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絢斗は朦朧としながら重い瞼を必死に動かす。かすかに少しだけ目を開けることができた。周りには聞き慣れない機械の音が定期的に鳴り、部屋は雑然としている。そして少しだけ息苦しく感じた。はっきりとは見えないが目の前にはぼんやりと白い天井が映る。目を開けたい。だがとてもその意識とは逆に力なくまぶたが自然に閉じていく。
絢斗は麻酔が効いているためそれ以上はわからない。そして完全に自分の意志に反し、絢斗のまぶたが閉じてしまった。
この数時間前、市内の大きな交差点で交通事故が起こった。道路は封鎖され、多くの怪我人がそこから近い病院に搬送された。その事故に巻き込まれた南條絢斗も意識がなく担架で運ばれていく。絢斗は自分に起きたこの現実をわからずに担架で運ばれていった。それを知るのはまだ先だが、この事故により綾斗の人生が残酷にも天から地に落とされた。
封鎖された交差点付近には何台もの救急車が並ぶ。
時刻は15時過ぎ、交差点には多くの見物人が不安そうに見守る。怪我人を助ける人、消防、警察と大勢がいた。泣き叫ぶ声や、悲鳴らしき声が聞こえていた。封鎖した交差点から怪我人を運ぶ救急車が病院に向かい動き出す。
事故は赤信号で止まるはずの車が、横断歩道を歩いている人々の中に突込んだことだった。
大勢の人が避けきれずに車になぎ倒された。まるで人がマッチ棒のように倒されていったひどい惨状だった。信号が青に変わったため、反対車線では渋滞がおこり、警察が車を誘導していた。怪我人をブルーシートで隠しながら救急車に運び、次々とサイレンを鳴らしながら車は走りだしていく。
突っ込んだ車の近くには、事故を起こした運転者らしき男が呆然と車から降りて、その場に座り込んだ姿があった。さらに同じく乗っていたのだろう、数人の男女がその彼の後ろに立ち尽くしていた。車のフロント部分が壊れている。途中でガードレールにぶつかって凹み塗装がはがれている。
彼らは数人の警察官に囲まれ、警官が話をしているが全員がうわの空で聞いているように見えた。そのあと数台の車が止まり、急いで降りてきたのは報道関係者なのか腕章をつけていた。そして速報のニュースでも出しているのか、大勢がカメラを持ち事故辺りへ向けていた。
それから数日、その事故のニュースはテレビをつければ流れていた。