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後日譚185.事なかれ主義者は秘密裏に準備したい

 二十歳になってから二週間ほどが過ぎた。

 この二週間はお酒を解禁したので、お酒好きなシンシーラやラオさんたちと一緒に色々なお酒を試した。

 また、お酒の匂いに釣られてやってきたドフリックさんのお勧めのお酒も飲んでみたけれど、ビールは僕にはまだ早いという事が分かった。

 飲みきれなかったものはシンシーラとドフリックさんが争う形で飲み干していったので、いろいろ試しはしたけれど僕が飲んだ量は少なかった。そのおかげか二日酔いになる事は今の所ない。僕が酒に強い、というよりは魔道具『安眠カバー』の影響もあるのかもしれない。


「転移門の方は問題ない?」

「今の所シズトが心配していたような問題は出てないわ」


 僕の問いに答えたのは、ガレオールの実験農場に繋がっている転移陣の近くにいたランチェッタさんだ。

 今日はこれから王城へ行くようで、ショートボブの灰色の髪の上には煌めく王冠が載っている。ドレスは『適温』の魔法を付与した物だからか、露出が少ないけれど体のラインがよく分かる物を着ているので、胸周りが大きく膨らんでいて、細い腰回りはキュッと絞られている。普段よりもだいぶ背が高く感じるのは、ヒールが高い靴を履いているからだろう。


「各国の経済活動にも良くも悪くも大きな影響を与えているようだけれど、そこら辺は想定の範囲内に収まっているから各国で対応するでしょうね。凶悪な魔物が現れた地域には高ランクの冒険者が派遣されやすくなっていて、問題が解決する速度が速くなっているみたいよ。それにはシズトの同郷の人が活躍しているみたいね」


 ドランを拠点にしていた陽太たちは僕たちの口添えもあり王都に直結している転移陣の使用が許可されたそうだ。その結果、転移門を活用して各国を回り、高難度の依頼や塩漬け状態になってしまっていた依頼を解決して回っているらしい。

 また、誕生日の時に行われた大会で良い結果を残したトシゾーさんも暇そうだったので専属の冒険者になってもらった。彼の加護を活かすのであれば希少金属の鉱脈がある山やダンジョンにでも送った方が良いんだろうけど、生憎自由に使えていた『亡者の巣窟』は邪神騒動の際に壊れてなくなってしまっていた。

 他の希少金属が採れるような場所は国や貴族が管理する場所なので派遣するわけにもいかないので、とりあえず専属の冒険者になってもらって各国の依頼を解決して回ってもらっている。

 陽太が「俺たちも専属の冒険者に任命しろ!」と言っていたけれど、「大会で良い成績を残したらね」と返しておいた。


「何か問題が起きたら教えてね」

「ええ、分かっているわ。それじゃ、行ってくるわ。シズトも頑張って」

「うん。行ってらっしゃい」


 転移陣の準備ができて、ドライアドたちがわらわらと集まってきた。

 ランチェッタさんと静かに様子を見ていた侍女のディアーヌさんが転移陣に乗ると、転移陣から漏れ出ていた光がひときわ輝き、次の瞬間にはその場からいなくなっていた。


「僕もやる事やらないとね。……レモンちゃんは今日もついて来るんだよね?」

「レーモン」

「私たちも行く~」

「あんまり大人数だと動き辛いから引っ付かないで欲しいんだけどなぁ」


 そんな思いは届く事なく、今日も今日とて真っ白な服にドライアドたちが引っ付いて来る。

 まあ、ドライアドたちが引っ付いているのはもう大体の人は見慣れているし、そういう噂が流れているから問題ないのかも……?

 そんな事を思いながら、今日の『天気祈願』をする予定の国へと向かうのだった。



 チャム様から授かった『天気祈願』の加護を使いつつ、チャム様の布教活動をし続けているとあっという間に一ヵ月が過ぎて行った。数日後には育生の誕生日が控えているし、二週間くらい後には千与の誕生日だ。

 子どもたちの誕生日も盛大に祝うのかな、と思っていたけれどまだ一歳の誕生日だからそういう事はしないらしい。例え王侯貴族のもとに生まれた子どもだったとしても、乳幼児期に亡くなる事は多々ある事だからだそうだ。

 病気や大怪我であればエリクサーで何とでもなるし、今は冒険に出ているけど『聖女』の加護を授かっている姫花に待機してもらってればそうそうそんな事にはならないだろうけど、即死の場合はどうしようもない。

 くれぐれもそういう事態にならないように気を付けないと、なんて事を思いつつも誕生日プレゼントについて思考を巡らせる。

 一歳だからなんでも大丈夫な訳がないし、なんだったら日々頑張ってくれているお嫁さんたちにも何かしらプレゼントをあげたい。

 子どもたちの好きな物をとりあえず準備するのは当然として、平等に接するのであればあまり差をつけるのも良くない。


「どうすればいいと思う?」

「わざわざ僕一人呼び出して何かと思えば……それを何で僕に聞くんですか」


 僕の目の前には中性的な顔立ちの男がいた。彼の名は黒川明。前世の同級生の内の一人である。

 黒い髪に黒い瞳はこっちの世界にはごく稀にいるけれど、骨格やら肌の色とかは日本人っぽくない。彼らと比べると明はやっぱり日本人だよな、と思う顔立ちをしていた。


「なんでって、他の人に聞くと話が漏れそうだからだよ。明だったら滅多な事じゃ僕の嫁たちと話さないでしょう?」

「まあ、そうですけど……」


 知られないためにわざわざ明たちの行動に合わせて『天気祈願』をする国を選んだのだ。今僕の動きを知っているのは専属護衛であるジュリウスと、くっついてきたドライアドたちくらいだろう。


「それに、前世で確か明って親戚に子どもが生まれたって言ってたじゃん。そういうの選んでるの見てたんじゃないかなって」

「まあ、そうですね。それにしても直近過ぎませんか?」

「日程調整が難しかったんだよ。それで? 実際どんなの候補に挙がってたの? 明の事だし、候補も含めて話しを聞いてたんでしょ?」

「聞いてましたけど……貸し一つですからね」

「むしろ借りを返してもらうくらいの気持ちで相談してるんだけどね。まあ、これからも相談に乗ってもらうだろうしいいよ」


 あんまり関わりたくはなかったけれど、前世の事を置いて話をしたら明は真剣に考えてくれた。

 真剣に話し合いをし過ぎて時間がかかりすぎちゃったけれど、ファマリーの根元に戻っても特に怪しまれる事もなかった。

 …………ドライアドたちに口止めするの忘れてたけど大丈夫かな?

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