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後日譚154.事なかれ主義者は忘れる事には自信がある

 オクタビアさんと一緒に小国家群に行き、『天気祈願』を使ったら案の定縁談の申し込みがあった。想定外だったのは結婚はできなくても仕方がないから、子どもだけ欲しい、と言われた事だ。

 結婚以上にないわ、と思ってあれこれ言ってくるイルヴィカ様に対してできるだけ丁寧になるように意識しつつ断り続けた。

 過去の勇者の中には既婚者に対して欲情する傍迷惑な人がいたみたいで、断り続けていると「もしかしてそういう趣味がおありですか?」なんて言われたけど「全くないです」と返すだけで精いっぱいだった。

 その翌日はシラクイラの隣国を回る事になったけど、そこでも同じような事があった。縁談に関してはオクタビアさんが婚約者である事や、正室がドラゴニア王国の王女である事から遠慮している様子だったけど、立ち寄ったお店ではハニートラップっぽい接待を受けた。


「今度からは絶対に一緒に行動してね」

「分かりました」


 オクタビアさんと両国の関係について密談したい、と言われたら席を外すしかないと思い、オクタビアさんと別行動したのが原因だった。あっという間に近くの薄暗くて雰囲気のある不思議な飲食店に連れてかれた僕も良くなかったと反省はしている。

 お嫁さんたちでケモ耳は慣れているとはいえ、ウサ耳の獣人の女性がバニーガールのような恰好をしているのに興味が惹かれたのが良くなかったなぁ、なんて事を考えながらジュリウスの運転で移動中だ。

 運転手役のジュリエッタさんは僕たちが屋敷に帰っている間に車の見張りをする必要があるのでついて来ているのだが、車には「恐れ多いので無理です」といって同乗せず、かといって疲れ知らずの魔動車の速さについて来れるわけでもないのでルーフの上に座っている……らしい。外の様子が分かるようにモニターと魔動カメラを応用したものを窓代わりに設置しているけどそれには映る事はないから外に出るまでは分からないのだ。

 僕の肩の上に乗っていたレモンちゃんは、モニター越しに見える外の景色が面白いのか、ずっと大人しい。時々レモレモ言っているけど独り言のようだ。


「シラクイラは何カ所かで加護を使ったけど、さっきの国はあの場所だけでよかったんだよね?」

「はい。オフレシアは都市国家ですからあの一帯以外は領地がないんです」

「……エルフたちの国は都市国家って言いながらもっと大きくなかった?」


 僕の疑問に答えてくれたのは隣に座っていたオクタビアさんじゃなくて、手前の席に座って魔動車を運転しているジュリウスだった。彼は何となくつけたバックミラー越しに僕を見ながら話し始めた。


「元々、世界樹と共に生きてきたエルフは、世界樹がある所以外はどれだけ建物があろうと街ではなく、畑を管理するのに必要な土地だったんです。だから『都市国家』と名乗っていたわけです。便宜上ここでは『町』と呼びますが、町の周りの畑を管理するために時折出かける事はあっても、一年のほとんどを過ごすのは首都にある家である事が殆どだそうです。それは今も変わっていないそうですよ。中には畑を見に行くのが面倒だからと奴隷を雇って任せている者もいます」

「答えてくれるのは嬉しいんだけど、ずっと僕を見てないで前を見てくれる?」

「魔力探知で見なくても何がどこにあるか分かるので大丈夫です」

「流石ジュリウス、と言いたいところだけどやっぱり不安だから、運転中に限って僕を見ながら話す事は禁止ね」

「……かしこまりました」


 視線を前に戻したジュリウスは少し間が開いたけど返事をしてくれたので大丈夫だろう、きっと。


「次に行く国はなんて所だっけ?」

「カラブリアです。魔国ドタウィッチと国境を接していて、小国家群の中では大きな国です。他の隣接する小国家群から狙われるくらい豊かな土地を持っていて、天候も安定しているそうです」

「……じゃあ何で今向かってるの?」

「他の小国家群がシズト様と顔を合わせるという情報を掴んだようで、用はないけど自分の所もしておかないと面子的によろしくない、との事でした。かといって、他の小国家群がシズト様に来てもらうのに対して、自国だけ出向くのも都合が悪い、との事で申し訳ないが国境近くの町に来てほしい、との事でした」

「まあ、顔を合わせるだけだったら別にいいけど……他にも自国に天気祈願を使って欲しいって依頼が来ていない国はあるの?」

「小国家群の中でも比較的大きな国はそうですね。ただ、そういう国の中には他国への攻撃として、加護を使って欲しいと願い出てきた国もありました。武力による統一を目指しているからその様な事を提案してきたんだと思います。シズト様のお望みどおりにそういう要望を出してきた国には顔合わせも断っておりますのでご安心ください」

「ありがと。……オクタビアさんって何も見ずにスラスラ答えているけど、もしかしてすべて覚えているの?」

「流石に全ては覚えてませんよ。この一週間で回る所だけです。奥方様たちから教わった事を覚える時間も必要ですから必要な分だけ資料に目を通しているんです」


 レヴィさんとかノエルとか、色々教えこんでるもんな。スポンジのように吸収するから面白い、って言っていたけれど、もしかしたら一度習った事は忘れないとかそういう能力の持ち主なのだろうか?

 そう思って聞いてみたら「意識して覚えようと思えばシズト様もできますよ?」と言われた。少なくとも僕には無理だよ、と返したら不思議そうに首を傾げられてしまった。

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― 新着の感想 ―
オクタビア「何でもは知らないわ。知っている事を知っているだけ…」 しずと「あれ、そんなセリフを何処かで聞いたような?」
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