131.【新世界】 #4
131.【新世界】 #4
戦闘に加わるという話しになってすぐに次の魔物が来た。
「前方から【溶岩騎士】4体」
吹雪さんが現れて敵の報告だけしてまた離れる。
「あの騎士タイプの魔物がいるって事は近くに遺跡があるようね」
見えてきた【溶岩騎士】はどこかの国にあるような鎧ではなく、実用性のなさそうなデザインのやたら豪華なファンタジー鎧を着ていた。
しかしその豪華な鎧も所々がひび割れていてそこから赤い粘度の高い溶岩が垂れている。
「遺跡ですか?」
「えぇ、あの魔物の鎧の肩の部分に紋章が描かれているのが見える?」
天野さんに言われた通り【溶岩騎士】の方の部分を見て見ると何やら紋章が描かれているのがわかる。
「確かに何か描かれてますね」
「あれは遺跡の紋章と言われていて【新世界】では隠された遺跡への入口を見つけるヒントになる魔物なんだよ」
「へぇ、そんなのがあるんですね」
「うん、しかも隠された遺跡は出現場所がランダムで一定期間で消えるから見つけるのも大変なのよ。今回はかなり運がいいわね」
そんな変わった場所があるのか。
「それじゃさっきと同じ様に動くから神薙君は好きなタイミングで戦闘に加わってね」
「はい」
いよいよか。
「大ちゃん!」
「おう!【かかってこい!】」
「【ファイアレジスト】【エンチャントアイス】」
「ウルル!」
「ガウッ!!」
流れは先ほどと同じだ、エリカさんが支援魔法をかける。
天野さんの従魔が本来の姿を見せて戦闘態勢に入り、吹雪さんは姿を隠し隙を伺っている。汐咲さんはヒーラーなので怪我が出るまで出番はない。
『ヘレナ【溶岩騎士】の情報を』
『はい、【溶岩騎士】は硬い鎧を装備しており、さらに溶岩の性質を持ち合わせており耐久力がかなり高いです。素材となるのは心臓部分にある魔石です、〝対物ライフル〟で四肢を破壊するか【魔法転換:銃弾(氷)】で倒す事を推奨します』
『ありがとう、〝対物ライフル〟でいこうかな』
ヘレナから貰った情報から使用する武器を決めていく。
装備していたアサルトライフルを背中へと回し【空間庫】から〝対物ライフル〟を取り出す。
立ちながらの射撃になるがステータスがありロボットアーマーを着ているので反動なども平気だ。
【溶岩騎士】との距離はまだ30メートルほど離れている、先ほどおこなった柏さんの挑発スキルの効果でこちらに向かってきてはいるがその速度はゆっくりだ。
みんなから少し離れ射線を確保してまずは一発、先制攻撃を決める。狙う場所は腰だ。
「っ!? わおっすごい威力だね……」
放たれた弾丸は狙い通り【溶岩騎士】の腰部分にあたり下半身が吹き飛んだ。倒れた【溶岩騎士】は足が無くなり動きが止まっている。
天野さんが驚いてこちらを見ているのが視界の端にうつるが気にせず続けて撃っていく。
2発目、3発、4発とそれぞれ1発で下半身を吹き飛ばし動きを止める。
倒れて動かなくなった【溶岩騎士】へと柏さんが近づいていきとどめをさす。
完全に沈黙すると鎧から流れ出ていた溶岩も冷えて黒く固まった。
「神薙君の攻撃はすごい威力だね」
近づいてきた天野さんの表情はどこか硬い。
「どうかしましたか?」
「神薙君がパーティでの行動経験が無い事をちゃんと考慮してなかった私達がよくなかったわ」
「?」
何だかそんな前置きをされると怖いな。
「その銃、威力は凄いけれどその分音も凄いわ。パーティで使うには不適格かもしれない、実際耳が痛いわ」
その言葉に周りを見て見ると確かにみんなちょっとしかめっ面をしている、ウルルなんて尻尾を股に入れて耳を伏せている。
「ごめんなさい、考え無しでした」
「いいえ、私達も悪かったわ。先にちゃんと考えるべきだった、行き当たりばったりすぎた」
いつもは一人で行動していて、音に関して言えばヘルメットが音量の調節を自動でしてくれるので気になる事なんて無かった。
だけど自分が扱う武器なのだからもっとちゃんと周りへの影響を考えるべきだった。
「そういう事だからちょっとここで休憩にして話し合いましょうか」
「はい」
天野さん達は優しい、経験が浅く年も若い俺に対して真摯に向き合ってくれる。
だからこそこんなこと考えるべきじゃないってのは分かっているのだがどうしても脳内でちらついてしまう。
1人の方が楽だったな………って。
◇ ◇ ◇ ◇
【溶岩騎士】を倒した後素材を拾ってから話し合いをした。
結果としては大きな音がでないサイレンサー付きのアサルトライフルをメインに使用していくことになった、万が一攻撃力不足になってもここには他に天野さん達がいるので任せる事が出来る。
本来なら最初からそうするのが正解なのだろうけれど、俺だけではその考えに至らなかった。
そうして再び進む事になったのだが遺跡を探す事になった、まぁ当然そういう流れになるよね。
移動しながら隠された遺跡について詳しく聞いた。
隠された遺跡の様にダンジョン内をランダムに移動して出現する隠しステージの様な物は他のダンジョンでもある所はあるらしくそんなに珍しい物でもないそうだ。
他の場所でも似たように特定の種類の本来ならそこにはいないであろう魔物が出るのが目印なのだそうだ。
隠された遺跡には主に宝箱が置いてあり、たまにレアな魔物とかもいるそうだ。
ここで出てくるレアな魔物というのは、その存在自体が珍しいものからそこでは出るはずのない上位の魔物が出たりするそうだ。
そのため隠された遺跡などでは死亡率が跳ね上がる。それでも探索するのをやめないのは、無理からぬ話か。
中にある宝箱が空になると、隠された遺跡などは消えてしまう。なので自然と存在するっていう事はお宝があるのが確定しているってわけだ。
「あったぞ!」
柏さんの声に彼が指さしている方を見てみる、するとそこには壁に埋まる様に遺跡への入口があった。
遺跡の入口まで行き立ち止まる。
「さて、それじゃぁ私達のこういったときの手順を説明するわね。聞いてからなにか意見があれば言ってね」
「はい」
先ほど話し合いの無さで問題があったばかりだ、ここはちゃんと聞いておこう。
「私達はこの場合ふぶちゃんに偵察に行ってもらってるわ、小さな部屋なら3つまで、それ以外の部屋に出た場合は3つ以下でもすぐに引き返すように。そんな感じで最初は軽く偵察するの」
「はい」
「ふぶちゃんの報告を聞いて問題なければ突入する形ね、あとは変わらないわ。大ちゃんを先頭にふぶちゃんは偵察をして残りはついていきながら警戒をしておく、一応ね。以上だけれど何か意見はある?」
「そうですね………、もっと安全に偵察する手段がありますけど、どうですか?」
「それは願ってもないわね、神薙君さえよければ是非お願いするわ」
「分かりましたそれじゃぁ準備しますね」
安全に偵察する手段、もちろんドローンの事だ。
『ヘレナ、ドローンを頼む』
『はい』
【格納庫】からピンポン玉サイズのドローンを呼び出してそのまま遺跡内へと侵入させていく。
それと同時に空中投影のディスプレイを取り出し地面に置く。
『ドローンの情報をここに出してくれ』
『はい』
これでみんなが視覚的に遺跡内の情報を見れるはずだ。
「わぁ、なにこれ凄いわね。さっきのはドローンかしら?」
「はい、そうです」
目の前では遺跡内の情報が3Dでどんどん出来上がっていく、部屋からそこに何がいるか細かい所までだ。
「どうやら魔物はスケルトン系のみのようね、それに宝箱はここ……と」
出来上がっていく地図にはスケルトンの姿と宝箱らしき箱も出てきている、天野さんはそれを見ながら呟き吹雪さんはタブレット端末で情報を書き込んでいく。
「私達もドローンによる偵察を試そうとしたことがあるのだけれど、技術者をどうするかドローンは何台必要か、いくつも問題があってやめたのよね。けれどやっぱりこうやって見ると便利だわ」
ドローンって確かにこうやって見ると物凄く便利だよな、そりゃ検討ぐらいしたことあるか。
俺はヘレナが技術者をしてくれているので問題はないが実際に運用しようとなると問題は多いよな。
1台だけドローンを飛ばすなら大体の人ができるだろう、だけど効率的に使うには何十台、下手したら100台近く同時に使わなければ意味がない。
市販品でそもそもこういった用途のドローンは売ってそうだが、このためだけに買うのも費用がかさむばかりなのだろうか?
「どうやら最奥まで行ったようね、これがあれば気になる所だけ行けばよさそうだけれど一応ちゃんと全部見て回りましょうか?」
「そうですね、初めてですしちゃんと見てみたいです」
「了解、それじゃ行きましょ」
地面に置いた機械を持ち上げ地図を表示させたまま手にもつ、どうせこの中では俺の出番はないだろうし手が塞がってても大丈夫だろう。万が一の場合に備えてすぐに銃を取り出せるようにだけしておこう。
遺跡の中はレンガで組まれた壁で色味も赤茶色一色で特に何も特徴らしきものが無い。
「【ライト】」
エリカさんが明かりを魔法で出してくれた、あまり眩しくない程度の光量の球体が10個ほど、頭より上に7個と進行方向へ3つほど。
そうして探索は始まった。
特に何か面白いイベントが起きたわけじゃないから結果だけ言っておく。
宝箱は5つあり、スキルオーブが3つ、何やら特殊な効果が付いてそうな片手剣が1つにちょっと豪華な鎧が1つ。それにポーションらしき物が7個ほど出た。
分配に関してはもめないように事前に取り決めてあり、出た物は全て売却、その後振り分けだ。
特別欲しい物があれば買い取る事も可能だったが特に欲しい物が出たわけじゃないので売却で構わなかった。
その後も特に何も起きることなく天野さん達と3日過ごして今回の予定は終了になった。
色々と勉強になる事が多かったと思う、一人じゃ分からなかった事、改めて考えなければいけない事もできた。俺にとってはいい機会だった。
また一緒にダンジョンへ行こうねと言われたが社交辞令だと思っておくことにする。