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その音色は誰かのために  作者: 玲於奈
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本日2本目です。


季節がかわり梅雨にはいった。メンテナンスにはつらい時期だ。頼まれていたものは随分はけて納期が滞りなく済んだ。もうすぐ終業時間だ。皆が片付けを始めると内線電話が入る。近くにいた小山田が電話をとった。

するといきなり絢斗の机の電話に回された。


「絢斗さん、三番です」

受付からだった。そう三番とは緊急連絡のことだ。

めったにないが年に数回ほど起こる助っ人連絡である。

音楽教室の助っ人に要員。音楽教室で誰の代わりや、急を要したときに駆り出される。時間があれば生徒かその保護者に連絡ができるが、今回は連絡が間に合わなかったらしい。すでに7時を回っていた。絢斗は連絡を受けて音楽教室へ向かうため車椅子を動かした。ロビーに着くと、管理責任者と受付の西野さんが話をしていた。


すると管理責任者が絢斗に気づき話かけてきた。

「こめん。生徒さんに連絡がつかなくて、もうすぐ来てしまうし。レッスンがあるけれど、担当の水野先生、つわりがひどくて急に休みにしてほしいと電話があったの」

つらい中、水野は連絡をよこした。だがギリギリだったためこの時間だと誰もつかまらない。まあそう言う時のための助っ人だ。

だが、もし生徒が絢斗に教わるのを不服とすれば、お詫びをして、レッスン料を返金することになっている。


しばらくすると、生徒の公樹が開いた自動ドアをとおり受付に入ってきた。管理責任者は保護者も一緒に来ていると思っていたが、公樹は一人できたのでどう説明すべきか悩んだ。

すると公樹はこんばんは、と言っていつものように教室に向かっていった。

慌てて管理責任者が後を追い、公樹を呼び止める。


「公樹君、ちょっといいかな」

くるりと振り向き、公樹は不思議そうにこちらを見た。管理責任者はわかりやすく今の状態を説明し始めた。

「実はね。今日、水野先生が急に体の具合が悪くてお休みになってしまったの。

それでね、公樹君に連絡が遅れてしまって、申し訳ないけれど別の先生にレッスンを受けるか、また今回はこちらの不備だから、レッスン料を返金するかを公樹君に決めてほしいの。

本当なら公樹君の保護者であるご両親に説明すべきだけど。今日は一人できたの?」

管理責任者はわかりやすく賢明に説明した。

すると公樹は少しだけ考え込んだ。だがすぐに返事をする。

「水野先生の代わりはどの先生?」

すると管理責任者がくるりと一番後ろにいた絢斗の方に目をやった。マネージャーは頷いて彼にあいさつをしてほしいという顔をした。


絢斗は急いできたので車椅子に座っていた。公樹の方へ車椅子を動かし彼の前で止まる。

「初めまして、久世といいます。今日は水野先生の代わりに私が公樹君にレッスンするのですが、私でよろしいですか」

公樹はとりあえず頷いた。だがまだ納得していないだろうと絢斗は思っていた。

絢斗は公樹と世間話をしてから音を聞かせることにした。それでも嫌なら今日のレッスンはキャンセルをして返金すればいい。

教室に向かうため、絢斗の後ろから公樹が歩く。するとすぐに公樹が絢斗の車椅子の後ろについてあるレバーを握り車椅子を押し始めた。絢斗は後ろの公樹に向かってありがとうと言って素直に車椅子を押してもらった。


教室に入ると二人で話をしてから、絢斗はヴァイオリンを弾いた。それからヴァイオリンの楽しさや公樹が知っている曲を弾く。しばらくすると彼の顔から緊張がとれたのがわかり、今日、水野先生から習うところを教え、彼から質問があればわかりやすく説明をした。いつもの1時間のレッスンなのだが、初めの30分はカウントに入れずにいた。

楽しかったようで公樹が満足にレッスンを終えることができた。

絢斗は見送りができないので、教室を出て公樹とわかれた。


受付ではすでに新がソファに座って公樹を待っていた。新がソファに座っているだけでその空間が異質だった。延長になったため雑誌を読み、レッスンが終わるまで待った。

新は受付が出したコーヒーを飲む。そのモデルのような容姿はあたかも周りはCMを見ているようで、すでに社員が少ないのが幸いだった。だが残っていた女性社員たちが遠くから秋波を送る。


実は、季彦が出張で留守、未来は沙羅が熱を出してしまったため病院に連れていくことになり、公樹の迎えに行けなくなってしまった。そのため季彦が出張先から新に電話をかけ、急ぎ呼び出されたのだ。言われた時間に間に合うように迎えにきたが、延長ということで掛けて待っていた。しばらくすると公樹が部屋から出て歩いてくるのに気がつき、新が声をかけた。


「公樹、迎えにきたぞ」

「あ、新だ。ありがとう」

そういって嬉しそうに新に両腕を差し出す。それを見て受付達がうっとりした。

公樹も新と同じように子供ながら端正な顔をしている。

管理責任者が今日のレッスンの説明をして遅くなった理由を新に話した。後日、こちらからも公樹の両親にも連絡をすると話した。


公樹を車にのせて実家に向かう。車の中で公樹が今日のレッスンの話をし始めた。

「僕ね、今日のレッスン今までで一番楽しかったよ。キュウ先生はね、すごく上手で、いろんなことを教えてくれたよ」

「そうか、よかったな」

新はそういい車を走らす。腕時計を見ると9時近くになっていた。遅くなり高速に使い家路を急いだ。実家では未来が病院から戻っていて、沙羅を寝かしつけたところだった。

ドアを開けるとパタパタと廊下を小走りに未来が急いできた。


「新さん、無理を言ってごめんなさい。公樹、新さんにお礼をいった?」

「うん、新、ありがとう。ママ、きょうのレッスンとっても楽しかったよ。次もキュウ先生がいいな」少し興奮気味に公樹が未来に話し出す。

未来は初めて聞く名前だったため不思議に思った。新が何か知っているのかと顔を見ても新も首を曲げた。とりあえず未来は後日音楽教室に連絡をすることにして、新と公樹と3人で遅い夕食をとった。



読んでいただきありがとうございます。

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