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その音色は誰かのために  作者: 玲於奈
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遅れていてすみません。



あれから新は、時間があれば頻繁にバーに行った。

目的はそう、あのヴァイオリン奏者に会うためだ。だが、新は残念ながらあの日以来彼女を会えなかった。もう2ヵ月もたっていた。

新はこの2ヵ月も空振りし続けたていた。

しばらくすると、新は久々に神鳥谷からバーに誘われた。その後、新は忙しくてバーには行けなかった。


カウンターに座り、辺りを見回す。また空振りかと新の心はひとり落ち込んだ。すると何かを感じたとった神鳥谷が新に尋ねてきた。

「なんだ、浮かない顔をして」

そういいながら神鳥谷はにやにやとして、何やら言いたそうだ。

新の手に持つグラスには、既に酒が入っていない。

「いや、なんでもない」

そういうと新は、バーテンダーに新しい酒を頼んだ。


それからまた二人は、カウンターに座って飲みはじめた。

するといつものように演奏者たちが休憩に入る。今日も空振りかと思っていた矢先、聞き覚えの音色が聞こえてきた。


その瞬間、新は胸が高鳴った。

――彼女に会えた。やっと会えた。

そう思い演奏者の方を見た。

久しぶりに会えた彼女は、以前と同じ濃紺のワンピースを着て、ヴァイオリンの音色を奏でている。

新は、彼女の演奏を今日初めて、最初から最後まで聞くことができた。


休憩が終わり元の演奏者にかわる。彼女は立ち上がり、ゆっくりと歩き奥に向かった。だがその足取りに二人とも気づいた。

彼女を見ると、右足を引き摺るように歩く。絢斗がはけてから新は、バーデンダーに話かける。


「彼女、どこか具合でも悪いのか?」

だが、聞いてもバーデンンダーは黙っている。

神鳥谷がさらに彼に目配りをした。バーテンダーは神鳥谷のまなざしにちょっと躊躇し、口籠った。そして再度、神鳥谷をちらりと見る。神鳥谷はお得意様、新は彼女目当てに会員になり、頻繁に来ている。それを知っているためバーテンダーは、神鳥谷と新だからと静かに話しだした。


「彼女は、事故で少し足が不自由です。事故さえなければ、本当は今頃楽団にでも入っていたでしょうに。優秀だから。以前は横浜アリストンホテルでアルバイトをしていて、就職してからも俺が声をかけました。今はこのバーに月に数回だけ来ています。本当はこんなところでは勿体無いです。あんなことがなかったらと思うと悔やまれます。それに・・・」

そういうと悔しそうに唇を噛んだ。


「彼女、名前は?」

「久世、久世絢斗です」

久世絢斗か。新は心の中で何度もの名前を反すうした。

「学生の時、アルバイトで道具の片づけをしていました。けれどヴァイオリン科の学生だったし、深夜のバイトの方がバイト代もいいのと、ちょうど休憩時に弾くのも勉強になるので頼みました。それからのつき合いで、就職してからはたまにこちらを手伝ってもらっています。」


すると隣にいた神鳥谷が不意に聞いてきた。

「その事故っていつの話だ?」

「えーと、いつだったかな。うーん、そう。6、7年前だったでしょうか。結構ニュースにもなりましたよ。白昼の横断歩道に車が突っ込んだやつです。

運転者は若者で、運転中にふざけ合って信号を見落としたって。さらにブレーキをかけてそびれたらしく、まったくひどい事故でしたよ。幸い亡くなった人がいなかったけど、運転者が免許をとりたてで10代だと聞きました。大勢がけがをしても、その運転者はあまり金がなかったらしく、多く請求できなかったようだったて。

それに相手は腕のいい弁護士がついていて、うまく話をして示談になったって聞きました」


本人から聞いたわけではないが、多分そうなのだろう。一瞬にして大勢の人生が変わってしまったのだから。

そう思っていたら隣にいた神鳥谷が何だか考え込んでいた。

「なんだ、どうした。なにか知っているのか」

「いや、たしか裁判の訴状を出していたような」

――あぁ、そういやおまえは弁護士だったな。


新としたらとりあえず名前がわかればよかった。それに今後もここにくれば彼女に会える。

そう思った。



読んで頂きありがとうございます。

本日もう1話投稿します。


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