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その音色は誰かのために  作者: 玲於奈
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あれから沙織は、公樹のレッスンを持てなくなってイライラしていた。

公樹をつてに新に会うことができなくなってしまった。

新に会えないため自ら動いた。パーティーがあれば行き、新を探す。

だが1ヵ月多数のパーティーに出たにもかかわらず、新に一度も会えてなかった。


沙織クラスの人間が出るパーティーなら、必ず新が出席しているはず。沙織はそう思っていた。また父親に頼り、父親の会社関係の物にも顔を出した。その中のパーティーで、沙織は同級生の三島絵里子に会い、マウントを取られて、さらに沙織のストレスがたまっていった。


ある日、沙織はスケジュールの確認のため、音楽教室に訪れた。教室の自動ドアが開くと、いつもいる受付の西野の姿がなく、代わりに新人が座っていた。

「おはよう。西野さんは休みかしら。私のスケジュールの確認をしたいの」

そういうと新人の佐瀬はパソコンを開き、確認をし始めた。その時、受付の電話が鳴った。


「はい、真木様ですか。お世話になっております。ただいま西野は席を外しておりまして、私でよろしければお伺いいたします」

佐瀬から少し離れたいたところで沙織が待っていると、佐瀬の話から公樹の話が耳に入ってくる。電話の相手は未来だった。

沙織はゆっくりと佐瀬に近づき、電話が聞こえるまでそばに寄った。


佐瀬はメモをとり終えると電話を切った。そして沙織のスケジュールを確認する。

「沙織先生、スケジュールの変更はありせん」

佐瀬がそういうと沙織はにこりとほほ笑み、ありがとうと言った。そして佐瀬が書いたメモを見る。

「あら、そのメモ西野さんに渡すの?この後事務所にも寄るから、私が西野さんに渡してあげるわ」

「えっ、でも」

新人の佐瀬に沙織は無言の圧力をかけて、メモを素早く手に掴み取った。

「で、では、よろしくお願いします」

佐瀬がそう言い終える前に沙織はメモを握り、足早に事務所に行くエレベーターに向かうと、急いでエレベーターに乗り込んだ。

8階のボタンを押しドアが閉まる。エレベーターには誰も乗っていなかった。沙織は先ほどのメモを開いた。


――11月30日、真木公樹様キャンセル。久世さんに連絡


その一行だけで、沙織は公樹がレッスンをキャンセルすることだとすぐにわかった。沙織はマネージャーから公樹がしばらく休むと伝えられていた。


――何これ。


沙織は腹立たしくなり、怒りに任せてメモを握りつぶした。

エレベーターが8階に着くと、沙織は女子トイレに行き、そこにあるゴミ箱にメモを細かく切り裂き捨て去った。


前日から、天気予報では豪雨の予報になっていた。

季節外れの低気圧で、予報がコロコロと変わる。公樹のレッスンの当日、すでに雨が降っており、風も出てきた。電車は間引き運転をし始めたとテレビで流れている。絢斗はそれを知ると早めに工房を出る準備をした。

すでに電車はいつものようには走っていない。いつもならすぐに来る電車も、待たなければならなかった。


新は父親の閑に実家に来るようにいわれ、渋々ソファに座っていた。

閑としては最近、新が本社勤務に移動したため、新の体を心配していた。それと未だ独身の新に対し、いい話がないかと親心が顔を出す。一臣とは違い、新は無理やり呼ばなければ顔を見せない。そのため閑は何かと理由をつけて、新を実家に来るようにさせていた。


絢斗は真木家の最寄り駅に着いた。すでに雨がひどく降り始めている。絢斗はタクシーに乗るが、いつも数台並んでいるタクシーは一台もない。その代わりにタクシーを待つ長い列ができていた。絢斗はタクシーを待つ列に並ばず、歩いて真木家に向かった。


タクシーでは10分とかからないが、歩いて向かえば20分はかかる。だが絢斗では30分以上はかかってしまう。早めに工房を出なければレッスンの時間に遅刻をしてしまうところだ。ようやく真木家に着いたが、玄関先で真木家のお手伝いさんから公樹が不在であることを知らされた。公樹が不在なら仕方がない。外に出ると絢斗は事務所に電話をかけた。事務所では西野が電話にでた。


「久世です。お疲れさまです、すみません。今、真木様のレッスンに来ましたが、今日は不在と言われまして、今日のレッスンはキャンセルと伺いました。そちらに連絡は来ておりますか」

「ただいま確認します。いえ、キャンセルのお話は頂いておりません」

「きっと行き違いかもしれませんね。今日はこのまま帰ります」

すでに雨風が強く降り服が濡れていた。タクシーを呼んでもこないだろう。絢斗は傘を広げると駅に向かって歩き出した。


新は実家に留めてある車に向かった。その時、兄家の家政婦の大沢に呼び止められた。大沢は申し訳なさそうに新に話をした。

「先ほど、公樹さんの音楽の先生がお見えになりまして。今日のレッスンはお休みをすると未来さんからも伺っておりました。ですが、先生がお見えになりまして、そのことを伝えました。先程お帰りになりましたが、生憎のこの天気に、足が悪いのに歩いて帰られたので心配で」

そう大沢の話を聞いていた時、閑がまだ新がいるのが見えて夕食を一緒にと誘いにきた。

「急ぐから」

短い返事をすると、新は車に向かい急ぎ門を出た。



読んで頂きありがとうございます。

もう少しお付き合いください。

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