135.完成
135.完成
素材を取りに行き、加工して、組み立てていく。そしてまた素材を取りに行き、加工して、組み立てていく。
そうした日々がふた月の間続いた。
もちろん途中で休憩を挟んで、買い物に出かけたりゲームしたり他のダンジョンへ行ったりした。
俺が休憩している間も作業員ロボットとヘレナが進めていてくれたおかげでもうほぼほぼ完成している。
足に腰に胴に手に頭、全てのパーツは完成して後は組み立てるだけで今は最終確認をヘレナが行っている。
俺がすることはもうないのでここで作ったロボットについて話したいと思う。
巨大ロボットと言えばアニメや漫画などでそれメインで物語が作られるほど人気のあるジャンルだ。
そのシリーズ量は膨大で今までに数えきれない程の機体が誕生している。
基本的な人型から用途に分かれて空を飛ぶのが得意な機体だったり水中が得意な機体だったり。
変形する物からそもそも手足が無いやつだったり。
あげればきりがないほど沢山の種類がある中で俺が選んだのは人型の基本となる形のやつだ。
最初から奇をてらう必要もないしね。
アニメや漫画のロボット系ではモブ機と主人公機、敵方のエース機などでデザインの力の入り方が全然違う事がよくある。
量産機であるモブ機はもさっとしていて派手さも無く何て言うか地味だ。
あえて量産機で戦う主人公の話しのやつなどもあるがそれは一旦置いといて、折角作るなら主人公機のようにデザインに力を入れたい。
そこでヘレナに頼んでデザイン案をいくつか出してもらった。
100ちょっとの候補があった中から5個まで絞り、そこからさらに悩んで悩んで最終的にひとつに決めた。
細すぎず太すぎず、バランスのいいデザインにして色は白をメインに差し色で青や黄色などを使っている。
まぁ最悪色については後で変更可能だし今はこれでいこう。
背中と足にスラスターを取り付けているがこれは移動の際に歩く事の他に反重力エネルギーを使い機体を浮かせてちょっとの間飛んで移動も出来るようになっている。
空を何十分も飛ぶことは出来ないが数分なら飛べるだろう。
「マスター」
「うん、それじゃやってくれ」
「はい」
最終確認が終わったのかヘレナがこちらに目配せしてきたので後は任せる。
すぐに作業員ロボット達が動き出しバラバラだったパーツを組み立てていく。
作業員ロボットの大きさは俺の股下ぐらいしかない、当然の如く巨大ロボットを持ち上げることなんて出来ない。
そこで使っているのが【格納庫】にあった天井クレーンだ。オプションで解放できたのでGPを消費して使えるようにしておいた。
足の上に腰をのせて胴に腕を取り付け、最後に頭をゆっくりと下ろしたら完成だ。
「出来たかぁ」
途中で何度やめようと思ったか、素材取りに行って加工しての繰り返しで正直飽きてた。
けどこうやって完成したのを見ると作ってよかったなって思えてくる。
そして、完成したのなら次にする事なんて決まっている。
◇ ◇ ◇ ◇
やってきたのはもちろんAランクダンジョン【堕ちた工場都市】通称ノルターと呼ばれる場所だ。
なぜノルターと呼ばれるかと言うと、ここで出るある特殊なアイテムのせいだ。
【ノルターの日記】と呼ばれるそのアイテムは名前の通りノルターなる人物の日々が綴ってある日記なのだが、これが意外と好事家に人気でそこそこの値段で取引されている。
日記の内容はこのダンジョンの世界観の話しだったり仕事についての愚痴だったりと多岐にわたるのだがそこが好事家に人気の理由かもしれない。
他にもこのダンジョンには特徴があり、敵として出てくる魔物が巨大ロボットの姿をしていると言う事だ。
折角巨大ロボットを作ったのなら同じ大きさの魔物が出てくるダンジョンで試したい。
って言うかあれだな、気がつけば俺って機械系のダンジョンばっかりだな。
扱う素材の系統的にしょうがない部分があるから分かってたことだが、今度普通のダンジョンでも行こうかな?それか依頼を受けるのでもいいかもしれない。
まぁ取り合えず今は目の前の事に集中しよう。
【堕ちた工場都市】はフィールド型のダンジョンだがある意味で洞窟型ともいえる、何故かと言うと周りが工業機械で埋め尽くされていてまるで巨大な工場に迷い込んでしまったかのような見た目をしているからだ。
配管が壁一面を覆い、所々工業用の機械の姿も見えるがそのほとんどは朽ちて崩れている。
洞窟型にしては広すぎるし、フィールド型にしては狭い。なんとも中途半端なダンジョンだが一応分類としてはフィールド型という事になっている。
中途半端な広さではあるが、20メートル級のロボットを呼び出して戦うには十分なスペースがある。
というわけで早速呼び出したい所ではあるが、このダンジョンはそこそこ人気があるので他にも人がいる。今さっきも俺がダンジョンに入ってすぐの所で景色を眺めていたら他の人が通っていった。
ここで人気なのは探索だ、魔物を倒す事じゃない。ソロで来ている人がほとんどだ。
ダンジョンの入口に近いとまた人がきそうなのでバイクにまたがり飛んで遠くまで離れる。
「お、いるな」
飛んでいる最中にも目的である敵の姿が見える。名前にも入っている工場で作られたのだろう、ゲームに出てくるようなファンタジー色の強い敵だ。
っていうかデザインかっこいいな普通にちょっと羨ましいかも。
何て言うかスタイリッシュでメカメカしい部分を残しながらも洗練されたデザインというか何と言うか。
「ねぇ、ヘレナ」
「はい、何でしょうか」
「今からデザインを変える事って可能?」
「………まぁ、可能ですが。変更には数週間はかかりますよ、後素材も追加で」
う、ちょっとヘレナがジト目になっているような気がしないでもない。そうだよな完成したところなのにデザインの変更とか普通ありえないよな。
「そうだよな、ごめん。もうちょっと考える」
「はい」
「そろそろいいか、近くで敵を探そう」
話している内に結構遠くまで来ていた、ここなら他の人と遭遇する事はそうそうないだろう。
「それじゃぁ出してくれ」
「はい」
【格納庫】への渦を開きヘレナに巨大ロボットを表に出してもらう。
「そういえば名前を決めてなかったな」
渦からぬっとロボットが姿をあらわした。
「んー、よし。【不落】と名付けよう」
【赤雷】シリーズ、【不壊】、【砲懐】ときて【不落】だ。
名前が2文字続きなのはその方が短くて覚えやすいから。
【不落】が片膝をつき手のひらを上へと向けながら地面へとつけるので俺はその手へと乗ると【不落】が動き出し手を胸の部分のコクピットまで寄せあげていく。
この乗り方やってみたかったんだよな。憧れるよね。
アニメなのでこういったシーンを見てやってみたいと思った男の子は少なくないはず。
他にもコクピット横から紐を下ろしてそれを掴み引き上げてもらうやり方やバイクで飛び乗り込むパターン、さらに言えばそのままコクピットまで脚力で飛びあがり乗るパターンも出来る。
色んな乗り方を考えたが取り合えず一発目はこれだ。
手からコクピットへと乗り込む前に防具を解除して新しい防具を起動する、これは所謂パイロットスーツだ防具を着たまま乗る事も考えたがやっぱりロボットに乗るならパイロットスーツが必要かと思って作っておいた。
ちゃんと防御面も考えていてこのまま戦闘も可能なレベルだが見た目的によくないので降りるときはまた着替える事になる。
そんなわけで着替えてコクピット内のシートへと座る、するとすぐにコクピットの蓋が閉まり一瞬暗くなるがすぐに明かりがつき色々なパラメータが表示されて【不落】が起動していく。
実はこの起動するシーンは正直いって必要無いのだが雰囲気づくりでヘレナに映像を作ってもらった。
起動し終わるとすぐに360度の全面フルスクリーンに外の様子が映し出される。それを見て俺は操縦桿を握る。
目線を落とした前には操作パネル、左右には操縦桿、頭上にも伸ばす事の出来る操作パネルがあるが今は使わない。
今は使わないって言うか全部使わない。操縦桿も操作パネルも雰囲気づくりの物だ。かといって偽物って言うわけじゃない実際に使用する事も可能ではあるが基本的には使わない。
実際には思念操作で動くからだ。
因みに【不落】が動く事によってコクピットへと伝わる振動だが、反重力エネルギーを使う事でコクピットへは一切の振動が伝わらないようになっているので人が乗っていても安心設計だ。
まずは視界がちゃんと確保されているか動かして確認する、次に手を動かし問題ないか調べる。次に足を動かし問題無い事を確認すると軽くストレッチするように動く。
機体が筋をのばす必要は無いかもしれないが初めて動かすのだ、腰をひねった時に何かの線が千切れるとか無いように今のうちに確かめたい。
「平気ですか?マスター」
「うん、今のところ問題無し。いい感じだ」
スクリーンにヘレナをちびキャラ化した物が表示される、いつもならヘレナ専用人型機の姿なのだがそれだと視界を塞いでしまうとかでちびキャラ化したヘレナに出てきてもらう事にした。
まぁ視界云々を言うのならそもそも何も表示させるなって話しだが細かい事は言いっこなしだ。
「じゃ、次は兵装の確認をしていくぞ」
「はい」
本来なら巨大ロボットを作るだけならひと月ぐらいで完成する予定だった、それがふた月に伸びたのは兵装を用意していたからだ。
「まずはこれだな」
そう言って腰に装備していた剣を手にもつ。
剣………そう、剣を作った。巨大ロボットと言えばビームサーベルを思い浮かべるかもしれないが俺的には普通の剣が欲しかったので物理剣を作ってもらった。
20メートルのロボットが持つ剣となると相応に大きい、素材も今回使った物と同じ物を使っているのでその分GPもかかったしな。
だが苦労した分いい物が出来たと思う。
手に持ったのは普通の剣、西洋剣と呼ばれる両刃の物で少し太めの刀身が特徴だ。柄と持ち手はシンプルな物にして良さそうなのがあれば交換出来るようにしている。
剣を何度か振り感触を確かめる、俺には【剣術】スキルなどは無いから不格好だが何とか振れていると思う。
銃はどうしたんだって?もちろん用意していますとも。
感触を確かめ終わったら剣を腰へと佩いて次は銃だ。
「ヘレナ、銃を用意してくれ」
「はい」
【格納庫】への渦を出すとそこから作業員ロボットが何体も連なって大きな銃を持ち上げたまま出てくる。
銃を持ち上げた作業員ロボットが足元まで来たのでそのまま受け取る。
銃のデザインはどうするか悩んだ、既存の物のデザインを流用するか、新しいそれっぽいのも作るか。
ヘレナに幾つかデザイン案を出してもらい既存の物と比べたが【不落】のデザイン的に既存の銃だとイメージに合わないので最終的にあオリジナルの銃をデザインした。
デザインしたと言ってもネットにいくらでも似たような物は転がっているから、出来上がった物がどこかで見たような銃の見た目になるのは仕方ないのかもしれない。
それでも【不落】には似合っているので俺は満足だ。
因みにこの銃もビームライフルとかでは無くて実弾銃だ。
弾については流石に【GunSHOP】には売っていないので自分達で製造した。
弾のがわはヘレナが作り、火薬については【GunSHOP】に売っていたのでそれを使用している。
実は【GunSHOP】には自分で弾を作るキットが売っている、普通に購入したほうが早いので使う事は無かったのだがここにきて買う事になるとは思わなかった。
ヘレナ曰く火薬から全部作ることもできるがそれは後々の楽しみにとっておきましょうとのことだ。
どうやら彼女には普通の火薬を使用した物だけではなくダンジョン素材を使った弾について案があるらしい、それらしいことをほのめかしていた。
試射用に用意していた数発しか入っていないマガジンを装填して銃を構える。
「何とも不思議な感じだが普通に狙えるな」
【不落】がのぞいた景色をスクリーンに映してそこから俺が見ているので何とも不思議な光景だがこれって別にする必要はないんだよな。
実際にはスクリーンに射撃アシストの照準があるし構える必要も無い。腰打ちでもあてることが出来ると思う。
銃を構えたまま撃つ。
「音は問題ないな」
音の調整が効いているのかコクピット内に聞こえてくる射撃音は小さい。これなら撃ち続けても耳が痛くなるようなことは無いだろう。
試射が終わればフル装填されたマガジンへと交換しておく。
「マスター、敵です」
ヘレナがそう言った瞬間スクリーンに敵の位置が赤く表示される。
何かますますゲームしているような感じだなこれ。
「あれか」
見えてきたのは道中も見た【不落】と同じぐらいの大きさの機体だ。肩に多連装ミサイルを担ぎ手には剣を持っている。
敵の姿が見えた瞬間まずは射程距離まで近づくため【不落】を動かす。
「うむ、いい感じ」
コクピットへの振動は全くない、それにスクリーンの上下への視線のブレもない。
こちらから走って近づいているのに気づいたのか敵が戦闘態勢に入ったのが見えた。
スクリーンに映し出されている照準へと敵を合わせて撃つ。
弾丸の当たった装甲が剥がれていく、そのまま敵は何もできずに沈黙する。
「まずは1体」
この感じで今日は何か問題が起きるまでは進めて行こう。
次は剣を試そうかな。