126.Aランクの人達
126.Aランクの人達
「柏大五郎だ」
見上げないといけないほどでかい男性、短く刈り上げた髪型に彫りの深い顔立ち。西洋のフルプレートメイルを装備しており、まるで映画俳優みたいな人だ。
「エリカよ」
一方こちらはとても小柄な女性、パッと見た感じは小学生に見えるが探索者という事は16歳以上という事になる。部屋の照明をうけてキラキラと輝いて見える銀髪にゴスロリって言うんだっけ?ひらひらとした黒い服をきたひとがいた。
「吹雪といいます」
続いて自己紹介してくれたのは20代後半ぐらいの黒髪をポニーテールにしたザ・日本人って感じの人で他の2人に比べるとだいぶ大人しい見た目をしている。黒い布で出来た服を着ていてどことなく隠密っぽい印象を覚える。
「汐咲治房だ、よろしく頼む」
金糸の刺繍がされた白いローブを着た白髪の男性だ、歳は30代後半から40代前半ぐらいだろうか。大人の男性だなって感じの渋さが出ている。
「そして私が天野リオ、この5人はみんな同じクランでね。【アストライア】っていう所に所属しているの」
「神薙響です、よろしくお願いします。【花屋敷】というクランに所属しています」
お互いに挨拶が終わり雑談へと移り変わっていく。
最近のニュース内容から。どこどこのダンジョンが面白かったとかあそこのダンジョンはめんどくさかったなど色んな話題が出る。
そんな雑談の中で知ったのだが、どうやら【アストライア】というクランは規模の大きい所らしい。
世間一般的に大規模クランと呼ばれるには所属している探索者が1000名を超えなければいけない。
そしてそんな大規模クランは日本に5つしかない。
日本にいる人の内、約8割以上が探索者になっているほどその数が多いのに1000名超えている所が5つしかないのは人数だけでなく所属している人のランクにも関係してくるからだ。
S~Bランク、そして一部のCランク認定を受けた人達だけがクランへ所属していると正式に認められている。
なぜそんな事になっているのかというと、日本人の約8割が探索者となっている現状が関係している。
ランクはS~Gまであり、その全ての人達をクランへと所属登録すると膨大な数になる。
登録されている数が増えると管理するのも大変になっていく。
そこでダンジョン協会は管理する人数を減らす為にランクアップ試験のあるBランクから、と。ダンジョン協会が行っているCランク認定試験で合格した人達に限定した。
Cランク認定試験とはBランク試験と似たような物でその人がCランクの実力があるかどうかを調べるものだ。
それはBランク試験とどう違うのか、そもそもそんなのがあるならCランク試験とか、それこそ全部のランクに試験があればいいのにと思われそうだが。
それもやはり、全てで試験を行うには大変すぎる。だから試験はBランク以上という事になっている。
ではなぜCランク認定なんてものがあるのかというとBランク試験を受けるほどの実力は無い物の流石に自分がDランクだと思われるのはなぁっていう風潮が元々あった。
そこで出来たのがCランク認定、実はこれはダンジョン協会が行っている試験ではなくて探索者同士で行われる試験でダンジョン協会は関わっていない。
関わっていないが都合がいいので黙認している形だ。
Cランク認定試験が探索者同士で出来るのなら自分達の都合のいいCランク認定を出しまくるんじゃないのかと思われがちだが、実際はそうはいかないらしい。
認定試験を行うにはクランへ所属している事、そして自分達とは完全に関係ないクランへと依頼する事。
他にも色々と細かい決まり事があるらしいが知らなくても困らないので聞くのをやめた。
聞くのをやめたのは教えてくれていたのがヘレナだからだ、天野さん達と雑談しながらも情報を教えてくれていたのだが流石に雑談しながらヘレナからの情報を見ると言うのは難しすぎたのでキャパオーバーだ。
後で家に帰った時にでも教えてもらおう。
「ねぇねぇ、神薙君」
「はい?なんですか?」
雑談が一通り終わり次は何を話そうかとお互いに空気を読んでいる。
そんな静寂を破る様に天野さんが話しかけてきた。
「折角の機会だしさ、今度一緒にダンジョンへ行かない?」
「ダンジョンですか………」
知り合ったばかりの人とダンジョンかぁ、人見知りの俺にはちょっと厳しいかもしれない。
厳しいかもしれないけどこういう機会ってそうそうないのも事実なんだよな。
「どうかな?」
「そうですね、せっかくの機会ですしお願いします」
「やった!じゃぁ連絡先交換しよ?」
「はい」
天野さんと連絡先を交換してそのまま雑談は続き、最終的にはこの場にいる6人。
柏さん、エリカさん、吹雪さん、汐咲さん、天野さん俺でダンジョンへと行くことになった。
俺は初めてだったから知らなかったが、こういう場でお互いに何となく気が合いそうな人がいればパーティを一度組んでみてダンジョンへと行くことは多々あることみたいだ。
そしてそんな雑談の中でさらに驚きの事実が判明した。
いつもいつも何か事あるごとに魔法契約でお互いのスキルについて縛ってくるダンジョン協会の行いだが。
現役のというか、俺と違って仲間が多い人達はお互いにスキルについて隠すと言う事はしないそうだ。
少し前に俺が自分で考えて出していた、どうやっても見えてしまう部分のスキルは隠す必要が無いなっていう結論だがそんなこと当然だろう、というわけらしい。
いや、まぁそりゃそうだけどさ。俺がちょっと悩んでいたのは何だったんだって感じではあるけれど、これも俺がソロなのが悪いんだろうな。それで納得するしかない。
そもそもスキルを隠す方がいいというのに至ったのはネットで調べたからだ。
だが、どうも俺の調べ方が浅かったみたいで。『スキル 魔法契約とは』みたいな感じで調べて色々と検索結果が出てきたわけだが、一番情報が正確であろうとおもっていたダンジョン協会の公式ホームページに書いていたことを鵜呑みにしたのがよくなかったみたいだ。
スキルをお互いに言えないようにした方がいいというのは、あくまでもダンジョン協会が今後問題が起きないようにするためにしていることだったらしい。
実際の探索者同士での共通認識としては、スキルなんて一緒にパーティを組んだり、たまたま見てしまった場合でも隠しきれるものでは無く。
それなら見てもお互い黙っていようね、というのが暗黙の了解というかそういう考え方がある。
そうはいっても人間なのだからどこかで口を滑らせる事があるとおもう、そういう時はお互いに注意し合ったり、悪質な場合は探索者の中で情報が回っていくのだとか。
どこどこのあいつは人のスキルについて平気で口にするから気を付けろ、みたいな感じで。
そんなわけで、俺がそうだと勝手に思っていたスキルを隠した方がいいという考えはあくまでお役所であるダンジョン協会の考えであって、探索者達からすれば隠しようがないんだし、あえて吹聴するような事でもないため問題にはならないようだ。
探索者というのはもっと規約とかそう言うのにうるさいと思っていたが、実際にはそんなことは無く結構緩いみたいだ。
その後も1時間ほど雑談をしてから、そろそろ家に帰りたくなったので天野さん達に別れのを言ってから、最後に他の参加者に挨拶をしていく。
どうやら俺が会場に着いた後からも参加者はきていたようで現在では30人ほどになっている。
それぞれに挨拶をしていくが、どの人も一度は名前を聞いたことあるようなクランへ入っておりパーティで参加している。
ソロの人はいないのかなって思っているとどうやら俺みたいにソロの人はこういった催しに参加することが滅多にないようだ。
そして当然の事の様に全員が俺の事を知っていた。
ちょっと怖かった。
情報が大事だと言う事は今更言うまでもないが、それでも俺の事を知っているほどちゃんと情報収集しているんだなと、改めて情報収集の大事さを確認した。
挨拶が終わり後は帰るだけになったのでそのまま会場を後にしたのだが、出るときにダンジョン協会の人からお土産をもらった。
何やら有名どころのお菓子らしいがそう言うのに詳しくないので見たところで分からなかったが美味しかった。
饅頭なのだが食べたことない味で何と表現していいのか分からない、ただの茶色い饅頭がやたらと美味しかった。
あ、帰りの自動運転のタクシー内で食べました。
何となくこういうのって家で落ち着いて食べるような物何だろうけれど、どうせ食べるのは俺だけなのだしどこで食べてもいいだろうと勝手に思う事にした。
◇ ◇ ◇ ◇
情報収集の大事さを再認識したので、家へと帰ってからヘレナと雑談しながら色々と調べものをした。
そこで改めて調べなおしたのがCランク認定とクランについてだ。
クラン所属を認められるのはCランク認定した人とBランク以上なわけだが、それより下のランクの人はクランに入るメリットって何なのかとか調べていた。
わかった事はクランは入るだけで色々とメリットがあると言う事、一番大きいのはここでもやはり情報だった。
クランへと入ると、クラン専用の掲示板のような物にアクセスすることが出来てそこで他には無いクラン独自の情報などを調べることが出来るようなのだ。
これまで先人たちが積み上げてきた情報だ、それはお金に変えれないほどの価値があるだろう。
勿論情報には規制が入っており、それぞれランクに応じてアクセスできる情報が限られているとのことだ。
それでもそのランクならば必要と思われる情報は入手できるようになっているので、クランへは入るだけでメリットがあるってわけだ。
他にも同じクランならパーティメンバーを募集しやすいだとか、規模の大きいクランだと名前だけで後ろ盾となる。
そこでふと思った、クランへ所属している事が認められるのがCランク認定されてからだと言うのなら今俺がいるクランを設立したとき新井さんはCランク認定していたのだろうか?と。
その答えもあった。
クラン設立する時にDランク以上に設定されている依頼を受けたと思うが、あれを完遂できる人材がいれば一応いいみたい。
俺の時はBランク設定されていた『幻想鳥』の捕獲だったがもっと簡単なものでもよかったみたいだ。
クランを設立する人のランクが低いのはどうなんだろうと思っていたがそこは関係ないみたい。
代表のランクは関係なく、所属している探索者のランクが関係ある。
なんとも不思議な感じだが、それで通っているのだから問題ないのだろう。
今では俺がAランクだし、クランとしては問題無いのだろう。
傍から見ると俺が新井さん所にいる意味って俺側にはメリットってないんだろうけれど。今更新しいクランへと入って人間関係を築いていってって考えるとそれが無いだけで俺には今の場所が十分メリットになっている。
「う~ん、寝よ」
考えすぎるのはよくない、考えるのなら次どこのダンジョンへ行くかぐらいが俺には丁度いい。