48.【フィルテイシア】『踏み均す者』 #6日目・7日目
48.【フィルテイシア】『踏み均す者』 #6日目・7日目
異常進化した【ダンジョンウォーカー】である『踏み均す者』、その見た目は『グランドドラゴン』を基本にしていて額に大きな角が3つ並んで伸びていて背中にはその巨体の割に小さい翼が付いている。
『踏み均す者』という名前はその巨体とあいつが歩いた後には全てが平たくなってしまっているのでそこから名づけられたのだろうと予想できる。
今もその歩みを眺めているが『踏み均す者』が動く度に地面が軽く揺れる。
あんな大きな体をどうやって維持しているんだろう?
『踏み均す者』との距離は数キロはあると思うので目算になるがその大きさは2、30階建てのビルぐらいはあるように見える。
あれだけデカければいっぱい食べそうなもんだけど、このダンジョンに『踏み均す者』が満腹になるほどの獲物がいるのだろうか。
それかもしかしたら物質的に満足するんじゃなくて魔力的な物を吸収して食事量がそんなになくてもいいのかもしれないな、じゃなければあんな巨大な体を維持できそうにもない。
「速度がおっそいなぁ」
さっきからずっと眺めているが『踏み均す者』の移動スピードが物凄く遅く、数分に一度地面が揺れる程度の速度だ。
あの感じだと1日経っても見つけることが出来そうだ。
どうやって倒そうかアレ。
勢いで倒したいと言ったけれど特に勝算があるわけでもない、思いつくのは〝スティンガーミサイルEcho〟か〝対物ライフルEcho〟ぐらいしかない。
普通の大きさの『グランドドラゴン』でもその肌は硬くまともに攻撃が通るのが〝対物ライフルEcho〟ぐらいだったからな。
それよりも大きく強そうな『踏み均す者』の事を考えると下手したら〝対物ライフルEcho〟でも攻撃が通らない可能性もあるかも?
「まずはあれで試してみるか」
◇ ◇ ◇ ◇
「数は、どうしようか………取り合えず30個ぐらい買っておいて10×3か所でやってみるか」
ずしんずしんと今も『踏み均す者』の足音が聞こえる、心なしかさっきよりも距離が近い気がするかもしれないが、それもそのはずなぜなら今俺は『踏み均す者』がこれから来るであろう進路上にいるからだ。
なぜこんな危ない所にいるのかというと罠を仕掛ける為だ。
使うのはもちろんC4爆弾、それを10個を一つとしてまとめてそれぞれをちょっと離した位置、3か所に置いていく。
C4を置いたら急いで距離を取る、爆発に巻き込まれないようにだ。
『踏み均す者』は今もゆっくりと進んでいる。
最初に試すのになぜ爆発物を選んだのかというといくつか理由はある。
C4が今なら安いという事、1つ3000GPで30個で9万GP、前の俺なら高くて厳しかったが今のGP効率で言うなら余裕がある、これだけつかってもまだ50万GP以上ある。
次に遠隔で起動できるので危険が少ないという事とその場で爆発するので敵視が俺に来ることが無いだろうという予想。
〝対物ライフルEcho〟や〝スティンガーミサイルEcho〟で攻撃した場合『踏み均す者』の注意をひいてしまい襲ってくるかもしれない。
それに比べてC4なら足元が爆発するだけなのでどこから攻撃してきたとか分からないはずだ、多分。
確かなことは言えないしその可能性が高いかなって考えでしかない、もしかしたら『踏み均す者』が何か知らない力を持っていて攻撃したのが俺だっていう事がばれる可能性もある。
もしもの場合に備えて距離を十分にとるのと【野営地】内にいつでも逃げ込めるように入口を開いておく。
そして最後に、ああいった皮膚が硬い系って上の部分だけでお腹は柔らかったりするのが定石だ。なので下から攻撃を加えられる爆発物を選んだ。
「もうちょいもうちょい」
ずしんずしんと『踏み均す者』がゆっくりとだがC4を仕掛けた場所へと近づいていく。
「今!」
C4の仕掛けた位置が『踏み均す者』の首元当たりにきた瞬間起爆スイッチを押した。
10個ずつでまとめたからか結構爆発が大きい。
「ゴォ゛ォ゛ォォォォォァァァァ!」
「おぉぉぉぉうるせええええ!」
『踏み均す者』が大きく叫び、その際に顔が上を向いたことで首元が晒される。
「ダメージはっ!?」
C4の爆発した際の煙が徐々に晴れていきその首元がはっきりと見えてくる。
「まじか………」
『踏み均す者』の首元は微かに黒く汚れている程度で血を流している様子が無い、あれだけの爆発で傷一つないのか。
「ガッ!!!」
「やべぇ」
よろめき立っていられないほど地面が大きく揺れ動く、何かは知らないが攻撃を受けたと気づいたのか『踏み均す者』がその巨体を大きく動かし暴れている、その余波がここまできている。
森の木々が揺れで次々と折れていく。
「駿河さん!逃げますよ!入ってください!」
後ろで見守っていてくれた駿河さんにそれだけ言って急いで【野営地】内へと逃げ込む。
「危なかったー!」
「ふぅ………」
【野営地】内へと逃げ込んでからすぐに入口を消しておく、開けっ放しは怖いからね。
俺が飛び込んでからすぐに駿河さんも転がり込んできた、今は息を整えている感じだ。
「流石はネームドか………やべぇなあれ」
正直ちょっとあそこまでおおきな被害を出すような暴れ方するとは思ってなかった、『踏み均す者』はあの大きさだ多分このダンジョン内では生態系のトップなんだとおもう、そんな存在である自分が誰かから攻撃を受けた、それだけであの暴れようだ短気な性格だったりするんだろうか?
数分ボーっとする、次の手はもう考えてある。少し待ってから『踏み均す者』が暴れ終わっただろうってタイミングでもう一回ちょっかいをかけに行く。
勝算はない、だけれど考えがないわけでもない。
「楽しくなってきた」
◇ ◇ ◇ ◇
「よし、静まってるな」
数分経ってから【野営地】内を出ると外は既に静かになっていた、あれだけ暴れていたので周囲は木々がなぎ倒され見晴らしがかなりよくなった。
『踏み均す者』の方を【イーグルアイ】で見ると輪郭が黄色の警戒状態になって動きを止めていた。
動いていないなら丁度いい、すぐに取り掛かろう。
今回駿河さんは【野営地】内に残ってもらった、結果を見て俺もすぐに戻るつもりだったからだ。
取り出すのは〝対物ライフルEcho〟だ、〝スティンガーミサイルEcho〟にしなかったのはC4の爆発でもまともにダメージを与えれなかったので、爆発力よりかは貫通力に力を入れてみたかったからだ。
その辺にある倒木に〝対物ライフルEcho〟を乗せて狙いを『踏み均す者』へとむける。
銃弾は貫通力を上げる為徹甲榴弾にしてある。
狙いは『踏み均す者』の脳みそのあたり、わんちゃんこれで倒せたりしないかなって思ったりしている。
目標との距離は1キロちょっとしかないので〝対物ライフルEcho〟なら外すことはまずないだろう。
【マハト】は今回使わない、まずは指標となる物が欲しいからだ。取り合えず撃ってからそれからどうするか考える。
安全装置を外し、トリガーに指をかける。息を整えて『踏み均す者』をよく狙い撃つ。
「グラ゛ァ゛ァ゛ァァァァァァァ!!!」
「よし、ダメージは通るっと」
放たれた弾丸は『踏み均す者』の頭?の部分にうまい事当たり皮膚を貫通してダメージを与えた。
徹甲榴弾の効果で弾が爆発して皮膚の下の肉が見えている。
「けど、これじゃぁ倒すのは無理だな………」
〝対物ライフルEcho〟の攻撃は確かにダメージを与えたが『踏み均す者』の大きな体からすると傷跡は小さな物だった。
あれだと倒すのに数百発は撃ちこまないといけないだろう。
「あ、やばいかも」
『踏み均す者』に与えたダメージを確認していると、いつの間にか横顔だったものが正面に見えるようになっていた。
大きく口をあけて何か溜めているように見える。
「まじでやべぇ!」
急いで【野営地】内へと戻る、入口の渦を通り過ぎる瞬間微かに「カッ!」という音が聞こえた。
「あー、危なかった。あれ確実にブレス系だよな?」
大きく開けた口に何かを溜めるしぐさ、確実に何かしらの遠距離攻撃だと思われる、何とか逃げるのが間に合ってよかった。
「神薙さん、大丈夫ですか?」
「はい、何とか大丈夫です」
【野営地】内に入ってすぐのところで止まっていると駿河さんがやってきた、慌てた様子で戻ってきたので気になったのだろう。
「それで、どうだったんですか?何か試すって言ってましたが」
「いい結果を残せましたよ、ちょっと危なかったけど」
「死なないように気を付けて下さいよ、せめて私がここに居る間だけでも」
「確かに?もしここに人がいる状態でスキルが使えなくなったらどうなるんだろう?怖い事考えますね駿河さん………」
中にいる人ごと異空間へ消えてしまうのだろうか?それとも弾かれて外に出てくるとか?
試すのは無理だが考えると怖いな………
「取り合えず今日はもうお終いにします」
もうすぐ日が落ちる時間だし、今日はもう疲れた。
「はい、それじゃぁ晩御飯にしますか」
「そうですね今日はBBQにしましょう、美味しいタレがあるんですよ」
◇ ◇ ◇ ◇
6日目が終わり今日は7日目、本日の朝ご飯はお茶漬けだインスタントのやつで具は鮭だ。
焚火でご飯を炊いてもよかったが、今は魔石を動力にした発電機と炊飯器がある。なのでいつでもどこでも美味しいご飯が炊ける。
お茶漬けにはいつも麦茶を入れている、これは俺の家のお茶がいつも麦茶なだけであって他のがあればそれでも一応食べれる。
駿河さんの朝ご飯、今日はホットサンドでこの間とは中身が違うバージョンのやつみたいだ。
今日は『踏み均す者』を倒す、目途は立った。俺の予想通りなら倒せるだろう。
どうやって倒すのかって?それは全ての準備が終わってから紹介しよう。
というわけで残りのお茶漬けをかきこみ朝ご飯を食べ終わる。
「よし、行こう!」
「気を付けて下さいね?今回私は距離をとるので本当に一人になってしまいますからね」
「はい」
『踏み均す者』を倒すにあたって駿河さんには離れていてもらうことにした、これは事前に話して決めた。
もし巻き込んだりしたら後味が悪いしね、離れていてもらってたほうが俺もやりやすい。
【野営地】の出口を開き、まずは一瞬だけ顔をだす。昨日の攻撃の影響がどうなっているかわからないからだ。
「うわぁ、やっぱブレスだったかアレ」
外は何かにえぐり取られたかのような地形になっていた。俺の予想通りならこれは『踏み均す者』のブレスか何かが通った後だ。
「あ、遠いけどまだ見えるな」
一晩経ったにもかかわらず『踏み均す者』の姿はまだ見える所にいた。というか通った後が道になっていてわかりやすい。
「準備するか」
『踏み均す者』をどうやって倒すかも大事だが、どこで倒すかも大事だ。まずは場を整えないとな。
◇ ◇ ◇ ◇
「ここがよさそうだ」
『踏み均す者』を倒すため場所を探しこれから来るであろう先で待ち伏せをすることにした。
倒すにあたって戦闘時間を長引かせるつもりはない、ネームドだからな時間をかければどんな攻撃がくるかわからないので短期決戦をするつもりだ。
さて、ここまで伸ばしに伸ばした倒す方法だが。勘のいい人ならもう気づいているかもしれない。
【GunSHOP】スキルのレベルがあがって増えた商品がもう一つあったはずだ。
そう〝機関銃〟という項目、事前にちゃんとある程度調べておいた。
機関銃と言えば弾幕がすごいイメージだ、だけど今までの魔物には明らかに過剰な火力になるだろうしどこで扱えばいいのか悩んでた。
そこに現れたのがあの異常進化したネームドで【ダンジョンウォーカー】である『踏み均す者』だ。
あいつをみた瞬間、俺の頭に天啓が降りてきた。
〝機関銃〟を使う相手ってあいつじゃないか?って。
というわけで用意しました、〝ミニガンEcho〟形はM134だ。
置く形の物ではなく手持ち型のやつだ、背中にでかい箱を背負いそこから弾帯が手に持つ〝ミニガンEcho〟へと繋がる形になるやつだ。
お値段なんと30万GP、二度見したよ。高すぎる………けどその分効果に期待できる。
銃弾は1000発で5万GPだったけれど、今回は普通の弾は使わない。なんてたって相手は明らかに格上なんだ、現状の最高火力を出したい。
なので弾は徹甲榴弾、10発で700GPだから1000発で7万GP、それを3000発用意した。
〝ミニガンEcho〟に弾を込めるのはアーツスキルの【リロード】を使ったら自動で出来るので方法を知らなくてもなんとかいけた。
ミニガンと弾とで51万GPも使ってしまい残ったGPは5万以下になってしまった。
もしミニガンも通用しなければ降参して逃げ帰るつもりだ、そのために駿河さんとは事前に倒せなかった場合の待ち合わせ場所とかも決めてある。
「もうすぐか」
崖の下、遠くの方から『踏み均す者』が少しずつ近づいてくるのが見える。【イーグルアイ】を使い様子を見てみるが輪郭は青く無警戒状態のようだ。
「傷が塞がってるな………」
昨日〝対物ライフルEcho〟で与えたはずの傷跡が綺麗に消えている。再生持ちだったか。
やっぱり一瞬で片を付けるしかないみたいだな。
作戦はこうだ。
崖の上で『踏み均す者』を待ち構え、射程距離に入ったら【マハト】を使った〝ミニガンEcho〟を掃射して首元を破壊する。
〝ミニガンEcho〟が『踏み均す者』にダメージを与えるかどうかは試せなかったのでぶっつけ本番だが、俺の予想では〝対物ライフルEcho〟の徹甲榴弾でダメージが通ったのでそれよりGP的には高い〝ミニガンEcho〟ならダメージが通るだろうという考えだ。
そうしている間にもすこしずつ地面の揺れが大きくなってくる、『踏み均す者』がそれだけ近づいてきている証拠だ。
「もう少し………」
あと数歩『踏み均す者』がこちらへ来ればちょうど崖の真下にくる位置になる。
「【マハト】!!っしゃくらえぇぇぇぇい!」
腰を落とし〝ミニガンEcho〟を足を支えにするようにして構えて撃つ。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ガァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!」
〝ミニガンEcho〟の音がうるせええええええ!爆音でブル゛ル゛ル゛ル゛ル゛って音しか聞こえず、自分でしゃべってる声すら聞こえない。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ゴァ゛ァ゛ァ゛ァァァ!!」
まだ撃ち始めて数秒だが既に物凄い勢いで薬莢が飛び出していっている。さらに反動が凄すぎてまともに狙いをつけれない状態だが、的はでかいんだある程度でもあたっている。
【マハト】を使った〝ミニガンEcho〟は予想通り『踏み均す者』へとダメージをちゃんと与えられているようで、上から撃ちおろしているからか衝撃でまともに動けないみたいだ。
首の皮膚が千切れ、肉が吹き飛び、骨が砕け、どんどん『踏み均す者』の首が無くなっていく。
「もうちょおおおおおおおい!」
首が半分になり、3分の1になり、首が無くなっていくと次第に『踏み均す者』の声も小さくなっていく。
「ゴァ……ァ…」
「やったか!?」
〝ミニガンEcho〟の弾が無くなりカラカラと回る音だけになってから撃ち終わった事に気づいた。時間にして1分ぐらい、その短時間で3000発を撃ち終わった。
銃の射撃の際の振動で腕がしびれびりびりとする。
銃を【空間庫】へと仕舞い、念のために〝対物ライフルEcho〟を取り出しておく。
「お?」
撃ち終わってから眺めていると『踏み均す者』の首が千切れその頭が地面へと落ちる、その際に大きな衝撃が起き地面が揺れる。
「倒せたか………」
だいぶホッとした、さっきは思わずかの有名なフラグを一瞬たててしまうほどには慌てていた。
「ん?今動いた?」
首が落ちて死んだはずの『踏み均す者』が一瞬動いたように見えたが気のせいか?流石にないよな?
「ガァッ!!」
「うぉぉぉ動いた!?って落ちるぅぅぅぅ!」
落ちた首が突然動いて崖へとタックルしてきた、その衝撃で崖が崩れて下へと落ちてしまった。
「あいたぁっ!いててて………」
結構な高さの崖から落ちたが下に『踏み均す者』の死体があり丁度その上へと落ちたようだ。
頭が動いたのは最後の一撃だったようで、それからは完全に沈黙している。
今度からは倒したと言っても気を抜かないようにしないとな、まさか動くとは思わなかった。
崖から落ちた怪我だが安心してほしい、防具が結構衝撃を吸収してくれたのと【再生の腕輪】を装備しているので落ちた際の痛みなどはすぐに治った。
っていうか〝ミニガンEcho〟を撃った時の腕の痺れも無くなってるな………
【再生の腕輪】地味に凄いな。
「神薙さん!」
「あぁ、駿河さんやりましたよ!見てました?」
「えぇ、ちゃんと見てましたよ。まさか倒してしまうとは思っていませんでした」
戦闘が終わったのが見えたのだろう、駿河さんがやってきた。
「何とかなったなぁ」
アドレナリンがばんばん出ていて満足感がすごい。
『経験値が一定に達しました、レベルが53から62に上がりました。』
「お、やっぱり経験値がすごいな。一気にレベル上がった」
『続いて、ネームド『踏み均す者』の討伐を確認、称号【龍殺し】を獲得。称号の効果により討伐者のスキルを参考に報酬を授与します………………ユニークスキル【GunSHOP】を確認、新商品を追加しました』
「………………………は?」