120.カストラ
120.カストラ
引っ越しが終わりまだ慣れない新居でごろごろと過ごす。
「どこかしらに絶対金色好きっているよな………」
ソファに寝転がりながら見ているのは銃のカラーリングなどを特集している雑誌の電子書籍だ。
紹介されているのは個人所有のエアガンのカラーリングなどをまとめた物で色々とある。
シンプルな色の物から奇抜な色の物まで、そしてやはりと言うかなんていうか金色のびかびかした派手なのも掲載されている。
一定数こういう派手なのが好きな人っているよなぁと思いつつ眺める。
「やっぱこういう少しだけ色を変えるのがおしゃれに見えるな」
銃の一部だけメタリックカラーにしたやつが渋く感じる。
色を変えるとしたらこんな感じがいいかもな。
◇ ◇ ◇ ◇
「おぉ、すごい映画の中みたいだな」
やってきた場所は【カストラ】ダンジョン。
ここは雰囲気が物凄く映画の中みたいだ、古代ローマの崩れた遺跡がそのまま残っており地面は綺麗な芝生で薄っすらと暗いがこれは濃い霧が出ているせいだろう、少し先までなら見えるが20メートルを超えたあたりから濃い霧のせいで何も見えない。
今にも馬に乗り鎧を着た人が出てきそうなほど映画のセットみたいに完璧な雰囲気が出ている。
今もこういう場所が海外に残っていると思うと凄いなぁと思う、思うだけだが。
さて、そんな雰囲気ばっちりな【カストラ】ダンジョンへとやってきた理由だが。
ダンジョン協会からクランへの依頼だ、それを受けた。
依頼内容は【カストラ】ダンジョン内の調査。
詳しく言うと出てくるモンスターの詳細、映像or写真とダンジョン内の映像or写真と地図の製作。
地図についてはある程度の出来であれば構わないそうで、めちゃくちゃ詳しく描いて欲しいと言うわけでもないみたいだ。一応これぐらいっていう参考資料も貰って確認したのでどんな出来にするかはヘレナに任せた。
今回のこの依頼だが、こんな依頼をうけたらそれをするだけの能力がある事がダンジョン協会にばれてしまうわけだ。
依頼内容からして明らかに一人でするようなものじゃないし達成する日数によってもどの程度の能力があるのかというのが推察されていくだろう。
なのになぜ依頼を受けたかというと、最近ちょっと考えてて思ったのだ。
あんまり能力を隠す必要ってないんじゃね?って。
考えてみて欲しい。
今の俺の恰好は明らかにロボットっぽい見た目で銃を使って、なんなら【不壊】や【赤雷】シリーズにドローンまでいる。
どこをどう見たって隠せない部分がある。
なので逆に見える部分の能力は隠さない事でそういったスキルを持っているんだなと思ってもらう事にした。
俺の持っているスキルの中でどうしても隠したい部分って【GunSHOP】の銃を購入できるところとか【野営地】とか【格納庫】の部分ぐらいだ。
幸いな事に隠したい所は目に見えない部分なので比較的楽に隠せる。
それにそう遠くない内に今みたいに人の眼の無い所でダンジョンに入り続けるというのも難しくなってくるとは思う。
そう思う理由としては、俺がAランクの探索者になったからだ。
本来Aランクともなれば探索者の中でも上位の中の上位だ。メディアへの露出が高い人もいれば名前だけが出ていて姿形が全く分からない人もいる。
そんな中で俺はどの立場に立ちたいかを考えた。
実は無視しているだけでメディアからの取材とかのメールが結構きている。一体どこから俺の事を発見してきたのかは分からないがこれについてはどうしようもない。どこの世界でも情報というのは自然と漏れていく物だから。
メールの内容は若くしてAランクとなった俺についてどうやってそこまで強くなったのか聞きたい、みたいなのが一番多かった。
そうしたメールやAランクとしての立場や、これからどうしていきたいかと考えたときにやっぱりこのままずっと隠れているのは無理だなという結論に至った。
Aランクとして活動したいし、新井さん達とも一緒にダンジョンへ行ったりしたいし。
なので極端に隠すことはあきらめた。
その一歩としてまずはこのぐらいの力はありますよ、というのを見せていきたいと思った。
「出てきたか。ヘレナ、撮影の方は大丈夫そう?」
「はい、問題なく映っています」
今回の依頼は調査だが、どんな魔物が出てくるかぐらいは情報がある。
出てきた魔物はゴーレムの一種で全身が黄土色の見た目は剣闘士のような感じだ。
袖の無いタンクトップみたいな鎧を着ており剣と盾を持ち筋骨隆々な見た目だ、だがゴーレムなので鎧も武器も全てが石っぽい素材で出来ている。
撮影についてはドローンでおこなっている、操作するのはもちろんヘレナだ。
剣闘士ゴーレムがこちらに気づいてゆっくりとだが近づいてくる、どうやら遠距離攻撃の手段はないようだ。
「この後も撮影するだろうし、取り合えず普通に倒していくよ?」
「はい」
魔物はこの後も出てくるだろうし取り合えず倒す。〝対物ライフル〟を構え撃つ。
「やっぱゴーレムにはよく効くな」
〝対物ライフル〟の一撃で体を大きく削られた剣闘士ゴーレムは動くこともできずにそのまま崩れて沈黙した。
「取れる素材はこの石だっけ?」
「はい、それが建材とゴーレム生成の素材になるようです」
実際にはこれ単体で使うのではなく色々と混ぜるそうだが、この素材で作るお城が丈夫で長持ちするらしい。
今の時代にお城?と思うかもしれないが使い道としては今も残っているお城の補修工事に使われる感じだ。
ゴーレム生成の素材としてはこの剣闘士ゴーレムは高級品らしく需要が途切れないとのことだ。
需要が途切れないっていうよりかは供給が間に合ってないだけだと思うが。
数分に一度ぐらいの頻度で出会う剣闘士ゴーレムを倒していく。
剣闘士ゴーレムには遠距離攻撃が無いと言っていたが実際には持っている武器によるようだ。弓持ちの剣闘士ゴーレムが石で出来た矢を撃ってきた。
「地図の方はどんな感じ?」
「現在の階層は9割ほどが終わっています、このままいけば後数分ほどで完了するでしょう」
「ふむ、剣闘士ゴーレムは撮影終わった?」
「はい、この階層に出てくる種類の物は終わりました」
「じゃぁ次行くか」
「はい」
剣闘士ゴーレムの撮影はドローンが、地図の作成はドローンが。
ドローン便利だな………というか機械が便利なんだよな。
因みに【カストラ】ダンジョンは全20階層で依頼では3ヵ月ほどを使い行けるところまでって感じだった。報酬についてはその出来高になるが全て終わらせた場合7000万ぐらいになる。
1階層の9割ほどの地図が完成するまでにかかった時間は2時間ほど、残りの階層も同じぐらいの広さだとすると最低でも地図製作だけで40時間以上かかる。
ここに魔物の撮影も含まれるとしても3ヵ月もあれば終わりそうだな。
◇ ◇ ◇ ◇
「この階層からはパーティ戦か」
現在の階層は11階、ここからは剣闘士ゴーレムがパーティを組んで出てくる。
大楯持ちに剣か槍持ちの前衛、後衛には弓と何やら槍を投擲してくるタイプのもいるみたいだ。
相手が人数を増やしてくるのならこちらも増やそう、【格納庫】から【赤雷】シリーズを2機だしてそれぞれ盾として使う。
【赤雷】シリーズが前衛で盾として敵を抑えてくれている間に隙を狙って〝対物ライフル〟で倒していく。
盾役がいると圧倒的に倒すのが楽になる。
11階までくるのにかかった日数は5日ほど、この調子でいけば1ヵ月かからずに終わらせれそうだ。
そう言えば戦闘中もずっと撮影しているが、提出する際にはちゃんと編集してスキルを使っている所はカットする。
映像を編集したら本物かどうか確信が持てないと思われるかもしれないが、そんなすぐばれるような嘘はつく理由がないので編集しても大丈夫になっている。
「マスター、宝箱です」
「どこにある?」
「そこの角を曲がった先です」
「了解」
剣闘士ゴーレムのパーティを倒して素材を拾った後ヘレナが発見した宝箱へと歩いていく。
「罠は………うん、無さそうだな。ただ鍵がかかっている」
罠の反応はないが宝箱には鍵がかかっていて開きそうにない、そして俺には【開錠】スキルとかも無い。
というわけでショットガンの出番だ。
宝箱の出来るだけ上部を狙い撃つ。
「よしよし、うまいこといった」
鍵が無ければ破壊すればいいのだ。
「中身は、鎧か………しかも袖のないやつ」
宝箱の中身は剣闘士ゴーレムが着ているような袖の無い鎧だ。もちろん石で出来てはいない、ちゃんと金属と革で出来た鎧だ。
自分で使う事はないのでダンジョン協会へ売却かな。
売れる物が出るだけましと考えるか、ポーションとか出ても使い道が無くて困るしな。売るにもポーションって基本安いし。
「よいしょっと。ヘレナ、【野営地】でちょっと休憩でもしよう」
「はい」
5時間ぐらい動いてたしちょっと【野営地】に行ってアイスでも食べて休憩しよう。
ダンジョン内だし気を抜くのは良くないが適度にならいいだろう。