127.【砂の世界】
127.【砂の世界】
Aランクの人達との交流会が終わり2週間ほどが経った。
交流会があったのが世間的には年末だったので、それから休みを取り年が明けて暫くするまでは家でゆっくりと過ごしていた。
とはいっても、年始には祖父母の家へと行き新年のあいさつをして初詣を終わらせ、正月料理を食べてのんびりしたし。
三が日が終わってからはクランハウスへと行き、新井さん達へ新年のあいさつをしてピザを配達で頼みちょっとしたパーティを行った。
そんな風に年末年始を過ごして今日は今年初めてのダンジョン探索へと行く。
「これだけの砂があるのに砂っぽく無いって凄いな」
その場にしゃがんで足元の砂を手に取ってみるが、砂の粒がとても細かいのか指の間からさらさらと零れ落ちていく。
視線をあげると視界いっぱいに広がる砂の世界。
右を見ても左も見ても、下も見ても上も見ても全てが砂の茶色に染まっている。
上を見ても砂とはどういうことなのかというと、ここ【砂の世界】と呼ばれるダンジョンは砂漠の地下に空間があればこういう風になるんだろうなという見た目をしているダンジョンだ。
常に空から砂が降り続けている場所が何か所かあり、そこはまるで砂の滝のようになっていてザァァァァっという音が微かに聞こえる。
あれだけ砂が舞っていると砂ぼこりが酷そうだがそんなことは無く、視界も良好だ。
ダンジョン内は薄暗く、天井部分から光の柱がいくつか降りておりそれが光源となっている。
「それじゃぁ行くか」
「はい」
「バイクを改良してから初めての運転だな」
【格納庫】からバイクを取り出して眺める。年末年始にゆっくりと過ごしていたが、やはり暇は暇なので色々と装備をいじったりしていた。その中にバイクも含まれている。
見た目は以前とあまり変わっていない、流線形の卵型ボディに白地に黒いラインが入ったデザインのままだ。
だが一回り程大きくなっている。
改良したのは主にコアとなるエンジン部分だ、この間手に入れた反重力エネルギーを使用している、他にはエンジンを変更して出力が上がったので装甲を増やし武装もいくつか取り付けた。
重量が増える事になったがこれでもヘレナ曰くまだまだ余裕があるそうだ。
バイクへと乗り込んでから飛行モードへと移行していき、ヘレナには後ろへと乗ってもらう事にする。後は【格納庫】からドローンも索敵用に20台ほど出しておく。
地面は砂なのでこんなところ歩いて移動した経験も無い俺には普通に進む事も難しい。なので手っ取り早く飛ぶことにした。
「音も前に比べてだいぶ静かになったな」
「はい」
改良前のバイクは飛ぶときに高音が鳴っていたが、今ではほぼ音が無い。誰かが会話でもしていればかき消えるぐらいの音量だ。
「幻想的な景色だなぁ」
ダンジョンにはアニメや漫画に出てくるような風景が多く、そのどれもが幻想的だがその中でもここは上位の部類に入るんじゃないだろうか。
「あ、オイルスライム」
地面からにゅるっと出てきたのは黒いオイルの体をしたスライム。名前もそのまま【オイルスライム】という。
その体は良質なオイルで出来ていて素材としてそれなりに需要がある魔物だが。
「素材が取れるように倒すのはめんどくさいからいつも魔法で燃やされちゃうんだよな」
素材となるのはその体だから素材の採取が難しい。一応ネットには採取方法などは載っているのだがそれがひと手間かかるものなのでみんな弱点である火を使い燃やして倒してしまう。
まぁ俺も素材採取はめんどくさいから燃やして倒す側だけどな。
【空間庫】からアサルトライフルを取り出し【魔法転換:銃弾(火)】を入れてあるマガジンを装填して撃つ。
「おぉ、一瞬で燃え尽きたな」
弾丸が命中したオイルスライムは擬音で表現するならジュワッっといった感じで一瞬激しく燃えてすぐに消し炭となった。
「火か………、そういえば【GunSHOP】にもショットガンの弾で炎が出るやつがあったよな。特に使い道がなかったから使っていなかったけれど」
「ドラゴンブレスですね」
「アレってそんなかっこいい名前だったの?」
「はい」
使う事が無いのでちゃんと見ていなかったが、そんな痛い感じの名前だったのか。
バイクを空中で一時停止させて【GunSHOP】でドラゴンブレスを買ってみる。
いつもの購入したときに出てくる光から箱に入った弾が現れるのでそれを空中でキャッチする。
【空間庫】へアサルトライフルを仕舞い、代わりにショットガンを取り出して購入したばかりのドラゴンブレスを装填していく。
「よし、ちょっとオイルスライムを探そうか」
折角だしどれぐらい効果に差があるのか確かめてみたい。
「それでしたらあちらにいますよ」
ヘレナがそう言うとディスプレイに方向と距離が表示される。
案内に従って進むとすぐにオイルスライムの姿が見えてきたのでショットガンを構えて撃つ。
「花火みたいだ」
撃った後に花火の音のようにバチバチと燃える音が聞こえてくる。
そしてそんなドラゴンブレスに撃たれたオイルスライムはというと、激しく燃えていた。
「う~ん、やっぱりドラゴンブレスは着火するだけな感じか?」
オイルスライムは先ほどと違い一瞬で燃え尽きることなく、燃え続けている。
ドラゴンブレスは火属性だが、どちらかというと燃えるきっかけを作る感じで。【魔法転換:銃弾(火)】は燃やすだけじゃない何かしらの効果がありそうな感じだな。
確認したい事は終わったので改めてダンジョンを進む事にする。
飛んでいるとオイルスライムを何匹か見かけるが倒すほどでもないので無視して進む。
今更だがここで今回【砂の世界】へと来た目的を話したいと思う。
目的はクラン依頼で出されていた【砂の薔薇】と呼ばれる花の採取だ。
調べた所、この花はかなり特殊な物らしく、なんでも砂漠化を食い止めることが出来るとか。
今の時代でも砂漠化の問題というのは終わっていない、科学技術の進歩によりかなりましになったっていう話しだが。それでもやっぱり砂漠というのは未だにちょっとずつ緑地を砂漠化していっている。
そこで使われるのが【砂の薔薇】という花だ。
普通の花は大まかに言うと水分と光合成で育つが【砂の薔薇】は砂を栄養源として育つ、そして開花の時植えられた場所一帯を緑地へと変える。
その特性を生かして砂漠の端に植える事で砂漠化を止める、または緑地を増やす。
これだけ便利な物があればもっと需要がありそうなものだが、そもそもこの花が見つかりその有用性が発見されたのが2年ほど前で、そこから実験を繰り返し実践しようとしたのが1年ほど前、そこで効果が実証されたのでダンジョン協会から依頼として出ている。
既に何度も採取されているので、【砂の世界】のどのあたりで採取出来るとか採取方法なども全てわかっているのだがあまり人気の無い依頼みたいでやっている人がいないらしい。
人気の無い理由は【砂の薔薇】が採取出来るのが【砂の世界】の様に特殊環境のダンジョンで攻略するのがめんどくさい事、効果が実証されて依頼が出ていると言ってもこれはまだ実験段階の意味合いが強く報酬が少なくボランティアに近い事。
そういった理由でやる人がいない。
じゃぁなんで俺はこの依頼を受けたのかというと、単純に興味からだ。
ファンタジー要素の強い植物とか、ネットで画像が見れたとしても自分で見に行けるなら行って見たいと思わないだろうか?
後はちょっとした偽善だ。
ずっと昔から言われている事だがこのままいけば地球は温暖化でどうにかなるとかああいうの。実際問題になる頃には俺は生きてはいないだろうがそれでも多少なりとも未来がよくなるならそういった方向に進んで欲しいし、その為になるなら報酬が少なくても依頼を受けてもいいと思っている。
結局は俺一人がどうこうしたところでどうにもならない問題なのだろうけれど、それでも先がよくなるならやる意味はある。
◇ ◇ ◇ ◇
「あそこに、リザードマンがいます」
「お?あれがリザードマンか、ほんとトカゲにしか見えないな」
もうすぐ【砂の薔薇】の採取ポイントがあるあたりへとつくかという頃、ヘレナが敵を見つけたようだ。言われた方向を見て見るとそこには言った通り【リザードマン】がいた。
こげ茶色のつるッとした体で手には槍を持っている、見た目はトカゲその物だが二足歩行も可能で人型に近いがそれでも魔物だ。
「何となく愛嬌があるな」
クリッとした瞳に時々チロッとでる細い舌、一部の人には受けの良さそな見た目をしている。
まぁどれだけ見た目がよくても魔物な以上倒すんだけれどね。
リザードマンは鱗があり防御力が高めだと情報にはあったので貫通力のあるスナイパーライフルを使う。
バイクに乗ったまま上空で停止して狙う。距離は250メートルほど、撃つ。
「よし、一発」
狙い通り頭に一発、リザードマンはこちらの存在に気づくことなく倒れた。
そのまま少しの間他に敵がいないか索敵してから、安全が確認出来たら倒した場所まで飛んで行きバイクから降りる。
「近くで見てもやっぱりトカゲにしか見えないな」
体長は2メートルちょっとぐらいだろうか、結構大きい。
リザードマンの皮は防具の裏地に使われるらしくそこそこ需要があるので【空間庫】へと入れておく。後でダンジョン協会に出して買取してもらおう。
こちらで解体すれば解体費用が掛からないのだが、俺に解体の知識などないし、ヘレナなら出来そうだがさせたくないのでそのまま持っていく事にする。
「マスター、ドローンが【砂の薔薇】を見つけました」
「了解、採取しに行こうか」
リザードマンを【空間庫】へと入れ終えたらバイクへ乗りなおし【砂の薔薇】のある場所へと向かう。
「あそこか」
遠目からでもわかるほど明らかに砂漠地帯に緑地された場所が見える。
近くまで行くと綺麗な花が咲いているのがわかる。
【気配感知】にも反応が無く、近くに魔物はいないようなのでそのままバイクを降りる。
「これが【砂の薔薇】」
地面は水分を含んだ土で雑草が生えていて目的の花以外の名前も知らない花がいくつも生えている、そんな緑化された中心に目的の【砂の薔薇】が咲いている。
向こう側が見えるほど薄く透き通った薄水色の葉っぱから水滴がポタポタと流れている、茎は鮮やかな緑色で細くちょっと触ったら折れそうだ。
ネットで画像は見ていたが実際に見ると全く違う物に見えてくる。
「んじゃ目的の物を採取しますかね」
「はい」
緑地の中心地を離れて砂漠との境界線まで歩いていく。
【砂の薔薇】を採取するのだが目的の物は咲いた物じゃなく、まだ咲いていない物になる。
「あった、これだ」
砂漠と緑地の境界あたりに生えている若芽、これが成長すると【砂の薔薇】になる。
根っこごと地面を掘り持ってきた採取ケースへと入れる。
「依頼ではいくつでも、持って帰れるだけだっけ?」
「はい」
「じゃぁこの辺の全部持っていくか」
ダンジョン内の採取ポイントは時間が経つと消えて移動する、なので全部採取してしまっても問題ないだろう。
【格納庫】から作業員ロボットを呼び出して採取を手伝わせる。
【砂の薔薇】の若芽を採取し始めて10分ほどで緑地をぐるっと一周した、おそらく取りこぼしはもうないだろう。
作業員ロボットを使うと早く済むから楽だな。
「思っていたより早く終わったしもうちょっと探索してから帰るか、途中でまた【砂の薔薇】を見つけたら採取するぐらいの気持ちで」
「はい」