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その音色は誰かのために  作者: 玲於奈
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新に案内されて絢斗は部屋に荷物を置いた。

しばらくの間、この部屋に住むことになった。初めてではないが、絢斗は緊張していた。お風呂に入り、さすがに疲れ新に促され早々にベッドに入った。それを見てから新も自分の部屋に入って行った。

だが、ベッドに入った絢斗だが電気を消しても、布団をかぶっても寝付けなかった。


深夜にリビングの方からの聞こえた物音に新が気づいた。このマンションはセキュリティが万全でそう簡単に侵入できない。新は静かに部屋を出て、音が聞こえたリビンングに向かった。

リビングのドアをそっと開ける。そこで新はソファで毛布を被り俯く絢斗を見た。


――きっと先程のことで寝付けないのだろう。


するとリビングに入ってきた新に絢斗が気づいた。

「あ、すみません。物音で起こしてしましましたか?」

「寝付けないのか?」

絢斗は申し訳なさそうに毛布を被ったまま首を縦に下ろした。

すると新はキッチンに向かい、そして何やら冷蔵庫から取り出した。それをカップに注ぎレンジに入れた。出来上がった物をソファに座る絢斗へ渡した。渡されたカップから湯気が出ていい匂いがした。


――ホットミルク。


「砂糖と少しブランデイを入れた」

そう言って新はカップを絢斗に出した。

「ありがとうございます」

絢斗はカップを手に取り、作ってくれたホットミルクをゆっくりと飲む。

暖かくて甘めのホットミルクからブランデイのいい匂いが鼻に抜ける。


――美味しい。


絢斗が座っているソファに新も座り、作ったホットミルクを飲んだ。

気を紛らわすためか、新はテレビをつける。


新が飲み終えると、絢斗がいつの間にか新の肩に頭を乗せて眠っていた。

新は起こさないように絢斗のカップをテーブルに置くと、絢斗を抱えてリビングを出た。



カーテンから陽がさす。

絢斗は昨日の打身で痛いのか、体全体が重く感じた。

擦り傷もあるから痛いのだろ。そう絢斗は思って身体の向きを変えようとしたが、体が動かない。病院には行ったし、そんなひどいけがをしたわけではなかった。すると布団の上から自分の手ではない物でがっしりと抑えられている。頭が覚醒してくると何で抑えられているかがわかってきた。

長いしなやかな腕が、布団ごと自分の身体を抱き締めている。ゆっくり顔を上げ見上げると新の整った顔が目に入った。

「――っ」

絢斗は声にならない声が出てしまった。



直樹は父親の壮一がここ最近、苛立っているのがずっと気になっていた。それに櫻井亨の案件も、いつもなら自分がやることもないと、直樹たちに任せる案件だ。なのに壮一自らしていた。壮一は自室にこもりと、用事がなけれが部屋に入らなにようにいう。直樹は壮一の部屋の前にいた。しばらくすると電話がなり、その電話の話声が聞こえ、直樹は父親の仕事に南条が関わっているのを耳にした。だから直樹は、偶然、結婚式場で会って見るなり絢斗を睨んでしまった。


それと絢斗の脚のことが気にかかった。直樹は、あの時の別れを言って以来会っていない。なぜなら次の日から絢斗は大学を突然休学してしまった。なぜ休学したかわからない。そして会ったとき、彼女は車椅子に乗っていた。


――病気か。けがをしたのか。

ただ、隣にいた恋人の三島絵里子がなぜかそれを知っているようだった。



神鳥谷の事務所に沙織の父親の藤浪勉が秘書を連れて訪れた。大手酒造経営者が忙しい中、わざわざ自ら出向いてきた。それもそのはず、自分の娘が実刑になるかも知れないのだから。

部屋にはテーブルを挟んで、神鳥谷と藤浪向き合う。藤浪の秘書は彼の後ろに立っていた。

一臣が部屋に入ると藤浪は神鳥谷にずっと頭を下げていた。それは大手企業の社長ではなく、一人娘の親としての顔だった。

謝って許されるなら警察はいらないが、事が事だけにそう簡単には許せない。それは絢斗が許しても、新が許さないだろう。事件が起こった次の日の早朝、藤浪本人から連絡をしてきた。親とすれば公にはしたくはない。会社のダメージと娘の今後を考えたからだろう。


数時間後、藤浪は深々と頭を下げて事務所を後にした。

妥協点のほとんどは、新が要求したものを藤浪が飲んだ。そのため神鳥谷は警察に捜査依頼の取り下げの連絡をする。今、沙織は遠方の病院に入院したらしい。

公にすることはやめ代わりに、今後一切自分たちの前に姿を出さないこと。そして沙織は音楽教室をやめた。


後日、神鳥谷は絢斗を事務所に呼んだ。応接室に神鳥谷が入ると、絢斗だけを呼んだが新もいた。そしてなぜか絢斗が座るソファの隣にさも当たり前のように座っていた。

捜査依頼の取り下げを頼んだのは絢斗だった。沙織の今後を考えたからだ。

すでに季彦には連絡し納得したが、話を聞いていた新は、自身が要求したものを飲んだが事はいいが、沙織に対しては納得できなそうだった。

すると絢斗が新に向かって首を横に振った。

「私は大丈夫です。それに警備員の人のけがも治りましたし」

子供を諭すように話す。それを素直に受け入れている新を見て、神鳥谷は驚いていた。


あれから新はずっと絢斗を住まわせていた。新は絢斗に心的障害が出るかと心配していた。

数日間は音楽教室を休み、その間、昼間は未来がきてランチなどに誘う。極力独りにさせないようにして、公樹はバイオリンを教わりに時間があれば訪れた。新はしばらく定時に帰宅した。お陰で絢斗もトラウマもなく過ごせたようだった。けがが治っても新は当たり前のように絢斗と過ごした。



「お、悪い。遅くなった」

そう言って店に入ってきたのは、一臣の知り合いの記者だった。彼に以前、絢斗から見せてもらった写真について調べてもらっていた。


するとその記者が一枚の写真をテーブルにおいて話出す。

「前田悟。以前はスチールカメラマンの助手だった。だが助手と言っても下端で、前田はカメラが好きでこの道を選んだが、なかなか思うような仕事がもらえなかったらしい」

そんなとき、学生モデルをしていた三島絵里子と出会った。いい金の話があると誘われてあの写真を撮った。その金を元に助手をやめ自分で事務所を構えた。だが実力もないので仕事はこない。今は三流カメラマンとして、ゴシップネタの写真ばかりとっていた。それでも仕事があればいい方で、金もないのにギャンブルばかりをしてた。


一臣は教わった事務所に出向いた。新宿にある雑居ビルの4階。

ドアを開けた前田は先ほどまで寝ていたように寝癖がついたままだ。入ると雑然と新聞や雑誌、タバコの吸い殻などとても事務所とは思えない。前田は仕事の依頼と思って一臣を部屋に入れた。

「そういや、そんなこともあったかなぁ」

悪びれずにとぼけた前田に、一臣は一枚の書類を出した。すると急に顔色が悪くなり始めて、話出した。

「よく撮れていただろ。当時はいい金になった」

自慢そうに言う前田に、一臣は苛立った。前田があの写真を撮らなければ、絢斗は直樹と別れなかっただろうし、事故にも遭わなかったのかもしれない。


帰り道、一臣は新の秘書の鮫島冴子に会った。彼女は互いの親同士が友人で、冴子の兄も医者をしていた。彼女は一臣の一つ年上で、凛とした綺麗な女性だ。

「あら、今帰りなの」

「冴子さん。今日はどうしたのですか」

「この近くで女子会よ。新さん。彼女でもできたのかしら? 機嫌よくて私たちは好都合よ。一臣君は仕事帰りなの?いつも忙しいそうね。」

いつもなら遅くまで仕事があるが、今では食事会にも出席できる。冴子は嬉しそうにいった。

「では今度、僕たちと食事会でもどうですか?」

冴子は笑って考えとくわ。と言って友人のところに足早に向かった。


ありがとうございました。

もうすぐ終わりです。もう少しお付き合いください。

よろしくお願いします。

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