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その音色は誰かのために  作者: 玲於奈
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晴天。

今日は萌の結婚式だ。ここは結婚式に人気のホテルで、広い敷地には日本庭園やチャベルがある。チャペルは天井が高く壮大で、壁にはステンドグラスがはめられており、正面奥には大きなパイプオルガンがあった。

季節は10月中旬、シーズンのためこのホテルでも数組が結婚式を行っていた。


萌のドレスは純白のマーメイドウエディングドレスで、ビジューがキラキラと光り、とても綺麗だ。

相手は真木不動産に勤める男性。彼も萌と同じく親が会社を経営している。萌はあまり大きな披露宴にはする気がなかったが、双方の親の関係からこのような大きさになった。


人前式をして誓い合い。通路を歩きながらフラワーシャワーを浴びる。花びらが舞うなか、新郎が新婦の髪にかかった花びらを優しく取り微笑む。二人とても幸せそうだ。

「萌さん、綺麗ですね」

並んだ列から小山田は花を優しく投げながら、うっとりしなが話す。

その後、揃って披露宴会場に移動した。会場での席順に絢斗の隣には小山田が座る。


「次は絢さんですかね。ふふ」

そう言って小山田は、絢斗の顔を見ながらにやにやとする。

「わからないわよ。舞ちゃんかもしれないでしょ」

「えー、それはないですよ」

「この間の神保さんとはどうなったの?」

そう、あの後二人は食事をする仲になったらしいが、未だに小山田は絢斗にただの友達と言っていた。

「うーん、お・と・も・だ・ち・です」

そういうと小山田は口の前に指でバッテンを表した。

――絢斗はホントか。と突っ込みたくなった。


披露宴はホテルの中で一番広い会場だ。

特に新郎の会社関係が多い。そこには季彦と新も出席していた。

萌の方は神鳥谷をはじめ、一臣、神保と上司と同僚たちと大学の友人を招いていた。


絢斗と小山田の席は萌の親戚に近くにしてある。それは萌からの絢斗への、目立たないように配慮した形だった。

そのため今日絢斗は、車椅子で出席していた。披露宴が始まり、互いの会社関係者の挨拶、新郎や萌の同僚、友人たちの余興など和やかに披露宴が進んだ。


萌の数回のお色直しの中で、皆がそれぞれに歓談しはじめた。その時、一臣が絢斗たちの席に出向いた。

相変わらずのイケメンぶりだ。さらに結婚式なので2倍増しの眼福だった。

「やあ、絢斗さん、久しぶり。小山田さんも元気?」

「こんにちは。ご無沙汰しています」

「二人とも今日は一段と綺麗だね」

一臣がそういうと小山田はニコリと笑顔になった。

「一臣先生もいつもながら素敵ですよ」

言葉に見えないハートをつけて小山田が一臣にいった。

それから宴も終わり、挨拶と同時に皆が部屋を出始めた。


季彦と新が挨拶を終えて廊下にでる。迎えの車を待っているところに向かう。すると向かっている場所の方から公樹が走ってきた。

「パパー」

公樹と未来は、披露宴が終わる少し前からホテルにある喫茶店にいた。

それから新も一緒に車の方に向かい歩きだす。


するとその先の廊下で、絢斗と小山田、それと神保が通るのが見えた。その時、誰かが絢斗の名前を呼んだ。

「絢斗さん?」

不意に呼ばれた自分の名前の方に、絢斗は振り向いた。

そこには当時、学生の時に直樹に取り巻いていた女性がいた。


三島絵里子だった。


彼女は特に取り巻きの中でも有名で、一番直樹にまとわりついていので、絢斗はよく覚えている。

「やっぱり、絢斗さんだわ。大学を休学したと聞いて、あれからお会いしていないけれど」

そう言って彼女は絢斗を値踏みした。

するとそこに後から男性が現れた。

絢斗は顔を見上げるすぐにわかった。


――高藤直樹


「南條なのか?・・・」

直樹は明らかに驚いた顔をしていたが、すぐに真顔にもどった。だが、絢斗が車椅子にすわっているのに驚いていた。


すると絵里子は直樹の腕に自分の腕を絡めた。

「私たち結婚式場を見に来ていたの。今日はここで模擬挙式を見学があったから」

いかにも絢斗から奪い取ったのを勝ち誇るようだ。

「それはおめでとうございます」

絢斗は淡々と返事をした。そこにはなんの感情もない。

それを聞いてか直樹は少し苛立った。

「南條、君は相変わらずだな。それに今度は俺の妹にやっかみをして・・」

そういって直樹は絢斗を睨んだ。

だが絢斗には直樹の言っていることがわからない。


「なんのことですか?」

すると3人の雰囲気に小山田と神保は顔を見合わせて、オロオロとし始めた。

その時、近くを歩いていた公樹が絢斗に気づいた。


「あー、キュウ先生だ」

そういって公樹は、いきなり絢斗たちの方に向かって走りだした。

「こら、公樹。走るな」

横にいた季彦が思わず声を上げた。


その声に気づき5人が一斉に声の方に振り向く。突然、聞こえた声に絢斗は驚いた。

「あっ、公樹君」

「ほら、やっぱりキュウ先生だ」

そう言って公樹は絢斗に纏わりついた。


そして後から歩いてきた神鳥谷と一臣は新たちと顔を合わせる。

神鳥谷には先ほどの絢斗と直樹たちの話が聞こえていた。すると神鳥谷に直樹が気づき挨拶をした。

「これは神鳥谷先生、今日はこちらでは結婚式ですか?」

「ええ、事務所の者の結婚式がありまして。あぁ、私たちも南條さんと知り合いですから。

一緒に出席していました。高藤さんは式場選びですか。それはおめでとうございます」

神鳥谷はさらりという。

新は神鳥谷をちらりと見た。


――なぜあいつと彼女が知り合いだよ。

新は胸がモヤモヤして、神鳥谷の理由が知りたかった。そしてすぐにでも近くにいる一臣を捕まえて、聞き出したかった。



すでに萌から話を聞いていた神鳥谷だが、絢斗に直接事故の話を聞きたかった。

萌から連絡をしてもらえば楽だが、話を聞いてそれは止めようと思った。

なぜなら、絢斗の事故後に家族はバラバラになった。彼女のせいではないが、両親は離婚、絢斗自身は不自由な生活を送ることになった。そして同時に彼氏にも捨てられた。そのためいきなり傷をえぐるようなことはしないと、神鳥谷は萌と話をしていた。


偶然、絢斗に出会った直樹は、すぐに絵里子をつれて足早にその場を後にした。

絢斗は小山田と神保とタクシーにのり、拗ねる公樹は、季彦、新と迎えの車に、神鳥谷と一臣は別々のタクシーに乗ってホテルを後にした。


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