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その日、部屋では公樹が珍しく駄々をこねていた。
「どうして?どうしてだめなの」
公樹は納得がいかないため、そういって未来にいいよる。だが未来でもどうしようもならない。息子の頼みを聞きたいのは山々だが、こればかりは未来では、どうすることもできなかった。
あれから、公樹のレッスンの先生が決まりヴァイオリン教室に通っていた。
しかし、それは水野でも絢斗でもなかった。
藤波沙織先生。教室では1、2と腕がいいと評判だが、社会人にも関わらず、私用を優先にする我儘な先生である。
彼女は親が会社を経営するいわゆる社長令嬢だ。またその会社が酒造メーカーでも3本の指に入りる大企業だった。沙織は、教室でも一目を置かれていて、彼女に対し強くいうことができない。
公樹は沙織のレッスンを1、2回ほど受けた。だがどうも公樹が沙織と合わないため、先生を代えてほしいといってきた。
それも絢斗に。
それが沙織に知られてしまった。沙織にとってそれは耐えがたい屈辱だった。
助っ人の絢斗に生徒を取られると思ってしまった。ただ、単に合わないだけであり、沙織が下手なわけではない。実力は絢斗もみんなが知っている。
だが沙織のプライドが許さなかった。それに沙織は公樹を迎えにきた新の噂を聞いていた。公樹の家柄、独身の新、会ったことはないがいずれ公樹を教えていれば会えるだろう。そう考えればなぜ変わらなければならないのか。
すべてにおいて絢斗に負けてはいない。
沙織は不満だらけだった。
そんな時だった。沙織は大学の友人に誘われ、とあるレセプションパーティーに出席した。するとそこで大学の友人に会った。彼女も沙織と同じく親が会社を経営している三島絵里子だった。彼女は今、上場企業の受付をしている。
絵里子は当時、他の大学サークルに入り、直樹に取り巻いていた一人だ。
絢斗が直樹から別れをいわれて、その後、絵里子は直樹と付き合い出した。
最近になって二人の婚約の話が出始めている。
絢斗と直樹が別れた原因、それを仕向けたのは絵里子だった。
あの写真をサークルの部屋に置いたのは絵里子だった。直樹がサークルの部屋に一番早く来るのを知っていて、直樹が一番初めに見るように、そして封筒はわざと開いて写真が出ていた。
当然目がいく。絵里子の予想通りにことは進み、直樹はそれが原因で絢斗と別れた。
それを直樹は知らない。別れた直後から、直樹に絵里子は親身に寄り添う。そして直樹は絵里子とあれから付き合い出した。最近は30歳前までには結婚したいと直樹に匂わせている。
絵里子も、絢斗が久世絢斗だとは知らない。
事故で2年休学したため、彼女たちが卒業してから絢斗は復学した。
その後、絢斗の両親は離婚し南條から久世になった。だから当時の同学年は知る由もない。
絵里子は沙織の同級生ではあるがライバルでもあった。同じ大学に、同じ社長令嬢でもり、互いに見えを張る。自分がいかに誰よりも、いい結婚相手をつかまえたのを見せつけた。
絵里子は沙織に直樹の自慢をする。大学では自分の方が上だったのにと沙織は悔しがった。
そんなことがあって、絵里子の相手よりも、さらにいい相手を見せつけるため、沙織は絶対に新を落として見せると意気込んでいた。
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