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放課後君は夜と踊る。ハリボテの月を俺は撃つ。  作者: 空野子織
第5章:黒海銀一郎、八百万単(やおよろずのひとえ)と遭遇する
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045 黒海銀一郎、無謀にも老松白鳳図に挑む……あくまでも内々に②



 夢の産屋ビルに帰ってきた。時刻は12時を少し過ぎたところ。


 帰り道中に寄ったコンビニで買った惣菜パンでささっと昼食を済ませ、作業に戻る。


 ロボ娘の背中のマントの模様は、パースがつくと、様々に歪むが、そのマントを「まっすぐに広げて正面から眺めたら」、ごく単純な模様なのだ。


 それが波打って、パースがつくと、とりとめがなくなってしまう。……ように見える。


「マントの付け根。肩のすぐ傍が始点ですね。そこから下に流れていく。左手側から右手側に来るまでに、マントが波打つということは、左よりの一列から一本、先に形を決めたほうが良さそうですね。左手側、つまり絵の中の奥から一本一本、模様が流れてくる感じでしょうか」


『おう、もうばっちりやな。葉っぱや桜より難しくもないやろ。……しかし、「べくたーあぷり」っちゅーの? 絵の具いらんどころか、線をポンポン複製できるんやな。しかも、一度決めた線、あとからいくらでも動かせんか。いや〜、ホンマにようできとるな』


「現代人の間隔からすると、筆と絵の具だけで、よくぞあんなに緻密な描画をなされたと、そう思いますよ」


『せやけどワシ頃は、あれが限界。今の時代やったら、その先を行ける。その先の世界が、ホンマ楽しみや……せやな。今の時代やったら、「いけるかもしれん」』


「?」


『ま、ま、ま、とにかく先に、終わらせましょや。もうあと少しやろ?』


 マントの模様は、一度コツを掴むと、さほど時間はかからなかった(といっても、3時間はかかったけど)。俺としては、もう少し緻密に、質感を高めていきたかったのだが。


『あ、銀。もうええよ。そんなもんで。「肝」を掴んだら、それでええ。それ以上はただの厚化粧や』


「そうすか? 先生の鳳凰は、首、胸、背中、翼、足、尾で、模様が変わっていくじゃないですか。これをやってみたいと思ってるんですけど」


『背中と両腕の袖とで模様変わっとるやろ? 今回はそれで十分や』


「はぁ……」





 奥まって目立たないが、ロボ娘の左手には刀剣を持たせてみた。


 以前、例によって上野にて、「伊勢神宮の神宝展」的な企画展がありまして、そこで展示されていた「須賀利御太刀」をお手本にしてみた。伊勢神宮に代々伝わる御神宝である。

 柄の周囲にハート状?にワクが据えられ、そこに小さな鈴が複数あしらわれる、という凝った意匠で、そう、非常に女の子っぽい刀剣なのだ。


 なんというか、魔法少女の持つステッキみたいな、そんな感じ。


 感情を持たない機械仕掛けの少女の身につけている小物類が、無駄にガーリー、フェミニンだったりすると、かわいいな〜と思うんですよ。

 オジサンはね。カード○ャプター世代なので、そういうところはちゃんとやっていきたいのです。



 これをみた若冲先生が、なにやらニヤニヤする。

『いや〜、銀はホンマよう分かっとるな〜』

「なにがです?」


『ええんやええんや。さ、さ、さ、どんどん進んだって』





 もう少し。


 鳳凰の尾。鮮やかな赤と緑のハート形状の尾。これをなんとかこっちの絵に落とし込みたい。


「先生、鳳凰の尾なんですけど……」


『お主も分かっとるやろ? ここはもう、なんもない。描くネタがのうなって、隙間を埋めるためだけに、尾を広げただけや。絵描きなら分かるやろ?』


「やっぱりそういうことなんですね。どうしようかな……」


『なんでもええから適当にフワフワさせとったらええんちゃう?』


 ロボ娘の右手が空いているので、何がしかの「概念モデル」を半透明にして浮遊させてみようかな。

 結局俺が描いてるロボ娘さんは何者なんだ?

 最近、AIが描いた絵がポツポツ、ネットに出回るようになったから、AIに縁のある何者かってイメージにしようかな。

 「AIの神様」みたいなイメージ。


 AIにまつわる概念モデルでなにかそれっぽいものをネットで調べてみると……「パーセプトロン」なるものが、ちょうどよさそう。


 ハートを立体っぽくして、ネオンっぽく光らせて、複数個配置。それを矢印で結んで……。


 うむ。ひとまずいい感じに画面に収まった。



 最後、空である。


 もともとの白鳳図は、空のスペースが少なく、右には旭日が配置されている。

 夜の空になったため、旭日を置くことが出来ない。

 ロボ娘が翼を広げてないこともあり、俺の絵は上1/3がスカスカだ。


 AI繋がりで、0/1の2進数っぽいシンボルをテキトーにこさえてみて、ネオンっぽく光らせて、パースつけて空に配置してみた。

 「AIの頭の中」みたいなイメージ。


 宇宙ステーションのような巨大な構造物が、遠くからグワーッとこちらに迫ってくるような、そんなイメージを込めてみた。



 うむ、どうだろう……?


 うん、終わった? 完成?




『おう、完成やな。お疲れさん。ようやったな』


「終わるときって、前触れもなくいきなり終わりますよね。「あ、やることなくなった」って感じで」






 うむ、完成でよさそうだ。


 マントの模様の部分のみ、今までとは違う感覚(それこそ「全集中」みたいな)があったけど、それ以外は概ね、これまでの技量で対応できたかな。


 今回の経験で、マントやスカート、あるいは長髪。そういう「長尺物」にパースつけて広げるコツを掴むことができた。

 それは、大きな収穫だったな。




『なんだかんだ順調に進んだな。ようやったで、銀』


「終わった直後は全然客観的に見れないんですよね。少し時間を置きましょうか」



 時刻は17時すぎ。ちょうど夕飯どきだな。

 一旦すずり邸にもどりますかね。



★ ★ ★ ★ ★


 すずり邸に戻って、夕飯である。


 いつもと違って、翠菜がいない。

 夕飯のメニューも、1Fスーパーの出来合いの惣菜ばかり。


「翠菜は?」


「今日は用事があるとかで、帰り遅くなるそうです」


「もしかすると俺のせいだろうか。俺がいつまでも結果の出ない絵ばっかり描いてるものだから非行に走って、アキバでTCGデビューとかしたのだろうか」


「んなワケないでしょう。丸の内にIT書籍見に行ってるぐらいだと思います」



 ……すずりちゃんもなんかちょっと淡白だな。……俺に対してなにか不満あるわけでは……ないかな。そこは、大丈夫だろうか。



「「ごちそうさまでしたー」」


 淡々と夕飯が終わって。


「銀さん、この後どうしますか?」


「もう一度夢の跡地行きます。もう少しで若冲先生との武者修行が一段落つくかもしれない」


 まだ俺自身の総括が終わってないので、すずりちゃんたちに見てもらうのは、またあとで。



「今ものすごく根詰まってたりしますか?」


「いや、どっちかというと、きりが良くなったところ」


「今夜22時くらいに、ひとつご相談があるんですが……」


!!!


「来た!? やっぱり! そうだよね! 「いつまで遊んでんだテメー!働かざるもの喰うべからず!結果出せないなら出てけ!」って、そういう話デスヨネ!?」


「ちーがーいーまーすぅ! 数日前、銀さんが心折れてるときにちょっと話ししたじゃないですか。その件です」


「あれ?……えーっと……」


『ホレ、銀、アレや。二人して絵、習いたいんや』


「あー、そう言えば、そう言ってたね……」


「いかがですか? ひとまず話だけでも聞いてもらいたいなと……」


「うん。全然大丈夫ですよ。なんにも心配しなくていいから。すずりちゃんと翠菜だったら、ダイジョウブ」


「あ、ありがとうございます。……私も今日は、今からデイリーなんですよ」


「朝、土砂降り酷くて、見合わせてたもんね。予報どおり、雨やんだもんね」


「夕飯の後片付けも私やりますから。それではまた、22時にお願いします」



★ ★ ★


 無事雨も止んだので、スニーカーに履き替えて、ダラダラと歩いて夢の跡地に戻る。


『すずりちゃんの方は、あんま乗り気じゃないようやな……』


「翠菜がスマホゲームを作ろうとしてるんですね。で、そこにすずりちゃんを巻き込もうとしてるっぽい雰囲気ですね、あれは」


『け〜ど、すずりちゃんは筆さばき、綺麗にできよるからな。あの子は全然大丈夫なんやで?』


「「すずりちゃんは生き方の幅を広げることにいつも消極的だ」って、恵史郎から聞いたことあります。神保町で「言葉と一緒に生きていく」っていう、生き方の大筋は定まってる子なんで……」


『低めの階段用意してやって、ちゃんと褒めてやって、自信つけてやりながらやな』


「あの二人は、俺とは違いますから。大丈夫でしょう」



★ ★ ★


 夢の産屋ビルに戻ってきた。


 とにかく、完成した老松白鳳図モドキを、俺達なりに総括しよう。


 作画に使ったタブレットとスマホに、それぞれ作品を表示させる。


 NFTアートやってた頃の感覚で、なんとなく6000 x 3000 ピクセルで始めてしまったのだが、さてどうだろうか。



挿絵(By みてみん)



『銀、まずワシからひとついいか?』


「はい」


『やっぱ改めて、スマホの画面は、ちっちゃい。今の時代いろいろ進んどるんはええけど、お客が見るのが結局、このスマホの大きさなんは、響かへん。せっかくちゃんと描いたのに』


「「動植綵絵」の実物は、もっとずっと大きいですもんね。あの大きさで三十三幅並んだあの展覧会は、本当に見事でしたよ」


『これはアカンよ。お客の心を揺さぶれへんよ、この大きさでは』


「お寺の襖絵ずっとやってらっしゃいましたもんね」


『これじゃあ、ホレ、玄圃瑤華と変わらん。あれもな、ウケ悪かったんよ』


「2016年の展覧会でも……そうですね、あの一角は、あまり混んでなかったですね、確かに。当時の自分もあまりよく見ませんでした。……今改めて見るとすごく面白いんですけど」


『これは、なんとかしたいところや……スマホの他にあらへんの?』


「正直、非常に厳しいです。……最近の若者は全部スマホで済ませて、パソコン買わなくなってるくらいですし、据え置き型のゲーム機も買わないし、テレビも見ない……経済落ち目なせいもありますけど、「大型モニタ」が必要な状況が、とても少なくなってます。家電リサイクル法なんかできて、処分も面倒になってますし……こっちの11インチタブレットでは、どうですか?」


『これでもまだまだ小さい。……う〜ん、これは今の時代の、アカンとこやな』


「そうか……京都のお寺はどこも、空間を贅沢に使って、禅の心を表現しますもんね……枯山水の庭園ですとか」


『それな。いろいろ簡単で金もかからんのが「でじたる」のええところなのは確かや。しかしあっちと比べると、やっぱ弱い。それにホレ、鴨川の花火。あれに負けないつもりでやらんといかん』


「鑑賞者の五感、特に肉眼へ、直接訴えることが必要だと……スマホ以外の表示媒体としては……劇場映画か……駅のデジタルサイネージですかね」


『代々木さんの駅にもあった、アレやな。……うん、あのぐらい欲しい』


「あれで、「動植綵絵」の半分くらいってところですかね」


『ああいうのに載せたりは、できるんか?』


「鉄道会社グループの広告を担当している会社に、お金出せば、よほどセンシティブな内容でない限り、一般人でも掲出することはできるはずです。ものすごくお金かかっちゃいますけどね。ディスプレイ……表示させてる機械ですけど……そのものは、それほどでもないです。……50万くらいかな? ですが、機械そのものが置かれている場所でしか、見せることができません」


『例えば、代々木さんの本殿の手前の参道に、ズラ〜ッっと並べること、できるか?……もちろん、今でなくてええ』


「技術的には、できます。もちろんあちらがその気になってくれることが大前提ですけど」


『なるほどなるほど……せやけどあれか。そうすると、参拝のお客さんしか見られへんっちゅうことやな』


「そうですね」


『参拝に来ない、離れた土地の人にみてもらうんは、やっぱりスマホしかあらへん。そうやな?』


「はい」


『ふんふんふん……なるほどな……これが今の時代なんやな……どうしたもんか……』


「……なにかあるんですね?」


『あり申す。あり申すねん。……ま、後で話すわ。スマホちっちゃいのは、当面どうしようもないんやな。分かった。次行こ。銀自身としては、どうや?』


「パースつけて、都会の空高くに立たせたのは、上手く行ったと思います。手前味噌ですけど、白鳳図の世界観を広げられたと思います。自分の技術面でも得るもの沢山ありましたし……ただ、空に浮かばせた模様が、意味分かんないですよね。ロボ娘との関係が、まったく分からない。あと須賀利御太刀は、やっぱりもっと目立たせたいですね。それに、足の形状も、もっと鳥の足に近づけても、よかったと思います」


『今回、構図がもともと決まっとった。そのせいでイマイチなところは、気にせんでええよ……。スマホで見せるんやったら、この構図やとアカンわ』


「遠くなっちゃいますよね」


『遠い。これではお客の心に届かん。スマホで見せるしかないんやったら、それを踏まえての、構図を考えんといかん』


「そうすると、女の子のバストアップばっかりになっちゃいますね。……空間が広がらないし、「いつも同じ」って思われちゃうかもです」


『構図がいっつも同じで……スマホでちっちゃくて……それでも退屈させん見せ方を考えんとな……』


 若冲先生は、本気で真剣に考え込んでる。単に俺の画力を伸ばすためのトレーニングを目的としたものでは、なかったようだ。

 それなりに真面目な事情がありそうなので、俺は先生の思考が進むのを待つしかない。


『……昼間の続きとして話すとやな』


「はい」


『「死んだ生き物みると不安になる」言うたやろ? 確かにそうなんやけど、それにも強弱ありますねん。馬が一頭死んどるのと、アリが一匹死んどるのでは、全然違うやろ?』


「蟻は気にしないですよね。「あ、踏んじゃった」くらいなもんですもんね。直接見たことないですけど、馬一頭死んでたら大騒ぎだと思います。腐臭も酷いでしょうし、ハエもたかるでしょうし」


『せや。「ちっちゃい」もんは、それだけで気にせぇへん。こっちの命に影響ないからや。心を揺さぶるんやったら、「大きさ」も、重要や』


「はい。しかし現状、スマホ以外の選択肢がない。……小さくとも、人々の気に留まるような存在というと」


『スズメバチ』


「ゴキブリ」


『金魚にメダカ』


「蚊」


『漆のかんざしに、坊さんの数珠みたいな、きらきらしたもん。それに小判』


「アクセサリーというか、装飾品・貴金属ですね」


『そんなもんか……ちっちゃくてもな、それを見つけると「おぉぉおお!」って、みんな大騒ぎするようなものがええんや。スズメバチ出たら、やっぱ大騒ぎするから』


「スズメバチは明らか危ないからですよね」


『「危険」以外の別のもんがええな。道端に小判落ちてましたで! みたいな、そういう感じ』


「レアなもの、貴重なものに、不意に出くわして、ラッキー!って、そういう感覚ですね」


『銀の人生のなかで、そういうの、なんかなかったか?』


「………」


 どうしよう、一つ思い当たったんだけど。……すごく真面目に話してるとこ、いいのかしらん。


『おう、なんか思いついたんか? 勿体ぶったらあかんよ? ジャクチュー先生は、お主の頭ん中、覗けるんやで』


「あーこれは、言葉でいうより、イメージを覗いてもらうほうが、いいかもしれません……」


 頭の中で、一つのイメージを思い浮かべる……。


『なんやなんや……ほなちと、覗かしてもらうで……あん? なんや。若い(むすめ)が座っとるだけやん』


「先生。こちらはですね。「パンチラ」と申しまして、男子にとってのみなのですが、極めて遭遇確率の低く、希少価値の高い、貴重な視覚経験なのでございます……」


 言いながら情けなくなってきた……しかし、男として生きながら、パンチラに遭遇してもなんの反応もしなくなることこそ、とても寂しいことだと、そのように思うんですよ。


『あーはいはいはい。結構結構コケコッコー。わしゃーもう、身内が婆さんになるの散々見ときとるから、こういうのは、もうえぇどす。……け〜ど、そうやな、これはこれでアリやな』


「もちろんだからといって、「春画」の路線に行こうって、そういうつもりではないんですよ」


『せやな。堂々と女性(おなご)にも見せられるものがええ。けど、「気持ち」としては、こういうもんや』


「遭遇して、「嬉しい」って気持ちを想起させるものですね」


『せや。……ま、今すぐ見つけんでもええか。……なんか、考えといてや』


「分かりました」




『その他に……ワシが特にこれはええって思ったんは、この空の暗さ加減と娘っ子の明るさとの対比やな。普通の夜の空ではこうはならんやろ?』


「これはですね。写真の見せ方なんですよ。ライティングって言うんですけど。夜景ではこんなに主題は明るくなりませんけど、そうすると女性が綺麗に写らない。なので、手前の女性だけ、しっかり照明をあてて、写真を撮るんです」


『うんうん。ええよ。……玄圃瑤華もこのくらいやったらよかったんや……完全に白黒になってもうたから、葬式に見えて、縁起悪いねん。この透き通る桃?もそうやけど、今はこういう色遣いができるんやな……』


「スマホがちっちゃくても、色のグラデーションやコントラストを突き詰めていけば、そこは強みになりそうですね」




『よっしゃ、こんなところやろ。銀、ホンマにお疲れ様でしたやで』


「いえ、こちらこそ、ご指導ありがとうございました」


『んでな、こういう経験が大事やねん』


「はぁ」


『前にちょこっとだけ言うたやろ? 絵描きの道は山登り崖登りやって。とにかく今の技量で描ける絵を描く。んで、自分の描いた絵のいいとこ悪いとこを、よく観察する。んで、いろいろ分かることあるやろ? 上手くいった〜、アカンかった〜って。それを、前に進むための足場にするんよ』


「そうですね。それは自分も実感してます。NFTのゲーミングミミズやってるときから、一枚仕上げるごとに得るものがあったので」


『せやから、続けてさえいれば、ちゃんと前に進んでいくんや。んでな。山登りと同じく、上手く続けるコツがありますねん』


「というと」


『一枚一枚、欲張ったらアカン。頑張り過ぎたらあかん。山登りするのに一歩一歩大股で登っとったらしんどいやろ?足上がらんなるやろ? くたびれ切ってまうほど、大げさなことに手ぇ出さんのが、上手く続けるコツ』


「だから先生、この絵でも、要所要所で「これでええ」だったんですね」


『そういうことや。それと、これの前のシャボン玉のあにめ。あれは良くないことが一つあったんや。あれな。お主の強いとこ、出せてなかったんや』


「…………(ライン)ですよね」


『せやな。お主は横着せんと、一本一本、丁寧に線を決められる。「線の力」を分かっとる。それを活かさんと、お主自身が面白くないわけや。根詰めすぎると、どんどん暗いもんになる。ホンマに水子供養しかやれなくなるで』


「そんなふうに追い詰められてる作品、これまで見たことありますよ。今、コロナのワクチン接種会場になっちゃってますけど、丸の内の地下通路で、学生アーティストの作品展示を定期的にやってたんですよ、以前。その時の展示が暗いのばっかりで。「絶望」しか込められてない。「世界も俺も、何もかももうダメだ〜」って。いや、分かるんですよ。現代アーティストとして、今の時代を切り取るのは相当に難しいっていうの。だけど、ここまで追い詰められてたら駄目だろうって、そう思って見てました」


『うんうん。駄目な例も見とるんやな。結構結構。ホンマ無理せんでええんや。どうせ「次の一枚」より「十枚先の一枚」の方がええに決まっとるんやから。真剣にやっとったら、自然とそうなるんやから』


「「明日できることは今日やるな」と」


『それそれ。なんや、ええ言葉知っとるんやな』


「これもプログラミングの世界の格言です。……やっぱり通じてるんですねぇ……」


 しみじみと思い耽る。


『よし、ごちゃごちゃいろいろ出たけどこんなもんや! ほな、銀、「次の一枚」に持ち越す宿題をまとめたってや!』



・画面の小さく、訴える力が弱いことを考慮する。構図は引かない。寄りの構図で退屈させないものを。

・静止画ではどうしても弱いので、アニメにする?

・線の強さを活かす。

・彩りの豊かさを出す。

・何か、「小さくても興味を引くもの」を取り入れる。

・頑張りすぎない。



「……こんなところでしょうか?」


『ええな。よし、大変お疲れ様やった! ちゃんと自分を褒めてやってや! 今日は終わり! 帰って寝よ!』





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