79.【ヘレスティーナ】
79.【ヘレスティーナ】
『マスター、防具が完成しました』
「お、出来上がったのか。今回はえらく時間がかかったね?」
『はい、その分いい物が出来ましたよ』
防具の製作をヘレナに任せて丸3日、ついに完成したようだ。
当初の予定では1日で完成するはずだったのだが、途中で『うーん、形が気にいりません』『違う』『これじゃない』『ン゛ー!!』といった具合に、何かが気に入らなかったのか形をある程度作っては壊して作り直すを何度か繰り返していた。
最初は防具が出来上がっていくのを眺めていたのだが2回ほど作り直した段階で見るのをやめて射撃練習をしていた。
そんなこんなの紆余曲折があり無事に?完成したのだ。
「それじゃぁ【格納庫】へいこうか」
『はい』
【野営地】から【格納庫】へとヘレナと一緒に移動する、【格納庫】内はいくつかの破片が転がっておりそれを作業員ロボットがせっせと掃除している。
「それで、どこに置いてあるの?」
キョロキョロと【格納庫】内を見渡すがヘレナが作っていたであろう防具が見当たらない、残骸の様に転がっている恐らく元防具達の破片はこの際気にしない。
『今から登場させます』
「登場?」
『はい、ではいきます』
ヘレナがそう言うと【格納庫】に置いてある【不壊】の横の空いたスペースの地面がゴゴゴと音を立てて開いていく。
地面から徐々にその姿を現したのは黒く光りを反射しないマットな塗装に仕上げられた防具。
頭はドラゴンをかたどっているのだろうか?少し前後に長い感じで口元には牙の装飾もついている。
眼の部分は細く青いラインの明かりが綺麗に光っている。
ガコンと音を立ててせりあがっていた防具が止まりその全身が見えた、フルアーマーの防具は全身が鎧で囲われており堅牢そうで何かの動物のような見た目はそれだけで威圧感がある。
「何だかめちゃくちゃいかつくない?」
ヒーロー物のロボットのような、見る人が見れば悪役が着ていそうにもみえる防具はかなりインパクトがある。
『はい、やはり見た目は大事だと感じたのでマスターの好きそうな物を選びました。よくないですか?』
「うん、まぁ正直かっこいいとはおもう」
なんだかんだ言って俺も男の子って事なのか、どこか中二病のようにも見える防具だがそれがかっこいい。
「これ、このまま殴ったりしても防具自体が武器になりそうだな」
硬くごつい手はそのままで十分破壊力を生み出しそうにも見える。
『もちろん、硬いですからそのまま殴っても十分な威力は出るとは思います』
ふーむ、改めて全身を見てみるがやはりいかつい。
「それで、これはどうやって装着するの?」
『そこなのですが、どうしますか?』
「どうするとは?」
『以前と同じ様にネックレス型にもできますけど、他の方法にもできますよ』
「他の方法ってなにがあるの?」
『そうですね、アクセサリーにするなら他にも指輪や腕輪などにも変えれますしいっそのこと変身ベルトなんてどうですか?』
「指輪とか腕輪か……それならまだネックレスのが楽かな?それと変身ベルトはさすがに無い」
そりゃ昔はそういう番組を見たこともあって玩具が欲しいと思ったこともあるが変身ベルトは恥ずかしすぎる。
けどやってることってあんまり変わらないんだよな、変身みたいなものだし。
『それではネックレス型にしておきますね。ここをこうしてっと、はい完成しました』
ヘレナが何か操作をすると飾られていた防具がぽわっと光って次の瞬間にはネックレスが空中に浮いていた。
「おぉう、ネックレスのデザインも変わったね」
『はい』
浮いていたネックレスを手に取ってデザインを見てみる、ネックレスはコインになっておりそこにドラゴンの装飾が彫られている。
『装着してみてください、いつも通り念じるだけで大丈夫です』
「了解」
ネックレスを首にかけ指先で少しいじってから防具の装着を念じる。
「おぉって何だこれディスプレイ?」
視界が一瞬暗くなったがすぐに明るくなり【格納庫】内が見えるようになるが目の前にディスプレイがあるのか何かを計測しているグラフが出ている。
『どうですか?』
「うおっびっくりした、そうかディスプレイだからアバター表示できるのか」
ヘレナが話した瞬間、ディスプレイ上でたまにヘレナが使っているアバターが表示された。
ディスプレイの中を歩き回る彼女はどこか楽しそうだ。
『はい、いつも探索中はイヤホンを使用しての声だけでしたがこれなら姿も見せれます』
「ふむ。ん?なんか視線がいつもより高いな」
『足が少し厚底になっているのでそのせいでしょう』
「なるほど?」
厚底……?まぁ防具だし足の裏も守らなくちゃいけないしな、多少分厚くもなるか。
「それで、この防具にはどんな機能をつけたんだ?」
ヘレナに話しかけながらも防具を着た状態で軽く動いてみるが何も着ていないかのように動きやすい、どこかが引っ張られるとか関節が曲がらないとかそういったことが一切ない。
『はい、まずはこちらをご覧ください』
そういってヘレナはディスプレイに何かの表を出してきた。
「ふむ、数値を出されても全く分からない………」
何やら細かい数字が並び何かとの比較もされているようだが全く分からない。
『たしかに。それでは取り合えず追加した能力をあげていきます』
ヘレナがそう言うと今度はスキルの名前と同じような感じで付与された能力がぽんぽんと表示されていく。
【ヘレスティーナ】
【斬耐性】【打耐性】【突耐性】【衝撃耐性】【魔法耐性】【水圧軽減】【属性耐性】【ブレス耐性】【剛柔】【グリップ】【飛翔】【変形】【身体能力補助】【エネルギー変換】
「えらくいっぱいあるな、それに何だこの【ヘレスティーナ】っていうのは」
『それはこの防具の名前ですね、そして能力についてはひとまず必要そうなのをピックアップして入れておきましたが後から何か追加したければ可能です』
「防具の名前か、【ヘレスティーナ】………まぁいいんじゃない?」
『ありがとうございます、それでは各能力について知りたい事があれば答えますが』
「そうだな、斬や打突っていうのは分かりやすいがこの【魔法耐性】と【属性耐性】って同じ意味じゃないのか?」
『いいえ違います、【魔法耐性】というのは所謂魔法力を扱う攻撃に対しての耐性です。それにくらべて【属性耐性】というのは火の熱や氷の寒さから腐食などの錆など全般の耐性です』
「そういう属性か」
わけられている理由は分かったが意味までは理解できそうもないな。違いなんて気にしなくていいか。
「じゃぁこの【ブレス耐性】っていうのも?」
『はい、一部の魔物が扱う攻撃手段の中にはブレスと呼ばれる攻撃があります。有名なので言うとドラゴンブレスなどですね、そういった攻撃は魔法などとは違いまた別の種類に属しますので耐性を得ようと思うと別の能力が必要になるんです』
ドラゴンが口から何か魔法的な物を吐き出す攻撃をしてくるのは有名だが一部の他の魔物にも似たような口から何かを吐き出す攻撃と言うのをしてくる、そういったものは基本的に何々ブレスって言われるんだがアレって特殊攻撃みたいな物なのか。
「んじゃ次の【剛柔】………は何となくわかるからその次の【グリップ】って言うのは?」
【剛柔】は何となくわかる、今も現在進行形で感じているこの防具らしからぬ動きやすさの原因だろう。硬く柔らかく、動きやすい。
『はい、【グリップ】と言うのは武器を持った際などに思わず落としてしまうような事がないように手に吸い付くイメージですかね?他にも走る時などの地面への足の踏み込みのときにしっかりと地面を踏みしめられたり、他には氷の上とかでも滑らずに動けるとかですね』
「わりと重要な能力じゃん」
『はい』
武器のグリップ力、踏み込みの際のグリップ力、そういった力を増幅させてくれるって事か。
「次は【飛翔】?なにこれ飛ぶの?」
『はい、今回防具を作る際に【リスィクリスタル】を使用したいといったのを覚えていますか?』
「うん、覚えてるけど」
『クリスタルを使って防具にスラスターを取り付けました、それにより少しの間ですが飛ぶことが出来るようになりました』
「おー、この部分に使ったのか」
ヘレナが説明しながらもディスプレイに今俺が着ている防具の画像を出してくれて背中側を見せてくれる。
そこには背中の肩甲骨あたりから防具がちょっとだけ浮いてその隙間から何かエネルギー的なものが漏れ出ている描写がされている。
恐らくこの隙間から飛ぶために必要な噴射か何かがされるんだろう。
『飛ぶだけでなく何かの拍子に崖から落ちてしまった際などにはパラシュートの役割もはたしてくれるでしょう』
「なるほど」
飛ぶだけじゃなくて落ちるときもか、そういった使い道もあるんだな。
「じゃぁこの【変形】は?」
『そちらは【飛翔】を使う際などに防具を【変形】させる必要があったり他にも動く部分がありますのでそれに使っています』
あー、【変形】って聞くともっと大きく変わる物かとかってに思い込んでいたがそうではなくちょっとした防具の形を変える際に使うという事か。
「あとは【身体能力補助】?」
『はい、【身体能力補助】は複雑な動きをする際にその補助をしてくれる感じですね。あまり実感はないとは思いますがあっても困らないかと思いつけてみました。』
「複雑な動き………バク転とか?」
『そうですね、防具を着た状態なら簡単にできると思いますよ』
今までの人生で一度もバク転などはしたことないがそれが軽々とできるというのか、ちょっとやってみようかな………でも怖いな。
「最後のは【エネルギー変換】と」
『【エネルギー変換】は【飛翔】などの際に使うエネルギーを魔石などで補充できる機能ですね』
「ふむ、つまり常に魔石で補充すればずっと飛んでいられるって事?」
『はい、どれだけ使うかは試してみない事にはわかりませんが可能です』
「ふむふむ」
もし魔石の補充だけで飛んでられるなら結構便利かもな。
『他にも能力としては追加していませんが、機能として体温調節が可能なようにクラ―を防具内に取り付けてあります』
「おー、それでか。さっきから全く寒くも暑くもないのは」
防具内にクーラーがあるのは便利だな………嬉しい。
『以上で今回付与した能力は最後になりますが、何か追加したい能力や機能などはありますか?』
「追加したいものか」
んー、どういったものがあればいいだろうか?今のところこれといったものは思い付かないが。
「追加したいって言うよりかは質問なんだけど、この【ヘレスティーナ】って名前。もしかしてヘレナ、自分の名前を入れた?」
気になっていたのだ【ヘレスティーナ】という名前、長くはなっているが名前の中にヘレナと入っている。
『はい………』
名前を指摘されたヘレナはディスプレイの中で恥ずかしそうに少し俯いてそう答える。
おぅ、その反応はちょっと意外だった。