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その音色は誰かのために  作者: 玲於奈
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都会の真ん中にそびえ立つビル群。


その一体を所有するが真木不動産。多くのビルや不動産を所有する。不動産の他にも金融やリゾートなど多くのグルーブ企業も傘下におく複合会社だ。会社は代々同族経営をしている。さかのぼれば元華族が嫁いだくらいの名家だ。

このたび、年齢から真木夏彦社長が勇退し会長になった。実質の経営は夏彦の甥の慎一が社長職として行う。夏彦はいわゆるオブザーバーになり会長といっても権限は持たない。


夏彦には息子がいるが、息子の(しずか)は後を継がず医者になった。

その閑には子供が3人いる。長男の季彦(ときひこ)、次男の(あらた)、三男の一臣(かずおみ)だ。

長男の季彦は不動産会社の管理室長に、次男の新はグルーブ会社の経営室長と、二人とも執行役員に名前を連ねる。一臣は弁護士として大手弁護士事務所に席をおいていた。結婚しているのは季彦だけで、子供が二人いる。


閑は大学病院の麻酔科の教授をしている。もともと夏彦は閑に会社を継げとはいわなかった。子供には自由にさせた。やる気のあるものが後を継ぐ、無理に継がせることは返ってよくないのがわかっているからだ。だから夏彦の甥の慎一が社長になった。


またこの息子たちは話題が豊富だ。閑の妻であるニーナはハーフで元モデル。そのせいか息子たちの容姿は目をひく。みな背が高く、彫りの深い顔立ちでまさに眉目秀麗だ。特に新は母親に似ているため少し日本人離れをした容姿だ。閑は新がてっきりモデルにでもなるのかと思ったが、新は高校を卒業すると一人、単身でアメリカの大学に行きMBAを取得して戻ってきた。またその間に欧州の大学に留学し、5カ国語を操る。その容姿と生まれもつ家柄、経済力で彼の周りにはモデルや社長令嬢など多くの女性が秋波をおくり、彼の隣を虎視眈々と狙っていた。


新は全く興味がないが、周りが彼を放ってはおかない。30歳を過ぎますます色気を増す。そんな兄のおかげで弟の一臣はのんびりとしている。二人は実家をでて、互いにマンション暮らしをしていた。


閑静な高級住宅地に中に、閑の屋敷はひっそりと建つ。平家の屋敷だが、中に入ると外観に裏切られる。天井が高くすべてが洋風だ。大理石の廊下に人工の暖炉がある。同じ敷地には長男の季彦夫妻の屋敷もある。季彦との屋敷は庭に低い垣根で仕切られおり、またこちらは趣のある半二階建ての和洋風だ。半二階はロフトのような作りになっており、子供には探検ごっこができそうだ。妻の未来(みく)は季彦の大学の1年後輩。大学時代に知り合い若くして結婚した。


未来はごく普通の家庭に育ったため、未来の両親は季彦の妻になるのが重荷になると心配した。それは未来本人も同様だった。だから結婚が決まっても季彦が式の直前まで説得をしたという真木家の逸話がある。今ではそのようなことがあったとも思えないくらいだ。あまり表にでないが、しっかりとその重責を担っていた。


最近、季彦と未来は息子の公樹(こうき)に習いごとをさせようとしていた。本人に聞くと息子の公樹がヴァイオリンを習いたいといった。妹の沙羅(さら)はまだ幼いため、とりあえず未来は夫である季彦にそれを話し、後日教室を探すことにした。


ある日、会社で季彦が同期でもある柏木にそれを話すと、知り合いが通っている音楽教室を教えてもらう。ネットで検索しそれを妻の未来に話すと、通わせることも可能だし、また個人レッスンとしてこちらに訪問授業もあるとのことを知る。季彦は早速にお試しの体験入学を申し込んだ。


当日、音楽教室に向かうと、そこは繁華街のビルの中にあった。ビル一棟がそれである。中に入ると奥にはいくつもの防音室があり、そして受付から授業の説明を受けた。


ここには十数人の先生が所属していた。楽器ごとにいる先生は、特にピアノとヴァイオリンは女性が多い。パンフレットは見合い写真のような作りで、経歴がずらりと書かれ皆美人だ。季彦はパンフレットを見ながら皆、盛っているのかとひとりごちた。


実際、就職するエントリーシートも似たような物である。こちらの教室に所属するのはピアノが6人、ヴァイオリンが5人。授業は完全予約制で、習いたい時間、時間の延長、日数など生徒の希望でカスタマイズができる。

そのため基本時間は一人、1レッスン30分単位としていた。

説明されてから場所を移動する。アテンドの後ろを季彦、未来そして公樹が歩き部屋を見て回った。この日のこの時間帯は小さな子供と学生が習っていた。


とりあえずこの教室は公樹にとって、感触がよさそうだった。後日家族で話し合い、月2回で1時間のレッスンに通うことにした。そこまではすんなりと決まった。

だが問題は教えてもらう先生だ。季彦が見てもみな同じように見える。そう、先生によって習い事は、それが好きになるか嫌いになるかに分かれる。


そこで季彦は教室を紹介してくれた柏木に相談した。その後、季彦は柏木の知り合いと同じ先生を申し込んだ。水野先生は落ち着いた美人で最近結婚したそうだ。


初日、未来は公樹を連れて教室で手続きをして水野先生と顔を合わす。すんなりとあいさつをして、公樹は貸し出しのヴァイオリンを初めて持った。公樹は嬉しくて高揚している。それからレッスンは和やかに進んでいった。


公樹が満足そうに、水野先生のレッスンをしているのを見て未来はほっとする。そして考えたすえ、公樹にヴァイオリンをすぐに買わずに貸し出しにすることにした。買い与えることは簡単だがそれでは教育状に良くない。家でも練習できるようにとりあえず3カ月借りる。


それから公樹は楽しそうに教室に通った。



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