59.ヘレナ
59.ヘレナ
「おぉ!もうほぼ完成してる!」
晩御飯を食べ終えて【格納庫】へと戻って見ると〝作業員ロボット〟などがパーツを運んだりして機体を作っていた。
下半身の多脚と頭の円盤部分は既に取り付けられており残すところは防御用の盾を取り付けるだけみたいだ。
「あれ?盾は横に取り付けるんじゃなかったのか?」
作業しているのを見ていると最初作ろうとしていた形と少し変わっていた、盾の位置が横から機体の下へと変更されている。
『はい、盾を展開する場合にシミュレーションをしたのですが横からよりも下から取り出す方が動きが早いので修正しました。イメージ映像をご覧ください』
ヘレナがそう言うと目の前に映像が投影された、これは今作っている機体の盾の取り出し方の2パターンだ。さっき言ってた横からのやつは動作が大きく遅い、しかし下から取り出す場合はサッと取り出せているのでその違いは明らかだ。
何て言うか横からに比べて必要な動作が少なくコンパクトな感じをこの映像からは受ける。これなら確かに取り付ける場所を変更したのは納得だ。
「それにしても思ったより完成がはやいな、もうちょっとじゃないか?」
『はい、残りおよそ30分で完成する見込みです』
「じゃぁここでちょっと眺めてようかな」
◇ ◇ ◇ ◇
『マスター、完成しました』
「お?おぉ!」
ヘレナの声が聞こえていじっていた携帯を【空間庫】へと戻し顔を上げるとそこには完成した機体がドンっと置いてあった。
色は暗めの灰色で多分これは素材の色そのままなのかな?イメージ映像で見た通りの姿形だが実際に目の前でみるとまた違った感動がある。
取り合えず近づいて触ってみる。
「分かってたことだけど大きいなこれ」
『伏せた状態で6メートルほど、立ち上がると7~8メートルになります』
「でかいなぁどうやってのぼるんだ?これ」
今は脚を折りたたみ胴体を地面へと着地させているからと言っても大きい、普通にハシゴとか無いと上にのぼれそうにない。
『そう言うと思って側面にハシゴを取り付けておきました』
「これか」
機体の側面へと移動すると大きな車両とかによくある鉄の棒をコの字にしたやつをぶっ刺しただけのやつがあった。
剥き出しなのがちょっと不安だがのぼってみる。
「おぉー結構平らだな」
機体の上は少しだけデコボコしている程度で普通に動く分には問題なさそうだ、端の方には機体にへこみがありそこに取っ手が埋め込まれるように取り付けてある。
他にも取っ手になりそうな部分が多く機体の上で行動するのにあれこれ使えそうだ。
「これって中にも乗れるんだよな?」
『はい、中心より少し前に乗り込むハッチがあります』
ヘレナの声に従って動くと中へ入れそうなハッチとその横に小さなパネルと数字のキーが取り付けてある。
「これは?」
『生体認証とパスワード入力キーです、初期設定ではパスワードが0000となっているので変更しておいてください。変更方法は初期設定である0000を押した後に決定とキャンセルボタンを同時押しして表示された数字が点滅しているあいだに新しいパスワードを入力してください。その後もう一度設定したパスワードを入力する事でハッチが開きます』
「めんどくさいな………生体認証だけでよくない?」
『こういった物はいくつも設定しておくことにより一つがダメになっても別の手段で開ける事が出来るようにあらかじめ設定しておくんです、つべこべいわず設定してください』
「はい………生体認証はどうやって登録するんだ?」
『それは既に設定済みです、パスワードだけ変更をお願いします』
生体認証を勝手に登録できるならパスワードもそれっぽいのにしてくれたらいいのにって思うのは甘えすぎか………
ヘレナに言われた通りパスワードを変更しつつそんな事を考える。
「よし、これで出来た。これでもう一回パスワードを入力すると開くんだっけ?」
『いえ、その必要はありません。こちらで開きます』
その声と同時にハッチからプシュッと音がなりわずかに開いた。
「ヘレナが開けれるならますます設定する意味がわからないんだが?」
『まぁいいじゃないですか。そういうものですよ』
「そういうものか」
『はい』
そういう物なら仕方ないか、まぁ中に入ろう細かい事は気にしない。
ハッチを開けて中へと入ると少しハシゴで下りるようになっており、その先に気持ち少しだけ広めにとられたコクピットが現れた。
中にはボタンが数個まとめられたパーツが左右にいくつかあり座る部分の手元にも何個もボタンがある。
座る所はふかふかのクッションになっており眠かったらここで休憩する事も出来そうだ。
コクピットに座ってみる。
「いいねぇ」
VRゲームなどでこういったコクピットに乗り込む系があるが、やはりこうして感触があると全然違うリアル感というか何というか。
「これってどうやって外をみるんだ?」
『外を見るには機体に動力源がないといけません、【リスィクリスタル】を設置しましょう』
「どこに?」
『外です』
「外か………」
コクピット内でもうちょっと遊びたかったが仕方ない一旦外へ出よう。
椅子から立ち上がり後ろのハシゴをのぼりハッチを開けて出る。
「どのへん?」
『少しお待ちください』
機体の上に乗り待っていると装甲の中心に切れ込みが入り30センチほどの穴が空いた。
するとその穴から円柱の透明なケースが出てきた。
『そこへ入れて下さい』
「ほい、ん?ピッタリだな」
円柱のケースを開けて中へ【リスィクリスタル】を入れるとあらかじめわかっていたかのようにぴったりはまった。
【リスィクリスタル】を入れたケースは中身が入った事を確認したのかそのまま元の穴へと戻っていった。
『事前にちゃんと計算して作りましたから当然ぴったりです、それよりも起動しますよ』
「おう」
そりゃそうか、作る前から分かってることなんだから計算してるに決まってるか。
「お、おぉ」
機体の所々からプシューという排気音が聞こえたかと思うと多脚が動き出し視線がさらに上がった。
「安定感がいいね」
『はい、立ち止まっていた場合の姿勢のブレはほぼゼロと言えるでしょうし、走行した場合でもそこまでたいした揺れにはならないはずです』
「ほー」
実際に使ってみるまで何とも言えないがヘレナがここまで言うのならそうなんだろう。
そう思いながら俺は機体が動いたのでコクピットへと戻り椅子へと座る。
「さて、それじゃぁ外を見てみたい」
『はい』
そう言った瞬間コクピット内に光りが溢れ眩しいと感じる間もなく外の景色が全面に映し出された。
それはよくロボットアニメなどで描写される感じのまさにアレだ。
「なるほど、この辺はゲームみたいだなぁ」
正面はもちろん右も左も下も上も、見えていないが恐らく後ろも、全方位が見える状態になっているはずだ。
「どうやって操作するの?」
『思念操作になります、椅子の肘置きの先に丸いのが見えますか?そこに手を置いてください』
ヘレナの声に従い見ると肘置きの先に丸い不透明の白い半円の物があったのでそこへ手を置いていく。
「思念操作か、操縦桿とかのがそれっぽくてよかったな」
やっぱりこういう機体って操縦桿があってそれを握って操作するものとばかりおもってた。って言うかそういうのに憧れてた。
『舐めてるんですか?』
「えっ?なにいきなり」
『操縦桿なんかで操作しようと思ったら一体どれだけの訓練時間が必要になる事か本当にわかっているんですか!?』
「お、おう………」
『あなたの事を考えて思念操作できるように調整したのに、操縦桿があったほうがいいだなんてひどいです!』
「すみません………」
『悪いと思っているなら2つほど買って欲しい物があります、機能から〝AI搭載機能〟を、消耗品から〝イヤホン〟を買ってください』
「はい、別に普通に言ってくれたら買うのに。って高いな50万か」
〝AI搭載機能〟が50万、〝イヤホン〟が3万と意外と高い、もう残りGPは160万か………
「これで何が出来るんだ?」
『〝AI搭載機能〟の解放で私がこの機体を操る事が出来るようになります、〝イヤホン〟は外でも私と会話が出来るようになるんです』
「ほー確かにヘレナが外でも操縦してくれるなら楽だな。ん?さっきも割と機体動かしてなかった?起動したりなんやら」
『それは【格納庫】内だったからです、ここから一歩でも外へ出ると私はあなたへのサポートが行えません』
「なるほどね」
【格納庫】内限定であれこれ操作が出来ていたわけか、そして〝AI搭載機能〟を解放したことによって外でも機体を通じて俺と繋がれるって事なのかな。
「ん?これってホントにイヤホン?」
〝AI搭載機能〟と同時に買った〝イヤホン〟は小さな丸いシールだった、とてもじゃないがイヤホンにはみえない。
『はい、それは骨伝導イヤホンです。マイク機能も同時についているので外でも私と会話する事が出来ます。耳の前に張り付けると肌と一体化して目立たなくなる特殊な物です』
「骨伝導か、使った事ないんだよな」
耳の前に丸い小さなシールを張り付ける、ペタッと貼るだけなのでなんとも頼りないが肌と一体化するらしいので問題ないだろう。っていうかこんな効果がついているから1つで3万もするのか?
『どうですか?聞こえますか?』
「おおぅ、聞こえるけどなんか変な感じ」
ちょっとこしょばい感じがするが聞こえ方も普通と違っていてちょっと面白い。
『最初は違和感を感じるかもしれませんがすぐに慣れますよ』
取り合えず一通りみて満足したのでコクピットから外へと出て機体の上へと戻る事にする。
「武装どうしようか」
次に悩むのは武装だ、ハンドガンやアサルトライフルなど俺が使える【GunSHOP】で買える物と似たような奴が機体に取り付けれるって事なんだと思うんだけど。
問題は高いんだよなぁ。
銃の中で一番やすいハンドガンでも50万、最新のやつにしようとおもったら95万もする。アサルトライフルとかならもっと高い。
『そうですね、残りGPから考えて買えたとしても〝ブレード〟の項目でしょうか』
〝ブレード〟は他のとちがって最新のでもそこまで高くない、最初の〝ブレード【両刃剣】〟でも最新ので50万と安めになっている。
銃がメインだから近接攻撃のは安いとかなのかな?
「〝ブレード〟って色んなのあるんだなぁ普通の剣の形からビーム系まで………ん?これは〝ブレード【パイルバンカー】〟?こんなの見ちゃったらもうこれに決定するしかないだろ!」
正直今回は武装を諦めて盾に徹してもらおうとおもったが〝ブレード【パイルバンカー】〟とかみちゃったら使うしかないじゃないか。しかも最新のでちょうど100万GPとちょっと高いが許容範囲だ。
パイルバンカーはブレードとかじゃないだろう?とかいう細かい事は気にしないあったらからそれでいい。
『〝ブレード【パイルバンカー】〟ですか、それなら〝スラスター〟も付けませんか?ちょうどいいのが30万GPで………』
「買う!」
そう言えばスラスターとかもあったんだった買うしかない、【GunSHOP】を開いてそれぞれ買っていく。
『それでは取り付け作業に移ります、作業予定時間は30分です』
「おっけー!」
楽しみだなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇
『完成しました』
「お!早速外で………試せる?」
ワクワクしながらまっていたら30分なんて一瞬だった、っていうか取り付け作業をずっと見ていた。
購入した〝ブレード【パイルバンカー】〟は新しいアームが追加され体の横から伸びるようになっていて〝スラスター〟は背中と横と前の四方と各脚に取り付けられていた。
『はい、いつでも戦闘可能です』
「それじゃぁ早速行ってみようか………ってどうやって出したらいいんだ?」
【格納庫】の扉はどうみても機体よりも小さい、どうやって外で取り出せばいいんだ?
『外へと出てから【格納庫】を使い私を呼んでくだされば私が操作して外へと出します、そのさい渦の大きさは自動で変更されるので大丈夫です』
「そうなのか、んじゃ取り合えずやってみるか」
まずは【格納庫】から外へと出て出入口の渦を一度消す、外は【アルミーシュ】のダンジョン内でビルの中なのでここでは呼び出せないから広い道へと出る。
「ここでいいか」
瓦礫が少なく呼び出せそうな場所まで移動してから【格納庫】の渦を呼び出す。
「ヘレナ、機体を外に出してくれ」
『了解』
「おぉ!映画のワンシーンみたいだ」
ヘレナに声をかけると【格納庫】への入り口となる渦が大きくなりそこからゆっくりと作った機体が出てくる。何て言うか映画のラストシーンとかピンチな場面で登場する英雄みたいに見える。
「それじゃぁ敵の所へ行ってみようか」
『はい、背中に乗ってください』
ヘレナはそう言うと機体の姿勢を下げてくれたので背中へと乗り込む。
「外で乗るとまた違った感じがして面白いな」
【格納庫】内で乗った時も楽しかったが外で乗ると解放感があって別の楽しさがある。
「それじゃぁ取り合えず敵が【気配感知】にうつるまで移動してみようか」
『はい』
俺を乗せた機体が静かに動き出す。
「おぉ、全く揺れないな」
『当然です、私が操作するんですから』
機体の背中の上で余裕で立っていられるほど揺れが少なくて快適だ、一応手すりもあるが必要なさそうだ。
「あ、早速いた」
走り出して2分ほど、びっくりするぐらい近くに敵がいた。しかも【リスィクリスタル】を出した機体がいるあの数が多い所だ。
『こちらでも敵を確認しました、作戦はどうしますか?』
「うーん、あの中にヘレナが突っ込んでいったとして倒されることはない?」
『無いですね、余裕です』
「余裕なのか………っていうかその自信はどこから出てくるんだ」
『任せて下さい』
なぜか顔も見たことないヘレナの顔がどや顔しているのが脳裏にちらついた。それぐらい自信満々な言い方だった。
『敵へと突撃するので一度降りてもらえますか?』
「はいよ」
話している間に結構近づいたので言われた通り機体の背中から降りる。
『それでは行ってきます』
「行ってらっしゃい」
そう言うやいなやヘレナはスラスターのブーストを使い敵へと突っ込んでいった。
敵の数は子機が15体、リーダー格が5体、ヘレナが操る機体と同じぐらいの大きさのが1体のグループだ。
「やべぇなんだありゃ、そういう使い方するのか」
ヘレナは防御手段であるはずの盾を体の下から取り出したかと思うとそれを構え敵陣へと突撃していった。
子機がバラバラに破壊されて吹き飛んでいき、リーダー格の銃による攻撃もむなしく子機と同じ様に盾を構えた突撃にバラバラになり吹き飛んでいき、そのままのスラスターの勢いで大きいやつに接近したかと思ったら〝ブレード【パイルバンカー】〟を取り出し打ち込んで倒しきってしまった。
パイルバンカーを受けた敵は上半身と下半身が引きちぎれバラバラになってしまった。
『どうでしたか?』
「んーやりすぎ」
イヤホンから聞こえる声へと返答する、どう考えてもやり過ぎである。