123.【ラピトリア】
123.【ラピトリア】
「これが楽園都市ねぇ」
街並みはシンプルで建物はどれも真っ白でタイルの目のお陰で人工物なんだなとわかるほど精巧にできている。
ビルの背も高く上を見上げると首が痛くなりそうなほどだ、そんなビルの途中に出入口がありあそこは飛ぶ系の車専用の入口なんだろうなって事がわかる。
他にも街中をよく見れば空中投影ようの機材っぽいやつなど、どことなく未来感のあるデザインになっている。
【ラピトリア】ダンジョンが発見されたのは大体160年前、言ってしまえばダンジョンが世界で初めて発見されてから十年以内ぐらいの時だからほぼほぼ最初期からあるダンジョンと言えるだろう。
その時代はまだ車は地面を走っているのが一般的だったしフルダイブ型のゲームなんてのも空想上の物だったのだが、今や想像上の物だったアレコレはほぼ実現出来ていて、その更に先を目指している段階だ。
だからと言えばいいのか現代人なら街中のあれこれを見ればどういうそれがどういう用途の物なのかわかるだろう。
しかし昔の人はそんなことわからない、そんな時代に発見されたものだからここは人々が追い求める理想郷に近いと言う事で楽園都市と呼ばれるようになったらしい。
【ラピトリア】ダンジョンの人気があまりない理由の一つ、ここでとれる素材の需要があまりないと言うのも時代が進んだ結果【ラピトリア】でとれる素材ぐらいなら作れるようになったと言うのがある。
まぁ作れるからと言って需要があるかと言われるとそうでもないらしく、前回の装備製作時に少し買っただけなのに値段がかなりかかったしな。
需要が無いなら安くしてくれてもいいのにって思うがそう言うのは逆なんだろうな、需要があるから沢山作られてその分安価になる、全部が全部そう言うわけでもないんだろうけど残念ながら俺が欲しい素材はそういうやつだったというだけだ。
「あ、また出たか」
都市部に入ってからゆっくり眺めながら探索していたのだが、壁の外でも見た4つ足のやつがやってきた。
敵が出てきたが呼び出していた【赤雷】が突っ込んでいってそのまま倒した。
やっぱり敵が弱い、本当にここはAランクダンジョンなのだろうか?敵の強さ的にはCランクぐらいに感じるのだが。
と、そんな風に考えていたが【赤雷】が1体倒した途端あちこちか敵の反応が【気配感知】に引っかかる。
数で押すつもりか。
【格納庫】から他の【赤雷】シリーズを全て呼び出していく。既に呼び出していた【赤雷】、そして【蒼雷】【緑雷】【白雷】【黒雷】の出番だ。
【気配感知】に映る敵の数は32体、それぞれ左右と正面から分散してやってきているので呼び出した【赤雷】シリーズもそれぞれわかれて迎え撃つ。
【蒼雷】と【緑雷】は右側を、【白雷】と【黒雷】は左側を、俺と【赤雷】で正面をヘレナは全体を見てそれぞれの援護だ。
「まず1体」
ビルを乗り越えてやってきた敵の姿が見えた瞬間に撃ち抜く。〝対物ライフル〟の1発で倒せるので処理するのが楽で助かる。
俺がビルを乗り越えてやってきた敵を倒すのと同時にビル下の陰から出てきた敵へと【赤雷】が背中に取り付けた機関銃で撃ち倒す。
その後はもう消化試合だ、見えた敵からひたすら撃って倒していくだけになった。
【気配感知】に敵が映らなくなったら次は素材回収だ、【格納庫】から作業員ロボットとドローンを呼び出し回収を任せる。
「1、2……全部で5体分か」
数えていたのは素材としての価値が無くなってしまった物の数だ、乱戦になってしまうとどうしても綺麗に倒しきれないのでこういったことが起きる。
まぁそれでも32体も敵がいて5体だけの損失なら許容範囲だろう。
「この感じだとさっさと奥にいって回収率のいい敵を探した方がよさそうだな」
「そうですね」
空母みたいなやつがいてそいつ1体で素材集め終わったりしないかな。
◇ ◇ ◇ ◇
「何だあれでっかぁ、いったいどこから出てきたんだ?」
中央に見える円柱の建物まであと200キロぐらいといったところか、どんどんとビルが密集してきて外縁部に比べると大体半分ぐらいの狭さになってきた。
道が狭くなるのに反比例するかのように出てくる敵は大きくなっていった、最初に出会った敵は軽自動車ぐらいの大きさだったがその次に出会ったのは10トントラックほどの大きさになり、ついさっき倒したやつは2階建ての一軒家ほどの大きさがあった。
もっともそれだけ大きくなってもなお2~3台は横並びになれそうなほどの道幅はあるんだけれど。
だが今目の前に見えるのは2階建ての一軒家なんてちゃちなもんじゃない、並んで見える高層ビルよりもさらに背が高く、横にもビル4つ分ほどでかい空飛ぶボール。
「さっきまであんなのいなかったよな?流石にあの大きさを見逃すとは思えないんだが」
おかしな部分はそこだ、少なくともあの大きさなら都市に入る前からどころかダンジョンに入った瞬間からアレが見えてもおかしくないほどでかい。
「どうやら光学迷彩のような物が発動しているようです、これだけ近づかないと見つけられないとなるとかなり高性能な物かと」
でかいボールとの距離は1キロも離れていない、それだけ近づかないと見えないのは驚異的だ。
「ふむ、アレを倒したら素材一気に集まったりしないかな?」
あれだけの大きさだ多少破壊してもとれる素材は多そうだ。
「はい、損傷率を半分以下に抑える事とコア部分を破壊しなければ十分元がとれるでしょう」
「コア部分か………あの敵の情報ってある?」
「はい、名前は【デス・ボール】。主な攻撃方法は砲撃による範囲攻撃で一度見つかると近づく前に倒されてしまいます。攻略方法としては気づかれずに近づき内部に侵入して破壊するか、遠距離から電気系の攻撃または腐食性の攻撃を与え続けるかです」
「火力で押すか潜入ミッションって事か、それにしても【デス・ボール】って名前はダサくないか?」
「一度見つかれば帰還率は1割を下回るようです、ネーミングセンスはともかく驚異的だったのは確かでしょう」
確かにそれだけ強ければ名前なんてどうでもいいのか?
「それじゃぁ綺麗に倒したいし潜入ミッションと行きますか、ヘレナは一度戻っててもらえるか?」
「はい」
【格納庫】を開き【赤雷】シリーズとヘレナ専用人型機を仕舞っておく。
一人になったところで【忘失の外套】を使用する、これで【デス・ボール】の索敵をくぐれるかは分からないが行けるところまでいこう。
もちろんダメだった時の対策として〝龍殺しの一撃〟をいつでも抜けるようにホルスターへと入れておく。
後はしんがりに【不壊】などもいつでも呼び出せるように待機だ。
【忘失の外套】がちゃんと起動しているのを確認して歩きだす。
◇ ◇ ◇ ◇
はい、というわけで現在地は【デス・ボール】の内部です。無事侵入できました。
いきなり場面が飛びすぎだって?では軽くどうやって侵入したか説明しよう。
【忘失の外套】を起動したまま【デス・ボール】へと近づいたが無事見つかる事なく足元まで行くことが出来た。
その後ハンドガン型のフックを射出して【デス・ボール】の体へとひっかけて登る、その後は侵入口であるハッチを探して入るだけだ。
恐らく弱点というか、そうやって攻略してくださいねと言わんばかりの侵入口が取り付けてあったので【デス・ボール】は侵入されて倒される物なんだろう。
敵によって弱点がそれぞれある様に【デス・ボール】にも侵入口という弱点があるわけだ。
【デス・ボール】の内部は人が一人ぎりぎり歩けるぐらいの通路が繋がっている、壁は配線が剥き出しで所々ピカピカ点滅している。
「ヘレナ、クモ型ドローンで内部を調べてくれ」
『了解』
【格納庫】を開きクモ型ドローンを呼び出していく、こういう狭い所だとこのドローンが便利だ。
『コアまでのルートが判明、地図に出します』
10分ほど待機しているとヘレナがルートを出してくれたのでその通りに進んでいく。
歩いている間にもどんどんと地図が完成していっているのが視界の隅でわかる。
「内部に敵はいないのかな?」
『そのようですね』
本来は近づくまでが難しすぎるから内部には敵がいないって事なのかな?そこを俺は【忘失の外套】というちょっとチート気味な装備のお陰ですっ飛ばしたわけだ。
正直俺でも強すぎる装備だとは思っている、けれど使うのはやめない。
それに【ゴランデル王国】にいたゴブリンのように【忘失の外套】を見破ってくる敵もいないわけじゃない。
「コアもでっかいなぁ」
30分ほど内部を歩くとコアへとたどり着いたのだがこれまたでかい。直径20メートルほどはありそうなコアにそれを支える機械部分とそれを納めるだけの部屋の広さ。
「さて、どうやって停止させるか。まさか電源スイッチとか無いよな?」
『流石に電源スイッチはありませんでした、ですので停止作業に入りたいと思います』
「了解」
【格納庫】からヘレナ専用人型機と作業員ロボットを呼び出し停止作業を開始する。
俺は下手に触って爆発とかしたら嫌なので大人しく待機しておく。
「準備できました、停止させて構いませんか?」
「うん、停止していいよ」
「了解、停止させます」
ヘレナがそういった瞬間部屋に響いていた駆動音が低くなっていき次第に聞こえなくなっていく。
あ、そういえば【デス・ボール】って浮かんでるじゃん。停止させてよかったのか?
「ヘレナ、電源落としたらこれ落ちたりしない?」
「しますね」
「まじ?」
「はい」
やばくね?って思った瞬間部屋全体がガクっと落ちる。
「うおぉぉぉ全員早く【格納庫】へ避難だあ!」
慌てて【格納庫】を開き作業員ロボットとヘレナ専用人型機を仕舞っていく。
「防具着てるし落下しても平気だよな!?」
『大丈夫です』
【格納庫】へと全員仕舞った瞬間体が浮かぶのを感じて時間にして数秒もない感覚で次の瞬間には大きな音と衝撃が襲ってきた。
「ぎゃぁぁ、いったくは無いけれどほんとに大丈夫なのか不安になる!」
防具についている衝撃耐性のお陰で傷みは全くないが視界が激しく揺れているので不安はある。
「ふぅ、落ち着いたか。ヘレナ?今度からは落ちるときは言ってくれよ?」
『はい』
揺れが収まってから立ち上がりヘレナへと苦情を入れておく、彼女的には俺は防具も来ているし大丈夫だという計算があったのだろうけれどびっくりするもんはびっくりする。
「それじゃぁ外へ出て解体作業と行くか」
『はい』
何はともあれ無事綺麗に倒せたのなら後はお楽しみの回収タイムだ、これだけでかいと時間かかりそうだがその分素材は見込める。
楽しみだ。