31.【世界樹の花園】
31.【世界樹の花園】
自動運転のタクシーに揺られること2時間ほど、長距離移動の時は普通の車の形のタクシーではなくリラックス型の自動運転タクシーで移動する。
リラックス型とは車内の空間を広くとり座席も家にあるようなふかふかのソファにしたり可動式にしてベットになったりする。
長時間の移動でも疲れにくいちょっとお高めの自動運転タクシーだ。
そんな感じで目的地の【世界樹の花園】にやってきた。
今回『幻想鳥』の捕獲依頼は他に受けている人がいないかどうか調べて、今この依頼を受けている人は他にいないという事だったので安心して挑める。
依頼を受けたはいいが他の人に先に達成されると困るからね、こういったことは事前に調べないと。
協会に用はないし、装備も既に更衣室にいって着替えたのでこのままダンジョン内へと入っていく。
「ここが【世界樹の花園】か………途轍もないな」
視界いっぱいに広がるのは色とりどり綺麗な花が咲いた絨毯、それがずーっと奥まで続いている。
そして空を見上げれば見えるのは緑色の葉。
緑の葉とその枝を辿っていくと奥の方に大きな木が生えているのがわかる、ダンジョンの入り口からその木が見えるってのもおかしいし、あまりにも大きすぎて遠近感が狂う。
そう、ここは途轍もなくでかいそれこそ世界樹ともいえる木が生えているダンジョンだ。
事前に調べた情報によるとダンジョンの入り口から世界樹まで徒歩で5時間、走っても3時間はかかるそうだ。
そう聞くとたいした距離じゃないと思ってしまうかもしれないがこれはCランクダンジョンまでこれるほどレベルとステータスの上がった探索者の場合での時間だ。
一般の人なら途中で一泊はしないとたどり着けないと思う。
ここ【世界樹の花園】は1階層だけのフィールド型ダンジョンという事だけでも特殊なのに、さらに特殊なのは世界樹事体が別のダンジョンになっている所だ。
つまりダンジョンの中にもうひとつダンジョンが存在していることになる。
まぁ2つあると言っても1つのダンジョンに存在しているのでほとんどの人はここは1つのダンジョンだと思っている、2つというのはダンジョン協会が調査して2つという事にしただけなので実際に探索する人達からすれば関係なかったようだ。
「雰囲気がいいな、ここで寝転がって寝たい」
空に世界樹の葉が覆っているので全体的に暗く、花の絨毯の所々に間接照明のように光る花が点在している。
花がいい匂いを出しているのか気持ちも落ち着いてここで寝るとぐっすり寝れそうだ。
「あ、『幻想鳥』かな?あれ」
キラキラとした光の線を出しながら飛んでいる鳥が視界を通り過ぎて行った。事前に調べた特徴からあれが恐らく今回の依頼目標である『幻想鳥』だろう。
「あっちの方かいってみよう」
『幻想鳥』が飛んで行った方に歩き出す、取り合えず事前情報に間違いがないか調べてみようと思う。
道の無い花の絨毯を歩いていく、このダンジョンに出てくる魔物は植物系が多いのでこうやって歩いている間も気を付けないといけない。
ダンジョンのランクが上がっていくとそれだけ敵の生態もいやらしくなってくる。
擬態していたり罠があったりと一筋縄ではいかないようになってきている。
「って考えていると出てくるんだよな」
【気配感知】が反応したので敵がいる方に視界を向けてみるが花しか見えない。
しかし【気配感知】にはしっかりと敵の反応が見えているので大体のいる位置がわかる。
姿は見えないがいる事はわかるので取り合えずアサルトライフルで数発撃ってみる。
「うわぁ花の魔物か」
適当に撃った弾が近くに着弾したのか潜んでいた花の魔物がその姿を現した、うねうねとした蔓の触手に鋭い牙の様な物が生えた花弁。
あれは『人食い植物』所謂マンイーターと呼ばれる魔物だ、気付かずにその近くを通り過ぎれば触手で足を絡めとられそしてあの鋭い牙でふくらはぎをぐちゃぐちゃにされるだろう。
追加で数発『人食い植物』に撃ちこむが決定打にはなっていないようで元気にしている。
「使うか焼夷弾」
【空間庫】から焼夷弾だけを込めたマガジンを取り出し交換する。
一応の備えでそれぞれ炸裂弾、徹甲榴弾、焼夷弾はマガジン1つ分は置いてある。普段使いはしないだろうがこういったときに使えるかと思って用意しておいたのだ。
〝アサルトライフルCharlie〟を構えて焼夷弾を『人食い植物』に撃つ。
「おーおー効いてる効いてる」
焼夷弾があたった敵はすぐに燃え上がりその触手をびったんびったんさせてもがいている。
他に燃えそうな物がありそうな場所でそんなことしても大丈夫なのかと思うかもしれないが、安心して欲しい。ダンジョンではどれだけ被害がでようがいつの間にか修復されて直っているのだ。
どうなっているのかは知らない、いつもの不思議パワーと思うしかない。
暫く眺めていると燃え尽きたのか『人食い植物』が大人しくなって燃えていた火も消えたので近づいていく、すると所々が灰になりそのほとんどが黒く焦げた魔物の姿があった。
「ドロップは魔石だけか」
しまったな当然だけどこの倒し方だと魔物の残骸が残らないので死体をGPに換える事が出来ない。
めんどくさいけど普通の弾で倒すか?幸いな事に相手は触手が伸びる範囲でしか攻撃できないしな。
次『人食い植物』が出てきたらそうするとして今は『幻想鳥』が先だ。立ち止まっていた歩みを再開する。
「たしかこの辺に………いた」
花の絨毯を暫く歩くと見えてきたのは森だ、天井を世界樹の葉が覆っているのにどうやって成長しているのか不思議だが気にしない。日光の代わりに魔力的な物でも吸って成長しているんだろうきっと。
そんな木の枝に目的である『幻想鳥』が止まって休んでいるのが見える。
深く青色の体毛に夜空の星のような煌めきがキラキラと散りばめられていてその姿はとても美しい。
こちらの存在へ既に気づいているのか頭を横に向けて眼をこっちに向けていて視線をはっきり感じる。
ジッとしたまま動かないので『幻想鳥』のいる木まで近づいていく、そのまま少し背伸びをすれば届きそうな位置まで来たので手を伸ばして捕まえてみる。
「やっぱりダメか」
『幻想鳥』に触れた瞬間何とも言えない感触を残してその存在がふっと消えてしまった。
これが『幻想鳥』捕獲依頼のランクがBと高ランクの理由だ。
『幻想鳥』はその幻想的な姿からこんな名前になったと思われがちだが実際は違う、近づくとその姿が幻想だったかのように消えてしまう事から『幻想鳥』という名前がついている。
「ここまでは事前に調べた情報通りだな」
事前に調べてこの事は分かっていたので別に思うところはないが一瞬俺ならそのまま捕まえられるんじゃないかと思ってしまった。
さて、それではどうやって『幻想鳥』を捕まえればいいのかと言えば答えは簡単だ。
『幻想鳥』がこちらの存在に気づかないほど遠くから捕まえればいい。
一見無理な事と思うかもしれないがまさにその通りで、余程今回の条件にあう何かを持っていないと捕まえる事なんて無理だ。
なのに俺が今回の依頼を受けたって事はその条件にあうスキルを持っているって事だ。
◇ ◇ ◇ ◇
「この辺りでいいか」
周りに【気配感知】にうつる者がいない事を確認して立ち止まる。
『幻想鳥』が止まり木にする森から離れたところその距離およそ500メートルほど、この距離ならこちらの存在には気づかれないはずだ。
位置を決めたら今回の為に【GunSHOP】スキルで買ったブツを【空間庫】から取り出す。
取り出したのは〝スナイパーライフルDelta〟【GunSHOP】スキルのレベルが上がった事でCharlieの先の銃が入荷するようになったのだ。もちろんアサルトライフルもハンドガンも他の武器も同じようにDeltaまで入荷しているがこの間買ったばかりなので今はまだ買いなおしてない。
〝スナイパーライフルDelta〟の見た目はM24 SWSという物になる、ボルトアクション式のスナイパーで無駄な装飾がなく無骨でかっこいい。
アタッチメントは【GunSHOP】の外装で光学照準器とバイポッドを買った、倍率はよくわからなかったが取り合えず今回は距離があるし最大倍率が20倍になる物を買う事にした。
そして使う弾はもちろんこれだ。
「【精霊の弾丸】」
スキルを使うと手の中に7.62x51mmの淡く緑色に光る【精霊の弾丸】が生成される。
このアーツスキルを覚えてから色々試した結果分かった事がある、それは使うと意識した銃の弾が自動で出来上がる事だ。
つまり両手にハンドガンとアサルトライフルを持っていたとしてもスナイパーライフルの弾を使いたいなと思えばスナイパーの銃弾が生成されることになる。
しかも弾の大きさも事前に知っていればある程度決めれるみたいだ、銃によっても1種類だけじゃなくて他の大きさの弾に対応できるものがあるってのを調べて初めて知った。
今回は1発勝負だ、生成する弾丸も1発だけにしておく。
伏せた状態で撃つのでバイポッドを開いてから寝転んで。
〝スナイパーライフルDelta〟のボルトハンドルを手前に引いて薬室を開き、そこへ今回生成した【精霊の弾丸】を入れる。
カチャっと音を立ててボルトハンドルを戻してから安全装置を外し準備は完了だ。
光学照準器を森にピントが合う様に調整していき覗いたまま『幻想鳥』を探していく。
『幻想鳥』は捕まる事が無いと思っているのかその警戒心は皆無で飛んでいる姿をよく見かけるし、木にとまっているのも頻繁に見かける。
なのでこうしてみていればすぐに………
「いた」
照準器に目標である『幻想鳥』の姿をとらえた、やはりこれだけ距離があればこちらには気づいていないのか普段通りな感じで木に止まっている。
〝スナイパーライフルDelta〟をがっちりと抱き込んで固定してから大きく深呼吸をして息を吐く、何度か息を吸って吐いてを繰り返してから息を止めて照準がぶれないように狙う。
周りが一気に静かになり自分の心臓の鼓動の音でさえ小さく消えていく感覚がする。
全ての音が消えて目標である『幻想鳥』だけしか見えなくなる。
「っ!」
パンッっと射撃音が聞こえて現実に戻される。
慌てて光学照準器で目標である『幻想鳥』を見ると正確に【精霊の弾丸】が当たったのか木の枝ごと絡めて蔓がまとわりついている。
「よっしゃ!1発成功!!」
ひゃっほいと喜びながら起き上がり〝スナイパーライフルDelta〟は【空間庫】へしまいアサルトライフルを構えて走り出す。
どれでけ拘束していられるかハッキリとは分からないからちょっと急いでる。
『幻想鳥』との距離およそ500メートルを数十秒で走りきり【精霊の弾丸】にからめとられたその姿を見る。
「やっぱこのアーツスキル、ただの拘束弾じゃないな」
普通の拘束方法なら『幻想鳥』はその姿を消すだろう、だけど【精霊の弾丸】で拘束された『幻想鳥』は逃げ出す事なくその動きを止めている。
この事から【精霊の弾丸】はただ標的を拘束するだけじゃなく何かしら力を封じて拘束していることがわかる。
「おっと、こうしてる場合じゃなかった」
いつ消えるか分からないんだその前に早いとこ専用の籠に入れてしまおう。
【空間庫】から今回の依頼のためにダンジョン協会から支給された特別性の籠を取り出す、これに『幻想鳥』を入れる事で逃げ出す事は出来ず生きて捕まえておくことが出来るようになる。
因みにこの籠買おうとすれば数億円する、雑に扱うことが出来ずその手つきは慎重になる。
木の枝に絡まっていた部分は切り取り『幻想鳥』を拘束したまま専用の籠へと入れていく。
「まさに籠の中の鳥ってわけ」
後はこれを納品するだけだ、何に使うつもりかは知らないが恐らく愛玩用だろう。そうなる運命に何も思う事が無いと言えばうそになるが人とはそんなものだ。
受ける方も依頼する方も等しく業を背負う。
「よっしゃー!これで500万だぜ!」
Bランク依頼:《『幻想鳥』の捕獲》
Cランクダンジョンの【世界樹の花園】にいる『幻想鳥』を生きたまま捕獲してください。達成報酬は500万に生け捕り時の状態によりボーナスを追加します。
成功報酬:500万 +状態によりボーナス