60.依頼完了
60.依頼完了
「やっぱり回収係みたいなのが欲しいな」
ヘレナが操る機体が散らかした『機械種マギア』の残骸を集めながら再びそう思うようになった。広範囲に残骸が散らばっていて回収が大変だ。
『回収係ですか?』
骨伝導のイヤホンからヘレナの声が聞こえてくる、彼女………女性の音声なので彼女と呼ぶが、彼女は俺と同様に散らばってしまった残骸を盾でガリガリと削りながらも一か所に集めている。
「今回は特にあちこち散らばったけど、普段も時々回収が面倒だなって思う時があるからさ。そういったときの為に回収専用の何かが欲しいなって」
『なるほど、それでは専用の物を作りますか?荷物を載せるようの箱を取り付けた機体を1体と回収用ドローンを数体作る事をお勧めします』
荷物を載せる用の機体に回収用のドローンか。
「ん、荷物を載せるようのは別に要らないんじゃないか?目の前まで運んできてもらえればGPに換えるか【空間庫】へと仕舞うから」
『回収するだけならそうですが、ダンジョン協会へと手に入れた魔物などを売るさいに【空間庫】から取り出すのは危険だからしないんじゃなかったんですか?』
「ダンジョン協会へ売る際って言われても………ん?そういえばほとんど売った記憶がないな?」
最初は普通に袋に入れて持っていってた、獲物も小さかったしそれで充分だったからだ。だけど途中から魔物が大きくなってGPも沢山使うようになってほとんど売る事が無くなってしまっていた。
最後にダンジョン協会へと魔物を持ちこんだのっていつだ?【フィルテイシア】でBランク試験の時に倒したやつはいくつか売ったが………あれは回収しにきてくれたからだしな、それがなければ『踏み均す者』もGPに換えていたと思う。
今思い返してみればダンジョン協会に魔物を売るって事をほとんどしてないな、全部GPに換えたりしてたからなぁ。
『まさかマスター、ダンジョン協会へと獲物をほとんど売らずにGPへと換えていたんですか?それは少しまずいかもしれませんね』
「何でまずいんだ?」
『考えてみてくださいマスター、あなたはそこそこの時間ダンジョンへと通っています、しかし持ち帰るのは少しだけの魔物。実力が無くて獲物が少ないならまだわかりますがマスターはBランク試験にクリアしてその実力を示しています。なのに持ち帰っている獲物が少ないとなるとあらぬ疑いをかけられる可能性があります』
「あらぬ疑い?」
『ダンジョン協会以外の否認可の商会へと獲物をおろしている疑い、個人的に別の用途に魔物が必要だと思われる疑い。他にもありますが主にかけられる疑いはこの辺りでしょうか』
「まじ?」
『マジです』
否認可の商会への獲物の横流し、これは犯罪になる。最近もどこどこの業者が裏から魔物を入手していたとかで捕まっていたのがニュースになっていた。
では、なぜ魔物を売れる先がダンジョン協会だけなのか。そんなの独占になるし国が許さないんじゃ?って思うかもしれないがその国が許可している事なのだ。
どうして許しているかというと魔物という特異な物に対する処置だ。
今までにはなかった未知の素材、研究が進むにつれてその有用性が分かってきてどこもかしこも魔物を手に入れるのに躍起になった。
法外な値段での買取、立場の弱い者からの搾取、裏ルートでの横流し。数えきれない程の問題が起きた。
そういった問題が起きないように国が主導で作ったのがダンジョン協会、ここ以外に魔物を売った場合犯罪となり処罰の対象となる。
ダンジョン協会が一手に魔物の買取を引き受けているので果たして買取値段が適正かどうか、こちらにはそれを知る手段は無いのだが時々国から監査も入っているし恐らくだが大丈夫だろう。
監査にはいる人間が大丈夫なのかとか気にはなるがそこまで気にしだすときりが無いので考えるだけ無駄だ。
そんなわけで横流しやらなんやらは疑いをかけられるだけでも結構きつい。
「なら今回はちょっと多めに魔物を狩ってダンジョン協会にも売るか」
『それがいいでしょう、現時点でダンジョン協会から声が掛かっていないという事はまだ疑うかどうかの段階でしょう。今からでも修正しましょう』
他にも機体の上に乗っての射撃とか試してみたかったしちょうどいい、もっと狩ろう。
因みに今回のヘレナが倒した『機械種マギア』は全部で5万GPになった、全部でだ。全ての機体は見事にバラバラでコアも砕けていてまともに売れる物が無く残骸だけの値段となった。
◇ ◇ ◇ ◇
1体。
『よっ!』
2体。
『ナイスショット!』
3体。
『うまい!』
「はぁ………」
構えていたアサルトライフルをおろしため息をつく。
『いい感じですよ、マスター』
今いるのはヘレナがあやつる機体の上だ、あれから敵を探して機体の上へと乗り動いていたのだが道中に出てくる雑魚はヘレナが全てひき潰してしまうので出番がなくまとまっている部隊が出てくるまでやる事が無かった。
そしてやっと敵を見つけて機体の上からアサルトライフルを構え倒していったのだが敵を1体倒すたびにヘレナがよいしょをしてくるのだ。それが何と言うかちょっとうるさい。
別によいしょされるのを嫌がっているわけでは無い、ただ撃つたびによいしょされるのはうるさくなってくる。
「なぁ、ヘレナ」
『はい、何ですか?マスター』
「よいしょしてくれるのはいいんだがもうちょっと間隔をあけて頼む」
『うるさかったですか?』
「いや、そう言うわけじゃないんだがこういうのってタイミングが大事だろ?常に言うんじゃなくてタイミングよくいった方がよいしょは効果的だぞ?」
『なるほど、修正します』
ふぅ、何とかなったか。こういうのって言いずらいから言葉を選ぶんだよな………
「そういえば回収機どうしようか?これのコアで作れるか?」
そう言って指さすのは最初の方に倒した子機の『機械種マギア』だ、小さいのならこれで作れるんじゃないかな?
『はい、それで可能でしょう。必要になる分だけ持ち帰りましょう』
「それじゃぁ取り合えず全部【空間庫】へと入れておくか、ダンジョン協会へと売る分もあるしな」
『そうしましょう』
というわけでかたっぱしから【空間庫】へと入れていく、こういった作業も今回で最後になるといいなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇
「んじゃ作り始めるか」
現在地は【格納庫】内、これから倒した魔物などを集めてくれる機体を作るのだ。
『現在残っているGPは35万です、残りGPを考えると作れたとしても3体だけでしょう』
残りGPが心もとないな………ぐぬぬ、さっき回収したやつGPに換えたくなってきた。コアとかも全部無事だし結構な稼ぎなんだけどなぁ。
「3体だけとなると荷物運ぶようのが1体に回収用が2体か?少なくないか?」
『GPが少ないのでどうしようもありません』
「ふむぅ、【リスィクリスタル】1個だけあるし売ってみない?」
ちょっといくらで売れるか気になってたんだよね。
『私は別に構いません、マスターの判断に任せます』
「じゃぁ売ってみよう」
『はい』
【空間庫】から【リスィクリスタル】を取り出しGPへと換えていく。
「おぉぅ、これだけで50万GPか」
コア一つで50万GP、かなりいい稼ぎだ。今は倒すのも余裕になって来たしちょっと狩り続けるのもありかもしれない。
『現在85万GPです、これだけあれば荷物持ち用が1体に回収用ドローンを6体は作れます』
「んー、荷物持ちのやつって普通の大きさだと全部載せきれなくないか?どういうのにするんだ?」
ここ最近いくダンジョンは魔物が比較的大きい、現在いるダンジョンでもさっき倒した1部隊分の『機械種マギア』だけで大きさによっては回収しきれないとかもでてくるだろうし。
『そうですね、では機能の部分から〝機体への機能追加〟を解放してみませんか?』
「〝機体への機能追加〟?この30万GPのか」
『はい、それです』
「これは何が出来るようになるんだ?」
〝機体への機能追加〟を解放しつつヘレナへと聞く。
『それは特殊な効果を機体へと追加する事のできる機能です、例えば今あるこの機体へ何か能力を追加するとしたら反重力機能でしょうか?効果は移動する際少し浮く事が出来るようになります。この機能で姿勢のブレが無くなりさらに安定するでしょう。他にも腐食耐性などを追加できたり斬撃耐性など状態異常系のもあります』
「反重力とかあんの?めっちゃほしい」
『機体へ追加するのに100万GPかかります』
「え?この〝機体への機能追加〟を解放しただけじゃダメなのか?」
『はい、それは機体へ機能を追加する機能を解放しただけなので』
「ややこしいな………まぁいいや取り合えずこの機能で何が出来るんだ?」
ややこしいがそれはいい、もう解放した後だしな。問題はこれで何が出来るかだ。
『はい、私のおすすめは機体へのアイテムボックスの効果を付与する事です』
「アイテムボックスって俺の【空間庫】と似たやつだろ?そんなレアっぽいのつけれるのか?っていうかそんな効果つけるのにどれだけGPがかかるんだ?」
『大きさによりますが今回作る目的の物だったら10万GPほどで大丈夫です』
「ならいいか」
足りなければまた狩ればいいしな。
『はい、それではどういった形の物を作りましょうか?ドローン型にはあまり種類がありませんが荷物持ち用ならいくらでも好きな形にできますよ』
「そうだなぁ………」
形かぁどうしようか、まず何を考えるべきだろう?やっぱり使いやすいのがいいよな。大きくなくて見た目も変なのよりかはシンプルのが扱いやすい。
問題になるとしたらなんだろう?一緒に連れ歩く事になるから目立つやつは避けるべきだけどアイテムボックスの能力がある時点でそれは意味ないか?
そういった効果の付いた物が宝箱から出たとかにして連れて歩くか?それならまだ理由としてはありえそうだし。
「シンプルに四角い箱にしよう、ちょうど子機みたいな形のやつに。多脚で色は銀色でどうかな?」
『そうですね、後で気になればいくらでも変更可能なのでまずはそれでもいいんじゃないでしょうか?』
「回収用のドローンは、よく知らないしなんかいいのある?」
『はい、ドローンは羽付きタイプだと音がうるさいので羽無しの物にしましょう、少し高くなりますが快適に扱えると思います。後は1体で持ち上げれない物が出た場合の為にワイヤーフックも取り付けましょう』
「んじゃそれで3体ほどお願い」
『了解、全部で45万GPとなり残りGPは10万となります』
「10万か、ぎりぎりだなぁやっぱりもうちょっと狩るべきだな」
あれだけあったGPも使うとなったら一瞬で消えてしまった、しかも今後はダンジョン協会へと売る分も考えないといけなくなるから手に入るGPも総合的には少なくなってしまうだろう。
『出来ました』
「えっ!?早くない?まだ5分ぐらいしか経ってないけど………」
ほんのちょっと考え事をしている間に完成したようだ、はやい。
『簡単な物なのですぐですよ』
「そうなのか」
『はい、それより見て下さいこれが完成した機体です』
ヘレナがそういうといつのまにか目の前にさっきまで言ってた回収用の機体が並んだ。
荷物持ち用のシンプルな箱型に四つ足が生えた物でキャリーバックの様に長くなる取っ手がついている。しかも移動に不便しないようかこちらも足の先はタイヤがついていて歩くこともできるし車輪での移動もできるようになっているみたいだ。
高さは普段座る椅子より気持ち高いかな?ぐらい。乗ったら地面に足がつかないかなぐらいの大きさだ。
ドローンの方はよくみる形のやつで、羽の部分が4つ付いているタイプだが羽はなくそこには空洞しかない。羽無し扇風機みたいだ。
「これドローンはどうやって飛ぶんだ?」
『コアの動力源を使い飛びます』
「そうじゃなくて、羽がないけどどうやって飛ぶんだ?これ」
『説明してもいいですが理解できるかわかりません、かなり複雑な仕様となっています』
「あー、魔法的な力で飛んでいる感じ?」
『はい、その説明が一番わかりやすいでしょう』
なるほど………魔法的なアレなら聞いても理解できそうにないし聞かないでおこう。飛ぶならそれでいい。
『それではマスター、子機のコアを4つ制御してください』
「はいよ」
【空間庫】から子機のコアを取り出し【制御:機械種マギア】を意識する。
「ん、これでいい?」
『はい、それではそれぞれに入れていってください』
ヘレナがそう言うと荷物持ち用のとドローンそれぞれの体の中心がパカッと開いてコアを入れる部分が丸見えになったのでそこへ入れていく。
『起動します』
「おー」
荷物持ち用はすくっと立ち上がり、ドローンは音も無く飛び始めた。起動するまで見えていなかったがそれぞれにアームがついていて恐らくこれで作業するんだろう。
「んじゃ外で試してみるか」
『はい』
◇ ◇ ◇ ◇
「いいじゃん、かなり楽になったね」
『それはよかったです』
外へと出て速攻で敵を見つけてこれまたいつも通りに倒していって今は回収する時間。作ったばかりの機体をそれぞれ使っているのだがこれがかなり便利だ。
荷物持ち用君は俺の目の前で待機してドローンがアームで掴んだ機体の残骸を持って来てはまた取りにいってを繰り返している。荷物持ち用君はそれを自分のアームで掴み前方にあいた穴へと吸い込んでいく。
容量がどれだけあるかも調べないといけないな。
「それじゃぁもうちょっと狩ってダンジョン協会用とGP用のも稼いでこよう」
『了解』
◇ ◇ ◇ ◇
「ってなことがあったんですよ」
「そうでしたか、それはいい探索になりましたね」
「はい、荷物持ちがいてくれるだけで凄く楽です」
「うおぉぉぉ!」
ダンジョンから帰ってきて今いるのは神宮寺家だ、話し相手は立花さん。神宮寺さんは俺が連れてきた荷物持ち君に夢中でさっきから叫びながら真剣になにかを調べている。
あれからいくつかの部隊になっている『機械種マギア』を倒してGPは80万ほどまで戻しておいた。ちょっと大変だったけどヘレナが操る機体と回収用の機体があったのでかなり楽ができた。
ダンジョン協会へとは2部隊分ぐらいの素材を売り払っておいた。清算出来次第口座に振り込まれる予定だ。
「あ、そうだ。はい、これが依頼の品です」
「たしかに、受け取りました」
別の袋へと移しておいた【ラドナクリスタル】を3つ取り出し渡しておく、これが本来の目的の依頼の品だ。なんだか色んな事があったからちょっと忘れていて危なかった。
「報酬はダンジョン協会が口座へと振り込むのでお待ちください」
「了解」
「うぉぉぉぉ!」
色んな事があったが無事依頼が終わって一安心である、今度はどこにいこうかな?