046 女性彩命術師達の生存戦略〜無料のソシャゲはビジネスになるか?
無事、「老松白鳳図」の二次創作を終え、夢の産屋ビルを出る。時刻は20時45分。22時には十分間に合う時間だ。
道中のコンビニで、シュークリームとカヌレ、いくらおむすび、金華さばおむすびを買って、食べ歩きながら、ダラダラと帰宅する。
「夕飯食べた後なんで、本当はこんなに食べないほうがいいんですが……」
『一仕事終えた後やからええの。御霊養生、大切やで!』
ちなみに、金華さばおむすびは、若冲先生からのリクエストである。
「先生、「なまぐさもの」は、食べなかったのでは?」
『ワシもなるべく遠ざけとったよ。せやけど、「絶対あかん」ってものでもないんや。もともとの坊さんは、托鉢で受け取ったもんは必ず頂かんといかんかったりする……「三種浄肉」なんて言葉もある……宗派にもよる……ワシのとこにもな、よく魚屋が来よってな。「先生! 売れ残りや! ダメになる前に召し上がって! このまま腐って蛆に食い散らかされるより、先生のハラに収まる方が、このサバかて供養になりますやろ!」って、うまいこと言いよってな。ちょくちょく差し入れにくるねん。んでな。もらってばっかりやとワシも悪いから、ときどきタダで絵をくれてやるのよ。簡単な魚の墨絵やけど……したら魚屋がその絵を飾ってな、「ジャクチュー先生の縁起つきでっせ!ささ、みたってみたって!」って、商売のネタにするんや』
「先生ご自身が、「縁起物」だったんですね」
『みんながみんな、「縁起」を大事にしとった。「縁起のええもの」とはどんどん仲良くする。「縁起悪いもの」からは、サッと逃げる……ワシは縁起物扱いやったから全然困らへんかった。せやけど「エンガチョ」される輩は、皆々もうな、お手上げなんよ』
「村八分ってことでしょう?」
『せや。高いところから落ちて腰折った大工、病気もらった舞妓さん。みんなサァーっと離れよる。離れられた方は離れられた方で、観念するのも早くてな。夜のうちに京を出て、どこぞのお山に登るのよ。そんで帰ってこんのや。寒〜い冬の夜に、薄着でお寺さんの門前に座ってな、朝になったら固くなっとったりな。……それぞれでみんな「往生際」をわきまえとった』
「暗黙の「戦力外通告」があって、潔くそれに従うものが多かったと……京都の街が現代日本で特に排他的だと言われるのも、きっとその辺が理由なんでしょうね」
『余所もんは、その「ナイショの往生際」が分かっとらんから。もちろん、みんながみんなでもないんやで。恨みつらみの手紙残して、鴨川に浮かぶもんもおった……それがもっと酷なると、火付けしよるワケや』
「当時の最悪の事態である「放火犯の発生」を起こさないように、コミュニティ全体の秩序と良識を維持するために、様々な努力があったと」
『せやからワシもな。「仏の教え」を守ることよりも、魚屋の縁起を守ってやらんといかんかったんや。売りもんの魚腐らしたら、魚屋かて縁起悪いやろ』
「いや先生、俺はそこまで強く「仏教徒が魚食べるなんておかしい!」って言ってないですよ。そんな頑張って言い訳しなくてもいいすよ」
『ははは。そんなつもりやあらへん。ただなんか、昔思い出して、魚食べたくなったんや。あの頃の京はなぁ……みんな信心深かったんや……』
ニワトリ大先生は、し〜んみり、しみじみ〜と物思いにふけっている。もう大先生一人の世界に浸っている。
……昼間、大雨の代々木の森歩いたからかな。深い森の中。昔の京に雰囲気が似ていて、それでかもしれない。
「……先生、ちょっと伺ってもよろしいですか?」
『うん、お主にあの絵を描かせた理由やろ? お主のためにもなったはずやけど、それ以上にワシのためでもあってな……なんて話したらええか……そうやな、お主、「ヒルメ様描けるか?」』
「描かれへんでございまする」
即答。
『せやな』
「もっとも、「現時点では」ですよ。未来永劫無理だとは思っていません。というより、日本の絵描きとして諦めてはいけないテーマだと考えてます」
『うむ。ええ答えや』
ダヴィンチやミケランジェロに限らず、歴史上の偉大な画家は、信仰をテーマにした創作に挑んできた。時の権力者からの要請だったりもしたんだろうけど、それ以上に、その時代その時代で、「人間以上の高貴な存在」を描いて見せて、人々の心が退廃しないよう、働きかけてきた。人々の心が神から離れないよう、心を尽くしてきたのだ。
……などという、崇高な理由からでは実はなく。
絵描きの本音としてはやっぱり認められたい、自らの実力を知らしめたい訳で、そのために、普通の絵描きには手の届かない「難題」に挑んでみたのだ。
実在しない、天使・天国、悪魔・地獄。それらを描くのは、そこら辺の静物画描くのとは訳が違う。写生のしようがないのだから。
要するに、画力マウンティング。登山家がエベレスト登るのと同じ。
絵描きだって人間なんです。己よりも下手くそが己よりもデカい顔して己よりもチヤホヤされてしかも大金稼いでたら、やっぱり面白くないんです。
マンガ家目指してた当初から、ガッツリと取り組みはしなかったものの、どうすればオオヒルメ様というか、天照大神を描けるかっていうのは、頭の片隅でつねづね考え続けていた。
それは神道に対する信仰心からではなく、単に俺自身の利己的な理由から。
商業マンガ家として成功したい。ヒットさせたい。
そのためには、「もっとかわいい女の子」を描けるようになりたい。女の子で勝負できる作家になりたい。
そう考えた。
そして、
「どうすればもっとかわいい女の子を描けるのか」「そもそもかわいいとは何か?」「日本で、世界で一番かわいい女の子って、どんな女の子だろう?」
そんなことを、ツラツラと考え続けていた。
なのだけど、
単にデッサンを勉強しても、ファッションを勉強しても、なかなか「もっとかわいい」に近づかない。
単純な画力の問題ではないことは、現代日本に暮らす方なら、皆様ご存知かと思います。
画力じゃないんですよね。
画力にこだわろうとするあまり、「かわいい」から離れた作風になっていくマンガ家・イラストレーター・アニメーター、少なくありませんよね。
幼く、無邪気で、素直で、元気で、明るく、ほどよい毒と悪をふくんだ、そのような存在。
「マンガ家になってー」と無茶振りしてきたヒルメ様は、当時の俺にとっては、一番の「かわいい女の子」だった。
ヒルメ様を描くことができれば、商業マンガ家としての揺るがない強みになるはず。
そう考えたわけだけど、これが全然届かない。
子供向けの歴史マンガや古事記の絵本などでは、天照大神はごくごく自然に描かれる。よくある表現は、オデコに鏡貼り付けた、ちょっと立派な巫女さんの姿。
だけど、「これは違う」。
纏っている空気が違う。表情が違う。こんなに大人しくない。こんなにつまらなくない。とにかくもっと元気じゃないと。
「なんなんでしょうね? 具体的な姿は見えてないながらも、直接会ってるわけなのに、一つのお姿にまとめられない」
『パッと見は、そこらの娘っ子なんよな。だけど、その身に纏っとる「重たいなにか」、「背負っとるなにか」。それが分からん』
「「一切人智の及ばないなにか」でもないんですよね。昼間、代々木の森行ったじゃないですか。あちらにも漂ってるものなんですよね。「ああこれこれ」っていう」
『せやけど、木を描いても鳥を描いても空を描いても土を描いても、「ソレ」にならんのよ』
「つまり……若冲先生も、ヒルメ様を描こうとなさっているので……?」
『う〜ん、経緯を話してみよか? ……銀、あのさ。京に言い伝わる妖怪さんがおりますやろ。源頼政に退治されたという……』
「あ〜はいはいはいはい。よ〜く存じておりますよ。ああいうふうに、「今風にかわいくなりたい」って、そういうことですか?」
某弾幕STGに登場する、「某平安のエイリアン氏」の、最新のデザインについては、ご存じの方には説明不要かと思います。
すごいですよね。古くから伝わるデザイン要素を一切継承せず、つまり全く原型留めてないのに、「正体不明の大妖怪」だと、納得させてしまうのです。
『ちょいと前にな、ヒルメさんに呼び出されてな、行ったらなにやら、床の間に分厚い座布団置いてな。その上にうつ伏せにだらしなく寝っ転がってな。足バタバタさせながら、「すいっち」?とかいうのいじりながらな、ワシにこう頼んできたのよ。「ねーおじーちゃーん。最近の妖怪さん達、みんなかわいくなっていいなー。私もこんな風に、かわいくなりたーい。丸い顔して口開けて、ネギ振り回してみっくみくって、やってみたーい」って』
「……それ、天下の大絵師、伊藤若冲先生に依頼する話です?」
『「おじーちゃんやないと、無理やと思うのー。千年かかってもええから、やってみてよー」とも言われたわ。今すぐはとても無理っちゅうんは、あの子も分かっとるようや……それに、言われた言葉の通りが、ホンネでもないやなー。これがまた』
「「千年かかってもいい」って言葉が、凄く重いですねぇ。言い換えれば「千年かけるつもりでやれ」ってことでしょう?」
『帰り際に「おトヨさん、ヤマトさん」にも呼び止められて、いろいろ話伺いましてな。例によって理由が何枚もありましてな。単に「かわいくなりたい」っていうのも勿論ある。それから遠い遠い、来てほしくない未来の「神宮丸裸」に備えたいのもある。その他、「砂漠の国の皆さんと仲良くやるには、森に頼ってたらアカン」っていうのも、ある。そういうことやった』
「砂漠の国の皆さんとは、イスラム諸国ですかね。森の恵み。豊かな自然。それらに頼らずに、神道の心と天照大神の存在を確信させる表現を、今風にかわいく、やってみてくれと」
『伊勢でも代々木でもええから、一度神宮の森に足運んでもろたら、ウチらの信心、伝わると思うんよ。せやけど、みんながみんな、こっちまでこられへんやろ? そういう人々にこそ、ワシらの国に真面目な信心があることを伝えられるとええなと、そういうことやそうや。……それ以外にも何枚も何枚も、今のワシらには想像もつかん理由が、いっぱいあるみたいや』
「ホンネとタテマエの、十二単ですよね」
『十二やのうて、八百万やよ、まさしく。八百万単やで』
「うーん、難しいですよねー」
『ま、すぐでなくてもええって言われとるから、ワシも焦っとるわけやない……それは、さっきお主に言った通りや』
「明日できることは今日するな」
『それそれ。せやけどそれは、「明日できんことは今日のうちにやれ」ってことでもありますやろ? せっかくお主と縁ができたんや。今のワシらでどこまで近づけるんか、試してみたかったんや』
「先生ご自身の手応えとしてはいかがですか? 俺はお役に立てましたか?」
『おう、十分十分、ええ具合。課題はさっきお主とまとめた通りや。あれ以外だとな、やっぱり「一枚やとアカン」。昔、「釈迦三尊像」と「動植綵絵」の三十三幅、お堂に揃えてみせたやろ? あんなように、ぐるって一周、いろんなお姿で描いて見せれば、ヒルメさんになるかな思っとる』
「さすが先生。ホンネとタテマエを幾重にも纏ったオオヒルメ様でも、さまざまな角度から切り取って並べて見せれば、一枚では捉えきれないなにものかが、現れるかもしれませんね」
『女性の描き方は、今の若いもんの方がずっと上手い。 目おっきく描いてみたり、鼻の穴隠してみたり。ワシらの「せんす」やとどうしても「おかめ納豆」になりますねん。ワシが一から女性の描き方勉強するのが本来やけど、お主の技量を借りて、ちと近道させてもろたわけや』
「少しは近づけてますでしょうか?」
『須賀利御太刀を持たせる辺り、少しはお主も意識しとったんやろ? その心がけだけでも大したもんや。悪くないと思う。あの一枚で、このくらいなんやなって、よう分かったわ』
「……まだまだゴールはずっと先ってことでしょう? 富士山のてっぺんまで歩いて登るつもりで、京から一歩、東海道を踏み出したくらい」
『そんなこともないで。富士山のてっぺんが「あがり」だとすれば、もう三河ぐらいまでは来とる。あれが三十三点あれば、かなり近づけるとは思うんや。どうや銀? あの子みたいな子あと三十二人、描けそうか?』
「……今の俺には、とても無理っすねぇ。あの子はですねぇ、俺のとっておきなんですよ。マンガ家目指してたときに、ラスボスにしようと思ってた子なんですよ。白のツーサイドアップで、直刀を持ってて、真っ白に透き通ってて、儚いけど無慈悲で冷酷で、人間じゃない、人の心を持たない女の子。さっきの絵では隠れてますけど、あれで実は、左目がないという設定です」
『ホウホウ、おもろいな……名前なんかあるんか?』
「穢雪月花」
『な〜るほどなぁ。相反する陰と陽を突っ込んで、魅力を引き立てるんやな。……うん。勉強になりますで……お主の「一番の愛娘」ってことやな』
「若冲先生だから話しますけど……そうなんですよねー。俺のとっておきです。あの子をあと三十二人は、とても無理っす。引き出しが足りません」
『ヒルメさんのお心の、一番冷酷で残酷な心の結晶。あまりに無慈悲に、バッサバッサと命を刈り取る。せやけどその様がホンマに、雪月花の如く美しいと。そのような心やな』
「一応俺としては今のところ、ヒルメ様の一部としては、考えてないんですけども、そう解釈してもらっても、構わないですね、ハイ」
『ワシはホンマに勉強になったで。つまり、女性の姿しとっても、中身一切おなごでなくてええんや。鶴や鳳凰の化身でええんや。花鳥風月を、女性の器に流し込めばええんや……それやったらなー……やりようがいくらでもありよるで……』
若冲先生らしい色とりどりの構想を伺いながらの、楽しい家路。見慣れた街並みが、クリスマスイルミネーションのように、キラキラと光り輝いて見える。
絵描きにならないと見えない世界だ。言葉から自由で、色鮮やかな、光に溢れた世界。
絵描きになって、よかった。
★ ★ ★ ★ ★
22時。俺とすずりちゃんの側の部屋の、ダイニング。
本当にかしこまった話するんなら、リビングにお茶を出してやるところだけど、ダイニングで済ませるということは、そこまで重い話ではないのかな。
「お父上、連日に渡る修行でお疲れのところ、誠に恐れ入ります……」
話を切り出したのは、翠菜の方。
「えっと、二人とも、絵を習いたいってことだよね? 翠菜が作りたがっているスマホアプリで使うことを想定でいいの? 全然オッケーなんだけど、そうだね。せっかくの機会だから、若冲先生から教わるのがいい? あるいは、俺でも大丈夫なのかな?」
「お父さん、まずは経緯を聞いて」
「はい……」
翠菜が少し怖い。……なんだろう、この圧。心当たりないんだけど。
「今から数ヶ月前、大変悲しい決定がなされました。そしてもうすぐ、受け入れがたい現実が、訪れようとしています……」
このところアニメだったり絵だったりがしんどくて、ネットニュースまったく見れなくなってる。俗世の時事が分からず、翠菜の思考が読めない。
バン!とダイニングテーブルを叩きつけて。
「許されると思う!? お父さん!! ダン○グが、ダ○カグが……サ終になるんですよ!!!」
「………」
なんだよ。
しばらく前に、大きなニュースになってたね。俺も知ってた。
確かに悪いニュースだとは思うけれども。
「気持ちは分かるけれども。翠菜、一つ聞いてみてもいいだろうか」
「はい」
「翠菜はダン○グに、いくら課金した?」
「お姉ちゃんがソシャゲへの課金を許してくれないので、ゼロです」
「そういうこと。それが原因。あのコンテンツを支持する層と、ソーシャルゲームに課金する層との、ミスマッチ。翠菜は競馬とかパチンコやる層と接点ないだろうけど、ソシャゲに課金するのは、「射幸性」を求めるのは、つまるところそういう層だからね」
「お父さん、私悔しい。ウド○ゲに敗けたことより、悔しい」
あー人気投票、そういえばやってたね。
「つまり、自機勢でビリだったと」
「なにがいけないの!? 去年も自機やって、新しい一面を見せたのに! あ○先生の連載だってあったのに! チクショウ……チクショウ!!」
ドンドンとテーブルを叩いて悔しがる翠菜。
……平和だなぁ。お嬢様JK (しかもズレた)だもん、こんなもんだよなぁ……。
さっきまで若冲先生とずっと絵に関するやりとりをしていて、心がすっかり天明の相国寺法堂に飛んでいたのに、一気に令和アキバの同人ショップですよ。
アキバの同人ショップと言えば、とらの○な秋葉原店は、閉店したんだっけ……? 20世紀末の全盛期のアキバを知るものとしては、寂しい限りだ。まさしく諸行無常。
「つまりですね、銀さん。翠菜は、これから作ろうとしている「心が穏やかになるスマホアプリ」を、無料のガチャゲーにしてみたいそうなんですよ」
「可処分所得がどんどん少なくなっている現代の若者に合わせて、ガチャの射幸性をエンタメ性として提供しつつ、スマホ依存から脱却させたい。……例えば「5時間スマホから離れられたら10連ガチャが1回引ける」、そういうゲームを作りたいんだね」
「ガチャを提供するためには、キャラクターを大勢用意する必要がありますよね? 草木や苔だけというわけにはいきませんよね?」
「SSR、SR、R、Nとかだっけ? レアリティに応じたランク付けもしないといけないね。かなり計画的にゲームデザインを進める必要がありそうだね」
「無課金でも遊べるガチャゲーがあれば、リアルマネーを注ぎ込まなくていいんです。そんなゲームが浸透すれば、重課金のガチャゲーを世の中から排除できる」
「水と安全とコンテンツはタダ。もうそのような世の中ですよと」
「そうすれば、今回のダン○グの爆死だって、起こりませんよね? 企業はもう、重課金ソシャゲに参入しないでしょうから」
「ダ○カグの犠牲を無駄にするなと」
「ですがそこでネックなのが採算性です。ウチの会社だってボランティアじゃないですから、どこかで収益を確保する必要があります」
「すずりちゃんが巻き込まれたってことは、あっちのハンドメイドマーケットを使うのかな? デジタルコンテンツは無料で提供して、リアルなグッズを販売」
「クリアファイルでもパスケースでも、もちろんスマホカバーでも。小ロットで製作してくれる業者さんは大勢います。そこは社外でも構いませんよね?」
「うん。デジタルイラストを十分なクオリティで作り込めれば、モノ自体は一品モノでなくてもね。「世界で唯一」がさほど求められていないのは、この前確認できたわけだし」
「今、翠菜の外出が多くなっているのは、東京駅のキャラクターショップを見に行っているんです。メインの購買層はどこか。どのブランドが勢いがあるのか。私達が狙うのはどの層か」
「なるほど。既にリサーチを始めてくれてるんだね。俺以外の誰かには相談してみた?」
「恵史郎君と、あと希姫さんに。希姫さんからは、「今はとにかくROMれ」って言われました」
「できれば5000円以上のグッズが売れるといいと思う。キッズ層やJKよりは、就活前の女子大生が、ちょっと背伸びすれば買えるくらいの」
「そうか。スマホ依存が一番致命的なのは大学時代ですよね。これから就職先決めないといけないのに、イン○タ見ていいね!してる場合じゃないですもんね」
「ツイ○ター→イン○タ→Tik○okって、SNSは勢いのあるところが変遷してる。あれはさ。「上の世代」と同じことやりたくないんだ。信用してないと言うか、同じ土俵に上がらないようにしてるというか。……あれかな。「上の世代から説教されたくない」のかな」
「上下との繋がりを避けて、同世代だけで、横だけで繋がりたい?」
「今、Tik○okやってるJKがさ、高校卒業と同時に、Tik○ok卒業する。そのタイミングで、無料のソシャゲが遊べると、うまく刺さるんじゃない?」
「なるほど。……間に合いますかね?」
「まだROMってていいんじゃないかな。Tik○okの次の次にターゲット絞るくらいでいいんじゃない? どうせあと2〜3年で、次が出てくるでしょ」
「二人とも!!私を置いて話進めないで!!」
「仕方ないでしょ。大人はみんな、時間がないの」
「お姉ちゃんの意地悪! そうやってお父さんを横取りするんだ!」
「貴方の思考は、無駄が多いの。もっとスリムになりなさい」
「お父さん、いいですか!? 今お姉ちゃんが話した内容、考えたのみんな私だから! 希姫さんに相談に行ったのも私! それをさも自分がやったかのように話して! お姉ちゃんズルい!」
「それなら私を巻き込まなければいいの。「一人じゃお父さんに頼みにくいよ〜」って言ってきたのは貴方でしょ」
「お姉ちゃんだって、タイポグラフィだけじゃなくて、いっそ水墨画描けるようになりたいって言ってたじゃない。……私がお父さん独り占めするの、嫌なくせに」
うん、ちょっとまずいな、話逸らそう。
「いいかい翠菜。あ○先生だって、「ほぼ公式」だ。整数ナンバリングでほぼ毎回自機になっているサナ○さんは、公式から推されているといっていい。だからファンは安心してしまうんだ。「サナ○さんは、公式推しがあるからいいや」って、そんな心になってしまうんだ」
「どうしたらいいの? どうしたら「自機でビリ」を脱却できるの!?」
「公式が手を出さないような方面の、ちょっとボリュームのある二次創作が、あればいいんじゃない? 幻○郷にまったく関係のない、現代社会にいた頃のサナ○さんとか」
「もうやりつくされてない? そういうの」
「シリアスなやつはね。もっと思い切りダメな方に振り切れてみるとか……「中学生の頃は撮り鉄でした」位の……それか、地方ローカル線が幻想入り、みたいな」
「あ〜、ローカル線なくなるかも〜って、ニュースでやってるね」
「真光に頼んで、写真だけ撮ってこさせればいいんだ。写真をベースにして、ビジュアルノベルにするんだ。それか、中学時代の「乗り鉄」のサナ○さんが、青春18きっぷ使って、各地を旅して、ご当地グルメを味わうんだ。名付けて、「孤独の鉄巫女」」
「う〜ん、なんかオジサン臭くない?」
「もうさ、メインの支持層が高齢化してるのはまぎれもない事実でしょ? 思い切りオジサン趣味のJK巫女で、いいと思うよ?」
「具体的に絵についてですが。どうでしょう、私達二人」
「俺だって20歳過ぎてからで、しかも先生もいなかったし。全然問題ない。すずりちゃんは既に筆さばきできるわけだし。……だけどそうだね。二人全然別のことやっていくほうが良さそうだね、なんとなく」
「私この間からベクターアプリ、少し齧ってますけど、あの方向性でいいんですかね?」
「せっかく若冲先生もいてくれるからなぁ……筆さばきを発展させて、水墨画とか水彩画の方が、すずりちゃんっぽいと思う。グリーティングカードの仕事も広げられるし。ペイントアプリのほうで、すずりちゃんが気に入る、自作のブラシ作るところからかな……あとそれと、是非この機会に、すずりちゃんにも「エラトステネスの筋トレ」、やってみて欲しい。この間から翠菜にやらせてる、素数探すやつ」
「はいはいはい! 翠菜は今でもやってます! 週に一周、50000まで!だけどそろそろ覚えちゃいそう!」
「翠菜、クイックソートは勉強したかい?」
「うん、もう分かるよ。あれはいいよね。頭の中が軽くなる感じ。左右に振り分ける基準が、どんどん移っていくんだよね」
「私今まで、理系方面の勉強、あまりしてこなかったんですけど、大丈夫ですか?」
「そんな深いところまでやれなくていいの。6の倍数、11の倍数を、どんどん見ていける、その位でいい。この2、3日、若冲先生といろいろ勉強してるんだけど、絵の陰影を大胆に作るのは、どうも視覚じゃないっぽいのかなって。論理的に思考して、絵描きの都合のいいところでザクッって白黒振り分けてるのかなって」
「陰陽思想のように、素数と非素数を振り分けていくんですよね。その考え方を絵に展開しろと」
「すずりちゃんは筆書きの仕事もあるし……一人で、すずりちゃんの好きなペースで進められる課題を、考えておこうか。それで、どこかのタイミングで、俺と先生とで、見させてもらう、みたいな」
ー 先生、この機会に、すずりちゃんに玄圃瑤華を継承してもらいましょう。あの世界を七色で展開するんです。すずりちゃんは小さなハガキに自分の世界を文字で表現してきたんですよ。玄圃瑤華にピッタリです。
ー 『ホンマか。それはええな。でじたるで七色に、版画風の表現をやるんやな? なるほど』
「はい! 翠菜はどうすればいいですか!」
「「エラトステネスの筋トレ」みたいな、極シンプルなエクササイズをやりつつ、とにかく翠菜はデザインだ! 俺も今のところ、デザインのスキルを高める、コレっていうやり方は思いつかないけど、引き出しの中身を増やしていくことは、とりあえずできるはずだ」
「ファッション雑誌読めばいいの?」
「とりあえず、そう……いや、ちょっと待って……あ、そうだ……いや、一つ、やってたことあった。デザインのセンス磨くトレーニング、今度翠菜に説明する」
「ありがとう! それでね、お父さん、大きな問題が一つあってね。無料のソシャゲっていう大枠の構想はあるんだけど……肝心のゲームの方向性が、実は見えてなくて」
「「孤独の鉄巫女」じゃないけどさ。ご当地グルメを擬人化するのは? まだどこもやってなくない? 伊勢の○福、京の生○ツ橋、北海道の白い○人、仙台の○の月」
「おお、なるほど! そうすればいろんな「ふるさと」を繋げられるね!」
「どれだけの歴史を持ってるかとか由緒の深さなんかでランクつけても、それほど差し障りなくないかな。どこにでもあるチョコレートクランチはNで、めっちゃ由緒あるけど全国のデパートで簡単に買えちゃう、と○やの羊羹はSR。個人的には、銀座の「○生堂パーラー手焼き花○ビスケット」は、是非USSRでお願いします。あの黒缶の艶やかさは、もっと世に広まっていいはず」
「うまく立ち回れば、地方経済の活性化に繋がります?」
「リアルの名産品とのコラボもできるかもしれない。○の月のメーカーなんか、新商品開発、頑張ってるし」
「メーカーさんが新商品を発売するのに合わせて、限定キャラを出すんだね」
「よし翠菜。キミ用の絵心を育てるエクササイズプログラムは、こちらで用意する。キミは東京駅のキャラクターショップと、ご当地グルメと銘産品を、どんどんROMりなさい。○福をどうやって女の子にするかは、こっちでも考えておくから」
ー 『……銀。お主もしかして、三十三幅のヒルメさんに活かそうと、そう考えとるんか?』
ー いえ、そこまでは考えてません。ですが、商業コンテンツの定石なんですよ、今や。とにかく沢山女の子出さないといけないんです。
ー 『そうなんか……ワシらの目指すところと、この子達の目指すところが、重なるかもしれんのやな』
ー この二人には、東京の日本橋からスタートして、富士山目指して東海道を進んでもらいましょう。
ー 『西からと東からか。うんうん。おもろいたとえやな』
「うん……今日のところはこんなところで大丈夫だろうか。ちなみにね。マンガ家目指して爆死した俺ごときの経験だけど、「画力」はマンガづくり……コンテンツ制作の、ほんの一部なんだ。大事なのは「いかに描くか」より「何を描くか」なんだ。絵の描き方を勉強するより、お客さんにどんな楽しみ方をしてもらうのがいいのか、そういうことを考えていってあげて」
「「エンタメ性」だね。お父さんが苦手な」
「翠菜はこう言ってますけど、銀さんのことは、本当に頼りにしてるんです。私達二人とも。引き続きよろしくお願いします」
「二人に必要としてもらえると、こっちも心の支えになるよ。さぁ、もう寝ようか」
……二人がソシャゲの事で頭がいっぱいだったので、老松白鳳図モドキ……「穢雪月花とパーセプトロン」を二人に見せそびれた。
まぁいいか。別に見せなくても。次への課題を抽出したし、「Pi○ivにあげましょう!」とか言われても、面倒だし、……あれはなんか、あまり人に見せる気にならないんだよな。
『お主とワシの間だけでええんやない? 「大事な娘」やろ? 見せて焼き餅やかれても面倒やろ?』
そうすよね。