十分な性能があることがわかる。
んじゃ試し終わったし帰るか。
噛みついてきていた狼を撃ち殺していき防具性能の確認を終わるが、まだ続く。
◇ ◇ ◇ ◇
さて、次の防具性能の確認だが。
「うわぁ、やばい光景だなこれ」
目の前にはぐつぐつと煮えているマグマが流れている、地面は赤黒く普通の装備だとそれだけでダメージをうけそうだ。
次にやってきたのは【炎獄の火山】というBランクダンジョンだ、確認しにきたのは防具についている【属性耐性】になる。
今までこういったダンジョンは避けてきた、わざわざ特殊な装備が無いといけないようなダンジョンに行かなくても今の時代色んなダンジョンがあるしと思ってこなかったのだが【ヘレスティーナ】があればこういったダンジョンも今後これるようになるだろう。
「全く熱を感じない、むしろ涼しいぐらい?」
目の前の光景はいかにも暑そうに見えるが、防具内は全くと言っていいほどその熱が伝わってこない。
『きちんと機能が効果を発揮しているみたいですね』
「うん、そういえばこれってなにかエネルギー的なの消費したりしてるの?」
『いえ、それは防具に付与されている効果です。何かを消費するといった形で発動しているわけではないので効果は永続です』
「ほぉ」
もちろん世の中にあるお店に売られている道具でこういった特殊なフィールド内で活動するための物などがあるがここまで便利ではなかったと思う、他にはそういったスキルを持っているとかだとかもあるけどスキルを手に入れれるかは運だしな。
「んじゃ行くか」
今回このダンジョンに来たのは防具の確認もあるがそれ以外にも目的がある、それは鉱石の採掘だ。
鉱石をとって何をするかと言うと【不壊】などの機体の強化に使うらしい。
らしいって言うのはヘレナが欲しがったからとりに来ているが実際どこにどう使うのか、説明はされたのだが理解できなかったからだ。
「それで、どの辺にあるんだろう?」
『情報では山肌に洞窟があり、その中に採取ポイントがあるそうです』
「山のほうか」
そう言われて周囲にある山へと視線を向ける、今いる場所から山までは数時間もあれば到達できそうだ。
歩きながら風景を眺める、ドロドロとした溶岩が流れる川、赤い線が入った全体的に黒い地面。
まるで地獄のようだが、見ようによっては綺麗にも見える。
「敵のお出ましか」
溶岩の川からのそっと出てきたのはオオサンショウウオみたいな見た目をした魔物『サラマンダー』だ。
物語によって色んな姿形で描かれている魔物だがここではオオサンショウウオみたいな見た目でちょっとかわいい。
『かわいいですね』
どうやらヘレナも『サラマンダー』の見た目が気に入ったようだ、魔物の中にはグッズ展開されているものもあるのでさもありなん。
まずは1発、先制攻撃をしかける。
「効いてないなこれ」
弾丸は『サラマンダー』の肌にあたるとジュッと音を立てて消えた。
見えた感じから体表で弾が燃え尽きているのが分かる。
『属性弾をつかいましょう』
「そうだな」
アサルトライフルのマガジンを抜いて【魔法転換:銃弾(氷)】が入ったマガジンを装填してそのまま撃つ。
「ガァァオゥ!」
【魔法転換:銃弾(氷)】は弱点だったのか結構痛がっているように見える、しかも当たった場所が狭い範囲だが凍っている。しかしその凍った場所も『サラマンダー』の熱に耐えれないのか少しずつ融けていっている。
融けていくならそれ以上のスピードで凍らせていけばいいとばかりに撃ち続けていく。
「ガァァァ!」
『サラマンダー』の凍った部分がどんどん増えていき、次第に動けなくなっていくが手を休めることなく撃ち続けついには『サラマンダー』の8割ほどが凍って完全に動きを止めた。
「死んだかな?」
『もう少し様子を見ましょう』
動きを止めた『サラマンダー』だがまだ死んでいるかわからないのでヘレナの忠告通り少し離れて様子を見る。
こういうときにヘレナが操る【不壊】とかがあれば確かめに行ってもらうんだがこのダンジョンでは今回出番は無しだ、耐熱装甲にできない事もないそうだが結構なGPがかかるらしい。
「流石にもう平気かな?さていくらになるか」
数分待って完全に死んでいるのを確認してから『サラマンダー』へと近づいていく。
さっきまでは分からなかったが近づくと『サラマンダー』の体表が生きているよりも黒ずんでいるように見える、おそらくこの変化が死んだかどうかの判断が出来るところなのかな?
【魔法転換:銃弾(氷)】で凍った体のまま【GunSHOP】でGPへと変換していく。
「おー、35万GPか………うまいな」
1匹で35万GPはかなり美味しいが、【魔法転換:銃弾(氷)】はそこまで数がないので狩りつくす勢いでは稼げそうにない。
【ヘレスティーナ】の製作でかかったGPは1200万、このダンジョンで出来るだけGPを回収したい。
「ん?あれも魔物か?」
『サラマンダー』を回収してから視線を動かすと割と近い位置にころころと転がる何かがいる。生き物のように見えるので恐らく魔物だろう。
『あれは、グムムですね』
「『グムム』?」
『はい、【炎獄の火山】でただコロコロと転がっている魔物です』
「転がっているだけ?」
『はい』
「そっか………」
ただ転がっているだけの魔物とかよくわからないのもいるんだなぁ。
なんて思いつつパンッと撃っておく。『グムム』はその1発で死んだのか動かなくなった。
「2500GP、地味にうまいな」
『グムム』は黒くて丸い体に顔と口のような丸が3つ付いているだけの魔物だった。大きさはバスケットボールほどしかなくそれで1発で倒せて2500GPだと美味しい気がする。
見かけたら倒そうかな?
お小遣い感覚だがちりつもって言葉もあるしこういうのが地味にきいてくる場合もある。
「さて、洞窟目指すか」
『はい』
◇ ◇ ◇ ◇
「ここが洞窟?」
『そうですね』
『サラマンダー』と『グムム』を倒してから歩く事1時間半、火山の途中にぽっかりとあいた穴があった、ここがヘレナが言っていた洞窟だろう。
穴の大きさは縦に2メートル、横に4メートルほどの大きくはないが狭くもない微妙な大きさだった。
「ここに目的の鉱石があるんだっけ?」
『はい、中はいくつも枝分かれしているのでマッピングしながら気を付けて進みましょう』
「枝分かれかー、マッピングは任せてもいい?」
『お任せください』
「んじゃ、頼んだ」
ヘレナに頼る形になるが頼れるところは頼っていこう、洞窟内はちょっと暗いがみえないこともないのでそのまま入っていく。
『暗視モードを起動します』
「おぅ!?そんな機能つけてたの?」
『はい、もちろん標準装備ですから』
「知らなかった………」
ヘレナが暗視モードを起動する事により洞窟内が隅々まではっきりと見えるようになった、しかもかなり見やすい。
「思ったより見えるもんだな」
暗視を使う前からある程度見えてはいたが自分が思うよりも見えていなかったことが暗視を使う事でわかった。
「っていうか敵がいない」
洞窟に入って数十分、結構歩いたつもりだがまだ敵に遭遇しない。
『マスター、そこに鉱石の反応があります』
「えぇ!?もう?」
『はい、そこです』
もっと奥まで行かないと鉱石ってないもんだと思っていたけど意外と近くにあるんだな。
ヘレナがヘルメット内のディスプレイで鉱石がある場所を示してくれる。
「これか、たしかにちょっと洞窟の他の壁とは色が違うようにも見えるな」
色を見る為に少しだけ暗視を切って鉱石の色を見て見ると洞窟の壁とは少し色が違っていた。
洞窟の壁が赤銅色なのに対して鉱石は綺麗な朱色をしていた。
「あ、っていうかどうやって採掘するんだ?」
何も考えていなかったけど普通はピッケル的なのが必要だよな?
『手段はこちらで用意しておきました、マスター【格納庫】を開いてもらえますか?』
「わかった」
ヘレナに言われた通り【格納庫】を開くと中から手がドリルになった小さなカニみたいなのがわらわらと出てきた。
「何だこれ?」
『今回の為に用意した採掘用の機体です』
「こんなのいつの間に用意したの?」
『マスターが以前回収用ドローンを作る際にこういった物もあれば便利かもね?みたいな話をしていたのを覚えていたので作ってみました、必要なければ廃棄しますが?』
そう言えばそんな会話をした覚えがあるかも?すごい適当に言ってた事だとおもうが。
「折角作ったんだったら廃棄する必要なんてないよ、こういったの結構好きだし」
かしゃかしゃと動く小さなロボットが一生懸命に採掘を行っている、見た目も結構よくてこういったガジェット的なのは好みなのである分にはこまらない。
「そういえば、今回とりにきたこの鉱石って何てやつなの?」
『【朱鉱石】ですね、今【不壊】などに使っている素材と混ぜるといい物が出来るんじゃないかと思って欲しいんです』
「なるほど?」
何か新しい合金作るみたいな話してない?そんなこともできるの?まぁいいか………細かい事は気にしたらだめだ。
『マスター、もう少し奥にも同じ鉱石の反応があります』
「はいはい、そっちも取りに行くのね」
『はい、いきましょう』
何やら張り切っているヘレナだが、満足するまで付き合うしかないか。帰りにもうちょっと『サラマンダー』狩りたいし時間は気にしておこう。
『マスター、そこです』
「はいはい」