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放課後君は夜と踊る。ハリボテの月を俺は撃つ。  作者: 空野子織
第4章:黒海銀一郎、何やらアーティストを目指す。
37/61

034 絵師の時代がやってきた? いやいや、どうだろうね?


 改めて、7月下旬の某日。時刻は14時を過ぎたところ。

 記録的に早い梅雨明けにより水不足が心配されたが、数日後の連日に渡る豪雨でその懸念もなくなり、ひたすら暑さに耐えるだけの東京の真夏日。


 神保町すずり邸のリビングには、俺、すずりちゃん、花都香椿姫女史、月護恵史郎の4名。

 そこそこ長い雑談を終えて、ようやく本題に入った。


「NFTアート?」

「そう。すげー大雑把に一言で説明すると、デジタルデータを「世界でたった一つの存在にする」技術が出てきたらしいんだ」



 「世界で唯一で最強のオカルトアーティスト」ってなんやねんって感じだったのだが、「NFT」という技術に関して、一通り恵史郎から説明してもらう。

 これまでコピーし放題だったデジタルデータ、デジタルコンテンツに対して、暗号通貨の技術を応用して「唯一のオリジナルである」という証明を付与することができるようになったそうだ。


 そのNFTという技術を利用して、キャンバスに描かれた油絵や、彫刻などのアナログアートと同様に、PCやスマホで閲覧するデジタルコンテンツを「一品モノのアート作品」として売買、取引できるマーケットが登場してきたらしい。



「そういえばこの間、翠菜と丸の内の本屋にIT系の専門書見に行ったんだけどさ、その売り場に「NFT」って単語載せた書籍、何冊か並んでたな。「メタバース」関連書籍の隣だったから、あーはいはいって感じで手にも取らなかったんだけど」


「うん、参考までに一冊買ってきてみたよ」


 恵史郎が本を一冊テーブルに出す。NFTに関する解説書である。


「あーこれこれ。この本見かけたんだ」


「俺も椿姫も流し読みしかしてないけどさ。今日置いていくから、読んでみてよ」


「今ちょっといい?」


「どうぞ」


 さくっと解説書を流し読みしてみる。IT系の書籍はこれまで散々読んできたから、この手の解説書はもうすっかりおなじみである。

 まぁ大体、著者の文体とか書籍全体のデザインとか、目次に並んでる各章の見出し眺めるだけで、「どの程度信頼できる情報か」、一通り分かっちゃうんだよな。



「ふーむ、なるほど。アートのために開発された技術なんじゃなくて、仮想通貨を技術発展させていったら、アート作品の取引に応用できることが分かったから始めてみましたって感じなのかな」


「オレ、ネットとかクリエイター方面のことは全然分かんないけど、今の所、金融方面の人達が流行らせたがってるって感じだよね。実際の絵描きさん達にとってはどうなのかな?」


「「絵」で食べていくのは、プログラマーと一緒で切ないんだ。メシの種になるならなんだって大歓迎だよ。……なんだけど、日本で有名なクリエイターがNFTでなにかやりましたって話は、今のところ聞いたことがないな」


「日本人のアーティストっていうかクリエイターさんも、やってる人はやってるみたい。有名な人達?かは分かんないけど、SNSに強い人達が多そう」


 PCの前に移動して、世界で一番大きいと言われているNFTのマーケットプレイス(アート作品を展示販売しているWebサイト)を、4人で眺めてみる。

 人気のある「コレクション」のランキングページなんかをざっと見てみる。

 アートアートした難解な作品というよりはむしろ、キャッチーなキャラクターイラストが多い印象である。今風。パリピ。



「兄ちゃんは、こういうの分かる? オレさ、正直こういうの「何が違うのか」イマイチ分かんないんだよね。モノによってはすごい高値がついてるみたいだけど、そんなに凄いの? コレ」


「「かわいいは正義」じゃなかったんかい! ……だけどまぁ、この手のクリエイション系って、結構「ご当地モノ」だったりするんだよね。お国柄というか土地柄というか、結構ローカルなもので、文脈(コンテキスト)おさえてる人達じゃないと、良さが分からなかったりするからな」


「銀さんの眼から見て、売れているアーティストの作品って、どうですか? 絵師の技術的な部分とか」


「このちっこいアイコンとかは、俺だって少し時間かければいくらでも描けるよ。ざっと見た限りでは、絵描きの技量としては俺と大差ないと思う。……なんだけど、こういうのは

「キャラクター」なんだよね。物語の登場人物という意味ではなくて、「作者の人間性」。パーソナリティ。それは技術でどうにかなるもんじゃないんだ。こういうのでウケる・売れるってのは、また別次元の素質が必要になるんだ。……だけどさ、その辺のノリは同人誌即売会と一緒だよ」


「一番人気のある作品が、一番優れた作品とは限らないってことですよね」


「同人界隈でも、いろんな人いるでしょ? その時その時のヒット作追いかけて、作品コロコロ変える壁サークルさんと、オリジナル一本で細々と活動してる島サークルさんと。……このマーケットプレイスも、基本同じような空気だと思うよ?……うん。今ざっくりこのマーケットプレイス眺めてて、「うぉすげぇ!この人には一生敵わねぇ!」っていうアーティストさんは、今のところ見当たらないかな。もっと時間かけていろんな作家さんの作品見てみないとなんとも言えないけれども」




 ……って、もしかして。


「あの……花都香先生、ナニ。もしかして、……俺にコレやれって言うんですか?」


 PCのモニタ指さして、花都香女史に向き直ってみる。


「そうです」


 堂々と仁王立ち。自らの直感を確信して疑わないといった表情で目を伏せ続ける花都香女史。


「えぇ〜、なんでまた? いや、ちょっと腰を据えて画力鍛え直せば、この位は、……うん。この位はやってやれなくもなさそうだけど、こういうのは、美術系の専門学校出た若者がやるもんじゃない? 40過ぎた昭和生まれのオッサンが手を出すもんじゃないよ」


「このマーケットプレイスで有名になって、一財を築いてほしいと言っているのではありません。この技術、この市場には将来性、そして可能性があるのです。「唯存律」を取引できる可能性です」


「あー……。確かに「一品モノ」のアート作品を仕上げること、そして入手することは、即「唯存律」の向上に繋がりますけど、別にこのデジタルアートでなくたって、いいでしょう?……そう、すずりちゃんのやってるハンドメイドマーケットだって、一品モノのアクセサリー、いろいろ出回ってるじゃないですか」


「ええ。あのハンドメイドマーケットも悪くはありません。しかしあの場には、一つ大きな欠点があるんです。……現状、国をまたいだ取引がほとんどできないでしょう」


「ああ……日本以外はまだ台湾だけでしたね、あそこ」


「リアルの品物を海外発送するのは、なかなか敷居高いですよね。海外と取引できるようになるのは、まだまだ先だと思いますよ」


「輸送費高くなるし、税関もあるし、紛失とか盗難のリスクも高いからね。品物そのものより輸送費が高くなることも多そうだしね」


「ドクタークローム、あなたには大局を見て、「次の時代」を見据えて、「唯一(ただひとつ)の道」を歩んでほしいのです。ドクター、あなたは「次の時代」がどうなるか、考えたことがありますか?」


 ……一度、アイスコーヒーを口に含める。

 俺がまるで乗り気でないことをまったく気にすることなく、花都香女史は腹の据わった声で「次の時代」なるものに言及する。……「次の時代」か。考えたこともなかったな。


「なんとなく現代社会が、「今この時代」が、いろいろ行き詰まってるのは肌で感じてますけど、……「次の時代」については、考えたことなかったですね」


「日本に限らず、アメリカもヨーロッパも、閉塞感が満ち満ちています。……遅かれ早かれ、多くの国で「国のかたち」が綻んでいきます……大国の中ではロシアが最初かしらね……それはとにかく、私は実際にこの目で「時代の移り変わり」を見てきました。……江戸幕府の終焉も、大日本帝国の降伏も、この目で見届けてきました。現代日本国も、じきに終りを迎えるでしょう」


「現代日本の社会体制が覆される? 民主主義国家に代わる、新しい社会システムが構築されると?」


「現在、人類全体で抱えている大きな問題は、「人余り」。食糧生産技術や医学の発展に伴い、人類の数はこの100年で大きく増加しました。経済活動は拡大し、世界規模で見れば、私達は確実に豊かになっているのです。ですがその結果として、どの国でも「先が見えるようになってしまった」。人々が生きることに白けてしまった」


「なんだかんだ、一人一台スマホ持てるようになっているのは、工業生産の中心が、日本よりも広大な土地と膨大な労働力を持った中国に移ったことが大きいですよね。20世紀の頃みたいに日本国内で生産してたら、世界中の人々がスマホ持てるようにはなってないですよね」


「さっき話に出したアパレルの「WW−Q」もさ、早いうちからアジアに生産拠点作って、世界市場に進出したじゃない。だから生き残っていられるんだよね。世界規模で事業展開したほうが、製造コストも下げられるし、マーケットの規模も大きいし。現代の企業経営は、世界を相手にドカン!といかないとダメだよね。日本市場だけでチマチマやってたんじゃ、すぐにマーケットが飽和して行き詰まる」


「昔のガラケーとかパソコンと、今のスマホとの違いで大きいのはさ、「世界共通仕様」なんだよな。最初から各国の言語に対応しててさ。同じ製品をそのまま日本でもベトナムでもトルコでもブラジルでも売れる。日本市場向けにしか作ってない製品と比べて、コストの面でも売上の面でも、費用対効果が全く違うよな。清掃会社で働いてたとき、いろんな国のスタッフさんと仕事してたけど、みんなスマホ持ってるの。金持ってない出稼ぎ留学生でもさ、アキバで中古のスマホ買って、SIMなしなんだけど、フリーWiFi上手く使ってさ、また上手に使うんだわ。「あぁ、世の中変わったなぁ」って、つくづく思ってたよ」


「昔は違ってたんですか?」


「違ってた違ってた。20年前のパソコンでも、こうじゃなかった。「文字コード」っていうのがバラバラでさ、asciiとShift-JISとEUC-JPとかってさ。プログラムの移植は手間かかるし、ウェブサイトでもEメールでもしょっちゅう文字化けしてたしさ。日本向けは日本向け。海外向けは海外向けって感じで、各国相手にローカライズさせてた。あの手間なくなったのは、大きいと思う」


「もちろん、ローカルな商売ってなくならないよ? 観光業もそうだよね。東京とか京都を、地球のどこか別の場所にいくつも作るって、まぁ今のところ無理じゃない。浅草を観光したかったら、実際に浅草に来てもらわないといけない。そういうのは残るけど、大きな流れとしては、グローバル。世界共通企画で、効率よく、安く、大量に作る」


「服は確かに安くなった。洗濯機で洗えるスーツが上下で8000円とかだもんな、今。ちょっと前までクリーニング出さないといけないスーツが4万とかだったのに。スニーカーでも4000円くらいでちゃんとしたのがあるからな。昔は1万超えてたようなのが」


「ずっと東京で日本人やってると実感湧かないかもしれないけど、世界規模で見れば、世の中ちゃんと発展してるんだよ。国単位でみていくと、格差がどんどん広がっているように見えるけど、世界全体で見れば、格差は確かに縮まってる。日本人が他国の人達に追いつかれて、追い越されそうになってるだけで」


「私もこの間までイスラエル行ってましたけど、生活水準というかライフスタイルですか。あまりこっちと変わりませんよ? パリやニューヨークみたいに、見栄っ張りの富裕層がギラギラしていることもなく、落ち着いていました。雰囲気としては京都よりは奈良に近いかしらね。古くからの門前町といった趣で」


「ちなみに花都香先生、何しにイスラエル行ってたんです?」


「話し出すとすさまじく長くなりますし、重たい話でもあるので、今回は説明を控えます。だけど、あの国のいいところは、「金儲けがしたかったらアメリカに行け」って言えるところね。ユダヤ人は世界中に散らばって、堂々と生きていますよね? 日本人が苦手とする生き方ですけど。それができるから、祖国に残る人達はシンプルでいられる。「祖国を守る」ことだけ考えて生きていればいい。生き様がすっきりしていて分かりやすい。その点は素直にうらやましいですね」


 なるほどー。日本人はその点、どうにもジメジメネチネチしちゃうからな。アジア諸国に対しては侵略の後ろめたさがあるし、欧米諸国に対してはバブル期の「ジャパンバッシング」の思い出が抜けないし。言葉の壁も依然として大きいし。……一人ひとりは真面目に一生懸命生きているはずなのに、諸外国の皆さんとはどうにも足並みが揃わなくて、ギクシャクするイメージあるよな、日本人って。


「それで、世界全体で見れば、世の中ほどほど順調ですよって話と、俺がデジタルアート? に手を出さないといけないっていうのが、どう繋がるんです?」


 ちょっと話が広がりすぎてとりとめなくなってき感があるな。焦点を戻そう。



「世界全体で、「意志」を持てる人間が、限られて来ているのです。……いえ、もともと人類はそういう生き物であったのですけど、これまでの時代は「生き方の選択肢」が最初から限られていることが多かった。百姓の子供は百姓。漁師の子供は漁師。高等教育を受けて国家の運営に携わるのも、一部の上流家庭に生まれた者だけの役割でした。それが現代は、「意志」を持たないまま、頑張ることを知らないまま、成熟社会のどこかの組織の歯車にされてしまう。あるいはせっかく「意志」を持てるようになったのに、膨大な情報の海に埋もれて、自分の生き方を見失ってしまう」



「……今の世の中でチトきついのは、大学卒業するまでの間に、世の中渡っていくのに必要なスキルとか専門知識が身につかないっていうのはありますよね。俺が子供の頃、昭和の頃までは、頑張っていい大学入れば、後の人生安泰だって思われてた。学歴に応じた生き方がある程度決まってた。だけど今はそうじゃない。IT関連とかクリエイティブ方面が特にそうだけど、そこら辺の大学出ただけじゃ、必要な水準の知識、見識が全く追いつかない。……日本のどの大学出れば、go○gleや○pple入れるの?って話ですよ」


「「アタマのいい奴らが集まる」場所、コミュニティっていうのが、本当に分からないよね。どっかのSNSか?っていうとそうでもないし。丸の内とか六本木か?っていうと、そんなこともないし。ばーちゃんから聞いた話だと、昔はとりあえず東大だったんでしょ? 今、別にそういう感じしないよね」


「バカじゃ入れないのは変わらないけど、視野が狭くて融通の効かない受験オタクが割と多い? っていうイメージに変わっちゃったかな。昔と比べると」


「社会全体の問題を解決できる優秀な人材には知識や教養だけでなく、「意志」が必要です。そしてその意志の礎となるのが、「唯存律」なの。「唯存律」を持たない人間は、自分の置かれている状況を客観視できない。疑問を持つことができない。現状に飲み込まれて「世の中のあるべき姿」をイメージすることができない」


「トレンドに流されて、自分の意見を持つことができなくて、集団の真ん中にいることばかり考えてる人達でしょう? アテにはできないけど、別に害にもならないでしょう?」


「大切なのは「そこら辺の草」以外に、意志をもった人間がいると、そのような場所があると、世の中全体で認知されていること。本当に聡明な人材達が、程度の低いSNSには目もくれず、社会に参加していることが認知されていること。これからの時代に必要なのは、「唯存律」を持った、「意志」を持つことができた人材が集まって、交流する場。火に油を注ぐだけの呟きSNSでも、ハエが群がるお化粧SNSでもダメ。現代社会の様々な矛盾に疑問をもって、解決策を考えることのできる、優秀な人材が集まるコミュニティが、必要なのです」


「……「唯存律」が込められたアート作品が詰め込まれた「ギャラリー」があれば、そこに集まる人々は「唯存律」を持った優秀な人材達であるはずだと?」


「「唯存律」を持ってしまった人間は、多かれ少なかれ「生きづらさ」を抱えています。自分と同じ「生きづらさ」を持った人々が他にもいると実感できることは大切。「このしんどさを抱えているのは私だけじゃない」と、そう思える環境を、用意してあげたいの」


「「夢の産屋」をさ、そういう場所にするつもりだったんだ。「唯存律」を持った優秀な人材が集まるサロンみたいな場所を目指して始めたんだ。……半分、いや、3割くらいは上手くいったかな。常連さんになってくれたお客さんは「唯存律」を持った、「分かってくれる」お客さんだった。……だけど、名前が売れちゃうとダメなんだよね。当時はSNSっていうよりブロガーさんが多かったかな。グルメブログで有名になりたい人達が目の色かえて押し寄せるようになって、最期は転売ヤーに乗っ取られた感じ。「パーソナル・ラグジュアリー・ホテル」ってビジネスへの需要を見誤ったかな。供給がまったく追いつかなかった」


「美羽、繭、希姫の3人が、「Another Mother」ってお店を考えてくれて、上手く着地点を見つけることができましたけどね……。本当は成金オジサマばかりでなく、一般的な女性にも利用してもらえる場所にしたいのだけど……なかなか難しいのよね?」


「ああいう「深い接待」のある場所は、普通にスタッフ募集してもダメだからね。接客マニュアルじゃダメな世界だからさ。事業を広げるのがなかなかできなくて……ビジネスホテルやるのとは違うからね」


「その点、「デジタルな何か」だったら、リアルな場所がパンクすることは、少なくともないと?」


「ネット上だったら、世界中のお客さん相手にできるでしょ? アート作品だったら、言葉の壁もないでしょ?」


「……今から6〜7年位前かな、ちょっとしたきっかけで、銀座の奥まったところにある、古〜いビルに小さな画廊が集まってるところあってさ。……エレベーターのドアが手動の、マニアックな所だったんだけど、そこで絵、買ったことあるよ。……ああいう場所も、独特のよさがあるよね。「大都会の秘境」って感じで」


「あら、「尾緒久野画廊(ギャラリー)ビル」? 渋い場所ご存知なのね。そうそう。ああいうテイストですよ」


「確かにあそこは、「オカルト感満載」でしたけど。……あの雰囲気を、ネットでやれってことですか。……なるほど、少しはイメージ湧きました」


「銀さん、その銀座のギャラリー? どんなところなんですか?」


「戦前に建てられた古いビルを丁寧に維持して、各階の小さな部屋がそれぞれ、独立した画廊になってるんだ。そこに、草の根で細々と活動してる「インディーズ?なアーティスト」さんが、2週間くらいの期間限定で入れ代わり立ち代わり、自分の作品を展示、販売してるって感じだったかな? 創作アート専門の同人委託ショップってイメージ。……実際は美大とか芸大入っちゃったけど、第一線でバリバリやっていくほどの自信がない女の子たちが、ちょっぴりアーティスト活動やってみたいですーって感じでやってる印象だったな。……場所の雰囲気はね、神保町の古書店と大分近いよ。それから「火の鳥屋カレー」のビルもね」


「そういう雰囲気なんですか。へぇー。銀座も土地高いでしょうに」


「すずり。今思ったんだけど、ああいう画廊を神保町に移してきても面白いかも。「アナログの一品モノ」としては、古書も絵画も同じ。……雰囲気知っておくのも悪くないかもしれないわ」


「そうですね。私も調べてみます」


「あまり過大に期待しないでよ。俺の小遣いでも買える、1〜2万くらいのちっちゃな作品ばっかりだったし。……イラスト主体の創作系同人誌って思っててね」


「いやいやいや、それだけでも十分興味ありますよ。へぇー銀座にそんな場所があるんですねー」


「上手いこと大金を手に入れて、ラグジュアリーブランドの高級品を容易に買えることができるようになった成金達が、「次」に何を求めるのか?って話なのよ」


「ああそう。美術を専攻して美大・芸大に入ってしまった女性たちの当面の仕事先が、銀座のクラブだったりするんでしたっけ? かなり昔ですけどそういう話、ネットのどこかで見たことありますよ。そういう繋がりもあるのかもしれませんね」


「アート作品の価値を認めることができて、実際に買ってくれそうなお客さんと、直接コネが作れるもんね、かなり頭いいよね、そういう人」


「「女性だからこそ」できる芸当だよな。……俺じゃぁ無理だわ……そういう人達、コロナでどうなっちゃったんだろうな」


「コロナがあってもなくっても、そういう勝負ができるのは若いうちだけ。ま、上手いこと嫁ぎ相手を見つけられれば人生あがり。武運を祈ってあげましょう。……それにしてもドクタークローム。銀座の尾緒久野画廊(ギャラリー)をご存知だったのは、話が早いわ。要するに、アレをネットでやって欲しいということです」


「そうですね、イメージは掴めましたよ。現代社会にギリギリ溶け込める、オカルト感満載の、隠れ家プレイスを作りたいと」


「「いかにもうさんくさい。見るからにヤバイ。だけどいざ中に入ってみると、案外普通かも。居心地いいかも。あぁここなら、私がいてもいいかもしれない」。そう感じられるような、深い森の奥に魔女が隠れ棲むような、そのような場所。今この時代の何がよろしくないのか? 大半の人々が「目的」を見失ってしまっているということ。頑張れば金持ちになれるかもしれない。けれど、金持ちになってどうする? パリでもニューヨークでもドバイでも上海でも東京でも、世界中のどこで暮らしても、持ち歩くのはおんなじスマホ。着る服も同じ。履く靴も同じ。自分の買った品物の写真を撮って、SNSに投稿して、いいね!をもらう。そんなやり取りも同じ。世界のどこかで戦争が起きても、報道と現地からの投稿を消費して、お見舞いコメント呟いておしまい。……「世界」ってこの程度だったんだ。「唯存律」を持ってしまった人々が、そのように「しらけてしまう」のが、よくないの」


「日本に限らず働かない若者、増えてきてるって言いますもんね。で、移民を受け入れる。元々の住民たちと軋轢が生じる。街の秩序が乱れていって、ヘイトが積み重なっていく。少子高齢化ほったらかしの日本もどうよ?って感じですけど、諸外国もあんまり上手くいってない印象ありますよね……なんですけど、デジタルイラストを販売して、状況変わるもんですか?」


「もちろん、すぐには何も変わらないでしょう。ですが大事なのは大局。数十年先の未来のために、今この時期に何ができるのか。2022年の日本に生きて、世界の未来のために、何をなしたか。その実績を、足跡を残すことが大事なのです」


「とりあえずさ、少子高齢化社会の先頭ではあるじゃない、今の日本。20世紀に成功したけど、21世紀に入って落ち目ではあるよね。その日本で何を考えて、何を成したのかっていうのが、他の国々の若者達が自分たちの生き方を考える、手本というか、道標(みちしるべ)になる。それはあるはず」


「うーむー。確かに日本のマンガやアニメで培った、キャラクターイラストの表現力は強いと思うよ?中国とか台湾の絵師さんも上手い人でてきたけど、「次」が出てくるかどうか?は、やっぱりまだまだ日本強いよね。かわいい女の子は海外の絵師さんでも描けてるけどさ、あの「黄色い電気ネズミ」はね。世に出てそろそろ30年か。他の国からは当面出てこないと思う。……でも、あのシリーズで、今出回ってる商業作品群だけで、十分じゃないの? これ以上コンテンツ増やす必要あるの? 俺は10年前に、商業マンガ家になるの諦めてるけど、それはやっぱり業界がレッドオーシャンだったからだよ。俺以外にもやりたがってる人いっぱいいる世界だったから。「ボクはお呼びでないんですね」って、すっぱり諦められる雰囲気だったからなんだよ。……どうにも「今更感」があるんだよな」


「そこは「やってみて」なんですよ、ドクタークローム。10年前に目指していたのは商業マンガ家としての成功でしょう? ウケる事を、商業的にヒットすることを目指していたんでしょう? 今回はそうではありません。「唯一の世界」を造って見せること。世界の奥行きの深さを見せること」


「ウケなくても売れなくてもいいから、とにかく濃ゆいものを作れってこと?」


「そうです」


 ……うぅぅーむぅぅー。言葉が出てこなくなったな。腕組みをして考え込んでしまう。

 ……とても商業作品にはできないような、ディープでマニアックな作品か。確かに最近はそういうの、見かけなくなったな。20世紀の頃は、文学部入っちゃった頭でっかちな大学生が、背伸びして手を出すようなコミックやOVA、それなりあったイメージあるけど。そういえば最近、そういうテイストの作品は、昔ほどは見かけなくなったな。「ねじ式」みたいなやつ。


「出版業界も、近年は尖った作品、世に出せてないですよね。これから日本人はどんどん少なくなっていくわけで、そんな世の流れで「そのうち売れるかもしれない」っていうユルいノリでは、出版できませんもんね。そもそも大半のコンテンツは書籍にするまでもなく、ネット掲載で済んでしまうわけですし」


「昔のほうがマニアックな作品多かったよね」


 ちと、すずりちゃんの話に乗ってみる。


「それはまだ、資本主義 対 共産主義の構図が残っていたからですよね。経済的成功が全てではないって、インテリ層の方々がそう考えていた時代だったんですよね?「売れないものこそカッコイイ」って、そんな雰囲気があったんだと思います。神保町も、その頃はもっと「左より」の街だったはずですよ」


「明○大学なんて、もろに学生運動の拠点だったのよね、確か。今思い返せば、「アメリカと戦争してみせた上の世代に敗けたくない。自分たちも何かと闘ってみたい」って、ただそれだけで、安全な場所から体制に向けて石を投げてただけなんですけど。要するに戦争ごっこよね。あの時代の空気も、分析すると面白いですけどね」


「経済繁栄が全てではないはずだって考える人達は、昭和の時代も一定層いたってことだよね。今の時代にSNSで火種ばら撒いてる人達の、ご先祖様みたいな人達かな」


「その他、「本当の戦争体験」をした人達、原爆で放射能を浴びた方々、公害で健康を害した方々……。「時代の被害者」は大勢いらしたはずですから。そういった方々の「怨嗟の念」が、深い作品を求めたんだと思います」


「戦後の昭和時代も、「唯存律」の高い人達が、大勢いたってことだよね?」


「本当の殺し合いから帰ってきた人達が大勢いた時代ですもの。それなりに、です。昭和の深淵から令和のこの時代を眺めてみると、……とにかく小綺麗にはなりましたね。喫煙者はぐっと減ったし、路上に(タン)吐く男たちも少なくなりました」


 ポイ捨てされるタバコの吸い殻……電車の網棚に放置される競馬新聞……道端に転がるカップ酒の空き瓶……。

 うん。昔の人々も、別にモラル良かった訳じゃないんだ。それなりにやさぐれて、不潔ではあったよな。嘔吐はもちろん、立ち小便だってしてた。平気で街を汚してた……まるで、自分たちが生きた証を少しでも残そうとするかのようだったな、今思い返すと。


「当時と比べると……野良犬みたいな奴は、見かけなくなりましたね……ガラ悪い奴はそれなりいるけど、昔ほどギラついてないというか……「あしたのジョー」に出てきそうな人間は、男も女も見かけなくなった……」


「野良犬というより、ポケ○ンだわね、現代人は……それだけ豊かになったということです……つまり、ドクター。もう少し人の生き様に幅があっていいっていうことを、示してほしいのよ。住む家なくして、借金取りに追われて、それでも堂々と生きていたのですよ、昔の男女は。いいね!の数を稼ぐよりも面白いことを突き詰めてみませんか?ってことをね、見せてあげて欲しいの」


 うーむ。


「ITインフラが整って、誰もがネット上に自分のアカウントを持てるようになりました。テキストでも写真でも動画でも、「自分が存在した証拠」を残せるようになりました。日本人ばかりでなく、世界中の誰もがです。ですが、ネットで評価されるのは、多くのいいね!がつくのは、当たり障りなく、小綺麗なものばかり」


「まぁ犯罪を助長するような過激な表現は、規制されてしまいますからねぇ」


「どの表現媒体にも一定の制約(レギュレーション)が課されるもので、それをすり抜けてこその表現者。そうではなくて、根本のところで現代人は、「人間を怠けている」。人間の限界に挑むことをしていません」


「商業コンテンツは利益を出さないといけないから、当たり障りないものになるのは仕方ないとして、非商業のコンテンツですら、表現をつきつめてない? ということ?」


「「ドグラ・マグラ」とか「ねじ式」をやってくれって訳じゃないんだけど、今のネット、本っっっ当にしょーもないことで炎上するじゃない。あれはちょっと、今この時代しか知らない人は、気の毒だなと思う。「多様性の尊重」ってタテマエ上はそう言ってるけど、ホンネの方で同調圧力すごいじゃない。……同調圧力っていうよりも、「平等圧力」かな」


「ネット上のやり取りには女性も参加できるからな。女性が好き勝手発言するようになった結果なのかな。「結婚できない私って可哀想!」って、延々とやってるもんな。確かに、昭和の頃のほうが生き方に対してはユルかったよな」


「極論な言い方になっちゃうけどさ、「不幸になる自由」「破滅する自由」があっていいはずなんだよ。世の中成熟して、モノは一通り行き渡って、みんながみんな必死に働かなくなったって、とりあえず社会は維持できてるわけだから。もっと好き勝手に生きていいはずなのに、何もしないうちから、「もう終わりだよこの国」って言ってばっかり」


「日本人はそれでいいんですよ。もともと末法思想が大好きで、長いものに巻かれるのをヨシとするお国柄だから。だけれど、せっかく世界が繋がったのに、新たな活力が、次の時代が始まる胎動がどうにも弱いのよね……具体的に言うとね。不謹慎ですけど、敗戦直後、昭和20年の日本人達の方が元気あったわ。衣・食・住、全てに困ってたのに」


「それは日本人だけが、でなくて?」


「そうね。特に20世紀後半に先進国であった国々と、中国人もそうね」


「海外にさ、彩命術勉強してる知り合いがいるんだ。それはそれは信心深くて、正直者でさ。日本人でないのに、八百万の神々と向き合って、ヒルメちゃん(※天照大神のことです)とも会って話してさ。本気で新約聖書に代わる「The Bible 3.0」を作ろうとしてる、そういう強者(つわもの)なんだけど、「現代人メンタル弱すぎ。Bible 3.0出す前に、人類が終わるかもしれん」って言ってる。人類にBible 3.0を読ませるか、Bible 3.0を組み込んだAIを設計するか、迷ってるそうだよ」


「次の聖書の物語を咀嚼できない? ……アメリカあたりだと、地球が丸いという事実を受け入れられず、天動説信じてる層が一定数いるとは言うけれども」


「人間が増えすぎた結果ね。「唯存律」を持たない人間は、疑う力、考える力が育たない。親の代の生き方をなぞることしかできない。仮に今この時代にBible 3.0を世に出したら、戦争じゃ済まないでしょうね。派手に核を使って集団自殺する連中が出てくるわ」


 あぁ……また話のスケールがでかくなっていく……。


「まぁ要するに、ここまでの話の流れをまとめると、NFTマーケットプレイスっていう、誰でも参加できる場所での作品発表を通じて、「幸せになるばかりが人間の生き様ではない」「不幸になる自由があっていい」ってメッセージを発信してみせろって、そういうことでいいのかな?」


「うん。今、デジタルのイラストって、タブレット一つで制作できるんでしょ?」


「うん。ちょっと前まで、でかいPCと、液晶ペンタブレット辺りないと厳しかったんだけど、そこは本当に進歩した」


「でさ、そのタブレットは、グローバルなマーケットのおかげで、世界の誰でも使えるわけだ。デジタルアートのスタート地点は、みんな一緒ってこと。その土俵の上で、「こりゃすげぇ!」って作品を作り上げて見せれば、それは一人の人間の実力だよね。企業組織とか資本とか、国の実力ではなく」


「ハリウッドで映画撮れる奴は限られてるけど、NFTアートなら誰でも参入できる。一人の頑張りで、ここまでのことができるんだぞ!って、見せてやってくれってことか……」


「うん。……どっちかっていうと、日本人のためじゃなくて、諸外国の若者のためかな。アートの世界なんて学校教育ほぼ関係ないじゃん。本人の努力次第でしょ」


「まぁな。実際俺も絵始めたの20歳過ぎてからだからな。それでもひとまずは描けるようになったからな」


「世界中のさ。うっかり大きな「唯存律」を持ってしまった人達がさ、お行儀のいいコンテンツばかりのネットを見て、世界に絶望してしまうのを、防いであげてほしいんだ」


「幸せにはなれないかもしれないけど、幸せになる以外にも、もっと楽しいことは、いっぱいあるよって?」


「うん。ひとまずさ、あの呟きSNSが、「言葉だけが世界じゃない」っていうのは、アート作品で表現できると思うんだよ」


「あれももう、ネット全体で見れば、もう本流じゃないんじゃなかった? 今流行ってるのはショート動画のやつじゃなかったっけ?」


「オレもその辺は詳しくないけど、なんだかんだ、まだ勢力あるでしょ? もうちょっと下火になってていいと思うんだよね」



 うーん、あとはまぁ、俺の表現次第か……。


「あのさ、もう一回確認するけど、「ウケなくていい」んですね?」


「はい。その代わり、ドロっと、濃ゆいのをお願いします。綾瀬川の流れのように。……すぐにとは言いませんから。長い目で、大局を見て、やって欲しいの」


「この時点でお願いがあるんですけど、、、ある程度長い期間見てほしいです。……俺なりに商業作家目指してきた人間の目線で言わせてもらうと、こういう世界は、一般に思われている以上に、「作家のホンネ」が透けて見えるんです。見抜かれる人には必ず見抜かれる。「なんでコイツはこんな作品作ってるんだ?」って眼で見られる。そしてそこで肝心なのは、「金目当てでない」と、解ってもらえること。作品の中に込められた「誠意」が伝わること。……ま、要するに、ウケを狙いに行くと、必ず失敗するっていうことで」


「その辺は、兄ちゃんの、「黒海銀一郎」の感性に任せるよ」


「具体的には、一年は見てほしいです。一年は結果が出なくても、好きなようにやらせてほしい。自分だけの表現っていうのを見つけるまで、多分その位かかります。ってか、この間チョロって描いただけで、マンガ家諦めてから、基本10年ブランクあるんですからね? 最初から濃ゆい表現は、まずできないっすから」


「もちろん、構いませんよ。私から七瀬にも話しておきます」


「よし、それなら、やってみますよ」



 おおーさすがーと、恵史郎とすずりちゃん。とても満足そうにドヤる花都香女史。


「さすが、銀さんですね。椿姫様の無茶振りを、すんなり受け入れられるんですね」


「すずりちゃんも、ハンドメイドマーケットで筆書きの仕事するの、当時は相当嫌がってたもんね」


「「直接会った訳でもない人のために心を込めて、それを売り物にする」っていうところに現実味がなかったの……意外と、あのマーケットはお客様とのメッセージのやり取りを大切にしてくれるから続けられてるけど、、、最初は、葛藤あったよ、すごく」


「葛藤がありつつも積極的に取り組んでくれて、感謝していますよ、すずり」


 にゃははって苦笑いするすずりちゃん。花都香女史の事、それ程「上」に見てる訳じゃないんだな。肉体年齢はすずりちゃんより若干「下」のはずだからかな。……俺ももう少し、花都香女史に気を許しちゃっても大丈夫かな?


「ちなみに、花都香先生」


「はい?」


「さっき話がでましたけど、「次の時代」って、どんな時代になるんです?」


「まず、人間の数が減りますね。大幅に。そして「人為的に唯存律を高めた人間達」が、社会を動かすことになるでしょう。民主主義はすっかり形骸化して、政府はAIが担当するようにでもなるでしょう。そして、これから10年で最も肝心で最重要なのが、その人間の数が「どうやって減っていくのか」。戦争か、疫病か。大災害か。ゆるやかな自然減か」


「なんだかんだ言ってもさ、現代の日本人、少子高齢化を本気で食い止めようとしてないよね。外国人労働者、つまり移民の受け入れについても本気で議論してないし、なんか成り行き任せじゃない」


「清掃業みたいに人集めてナンボの業界は、今メチャメチャ苦しいんだけどな。求人出して3ヶ月一本も応募の電話ないとか、普通だったからね?俺も職場に寝泊まりしてたし。清掃業は、あと10年は苦しいだろうな。もうあの業界は、ロボットでやってくしかないよ。そのロボットを作れるかどうかが勝負だな」


「清掃業に10年いた兄ちゃんでもさ、「これからはロボットしかない」って思ってるわけでしょ? 言い換えれば「もう人間じゃ無理だ」って思ってるってことでしょ? それはどうしてだい?」


「さっきまでの話の流れに合わせるならさ、「清掃の仕事をどんなに頑張ったって、いいね!が貰えない」からだよ。一生懸命真面目に仕事する奴ほどバカを見る。コツコツ黙々真面目に仕事してくれる人より、手抜きしてマウントとるばかりの奴が出世していい給料もらう。……清掃業の現場のモラルを維持するリソースは、現代の日本には、きっともうないんだ」


「どの業界でも同じなんだよ。農業でも林業でも接客業でも。現場の人間は肌で感じてるんだ。「この仕事ではもう、頑張っても幸せになれない」って。これからの若い人たちは余計そうだろうね。物心ついたときからスマホ持ってSNSやって育つわけだから。そしてそれは、世界中でそうだということ。社会を維持するのに必要な「何か」は、人間の頭数じゃない。日本人はそれに薄々気づいちゃってるんだ」


「その「何か」って?」


「「愛よりも尊い何か」だったら、話早いんだけどね。どうにもそこまで単純じゃないっぽい。……「やりがい」「生きがい」に結びつくなにかかな」


「少なくとも「意志」を持てる優秀な人材が集積する「場」が必要ですね。その辺りはさっき話した通り」


「「唯存律」に加えて、「愛よりも尊い何か」もくっついてくる訳だな、そうすると」



「恵史郎」

 ここで花都香女史と恵史郎だけの意思疎通がある。

「うん。そうだね。兄ちゃん。もう少し長話いいかな?」



「別に構わないけど?」



 恵史郎は携行していたバッグから、ランチボックス?を取り出す。……おやつを作ってきてくれたようだ。



「ちと休憩しよ。サブレとシュケット、作ってきたから。その後で解説をするよ。今までの復習も兼ねて、「愛よりも尊い何か」と8大彩気の関係の、応用編を説明する」




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