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その音色は誰かのために  作者: 玲於奈
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あの日、南條絢斗は交差点近くの喫茶店に恋人の直樹に呼び出された。

待ち合わせの喫茶店では、すでに恋人が座って注文したコーヒーを飲み終えている。二人はまだ付き合って半年もたっていない。絢斗にとって初めてできた恋人だった。高藤直樹(たかとうなおき)、大東都大学3年生で絢斗の2歳上だ。


横浜にある大東都大学には、たくさんの学部があるマンモス大学だ。

そんな広い敷地に大学はあった。ただ大東都大学の芸術部だけは、その並木通りを挟んだ道を少し離れた場所にあった。建物内には芸術部の練習室、その他に図書館、多目的ホール、サークルの部室兼練習室、カフェテリア、コンビニなどがある。


恋人の直樹は法学部に籍を置き、スポーツ万能で成績優秀である。180cmを超える高い身長に、人目を引く容姿をもっている。そのため大学内で知らない人がいないくらいの有名人だった。直樹の父親は大手弁護士事務所を営み、ゆくゆくは直樹も弁護士になって後を継ぐ。

そんな将来が有望なエリートを彼氏にしたいと、直樹が所属するサークルには多くの女子や他校の女子たちも所属していた。


絢斗は直樹とは違い、芸術部ヴァイオリン科に籍を置いている。それにサークルにも所属してない絢斗にとって、直樹との出会いは偶然だった。

ある日、絢斗は練習室が満室だったため、仕方なく大学敷地内で、人が通らなそうなところでヴァイオリンを練習していた。そのときサークルの部室に行くため、近道をして歩いていたのが直樹だった。絢斗が弾くヴァイオリンを目に横を通った。たまたま妹がヴァイオリンを習っていたので、直樹が知っている曲を弾いていた絢斗に話しかけたのが始まりだった。


絢斗は、はじめから付き合うつもりがなかった。絢斗でさえ大学で有名な直樹を知っていたからだ。釣り合うはずがないと断ったが、会えば何度も直樹から誘われ、その押しに負けて付き合い始めた。絢斗の容姿は比較的美人の分類にはいるが、とりわけ目立つわけでもないごく普通の学生だった。


それに比べ直樹の方は、背が高く人目を引く。そのため周りが放っておくはずがなく、いつも彼の周りには、女子のグループや他校の学生たちが、直樹と同じサークルに入り、直樹を追っかけていた。そんな直樹が絢斗と付き合うことを知ると、周りは絢斗に冷ややかだった。彼女たちは自分たちと比べ劣る絢斗が気に入らなかった。絢斗は課題とアルバイトで忙しく、また直樹も周りの友人たちとの時間にとられ、二人はなかなかデートもできない。それでも時間を合わせて数回だがデートをした。

だがその数ヵ月後、絢斗は直樹から突然別れを言った。


呼び出された喫茶店に着くと、いきなり冷たい態度で言われた。

「君は随分金に執着があるらしいな。だからあのような店に通っているのだろう。

俺と付き合っているのを自慢して、俺の友達を蔑ろにしていると聞いた。そんな女を自分の彼女だと思っていた俺もバカだった。もう別れてくれ。話はそれだけだ」

直樹はそういって絢斗に向けて数枚の写真をテーブルに投げつけた。


待ち合わせの時間に遅れてしまい絢斗は急いで来た。絢斗が喫茶店に入り、直樹の姿を見つけて椅子に座った途端、直樹は冷たく吐き捨てるようにいう。

すでにコーヒーを飲み終えていて苛立っていた。そして席を立ち冷ややかな目線で絢斗を見下げた。それは汚い物でも見ているようだった。

投げつけた写真は薄暗いが絢と男性が、とある建物から出てきた姿が写っていた。


「それに君は、時間にもルーズだな。こんなに人を待たせて。もう大学で会っても二度と俺に声をかけないでくれ。」

直樹がそう言い放ったとき、店員が注文を聞きにテーブルに水を置いた。

絢斗はコーヒーを頼もうと思ったその時、テーブルに直樹が自分のコーヒー代を置いた。そして絢斗を上から見て睨み、黙って出ていった。

店員はその雰囲気にいたたまれず、黙って奥に戻ってしまった。


絢斗が時間に遅れたのには理由があった。

アルバイト先の音楽教室の生徒が、教える時間にこなかった。ただその生徒は、音楽教室の母体である会社役員の子供で怒れない。そう、ただのアルバイトである絢斗には、生徒を怒れるはずがない。さらに絢斗はこのアルバイトがなければ大学には通えない。

生徒の遅れた理由を聞くと、悪びれることもなく昼寝をしていたといった。


絢斗はアルバイトが終わってから急いで直樹の待つ店に向かった。待ち合わせに急いで行っても30分以上の遅刻をしてしまった。直樹にすぐに連絡できず、申し訳なさでいっぱいだった絢斗だが、直樹は遅れた理由も聞かず、さらに絢斗に非があるような態度をあらわにして別れをいった。


テーブルには直樹が投げつけた数枚の写真が広がっていた。

いつ、誰がとった写真なのかわからないが、絢斗にはその写真を見て直樹が言ったことがわかった。店に入った絢斗だが、注文をせずに店員へ謝罪し、逃げるように店をでた。

先ほどの光景を目にした客たちは、腫れ物のように絢斗を見ていた。店を出ると日曜日の午後のためか、外は大勢の人が街に出ていた。


絢斗はとりあえずアパートに帰ろうと荷物を持って歩き出す。だが頭の中では何が起こったのかわからない。

ぼうっとしていたが交差点の信号が青にかわり周りが歩き出した。絢斗も遅れて歩き出す。

だが交差点を渡り切る前にドカンと凄まじい音と、同時に何かが重く自分にのしかかった。その後、目の前が真っ暗になりなにもわからなくなった。



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